第411話 平原を横断


 平原に入ってすぐの林で虫に襲われながらも、なんとか討伐は片付いていった。ふー、大して強くなかったとはいえ、地味に面倒だったな。他の人達もそれほど苦戦もしていない様子で討伐を行っている。

 あ、まだ成長体で参加している人をオオカミ組が守る形になっているんだね。まぁ成長体だからといって、折角のお祭りみたいなもんだし、参加拒否とかは出来ないよね。


 それにしてもこの虫の襲撃について灰のサファリ同盟が知らないとは思えないんだけど、その辺はどうなってんだ?


「水月さん、この虫の襲撃って事前には知らなかったのか?」

「いえ、出発前にそういう場所はあるという事前通達はしてありましたよ」

「あ、そうなんだ。え、でもその割には……」


 正直慌ててた人も多かったような気もする。え、その辺はなんで……?


「コケのアニキ! それは後方のこの辺は遅れてきた人ばっかだからだよ!」

「ま、そういう事だな。ケイさん達が合流する直前にバラバラで合流してるから、この辺はまだ通達が行き届いてねぇんだよ。前の方だと、嬉々としてスクショを撮ってるはずだぜ」

「あー、なるほどね。アーサー、ライさん、説明サンキュ」


 俺らと同様に後から合流した集団が最後尾にいた訳か。そして俺らとそう変わらないタイミングだったなら、説明が無くても仕方ないだろう。あ、だからアーサーが伝えに走っていたのか。


「あ、ホントだね!? 先頭の方ではガストさんが大暴れしながら、ラック達が動き回ってスクショを撮ってるみたい!」

「先頭の方がお得みたいかな?」

「まぁそれは仕方ないんじゃない? 私達は遅れたんだしさ」


 ハーレさんが望遠の小技で先頭の方を見てるっぽいね。ふむふむ、元々夜の虫とかも撮る予定だったんだな。流石はサファリ系プレイヤー集団が主催なだけはあるね。


「ま、そうなるか。でも、こういう特定の条件を満たせば敵の行動が変わる場所があるっていう事は、同じような場所が他にもあるんじゃねぇか?」

「あ、そうかもしれないな。アル、良い着眼点!」


 確かに魚を投げれば掻っ攫っていくトンビとか、魚を目の前に置けば襲いかかってくるウツボとかもいたんだし、その可能性は充分ありそうだな。まぁ問題はそれがどこで、条件が何で、出てくる種族が何なのかというところではあるけども……。

 さてと、ちょっと悪ふざけ半分ではあるけど、カマをかけてみるか。


「よし、フラム! その辺の事で知ってる事を吐け!」

「ちょ!? あるってのは聞いてるけど、まだLv的に早いからって教えてもらってないから知らねぇよ!?」

「フラム兄!? それ、教えたら駄目って言われた情報!?」

「あ、やべ!?」

「ほう、思った以上に成果があったな」


 ふむふむ、思った以上の成果っぽいね。赤のサファリ同盟は、間違いなく俺らくらいか、それより上のLv帯での経験値が稼ぎやすい場所を知っているね。

 そしてこの情報に関しては伏せている状態だったっぽいな。ちょっとフラムに悪い事をした気もしないでもないけども、まぁフラムなら良いか。


「……これは既に手遅れですね。後で弥生さんに報告しておきましょうか」

「ちょ、水月!? 弥生さんのスパルタ特訓は嫌だー!?」

「おっと、逃さねぇぜ、フラム。『尾巻き』!」

「おや、ありがとうございます。でもなぜライさんが?」

「ライさん、後生だ! 見逃してくれー!」

「まぁ赤のサファリ同盟とは仲良くしてたいからな。それに場所までは伝わってねぇから、程々で済むだろ」

「いーやーだー!?」


 脱兎の如く逃げ出そうとしたフラムをライさんがカメレオンの尾で拘束して逃亡を阻止する。おぉ、ライさんも見事な手際だね。これこそ口は災いの元ってね。

 それにしても弥生さんのスパルタ特訓とやらはどんなものなのだろうか。……うん、何となく知らない方が精神的には良さそうな気もする。よし、フラムの犠牲は無駄にはしないからな!


