第422話 強さを求めて


 湖の探索中にしていた雑談で思わぬ話の方向になってきたもんだ。周囲には……カマキリがいるけど攻撃してこないし別に少しくらいならいいか。


「弥生さんはこのジェイさんからの伝言はどう思う?」

「知らないふり……というか、この場合は本当に知らない情報を良心につけ込んで聞き出そうって感じかな? そういう状況はわたし達も覚えはあるけど……マムシさん、心当たりはない?」

「あー、あるにはあるな。ジェイやジャック達に反発してる一部の連中がそういうので他の青の群集の奴から情報を盗んで、自分の手柄にしてるってのはあるぜ」


 なるほど、さっきマムシさんがやったのは知ってる情報でだったけど、知らない情報を聞き出して自分が見つけた事にしようって魂胆か。しかもそれを同じ群集相手にやってるのか……。みんなで協力すればいいのに、何を考えてるんだろうね。

 そういやジェイさん達に反発してる連中で、そんな身勝手なやり方って覚えがあるぞ……? それこそちょっと前にやったバトルロイヤル後に割り込んできて、弥生さんを怒らせて虐殺された連中が……。


「思いっきり、それに該当しそうな奴に心当たりがあるんだけど……」

「へぇ、ケイさんには心当たりがあるのか。弥生さんは?」

「わたし? うーん、青の群集には特にいないかなー?」

「おーい、俺の心当たりって弥生さんが虐殺した奴らだぞ!?」

「え、あー、あの時の!」

「あー、そういやそんな情報もあったな。まぁ、そいつらの同類ではあるが……その、なんだ、あの数人は今は青のサファリ同盟で人が変わったように大人しくなってるぜ?」

「…………マジ?」

「こんな嘘をついても仕方ねぇだろ」

「……そりゃそうだ」


 そんな嘘をつく意味が欠片もないよな。弥生さんの反応も気になるので少し見てみたら、居心地が悪そうに視線を逸らせていた。うん、まぁ弥生さんもあの状態になるのは気にしてたみたいだしね……。

 とりあえずあの時、弥生さんに虐殺された人達は改心したらしい。……身勝手な事をして怒らせたらヤバい相手がいるという事を思い知ったんだろうな。オンラインゲームなんだから、相手も人間だって事を忘れちゃいけないね。

 

「……うん、あいつらね。うん……」

「あれは弥生さんは悪くないから気にしなくていいって!」

「分かってるけど……シュウさーん!」

「どうしたんだい、弥生?」

「ちょっとねー! あ、続けてていいよ」


 弥生さんは何だか不安定な気分になってしまったのか、シュウさんの元に行ってじゃれ合っている。まぁ弥生さんにはこれが必要なのかもね。


 そういやマムシさんと弥生さんと俺で話してるけどみんなは……あ、普通に雑談してたっぽい。一応みんなはこっちにも注意は払っているし、敵にも警戒はしているから別に良いけどさ。それにしてもどんな話をしてるんだろう?


「えーと、続きだね。特定環境への特化の進化はHPを持たないタイプの種族でそのエリアの同系等の一般生物を取り込む事で出来る場合があるね。もしくは過剰な適応進化を繰り返した場合のデメリットだよ」

「適応進化ってやり過ぎるとおかしくなるのかな!?」

「そうだよ。適応進化での適応を4種類以上で最後に適応進化したエリアの特化型になるね」

「へぇ、そうなのか。そりゃ興味深い話だな」

「あ、そうそう、取り込む場合で代表的なのはケイさんのコケだけど、珊瑚とかも干からびて陸地に打ち上げられた一般生物の珊瑚を取り込むと陸地特化への進化になるんだったかな。あとキノコも進化次第ではHPを持たないタイプに進化するよ」

「確か、キノコは切られまくって分裂に適応進化するとHPではなくなるんでしたよね」

「えー、そうなんだ!? それは初耳だー!?」


 思いっきりシュウさんとルストさんが解説して、みんなが興味深そうに聞いていた。普通にそっちの会話に混ざりたかった気もする……。

 チラッと聞こえた範囲の内容だけど、そういやコケと同じ色物種族の分類で珊瑚とかいたっけ。そうか、珊瑚ってHPのない特殊仕様だったんだな。なんか前に掲示板で見た気もするけど細かいところは忘れたな……。


