第412話 護衛の動き
デンキウナギがいるという小さな湖の近くも通り、平原をさくさくと進んでいく。道中は基本的に草原がメインだったけども、小さな湖や林が点在していた。
ちょっと何がいるのかは興味はあったけども、軽く覗く程度で移動優先だ。まぁこの辺は転移の種を手に入れてから、PTのみんなで探索に来ればいいだろう。ん? 少し前方が騒がしいな?
「ボス、左側からペガサスっすよ! あれ、ペガサスっすよね?」
「……シマウマに羽が生えてるだけにも見えるが、おそらくな! 護衛依頼を遂行しに行くぜ、オオカミ組!」
「「「「「おう!」」」」」
「お、オオカミの群れに狩られる変わったペガサスか!」
「え、ペガサス出たの!?」
「うーん、やっぱり現段階のペガサスは珍妙だな……」
「それもまたいいんじゃない! さー、スクショ撮るぞー!」
そんな流れでシマウマ風ペガサスとオオカミ組の1PTの戦闘が始まって、それを見物している他のプレイヤー達という感じになっていた。どうやら敵が多い場合でなければ、基本的にはオオカミ組が対処するようになってるようだ。
まぁこれだけの大所帯にもなれば連携のしっかり取れていて、予め役目を引き受けているっぽいオオカミ組に任せるのがいいか。こうやって見物しているだけというのもたまには良いだろう。
「当たるかよ! 『強獲牙』!」
「みんな、順番に攻撃を叩き込むっすよ!」
「「「「おう!」」」」
お、蒼弦さんがペガサスの首元に飛びかかって噛み付き、そして地面に叩きつけて噛み付いたまま押さえ込んでいる。おぉ、魔法系の拘束はよく見るけど、そういう物理的な行動阻害の攻撃もあるんだね。
そこから他のオオカミ組のメンバーは次々と攻撃を叩き込んでいき、あっという間にペガサスを倒し終えていた。
「蒼弦さん達、かなり強くなってないかな?」
「……そう? 前からオオカミ組は強いよ?」
「あー、まぁ翡翠さん的にはそう見えるのか」
「……どういう事?」
「個人的には色々と残念なとこを見た事があるからな」
「確かに色々あったよねー!」
「……そういや色々あったな」
例えばベスタを巻き込んで氷狼戦をしてベスタ以外はあっさり全滅してたとか、初めての競争クエストの時に蒼弦さんが他のメンバーの反対を押し切ってたとか、実はボスと呼ばれてるけどボスの座の再決定を何度か申請されているとかね。
今は人数が増えてどうなってるのか詳細は分からないけど、出会った当初はここまでしっかりした集団になるとは思ってなかったな。
「……そう。立派に見えても色々あるんだ」
「まぁ、前よりは遥かに強くはなってるのは間違いないぞ」
「……うん。少なくとも私のPTよりは遥かに強い」
「翡翠さん達も強いと思うよ」
「……ヨッシ、ありがと。でも客観視するも大事。私のPTはまだまだ弱い。……特にザック」
「……あはは?」
翡翠さん達のPTも決して弱い訳じゃないとは思うんだけど、まぁ今のオオカミ組は確実に相当強い側の集団だしな。俺らも強い方だとは思うから、翡翠さんがそういう風に考えてるなら下手な事も言えないか。
そしてどうやら翡翠さん的にはザックさんはまだまだらしい。ヨッシさんも答えに困って苦笑いしてるし……。いや、でもザックさんも共闘イベントでは頑張ってたと思うよ。自滅特攻だったけど、あれはあれで結構躊躇いはあるはずだしね。
「それにしても近接で押さえ込む物理攻撃ってあったんだね。サヤはそういうスキルないの?」
「え、あんまり意識したことなかったからどうだろ? ちょっと確認してみるね」
あ、ヨッシさんが堪らずに話題を変えたか。まぁその気持ちは分からないでもないし、話題転換は俺も賛成です。
そういや蒼弦さんが使っていた噛み付いての押さえ込みなら俺らのPTならサヤが使えそうだよな。でもサヤの近接攻撃が減るのも微妙だから、俺やアルやヨッシさんの拘束魔法をメインにした方が良さそうな気もする。
