第430話 探索の終わり


 湖の全域を探索するにはまだまだ時間がかかりそうだけど、2時間ちょっとくらいの探索と考えれば結構良い成果だったんじゃないだろうか。えーと、光り輝く成熟体のアロワナと、あれは何だっけ……? 俺のコケに関わりそうな……あ、そうそう、コケボウズとかいうヤツ! 後で詳細を教えてもらおうっと。

 そしてフィールドボスの討伐か。濃い密度の2時間だったけど、楽しかったね。


「水月、今日はもう終わり?」

「えぇ、そうなりますね。丁度ボス戦が終わって区切りは良いですしね。ルストさん、フラムにもそうお伝え下さい。……そうですね。今日は日付が変わるまでは大目に見ますとも……」

「分かりました。ではそのようにお伝えしておきます」


 フラムは水月さんからの若干の温情が与えられた様子である。……これでフラムが明日遅刻してたらチクってやろっと。

 それはそうと途中からフラムがルストさん経由で中継をしているのをすっかり忘れてた。ルストさん、フラムとは会話してなかったしな……。中継と言えば……色々やった気もするけど、まぁ問題のない事ばっかかな? 完全な新情報って、どこも知らなかった首長竜についてくらいだしね。


 さてと俺らも終わりにしても良い時間ではあるけど、少しくらいなら延長は可能な範囲。うーん、どうしようか?


「ま、元々アーサー君の関係で時間は聞いてるからねー! シュウさん、私達も今日はこの辺にしておく?」

「……そうだね。ほぼ壊滅状態のPTもあるし、これ以上の探索は深夜になりそうだから日を改めようか」

「そうしてくれると助かる。流石に俺と紫雲さんだけこのまま続行ってのもな」

「辛子さんに同意っと。臨時で組んでたとはいえ、リスポーンしていった奴らを放ったらかしって訳にもいかないしな」

「それならこれから30分後に湖畔に集合で、調査結果の報告にしよう! それでいいかな? いいよね? その内容で通達してくるよー!」


 とりあえず水月さんとアーサーはここでログアウトで確定か。それに紫雲さんも辛子さんも生き残っていたとはいえ、他のメンバーは壊滅しているんだよな。

 確かに他のグループがどうなったかも知りたいし、ここで今日は探索自体は終了でも良いのかもね。まぁ弥生さんの中では既に決定事項になっているようで、まともに返事を聞く前に連絡を取り始めているけど……。まぁ反対じゃないどころか、俺らにとっても都合はいいし別にいいか。


「ケイ、私達はどうしようかな?」

「んー、ちょっと聞きたい事や整理したい情報もあるんだよな。ハーレさん、11時半までにするけど良いか?」

「ケイさん、問題ないよー! むしろ望むところさー!」

「という事なんだけど、サヤとヨッシさんは大丈夫?」

「私は大丈夫かな」

「私も大丈夫だけど、翡翠さんは大丈夫?」

「……うん、大丈夫」


 あ、そういや翡翠さんのログアウト時間は全然知らなかったけど、普通に大丈夫のような気がして聞くのを忘れてた。ヨッシさん、ナイス!


「……おーい、俺には何もなしかー?」

「え、アルはいつも通りでまだ普通にやるんだろ?」

「いや、まぁ、そりゃそうなんだがよ……」

「アルさん、聞いて欲しかったのー!?」

「アル、その気持ちは分かるかな!」

「……なんだか複雑な心境になってきた」

「あはは、アルさん、ドンマイ」


 普通にアルは続けると思ってたから聞かなかっただけで別に忘れてたわけじゃないんだけど、そうか、聞いてほしかったんだな。そして、サヤが仲間を見つけたかのように嬉しそうにしているね。なんだろう、最近のサヤの仲間を見つけた時の様子が面白く見えてきた。

 そうやっているとアーサーと水月さんが近くにやってきたね。もうログアウトするってところかな?


