第428話 劣オオプレシオ討伐戦 中
俺が作り出したコケエリアの上に叩き落とされ、マムシさんに長い首を締められて、サヤたちの連撃を受けた首長竜が目の前にいる。そして弱るどころか怒りで凶暴化したようで、青いオーラのようなものを頭に纏い始めていた。
さてと行動パターンが変わって魔力集中を発動ってところかな。青いって事は多分水属性も付与されてるから、追撃の水には気を付けたほうがいいかもしれない。……とりあえず予定とはちょっとタイミングがズレたけど、目的自体はそのまま行けるか。
「シュウさん、蓋を被せるようにウィンドプロテクションを頼む!」
「なるほど、そういう事かい。『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』!」
「マムシさん、もういいから退避! 一緒に閉じ込められるぞ!」
「おっと、そりゃ勘弁!」
マムシさんが慌てるように首長竜から離れ、シュウさんのウィンドプロテクションによって首長竜を湖底に押さえつけるようにしていく。さて、とりあえずこれで首長竜の動きは完全に封じた。
まぁ長時間は保たないだろうけど、行動値の回復とかの時間稼ぎにはなるだろう。っていうか、俺のコケは発光をLv4で発動していて結構眩しいから、首長竜が至近距離にあるコケを非常に嫌がっている。ふむふむ、首長竜の正常な行動パターンを乱すのにはやっぱり光が有効なようだね。
「さてと……思った以上に硬いねー」
「……弥生さんから見てもそうなのか?」
「うん、そうだよー。フィールドボスに特性で強靭があるとここまでタフになるんだねー」
「確か、強靭は攻撃、防御、HPが上がるとの推測でしたよね。……ケイさん、ここは魔法をメインにしたほうが良いかもしれませんよ」
「……なるほど、魔法か」
特性の効果はイメージ的にしか把握してなかったけど、強靭は物理的に強化という事ならルストさんの言うように魔法をメインに据えて残りのHPを削り切った方が良いのかもしれないね。
実際にサヤたちの連撃で首長竜のHPを3割少しまで削る事が出来たけど、元々7割まで減っていたのにあれだけ応用スキルを叩き込んだのに削れたのは4割である。ここにいるメンバーの中でも特に高威力のルストさんと弥生さんの連撃を含めてもだ。残り3割が意外とキツいかもしれない。
よし、誰がどの魔法……特に昇華効果がかかった魔法を持っているかを確認しておこう。首長竜は……猛烈に暴れているけど、もう少しくらいなら大丈夫っぽいな。とはいえ、シュウさんの魔法にのみ頼って放置って訳にもいかないな。
とりあえずいつまでもアルに乗っていても仕方ないので湖底に着地っと。
「とりあえず投擲とかの遠距離攻撃を持ってる人は隙間から攻撃しといてくれ! 魔法での攻撃が出来る人は少し集まってくれ。作戦を考える!」
「お任せください! これならどうでしょう! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
「了解です!『散弾投擲』『散弾投擲』!」
「うん、分かったかな! 『投擲』!」
「『増殖』! 水月、お願い!」
「えぇ、アーサー、行きますよ! 『投擲』『投擲』!」
「『コケ渡り』『重突撃』『コケ渡り』『重突撃』!」
ルストさんが大量の根を操作して首長竜の手足というかヒレ……でいいのかな? まぁヒレでいいとして、そのヒレを拘束し、ハーレさんとサヤは普通にいつものように石を投げている。
サヤ達とは違い、水月さんとアーサーはコケを増殖させた石を2個ほど投げ込み、コケ渡りでヒットアンドアウェイで攻撃を繰り広げていた。おー、やるな、アーサー。
<『遠隔同調』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 20/40 → 20/55(上限値使用:6)
<『遠隔同調』の効果による視界の分割表示を終了します>
あ、遠隔同調の効果が切れた。まぁ役目は終えたし、視界はロブスターの方をメインに変えてたから特に問題なし。その間にも物理系のみんなは攻撃を続けている。
「えいや! ほい! とう!」
「これならどうでしょう! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
大型化した弥生さんはその辺の岩場を砕いて、脚や尻尾を駆使して盛大にぶつけている。派手ではあるけど、スキルを使っての攻撃ではないみたいなのでダメージはそれ程でもない。行動値の回復中かな?
