第421話 知らない視点からの出来事


 ナマズの退治も終え、懐中電灯モドキの再発動も出来たので探索再開である。俺らのPTはアルの上に戻り、どんどん泳いでいく。水月さんとアーサーは自力で歩き、弥生さんとシュウさんはルストさんの枝に乗っているね。マムシさんは普通に泳いでいるっぽい。

 そんな感じで少しだけ緩やかな傾斜になっている湖底をどんどんと進んでいく。さーて、何がいるかなー? 首長竜の再発見も大事だけど、それだけが今日の楽しみじゃないもんな。


「ほー、意外と水草が生えてるもんなんだな?」

「ここら辺まで来るのは初めてだけど、そうみたいだねー。そうそう、どこかの湖に癒水草の群生地があるって噂だよ。まぁまだ明確に確認されてないんだけどさー」

「ぶふっ!?」

「ケイ、大丈夫かな!?」

「あー、大丈夫、大丈夫」


 弥生さんの何気ない一言にビックリして変な声が出た。癒水草の群生地とか、ちょっと思いっきり心当たりがある……。桜花さんのとこで、十六夜さんが湖で大量に採ってきたとか小耳に挟んだ覚えがあるぞ……?


「ほほう? ケイさん、何か知ってるね?」

「へぇ、もしかして噂じゃねぇのか?」


 うっ、しまった。今の反応で思いっきり弥生さんとマムシさんがこっちを見てる。あ、サヤとアルが呆れた雰囲気を出してるし!? えぇい、アルの背の上だけど何となく分かるぞ!


「……黙秘権を行使します」

「うん、あるんだねー。ま、それさえ分かれば充分だよね」

「違いねぇな!」

「……黙秘権の意味がない……」


 これは完全に俺の失敗だよな……。まぁ俺も正確な位置は知らないし、そもそもこの湖で合っているのかさえ知らないけども。外れていて下さい、是非とも!


 それにしても弥生さんがこの周辺まで来たことないっていうのは意外だね。成長体の時に他の方向から入ってナマズに感電死させられたとは聞いたけど、そこから再度リベンジはしなかったんだろうか?


「……赤のサファリ同盟が湖の奥は初めてっていうのも意外だよね」

「いやいや、ケイさん! ホントはリベンジ計画は立ててたんだよー? 具体的に言うとこの前の土曜日くらいにねー?」

「あぁ、そういえば例の件でガストが僕らに色々を説得し始めて、予定を変更したんだったね」

「そういえばそうでしたね」

「……土曜日? あ、例の件が金曜だっけ!?」


 金曜日に赤の群集の騒動絡みでウィルさんとかと色々あって、その次の日にルストさんと会ったんだよな。そんなに前の話ではないはずだけど、赤のサファリ同盟が表に出てきてからまだそんなものなのか。

 つまり、赤のサファリ同盟としてはあの時は共闘クエストに参加せずに、この湖へのリベンジを行う予定だった訳か。当たり前な事だけど、知らないところでも色々あったんだな。


「……何の話だ?」

「あ、マムシさんは青の群集だから詳しくは知らないのか。まぁ簡単に言えば、赤の群集の騒動の決着と赤のサファリ同盟が表に出てくるきっかけの話」

「あー、あれか。ケイさんとベスタさんが元凶をぶっ飛ばしたっていう話だな。丁度いい、ケイさん、あれって何を仕込んだ? どうも聞いてる限り違和感があってよ」

「……何の事やら?」


 ウィルさんの件をボカシて伝えたつもりが思いっきり裏目に出たー!? そういやマムシさんも青の群集の主力勢なんだった。くっ、今いるメンバーでは迂闊な発言は危険過ぎる……!?


「……まぁいい。本格的に荒れるような事を企むとも思えんし、無理に聞き出す事でもねぇしな」


 俺が困っているのを見て、マムシさんはあっさりと追求の言葉を取り下げていた。まぁ下手に口外すると赤の群集が困るだけで……ん? 赤のサファリ同盟が赤の群集と関わりが強くなってきた今なら、話しても割と問題ないのか?

 でも言って良くなる内容でもないからやっぱり隠しておく方が正解かな。そういやウィルさんは無所属になってからどうなってるんだろ? この湖の調査開始の直前にレナさんと現れたタコの人も無所属だったし、無所属のプレイヤーって意外といるのかな? 