「そろそろ私とアーサーは終わりにしますね。今日は色々とありがとうございました」

「コケのアニキ、今日は楽しかった! また機会があったら一緒に戦いたい!」

「おう、その時にはまたよろしくな、アーサー!」 

「うん! コケのアニキ、みんなもまたね!」

「それでは失礼します」


 そうやって挨拶をして、水月さんとアーサーはログアウトしていった。


「はーい、通達終了! 今、湖の上ではドラゴンとの戦闘が終盤らしいから、邪魔しないように湖面まで行ってから湖畔に戻るよー! という事で、アルマースさんお願い出来る?」

「おう、それは問題ないぞ。ケイ、沈まないように補佐を頼めるか?」

「よし、水流の操作だな。任せとけ」


 これは再びルストさんを背に乗せて、一気にみんなを運ぶという事なのだろう。重量が増してそのままじゃ少しずつ沈むけど、それを俺が水流の操作でフォローすれば問題ない。


「ん? どういう事だ? 辛子さん、分かるか?」

「あー、多分だけどケイさんの水流の操作でアルマースさんを流していくんだろうな」

「あ、総力戦の時にあったっていう例のあれか」

「紫雲、あの時は陸地だからちょっと違うぞ」

「あ、それもそうか。ここは湖だもんな……って、マムシはあれは見てないだろ!?」

「……まぁそうだが、光の操作で着けた火で燃やされて、水流の操作でもみくちゃにされて、その後に昇華魔法で爆殺されたほうが良かったか?」

「……それは勘弁」


 おい、ちょっとマムシさんも紫雲さんもこっちを見て身構えるのは止めてもらおうか!? 確かにマムシさんはその通りに仕留めたけども、あれは競争イベントだったからであってだね……。

 そういう風に思いっきり言ってしまいたい気分ではあるけど、今は敵って訳じゃないんだ。我慢、我慢。それに俺がもしされた側なら警戒する気持ちも分からなくもないし……。まぁ確実にリベンジは狙うけども。


「みんな、予定は決まったから急ぐよー! 今からなら纏水が切れる前になんとかーー」

「……もう遅い」

「……みたいだね。私もだ」

「……ヨッシと一緒!」


 そうしているうちに纏水を使っている人の効果が切れてきた。あー、のんびりし過ぎたか。そしてヨッシさんと翡翠さんが仲良く弱っていって……ってちょい待った!?


「ヨッシさんと翡翠さんはヤバイんだから勿体なくても使えー!」

「……思った以上にハチは淡水でも水には弱いんだね」

「……うん。聞いてたけど予想以上」

「2人とも試してたんだ? うん、でも冗談抜きで死ぬから2人とも急いでーー」

「弥生、その必要はないよ」

「え、でも、シュウさん? あ、なるほど、そういう事だね」

「そういう事さ。『ウィンドクリエイト』『風の操作』!」


 何故シュウさんが纏水の再発動を止めたのか一瞬分からなかったけど、すぐにその意味が分かった。生成されていく風が水を押し退け、水中に誕生した空気の塊がどんどん大きくなって俺達全員を呑み込んでいく。

 空気の塊に入る瞬間は強い風があったけど、そこを通り過ぎれば無風の空気……いや、アルやルストさんの葉が僅かに揺れているから一応弱々しい風の流れはあるっぽい。同じ連結PTにいるからダメージは無く入れたけど、そうでなければまともに入れない気がする。

 視界は遮られてはないけど、場所によって風の強さを変える事でこの形状を保っているみたいだ。見た目的には海の群集拠点種の側にある空気のドームに非常に似ているね。周りが水だからこそなんだろうけども。