流石にアルと翡翠さんは突入するのは難しいようで待機中である。まぁ状況によって向き不向きはあるから仕方ないね。
そして魔法を攻撃手段として使うヨッシさんとシュウさん、そしてマムシさんと辛子さんと紫雲さんが集まってきた。へぇ、物理系かと思ってたマムシさんや辛子さんや紫雲さんも魔法を結構使うんだね。これはちょっと意外だった。さて仕上げの作戦会議を始めよう。
「……よし、昇華魔法で仕留めよう。昇華魔法に使える魔法を持ってる人は教えてくれ。俺は水の昇華持ちだ」
「まぁそれが妥当だろうね。僕は風と電気の昇華があるよ」
「げっ、赤のサファリ同盟って2つの昇華持ちが既にいるのかよ!? ……俺は土の昇華があるぜ」
「紫雲さん、寄り道し過ぎなきゃ2つ持ちはそろそろ増えてくると思うぞ。俺も凝縮破壊Ⅰと風の昇華持ちだからな」
「お、辛子さんって風の昇華持ちだったのか?」
「覚えたてだけどな。まぁ物理にも魔法にも特化してないからケイさんとかみたいな威力にはならんけど」
「あー、なるほどね」
辛子さんは1キャラのみでのバランス型で凝縮破壊Ⅰと風の昇華の両方ありって事か。特化してないから極端に強くなる訳じゃないけど、安定はするんだろうから壊滅していた中でも生き残ってたのかもしれないね。
青の群集のワニの紫雲さんは、土の昇華持ち。そしてシュウさんは風と電気の2属性の昇華持ちか。ふむ、知らない組み合わせもあるから、これは聞いておこう。
「シュウさん、電気と風でどういう昇華魔法になる? ……教えてもらえるならでいいんだけど」
「これくらいなら構わないよ。テンペストという激しい雷を伴う竜巻を生み出す昇華魔法になるね。……水中では使った事がないけどもね」
「テンペストか……」
水中でどうなるかが分からないというのが不安要素ではあるけども、ここはそれに賭けてみる価値はありそうだ。電気魔法は水中では凶悪化するみたいだし、その威力を確認しておこう。
多分、間違いなく荒らすモノの称号は出るだろうし、荒らさないでおこうという初めの方針に反する事にはなってしまうけども……。その辺は確認しておこうかな。
「弥生さん! 昇華魔法をぶっ放そうかと思うんだけど、構わないか?」
「あー、やっぱりそうなるよね。うん、他のグループに連絡とってくるから、それまでちょっと待って」
「許可が出たら良いんだな。よし、許可が出る前提で考えるぞ」
「……良いのか、それ?」
「……マムシさん、このゲームで荒らして巻き込まれるのを躊躇ったら負けだぞ?」
「ははっ! 確かにそりゃそうだな、マムシ!」
「おい、紫雲!? そこ、笑うとこか!? いや、そう言われると確かに納得ではあるけどな!?」
マムシさんと紫雲さんの反応を見ていると、青の群集の方もその辺のこのゲーム特有のローカルルールにも馴染んできているようである。うん、このゲームじゃそこら辺は重要だしね。
「もし駄目だった場合は、威力は低くなっても普通の魔法を連発していくよ。その場合は近接の人に足止めを頼む。あ、どっちの場合でもヨッシさんとマムシさんは神経毒を頼める?」
「了解。取っておいて良かったね」
「おう、毒に関しては任せとけ!」
「出来れば毒の拘束魔法で……そういや毒の拘束魔法同士で複合魔法って可能?」
「え、あ、ごめん。私は知らないや」
「それなら俺が知ってるぜ! 『ポイズンコンファイン』って強力な粘着質の毒での拘束だ。毒の種類は指定した毒を全てだが、効くかどうかは相手の耐性次第だな」
「へぇ、そうなんだ? 同じ毒を重ねた場合は?」
「推測だが毒の効果に判定回数が増えるっぽいぜ」
「よし、それじゃヨッシさんとマムシさんはそのポイズンコンファインを神経毒でやってくれ」
「了解!」
「おうよ!」
よし、これで毒に関しては問題ない。……あまり時間もないから急がないと。次は昇華魔法の組み合わせだけど、最大の攻撃はシュウさんを起点としたテンペストで行こう。水属性の首長竜にはよく効くはず。
「はーい、作戦会議中ごめんねー!」
「弥生さん、どうだった?」
「湖面を超えてドラゴンとの戦闘の邪魔にならなきゃ良いって。この近くにいる他のグループは退避中だから、大暴れしても大丈夫だよー」
「よし! 確認ありがとな、弥生さん」
「その辺の調整は今回の主催のわたし達の役目だからねー!」
とりあえずこれで周囲については気にする必要はない。という事は、昇華魔法の2連発を叩き込んでも問題はないわけだ。