「あ、さっき蒼弦さんが使ってたのはあったよ。でも、これは使う事あるかな……?」
「確かにサヤの戦法とは噛み合わなさそうだしな」
「うん、そうなりそう。噛み付いて押さえ込むなら、自己強化して手動で組み伏せたいかな?」
「おー! その方がサヤっぽいね!」
「確かにサヤのクマには噛み付くイメージはないよね」
「ま、合わないと思うなら無理に取る必要もないだろ」
「それはアルの言う通りかな。なんか取ったとしても死蔵しそうな気がするよ」
サヤは爪での連続攻撃がメインの戦法だしね。噛み付き系のスキルとは方向性が全然違うから、無理に取る必要もない。もし必要になる時があればその時に検討すれば良いだろう。
スキルを強化するには熟練度を稼ぐ必要もあるし、何でも取れば良いってものじゃないからね。スキルは多過ぎても育てるのは大変だし……。
そして戦闘を終えた後はオオカミ組は再び警戒に回っていた。どうやら順番を変えて獲物察知で索敵もやってるっぽいね。ふむ、オオカミ組の護衛の様子をはっきりと見たのは初めてだけど、これは頼りになりそうだ。
それからも敵もそれなりに出てきていたけれど、基本的にオオカミ組が優先して敵を倒していた。ただ、毎回同じメンバーではなく、何組かいるオオカミ組の他のPTと順番でやっているようだね。
俺らは最後尾にいたし、オオカミ組だけでなんとかなっていたから戦闘は無し。まぁかなりの大所帯だから、この辺は仕方ない。
「なぁ、今度灰のサファリ同盟の護衛依頼でもやってみない?」
「ケイさん、それいいね!」
「それは別に良いけど、どういう理由でかな?」
「ん? 意外と経験値が良さそう」
「確かにそれはあるな。その案、俺も賛成だ」
「そだね。Lv上げもしていきたいし、ありといえばありだね」
「私はもちろん賛成さー!」
どうやらみんなも賛成っぽいな。まぁどこに行くかについては灰のサファリ同盟次第だから何とも言えないけど、そういうのをやってみるのもありだろう。オオカミ組ほど人数はいないから、小規模な護衛にはなるだろうけどね。
「……私はそのうちそう出来るように強くなる!」
「翡翠さん、頑張ってね!」
「応援してるよ」
「必要があれば特訓とかも付き合うかな!」
「……ハーレ、ヨッシ、サヤ、ありがと!」
うん、翡翠さんと女性陣も前より仲良くなっているみたいで何よりだ。特訓とかになってくると模擬戦も一対一の仕様になればいいな。模擬戦の実装はいつになって、どういう風な形になるか、今から楽しみだね。
「……楽しそうだよな、ケイ」
「いつまで捕まってんの、フラム?」
「水月が放してくれねぇんだよ!?」
「もう少しで到着ですからね。弥生さんに引き渡すまでは捕まえておきますよ」
「……あぁ、もういいや」
水月さんにツチノコの尻尾を掴まれているフラムが力なくユラユラと揺れていた。うーん、流石にカマをかけて情報を引き出したのはやり過ぎたか? でも流石に弥生さんのスパルタ特訓ってのは知らなかったしな……。
よし、今度からは聞き出した事をフラム自身が気付かないようにやろうっと。フラム相手には遠慮という概念は必要なし!
そんな風に雑談をしながら時々オオカミ組の戦闘を見たりしながら進んでいくと、先頭集団が立ち止まった。そしてその先にはまだはっきりとは全体像が見渡せないが、月を映し出す水面が見えている。どうやら目的地の直前まで辿り着いたようだ。
「おー! でっかい湖だー!」
「暗いせいか反対側が見えないな」
「月が綺麗に水面に映ってるね」
「これは綺麗かな!」
「ハーレさん、スクショ……ってもう撮ってるか」
「……ここ、私は好きかも」
とりあえず夜目があっても対岸が見えないくらい広い湖のようである。これは昼も晴れの日じゃないと対岸は見通せないってところだろうか。暗視を一緒に使えば対岸は見えるかな?