「色々とありましたが、結果的にはこれで良かったとは思いますよ」

「……ルスト、他人事みたいに言ってるけど、一番真っ先に食いついたの忘れてない?」

「いえ、忘れていませんとも! 以前から多少は気になってはいましたからね!」

「まぁ、それは確かにねー。今みたいに群集を跨いで大人数でってのは計画してなかったし、新メンバーも増えた事だしさー」

「私はみんなとこうやって探索が出来て嬉しいよー!」

「お、ハーレさん、嬉しい事を言ってくれるねー!」


 そのハーレさんの言葉を聞いた弥生さんがテンションが上がったのか、素早くアルの木の巣にいたハーレさんの所まで登っていった。……登る途中で水を蹴って飛び跳ねるようにしてたけど、よく見たら小石が生成されてたから発声無しでのスキル発動か。プレイヤースキルの無駄遣いを見た気がする。

 そしてネコの弥生さんの前脚で、リスのハーレさんの頭を撫でている様子は……獲物を目の前にしたネコだな……。微笑ましい内容な気もするんだけど、危険な絵面だなー。


「えっへん! 今度、赤のサファリ同盟の本拠地にも……って、あれ? 赤のサファリ同盟の本拠地ってどこー!?」

「あーうん、今選定中だね。基本的にはフラム君の杉を集合場所にしてるけど、どこか近場で暴れても平気な場所を選んでるとこ」

「そもそも、灰のサファリ同盟が特殊なんですよ? なぜ初期エリアに池が作られていて、大々的に占拠出来ているんでしょうか?」

「…………さぁ、なんでだろうなー?」

「…………なんでかなー?」

「…………なんでだろうね?」

「…………だよなぁ……」

「なんでだろうねー!?」

「……みんながきっかけって聞いたよ?」


 あっ、思いっきり心当たりはあったからみんなで無かったことにしようとしてたのに、翡翠さんが言っちゃった。いやまぁ、あそこで俺らが特訓ついでに池を作り始めて、数日放置してたのが発端だもんなぁ……。

 そっか、よく考えてみればゲームシステムとしてあの場所に占有権が与えられている訳じゃないんだから、おかしな状態ではあるんだよな。占有権を持っている状態に近いのは不動種の人だけど、あれは店みたいなもんだし……。


「うん、途中の反応からそんな気はしてた。っていうか、わたしはレナから聞いてて知ってたしね」

「知っていたんですか、弥生さん!?」

「おや、ルストは聞いていなかったのかい?」

「兄……シュウさんも知っていたんですか!?」

「あぁ、そうか。この話はルストは出掛けている時だったね」

「仲間外れだけはご勘弁願えませんでしょうか!?」

「すっかりルストに話してた気になってたよ。ごめんごめん」


 どうやら誤魔化すまでもなく、既にレナさんの伝手によりきっかけは判明済みのようである。……別に口止めしてる訳でもないし、あそこは位置的にも赤の群集の人が来ることもあるからそりゃ伝わってても不思議じゃないよね。

 さっきから他の群集から見た、灰の群集の裏事情を解説されてる気分で変な感じだ……。よし、話題を変えよう! えーと、近くにあるもので話題転換に使って不自然じゃないもの……話しながら探索してたけど、それ程極端な変化もないな。……ならば、これだ!


「話は変わるけど、ここって水深どのくらい?」

「多分100メートルくらいじゃない? そんなもんだよね、シュウさん?」

「うーん、もう少し浅いとは思うけど、まぁ近いところだろうね」

「……人が潜れる限界に近い深さか」

「アルマースさんの言う通りだねー。ゲームならではだよね、これは!」

「ま、そりゃそうだな」


 強引に話題を変えるための俺の疑問に弥生さんとシュウさんが答えていた。元々そんなに深度とかは気にしてなかったけど、改めて意識してみると結構潜ったものである。

 月の光もまともに届かないし、夜目で辛うじて見えてる程度だしね。でも湖って現実でももっと深い湖もあるから、この湖の最深部にはまだ辿り着いていない可能性も充分過ぎるほどある。


 さっきまでもちゃんと周囲を確認しながらではあったけど、本格的に意識を切り替えて探索をしていこう。深海とはまた違った何かがいるのかなー? まぁ深海エリアはまだ行った事ないけども……。


<ケイが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>


「あー! 何か変なのがいるー!?」

「……デカいカマキリか?」

「なんで水中に居るのかな?」

「サヤ、その辺はもう気にしたら駄目だと思うよ」

「ヨッシさんの言う通りだな。で、どうする?」

「さっき、わたしらは暴れたからやりたい人がいればどうぞー」


 何故か湖底の岩に止まっている60センチは超えそうな青い大きなカマキリが存在していた。ミズカマキリっていた気もするけど、これは見た目的には色と大きさ以外は普通に陸地にいるやつだし……。まぁ雪山にクモやモグラがいたんだし、ヨッシさんの言うように気にするだけ無駄だろう。