「……ケイって、いつも思うけどフラムさんには容赦ないね」

「まぁフラムの犠牲は無駄にはしないさ……」

「ケイ!? 俺は死んだ訳じゃないし、そもそもケイのせいだろー!?」

「いやー、まさかあの程度の誘導であそこまで見事に話してくれるとは思わなかったぞ?」

「……フラム兄、念入りに言われてたのにあれは迂闊すぎだって……」

「うぐっ!?」


 アーサーからも駄目出しを受けているフラムであった。まぁ俺としても駄目元だったのに、あんなに分かりやすい反応が返ってくるとは思ってなかったしな……。ジェイさんとかなら、のらりくらり躱されてた程度だしさ……。


「ふむふむ、フラムとしてはここくらいが適正Lvだろうし、この感じだと俺らにちょうど良さそうな場所はありそうだな」

「そうみたいだな。ケイ、明日はその場所を探してみるか?」

「お、それもいいな。Lvも上げてはおきたいし」

「おー! 賛成さー!」

「まぁその辺は後で詳しく決めようよ。赤のサファリ同盟が秘匿情報にするような内容だしさ」

「それもそうだね。それじゃそれは明日の夕方にでも話し合おうかな?」

「おう、俺はログイン出来ない時間帯だけど、そこら辺は任せたぜ」

「んじゃそういう事で」


 予定外の流れで明日の夕方の予定は決まったね。明日は群集の方でその辺の情報収集をして、もし情報があればそこに行ってLv上げをしよう。決定的な情報が無ければ推測でもいいから、色々と探ってみよう。

 

 さて迂闊に口を滑らせたフラムの処置は赤のサファリ同盟や赤の群集に任せるとして……あれ、そういや今日はルアーは居ないのかな? ルアーと同じPTのライさんがいるって事は居そうな気もするけど、ルアーのPTは分散してまとめ役をしてたりもするみたいだから別行動?


「そういやライさん、今日はルアーは?」

「ん? ルアーなら、今日はログインしてないぜ」

「あ、そうなんだ」

「おう、どうしても明日までに片付けないといけない用事があるんだとよ」

「まぁそういう事もあるか」


 翡翠さんのPTといい、ルアーといい、今日はどうやら用事があってログイン出来ていない人も結構いるみたいだね。まぁみんなリアルでの生活もある以上は仕方ない事だろう。



 そんな風にしている内に大方の戦闘は終わったようで、林を抜ける為に進み始めていた。流石にこれ以上は時間のロスもあるだろうから、灯りは無しでいくようである。


「よし、今のうちにアルの上に戻るか」

「はーい!」

「その方が良いかな」

「うん、そうしよう。ほら、翡翠さんもね」

「……ん。ヨッシ、ありがと」

「……よし、全員乗ったな? んじゃ進むぜ」

「「「「「おー!」」」」」


 今回は平坦な地形も多いし、今いる林も木々の合間は広いからアルに乗るのが楽だもんな。アルはクジラでログイン中だから、空中浮遊の時間切れの心配はないしね。

 お、何だか前の方からオオカミ組の人が何人かやってきてるね。何かを伝えに来てる感じか。


「ここの体験をする意味で禁止はしてなかったけど、ここからは林を抜けるまでは光源の使用は控えてくれ!」

「ここ、未成体の序盤では良い経験値の稼ぎ場だからな! ただし、油断するとヤバイから後から合流した人達には実体験してもらった!」


 そういう内容をオオカミ組の人達が通達しながら走り回っていた。なるほど、割のいい経験値稼ぎの場所の情報提供も兼ねていたんだな。


「何の説明ないと思ってたらそういう事か!」

「確かに経験値はそこそこ良かったよな」

「これって、夜の日限定かな?」

「樹液分泌とも相性よさそうだな。やり過ぎ注意なんだろうけど……」


 どうやら意図を聞いた事で納得している人も多そうである。俺らのPTとしては格下の敵だったけど、まだ成長体の人とかも混じっているし良い情報なのかもしれない。

 さっきのフラムが漏らした情報から察するに、敵のLvが10未満くらいまでは各群集同士で共有情報にしてるのかもしれないね。……うん、やっぱりそうだ。まとめを確認してみたらここはLv上げに良い場所として書かれてた。


 あ、そんな情報の伝達をしているオオカミ組の中にも見覚えのある人を発見。やっぱりオオカミ組のリーダーというかボスである蒼弦さんは参加してるんだね。


「お、ケイさん達も来てたのか」

「おっす、蒼弦さん! 最近、オオカミ組って色々やってんだな?」

「おうよ! かなり人数も増えたし、1stや2ndでオオカミ以外のキャラを持ってるやつも多いからな」

「あ、そっか。オオカミ組だからって、オオカミだけじゃないんだね」

「そうだぜ、サヤさん! まぁどっちかがオオカミである事が参加条件だけどな。共同体が実装されたら、正式に発足予定だぜ!」

「おー! 連盟機能は使うのー!?」

「それは仕様次第だな。確実に初期上限人数は超えるから、上限人数増加のクエスト次第か」

「そっかー! どんなクエスト内容かは分からないけど頑張ってねー!」

「おうよ!」

「おーい、ボス! こっちの対応頼む!」

「おう、分かった! すまん、また後で時間がある時にな!」

「ほいよ。蒼弦さんも頑張れ!」


 他のオオカミ組のメンバーに呼ばれた蒼弦さんは素早く駆けて行った。まぁ、色々とやる事もあるみたいで忙しそうだから邪魔しても悪いしね。頑張ってくれ、オオカミ組!