「あ、そっか。わたし達は仲良くなって交流もあるから多少は問題ないけど、青の群集にはこれを無差別にやってる集団がいるから気をつけろって事なんだねー」

「そうみたいだな。マムシさん、ジェイさんに忠告サンキューって伝えておいてくれ」

「おうよ。なんかすまんな、青の群集の内部のゴタゴタのせいで……」

「……まぁしつこく問題になるようなら何かの機会に全力で叩き潰すだけだし」

「あはは、ケイさんも過激だねー! わたしは……」

「弥生、その時は僕が一緒に行くから。遠慮はいらないよ?」

「シュウさん、愛してる!」


 見た目はネコのじゃれ合いだけど、イチャイチャ度合いが増したよ、このネコ夫婦。さてとネコ夫婦の様子は置いておいて、ジェイさんからの警告はまとめ機能に上げとこうっと。

 ん? 何か俺以外にも専用報告欄が増えてる……って、レナさんかい!? そしてシアンさんもか……。俺のは『コケの人』から『ビックリ情報箱』に名称が変わってるし、専用の報告欄が設置された経緯まで書かれてるー!? もうこれに関しては諦めて、さっさと報告上げとこう。


「……ねぇ、みんな。話は終わり?」

「おう、終わったぞ」

「……それなら放置になってたカマキリを倒していい?」

「あ、そういや盛大に脱線してたのか……」


 意外と長引いてしまった脱線話で翡翠さんを待たせてしまっていたっぽい。あ、でもその辺の一般生物の小魚がハチの針に突き刺さってるし、何もしてなかったって訳でもないようだ。

 とりあえず本題に戻って、カマキリを何とかするか。翡翠さんは討伐希望として、他に希望者はっと。


「他に倒したい人ー?」

「コケのアニキ、俺も戦いたい!」

「お、アーサーもか」


 カマキリの希望者は2名か。アーサーと翡翠さんのLvはちょうど7なので、相手としては丁度いいかもね。でも希望者は2人だし、どうするかを聞いてみるか。


「2人で戦う? それともどっちかだけでやる?」

「……即興での連携の特訓もしたい。だから一緒がいい」

「だそうだけど、アーサーはどうだ?」

「俺もそれでいいよ!」

「……うん、ありがと。一緒に頑張って倒そうね」

「うん、頑張るよ、翡翠さん!」


 ふむふむ、翡翠さんは連携の特訓もしたい訳か。それならほぼ一緒に戦った事がないアーサーは特訓相手としては適任かもね。アーサーもそれなりに強くなってきているみたいだけど、こういうのも良い機会だろう。


「……私は風魔法と突きの連撃がメイン。君は?」

「俺は物理メインで突撃型!」

「……ならチャージでトドメはお願い。……折角だし、私は全力で行く! 『長鋭針』『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」

「分かった! 『硬化』『魔力集中』『激突衝頭撃』!」


 翡翠さんのハチの針が長くなって、全身に風を纏っていく。いきなり翡翠さんは全力で行くつもりみたいだけど、魔力集中じゃなくて自己強化を使うんだね。どういう戦い方をするのか少し楽しみだ。アーサーもやる気満々みたいだし、応用スキルを発動してチャージを始めているね。

 アーサーが大技の用意をしつつ、翡翠さんがそのチャージ時間を稼ぐ算段かな。2人での連携と考えれば良いんじゃないだろうか。


「お、アーサー、猪突猛進は使わないのか?」

「コケのアニキ、ここじゃ力を入れ過ぎたら滑って使いにくいよ! もっとしっかりとした足場じゃないと!」

「あ、ここって滑るのか」


 アルの上に乗ってて直接歩いてなかったから気付かなかった。ちょっと湖底に降りてみようっと。様子自体はアルの上から見てたから分かるけど、ここら辺は岩場と土が混ざって、土の所に水草が生えてるような感じか。

 あー、地味に岩にコケというか藻が生えてるのか。こりゃ確かに下手に走れば危ないな。っていうか、これってコケと藻のどっちだ? こういう時は知ってそうな人に聞こう!