 そして弥生さんは戦いたい人がいるならば、特に戦う気もないらしい。まぁさっきは盛大に暴れてたもんね。


 それにしてもこのカマキリ、こっちを見てたりはするけど攻撃してくる気配がないな。まぁ奇襲を仕掛けてくるヤツと戦う事が多いけど、そうでないのもそれなりにいるしね。


「一応識別だけして、1人でも大丈夫そうなら戦いたい人が戦うか?」

「おう、それでいいぜ」

「俺もそれに賛成だ」

「ほいよっと」


 アルとマムシさんも同意してくれたし、他のみんなからは特に異議もない。というか、翡翠さんとアーサーが地味にウズウズしている感じだな。どうやら戦いたいみたいだし、ここはサクッと識別を済ましてしまおうか。


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 46/50(上限値使用:11)


『水棲オオカマキリ』Lv7

 種族:黒の暴走種(特化適応種)

 進化階位:未成体・黒の暴走種

 属性:水

 特性:斬撃、水中特化


 あ、こいつは水の中にしか適応出来なくなってる奴なのか。水中特化の特性とか、初めての進化の時を思い出すなー。……感傷に浸っていても仕方ないから、識別情報を伝えていこうっと。


「『水棲オオカマキリ』でLv7、属性は水で、特性は斬撃と水中特化だな」

「……なんだ、その特性の水中特化ってのは?」

「あれ? 青の群集にはこの情報はない?」

「……覚えがねぇな。そんでもってケイさん達の灰の群集は気にしてもないから、当たり前のように持ってる情報か」

「あー、まぁそうなるな。俺も辿った進化経路だし」

「ザリガニが水中に特化してるのは当たり前……いや、コケの方か!? ちっ、どういう進化経路を通って来てんだよ!?」

「それは内緒だな。頑張って自力で探ってくれ」

「ケイさんもそこまで言っといて厳しいねー?」


 ふっふっふ、さっきは危うくウィルさん絡みの話になりかけたから迂闊に喋りすぎないように気をつけないとね。流石に一度陸地を捨てて水中特化に進化させてから、適応進化を発生させたとは思うまい!


「ま、赤も灰も知ってると分かったから成果としては充分か。ジェイの言ってた知らないふりって意外と有効だが、俺はあんまこのやり方は好きじゃねぇな……」

「はい? え、マムシさん、何を……?」

「悪いな、ケイさん。ジェイから隙があれば情報を探ってこいって話だったんだが、性に合わんからこれでネタばらしだ。特化の進化は青の群集も把握してるから、さっきのは引っ掛けだよ」

「……ジェイさんの仕込みか」


 引っ掛けて情報を取ってくるようにマムシさんに指示を出しているとか、なんとも卑怯な真似を! ……でも、どことなく違和感もあるな。ジェイさんは自分ではやりそうだけど、人にそんな事をやらせるような人でもない気が……?


「でもマムシさん、それを言ってしまっても良いのかな? 言ったら意味がなくなるんじゃ……?」

「いーんだよ、サヤさん。俺にはこういう手段は性に合わねぇ。……それはジェイも知ってるはずなんだがな……」


 ん? マムシさんが騙し討ちみたいな事をするのが好きでない事を知っているのに、ジェイさんはその指示を出した……? そんな事をしても俺らを警戒させるだけなのでは……?

 いかん、ジェイさんが何かを企んでいる気がするけど、その目的が分からない。え、ただ俺らを警戒させるような状態にしてなんか意味ある?


「おーい? ケイさん? あらま、余計な事言っちまったか?」

「完全にジェイさんの手の内を探りにかかってるな、これは……」

「そうなのか、アルマースさん? あ、そういやジェイから妙な伝言を頼まれてたんだった」

「そういう事は早く言ってくれ、マムシさん!?」

「おおぅ? 急に復活したな!?」


 ジェイさんの事だから考え無しにこんな事はしないはず。そして伝言があるという事は、そこに本来の狙いがあるんだろう。


「あー、そのまま伝えるぞ。伝言の対象は赤の群集と灰の群集の両方にだな。『青の群集にそういう輩が潜んでいますので要注意を……』だそうだ。って、よく考えたら俺が反発してバラすのまで計算に入ってんじゃねぇか!」

「マムシさん、どんまい。そして実演ご苦労さま」

「あはは、確かにこれは実演されたほうが分かりやすいねー」


 ジェイさんに少し踊らされたマムシさんが妙に凹んでいるみたいだね。まぁ気持ちは分からなくもないけどさ。伝言の内容から推測するとこれはジェイさんからの忠告ってところかな?

 ここは赤のサファリ同盟のリーダーで、赤の群集に大きな影響力を持つ弥生さんの意見を聞いてみようかな。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る