「わっ!? あ、でもここなら平気だね」

「……びっくりした」

「ここならとりあえずは大丈夫だと思うよ。湖面までの移動の時は、アルマースさんの背中に移動させれば良いしね」


 とりあえずは、これで纏水を使わなくても大丈夫みたいだね。サヤやアルも纏水の効果が切れていつもの色合いに戻っているけど、これならこれ以上使用する必要はないか。

 それよりシュウさんはこの空気のドームを平然と作り上げたけど、これって精度がかなり必要な気がする。うーむ、シュウさんの全力を見たことが無いとガストさんが言ってたけど、シュウさんは相当プレイヤースキルが高そうだ。……まぁその辺は気にし過ぎても仕方ないか。


「シュウさん、ありがとな。ヨッシさん、試すのは良いけど予め言ってくれよ?」

「ケイがそれを言うのかな!?」

「ケイさんが言うのは何か違うよ!?」

「……あはは、ごめんね。でも、サヤとハーレに同意かな?」

「ま、そういう反応になるよな。なぁ、ケイ?」

「うぐっ!?」


 くっそ、みんな揃って同じような反応を……。でもそう言われる内容に心当たりはありまくるし、反論の言葉が見つからない……。そこは認めよう。だけど、その辺は俺だけじゃないよねー!?


「……ケイさん、何か葛藤中?」

「……そんなとこだけど、触れないでくれると助かる……」

「……うん、分かった」


 無駄に翡翠さんに心配をかけてしまった。……よーし、ビックリ情報箱の渾名を俺だけのものにしようとかみんなが思ってるみたいだし、その辺は反撃を……いや、でも後が怖いなぁ……。流石に共同体名をビックリ情報箱にするのは危険か? うーん、でも良い名前もまだ思いついてないんだよね。

 あ、弥生さんが近付いてきてるって事は出発したいって事だろうね。共同体の名前は実装が明後日だし、明日1日でじっくり考えてみるか。今はそこで脱線しても仕方ない。


「えーと、そろそろ出発したいんだけど、いいかなー?」

「おうよ。おーい、ケイ?」

「……聞こえてるって。準備するからみんな、アルに乗ってくれ」

「うん、よろしくねー!」

「弥生さん、樹洞は必要ですか?」

「今回はなしでいいよ。さぁ、シュウさんもルストも乗った乗ったー!」

「分かりましたから、幹で爪を研がないで下さい!?」

「弥生、その爪研ぎは何か意味があるのかい?」

「ううん、何も意味ないよー。気分的な問題」

「……弥生さん、気分の問題でやるのは止めてくれませんか……?」

「え、ならルストは暴発でダメージが欲しいの? わたし、それは嫌なんだけど……?」

「私も嫌ですからね!? シュウさん、弥生さんを止めてくださいよ……」

「……弥生、ルストをからかうのは程々にね?」

「シュウさんが言うなら仕方ないなー」


 ルストさんだけだとルストさんが暴走しっぱなしの雰囲気になるのに、弥生さんが一緒にいるとルストさんが常識人っぽく見えるこの不思議さはなんだろう? 弥生さんはわざとやってる風にも見えるけど、その辺はどうなんだろね。弥生さんはバーサーカーな一面もあるもんな。


「アルマースさん、こんなものかい?」

「あー、もうちょい上で範囲を背中の上だけに限定して貰えるか? 今の位置だと尾ビレの邪魔になる」

「もう少し範囲を狭くだね。……こんなものかい?」

「……よし、邪魔にはならないな。それで大丈夫だ!」


 とりあえずそこの身内3人組は放っておいても大丈夫だな。騒ぎながらもルストさんはアルの上に乗ってるし、シュウさんは空気のドームをアルの背中の上に移動させていた。

 さてとみんなも移動を始めているから、俺も跳ねてアルの背の上まで移動しようっと。そういやシュウさんの風の操作の中から上手く水流の操作は発動出来るのかな? これは試してみないとなんとも言えないか。


「さてと、また小さくなるか。『小型化』!」

「あれ? マムシって小型化が使えたのか?」

「あぁ、前に実験だって言ってジェイに埋められた時にな」

「……あれか、検証協力者の募集ってやつか」

「おう、そうだぜ。紫雲もやってみたらどうだ? 失敗も多いが色々やってんぞ?」

「……ちょっと考えとく」


 みんながアルの上に乗っていく最中に青の群集のマムシさんと紫雲さんからそんな声が聞こえてきた。……マムシさんを埋めたって、ジェイさん何やってんの……? っていうか、地味に埋めるのでも小型化は取れるのか。