「アル、これってコケと藻のどっち?」

「ん? あぁ、それか。水中なら藻か?」

「そうでしょうね。コケと呼ばれる藻も存在しますので、ややこしいところです」

「あ、そんな分類あったんだ?」

「ゲーム的には明確に区別はしてないみたいだよ。海の海藻だけは区別してるようだけどね」

「そうなんだ。知らなかった……」


 全然気にした事なかったけど、コケって呼ばれる藻もあるんだな。その辺は全然知らなかったよ。って事は前に川の中にあったコケは実は藻だったとか? まぁゲーム的に区別されてないなら別にいいや。


「……もう少しでチャージが終わるね。……それじゃ行く!」

「トドメは任せておいて!」


 アーサーのチャージによる銀光は眩い程になっている。この銀光の様子だとアーサーも凝縮破壊Ⅰを取ったっぽいな。そうでなければもう少し控えめの銀光になってるはずだし、順調に強くなっているみたいだね。

 そして翡翠さんは動く気配のないカマキリに向かって、自己強化と風属性の付与によって勢いよく飛んでいっている。ゲームとしての仕様ではあるけど、纏水を使っていると普通に水の中も飛べるんだから不思議なもんだよね。お、そうしているうちに攻撃圏内に入ったか?


「『ウィンドボール』!」


 手始めにという感じで翡翠さんが放った風の弾はカマキリが鎌で受け流すように回避して、反撃として斬りかかってきた。鎌の攻撃圏外だったようで空振りだったから、ウィンドボールを放ったのは正解だったみたいだね。

 それにしても敵にもカウンタースキルを持ってるのがいるんだな。さて、これを翡翠さんがどう破るのかが楽しみだね。単純に時間切れを待つという手もあるけど、どうするのかな?


「……真正面から破る! 『麻痺毒生成』『刺突・風』『並列制御』『鋭針連衝・風』『返し突き・風』!」


 翡翠さんは鎌を構えたままのカマキリに向かっていくと、まずは単純な風属性の針の突きを放ってカウンターを誘発させていた。そして即座に別のスキルを並列制御で発動していく。返し突きってハーレさんがクラゲで取ろうか悩んでたカウンター技だったよな?

 カウンター技と緑色を帯びた銀光を放つ応用スキルの同時発動って、ジェイさんが発案して斬雨さんがやってた戦法か。


「カウンター同士のぶつけ合いかな」

「でも、風属性の付与と自己強化の分だけ翡翠さんが押してるね」

「翡翠さん、頑張れー!」


 カマキリの鎌の斬撃と翡翠さんの針の連続突きがどんどんと交錯していく。一撃打ち合う度に翡翠さんの針の銀光の輝きが増していき、カマキリのカウンターを正面から突き破って連続突きを食らわせていった。

 おぉ、お見事! 一気にHPを半分くらいまで削ったね。応用スキルを真正面から仕掛ければ、カウンタースキルだけでは対抗しきれないんだな。うん、良いものを見せてもらった。


「カウンターにカウンターをぶつける発想はなかったな。ふむ……」

「……またケイが何か考え始めたか」


 アルめ、何を失礼な事を! 新たな戦い方を模索するのは悪くはないと主張したい! でもまぁ即座に思いつくかと言えば、今回は思いつかないな……。そもそも俺は連撃系の応用スキルもカウンタースキルも持ってないしな。

 あ、地味に麻痺毒も入ってたんだね。その隙に翡翠さんが動きの鈍っているカマキリの背後に移動していく。


「……トドメは任せる! 『ウィンドボム』!」

「うん! 行っけー!」


 そして翡翠さんは爆風によってカマキリをアーサーの方に向かって吹き飛ばし、チャージを終えたアーサーが足元に気を付けながら突進して銀光を纏った頭突きを叩き込んでいく。カマキリのHPはその一撃で全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。


<ケイが未成体・暴走種を討伐しました>

<未成体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・暴走種を討伐しました>

<未成体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>


 俺らは何もしてないけども、同じ連結PTなので討伐報酬もゲットだね。敵は雑魚だったっぽいけど、即興の連携としては良いんじゃないかな。


「……ヨッシ、どうだった?」

「うん、かなり良かったと思うよ。翡翠さん、充分強いと思うんだけどな」

「……ううん、私はまだまだ。もっと強くなる」

「そっか。そういう事なら応援してるね」


 どうやら翡翠さんは今の自分の力量には満足してないみたいだね。まぁそれは決して悪い事でもないし、本人が望むならそれでいいんだろう。


「コケのアニキ、どうだった!?」

「んー、正直あんまり動いてないから判断しにくいけど、状況判断は良くなったと思うぞ?」

「やった! コケのアニキに褒められた!」

「アーサー、成長したもんだな」


 結構な頻度で思うけど、アーサーは初対面の時とはまるで別人だよな。あの時のままなら、足場に関係なく猪突猛進を使ってすっ転んでいたような気もする。

 さて脱線しまくった上に、アーサーと翡翠さんの頑張りを見たんだ。今度は俺らも何かを見つけていかないとね。それじゃ改めて湖底の探索をしていくぞー!

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