さーて、みんながジワジワと削っているようで首長竜のHPは3割を切ったみたいだね。首長竜がタフとはいえ、決して勝てない相手ではなさそうだ。それじゃ最後の詰めの用意をしていこう。
「それじゃ本格的に昇華魔法で攻める方向で行くぞ。まずは首長竜に毒が決まったら、シュウさんは急いで魔力値を回復して辛子さんと湖底からテンペストを発動してくれ。持ってるよな、魔力値の回復アイテム。無ければ俺から提供するけど……」
「一緒に戦っているんだからその気遣いは無用だよ、ケイさん。その手のアイテムは必要ではあるからちゃんと持ってるよ」
「そっか、それじゃシュウさん、辛子さん、テンペストは任せるよ」
「おっしゃ、出番がなかったけど出番が来たぜ! ちょっと俺は魔力値は少なめだが、シュウさん、よろしく頼む」
「えぇ、こちらこそ」
よし、テンペストの発動についてはこれで問題ない。さてもう1発の昇華魔法は俺の水と紫雲さんの土にするしかないから、内容的にはデブリスフロウで決定か。でも、土石流を生み出すデブリスフロウは今いる湖底で発動しても効果薄いだろうな。となれば……。
「アル、出番だぞ!」
「お、マジか。何すりゃいい?」
「もう一回、首長竜の上まで俺と紫雲さんを連れて行ってくれ。紫雲さんは俺と、首長竜の上から水と土でデブリスフロウをぶっ放す」
「ほう? そりゃいいな。よし、乗った!」
「って事で、アル頼んだ!」
「おうよ!」
よし、毒の複合魔法と2発の昇華魔法の使用手順は決まった。後はそれをーー
「……これはもう限界だね。弥生!」
「任せて、シュウさん! ルスト、根を離したらぶっ飛ばすからね!」
「分かっていますよ!?」
「それじゃ、えいやっと!」
「待ってたかな!」
「行きますよ!」
「少しでも削ってやるんだ!」
魔法組で作戦会議をしている間に、シュウさんの風の防壁の効果が切れるタイミングを見計らってチャージをしていた様子のみんなが、それぞれ別方向から眩い銀光を纏う一撃を加えていく。ちょっと目を離していた間に一斉攻撃を狙っていたようである。
首長竜の残りHPは約2割。あ、やべぇ。首長竜の頭と尻尾が同時に銀光を放ち出した。どっちもまだ弱々しい銀光だけど、連撃とチャージのどっちだ? ……えぇい、真っ当に待ってられるか。今こそ、わざわざ用意したコケを今こそ使う時!
「ヨッシさん、マムシさん、隙を作るから毒の複合魔法を任せた!」
「了解!」
「おうよ!」
予め伝えておかないとタイミングを外す事になりかねないからね。意思疎通は大事だよっと!
<行動値を19消費して『光の操作Lv3』を発動します> 行動値 36/55(上限値使用:6)
光に弱い首長竜に閃光までは要らない。地面にある俺のコケの放つ光を強めに収束させて、首長竜に向けて照射! ……よし、盲目が入って無闇やたらに暴れまわっているだけで隙だらけになった。
でも周囲の岩を砕いたりしながら首長竜の銀光が強まってもいる。当たって強くなっていってるから連撃系の応用スキルか。当たるとヤバそうな上に並列制御で2種類の連撃応用スキルを同時発動って恐ろしいもんだ。
「いくよ、マムシさん! 神経毒の『ポイズンプリズン』!」
「同じく神経毒の『ポイズンプリズン』だ!」
2つの神経毒の球が首長竜の頭に展開されたかと思ったら、重なった2つの毒の球が首長竜の全身の表面に広がり、纏わりついていった。その攻撃を受けた首長竜は動きが盛大に鈍っていく。
「シュウさん、辛子さん、テンペストを発動! 他のみんなは距離を取れ。アル、紫雲さん、上に行くぞ!」
「わー!? 逃げろー!?」
「巻き込まれたくはないかな!?」
「シュウさん、頑張ってねー!」
「応援ありがとう、弥生。それじゃ辛子さん、やろうか。『エレクトロクリエイト』!」
「ちょっとどうなるかが怖いが、やるしかねぇよな! 『ウィンドクリエイト』!」
電気の球と風の球が身動きの取れない首長竜の目の前で重なり合った瞬間に、その地点を中心とした雷の荒れ狂う大渦が生成された。
いや、大渦ではなく竜巻が生成されてそれが周囲の水を巻き込んでいるのであろう。そして大渦の中では雷鳴と雷光が荒れ狂い、俺の湖底に増殖させたコケも巻き上げられて光を放っている。
ふー、大渦に巻き込まれる前にその上部への移動が間に合った。アルが大渦を避ける為に結構無茶な挙動をして、俺と紫雲さんは木にしがみつくのに必死だったけどね。さてと、次は俺らの出番だな!
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