 そんな会話を繰り広げながら進んでいれば、いつの間にか攻撃性の高い虫の出る林は抜けていた。抜けた先は普通の平原だな。これといって物珍しいものもなく、平坦で見通しがいい。


「あ、ケイさん! あっちに小さな湖があるよー!」

「ほう?」


 ハーレさんが指差したのは左側……方角的には北側か。その方向の少し離れた位置に小規模な湖があった。へぇ、平原は色々なエリアを小規模で内包しているって話だけど、小さな湖もあるんだな。

 ミズキの森林にある湖よりも遥かに狭いけど、何か変わったものがいたりするんだろうか。あ、夜目だけだとちょい遠くてよく分からん。


「ちょっと見に行ってみたいけど、流石に集団行動中だしな……」

「お、ケイ! 今、水中でなんか細長いのが動いたぞ?」

「……え? いやー、気のせいだろ?」

「ケイの苦手なヘビかもな?」

「……苦手生物フィルタ、任せるぞ!」


 細長いのとかヘビを連想してしまうけど、ここは苦手生物フィルタに頑張ってもらおう。……ヘビとかどこにいてもおかしくはないから、ここで出てもおかしくもないもんな。

 よし、とりあえずここは目的地ではない事だし、スルーしていこうじゃないか。


「アルさん、それどの辺ー!?」

「あー、湖の左端ってとこだ」

「了解です! あ、これ、ウナギだ!?」

「え、ウナギ?」

「……ハーレ、捌いてとか言わないでね?」

「これは言わないよー! 多分、デンキウナギだもん!」

「あー、いつかのあれか」

「そういやあったな、デンキウナギの飼育の為の捕獲って。あれって、ここだったのか」


 確か初期エリアから少し離れたエリアの湖って話だったから、条件的にはここは間違ってはないな。って、あの時はザックさん達のPTと風雷コンビが運んできたんだし、ここで合ってるかどうかは翡翠さんが知ってるんじゃ……?


「翡翠さん、デンキウナギを採ってきたのってそこの湖?」

「……うん。採ってきたのはここで間違いない」


 即答で翡翠さんが情報の裏付けをしてくれた。確かラックさんから聞いた話ではここのエリアは未成体ばかりという話だし、ここまで幼生体や成長体で来るのは大変だよな。

 そういやあの後のデンキウナギの飼育はどうなったか知らないな。池の方は確認していなかったけど、デンキウナギは上手く飼育出来てるのかな? 今度、灰のサファリ同盟の本拠地で聞いてみようっと。


「初めて見たのですが、デンキウナギが何か役に立つのですか?」

「あー」


 水月さんに用途を聞かれてしまったけども、これって答えて良いやつか……? いやでも灰のサファリ同盟の本拠地でやってる事は基本的に伏せてはいなかった筈だから問題ない……?


「あ、言えない事でしたら構いませんよ」

「……それは問題ない」

「……翡翠さん?」

「……ラックからは用途そのものは隠さなくて良いと言われてる。……水月さん、デンキウナギは天然の電気の代用」

「……あぁ、そういう事ですか。なるほど、電気の操作はそういう風にやるのですね」

「え、水月、どういう事だ?」

「……フラム兄、最近がっかりな事が多いんだけど……」

「え、どういう事だよ、アーサー!?」

「ま、言葉のそのままの意味だな」

「ライさんまで!?」


 ふむふむ、翡翠さんの一言でフラム以外は理解したという事だな。なるほど、灰のサファリ同盟としてはマッチポンプに関わる称号は伏せるつもりでも、電気の操作については伏せる気はないのか。

 まぁデンキウナギさえ見つければ、用途自体はすぐに気付くだろう。そういう意味ではそれほど隠す必要もないね。


「ねぇ、置いていかれてるけど良いのかな?」

「……あ。良いわけないって、サヤ! アル、出発!」

「ちょっとよそ見し過ぎてたか。行くぜ!」

「追いつくぞー!」

「余所見は厳禁だね」


 少し他の事に気を取られている間に、他の人達はどんどん先に進んでいた。団体行動だから仕方ないけども、迂闊に余所見も出来ないね。

 でもまぁ、何処からデンキウナギを調達していたのかが分かったのは良かったかもね。先に他の誰かが見つけたものであっても、こうやって実際に見てみるのも良いものだ。


 こうやって色々と知らない事を体験するのも醍醐味である。さーて、この調子で逸れない程度に余所見をしつつ大きな湖へと進んでいこう。ある意味では最後尾というのも都合はいいね!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る