 昨日サヤがクマの小型化の取得について話してたし、試してみるのもありかもね。この辺の情報は灰の群集のまとめに確実にあるだろうから、後で正確な条件を確認しておこう。


 そうしている内に、アルのクジラの背には2本の蜜柑の木と、ワニと、ヘビと、クマと、2匹のネコと、2匹のハチと、リスと、俺のコケ付きロブスターの乗り込みが完了した。……改めて考えてみると、とんでもねぇな、この絵面……。


「ケイさん、遠隔同調でスクショをお願いします!」

「あー、集合したスクショが欲しいんだな? 了解っと」

「あ、そっか。それってそういう使い方も出来るんだね。……よし、今後はガストに頑張ってもらおう!」

「それはいいですね。賛成しますよ、弥生さん!」


 なんだかガストさんの知らない所で役目を増やしてしまった感じもするけど、まぁいいや。頑張ってくれ、ガストさん! とりあえずスクショ撮っておこうっと。


<行動値上限を15使用して『遠隔同調Lv1』を発動します>  行動値 56/56 → 41/41(上限値使用:21):効果時間 5分


 よし、遠隔同調の発動完了。あ、これで移動操作制御を使えば比較的簡単に……ってさっきのボス戦で強制解除になったから、あと少しではあるけどまだ再使用不可だね。まぁこれは仕方ないから、手動でやるか。


<行動値1と魔力値消3費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 40/41(上限値使用:21): 魔力値 195/198

<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 36/41(上限値使用:21)

<行動値を3消費して『土の操作Lv5』を発動します>  行動値 33/41(上限値使用:21)


 これでコケ付きの小石が完成。核を移すのは生成したこれをシュウさんの空気のドームから出してからで良いだろう。という事で、まずは操作して移動させてっと。……よし、これで良い。


<行動値を4消費して『群体内移動Lv4』を発動します>  行動値 29/41(上限値使用:21)

<『遠隔同調』の効果により、視界を分割表示します>


 折角なのでLvの上がった群体内移動で……って、そんなに距離は離れてないからあんまり意味ないな。何はともあれ、準備は出来たのでみんな集合のスクショを撮ろう。

 あ、今更遅いけど、どうせならアーサーと水月さんもいる時にすれば良かったな……。まぁもう2人ともログアウトしてしまったから仕方ないか。

 

「それじゃ撮るぞー!」

「おー!」

「ケイさん、後でスクショを頂戴ね!」

「俺と紫雲のもよろしくな!」

「ケイさん、私も欲しいですからね!」

「こらこら、みんな。急かすものじゃないよ」

「全員分はちゃんと渡すから心配しなくていいってば! よし、撮れた」


 そんなに自己主張しなくたって渡さないとかいうつもりはないからね。集合してスクショを撮ったのにそれに写った当人に渡さないってどんな嫌がらせだよ。そんなことをする気は欠片もーー


「あ!? ケイさん、危機察知に反応ありー!?」

「……え?」


<群体の核が撃破されたため、核を他の群体へと強制移動します>

<『遠隔同調』の効果による視界を分割表示を終了します>


 強制的に視界がロブスターの背中へ移ったって事は、スクショ用に作った小石のコケが殺られた!? 何が起こったのかを確認しようと思って見てみたら、そこには大きなナマズがいた。おいこら、ちょっとは空気を読めよ!


「あははははははは! 何を邪魔してくれてるのかな、このナマズは!」


 そして唐突なナマズの登場にキレた弥生さんは、一気に大きくなり足場の小石を展開しつつ銀光を放つ爪での連撃で瞬殺していった……。弥生さんのバーサーカー化、やっぱり怖っ!?

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