今は一気に雪崩込んで混雑しないように、少しずつエリアの切り替えをしていってるみたいだね。俺らは最後尾だから、少し待たないといけないな。
「コケのアニキ! もう少しで到着だよ!」
「あー、まぁ見てれば分かる。って、アーサーは来たことあるのか?」
「うん、昨日少しだけ!」
「あ、そうか。昨日の内に事前調査してたんだったな」
特にこれといった成果はないという話ではあったけども、昨日も調査はしてるんだった。っていうか、昨日って具体的に何をしたんだろう?
「水月さん、アーサー、昨日の事前調査って具体的に何をしたんだ?」
「人数は20人程度でしたので、あまり大したことはしていませんね。かなり大雑把ですが地形把握と、少し水中に潜ったくらいでしょうか」
「あ、そんなもんなんだ」
「相当広そうだし、その人数じゃ厳しいよねー!?」
広さだけでなく深さもありそうだから、この中から首長竜を探すのは確かに大変かもね。これは今日1日の数時間で発見出来るとも限らないか。まぁそれでもこれはこれで楽しそうではある。
チラッとしか写っていないスクショと目撃情報、それと食べられたという体験情報があるからには確実に何かはいるはず。
「まぁ今日で見つかるかどうかは分からないけど、楽しんでいきますか」
「だな。昨日の景色も良かったが、こういう捜索はロマンがあるな」
「首長竜のスクショを撮るぞー!」
「ハーレはやっぱりそれが目的だよね。まぁ私も見てみたいけど」
「私はちょっと戦ってみたいかな?」
「……ん、私も」
「お、サヤと翡翠さんは戦闘狙いか」
俺も戦ってみたくはあるから、気持ちは分かる。首長竜の目撃のタイミング的には倒せない成熟体ではなくて、フィールドボスの未成体っぽい気はするんだよな。Lvによっては勝てない可能性もあるけども、是非とも戦ってみたいところではある。
「そういうケイも戦う気満々かな?」
「まぁな」
勝ち目が薄い可能性もあるけど、そういうのに挑むのもゲームならではの楽しみではある。とはいえ発見出来なければ意味はないんだけどね。
そうしている内にエリアの切り替え待ちの順番が回ってきたようである。あ、仕切りをしてたのはガストさんだったのか。
「よう、ケイさん達! って、なんでフラムは水月さんに捕まってぶら下げられてんだ?」
「少々口を滑らせましてね。昨日決めた秘匿情報の一部をポロッと……」
「おーい、何やってんだよ、フラム。決めた意味ねぇじゃねぇか……」
「うぅ、すんません……」
「ま、ゲームなんだし罰則とか厳しくするつもりはないけどな。つーことで水月さん、放してやってくれ」
「……良いのですか?」
「問題ねぇよ。弥生さんの方針はみんなで楽しくではあるからな。水月さんにしろ、弥生さんにしろ、身内にだけは妙に厳しいとこはあるけど、その辺は考慮してやってくれ」
「……そうですね。分かりました」
「うはー! 助かったー!」
「え、そういう基準だったのか? そりゃ悪い事をしたな。すまん、フラム」
「知らずに捕まえてたのか、ライさん!?」
「いや、だって俺は赤のサファリ同盟のメンバーじゃねぇしな?」
「……そういやそうだった」
根本的にフラムが捕まってた理由って赤のサファリ同盟の方針というよりは、水月さんの身内への厳しさが理由だったんだな。
ライさんは水月さんの弥生さんに報告するという言葉から、勘違いをして捕縛してただけと……。よし、そういう基準ならフラム相手には気兼ねなく誘導尋問が出来るな。まぁやり過ぎると赤のサファリ同盟に悪い気もするし、自分達で見つけたいというのもあるから程々にしておこうっと。
そうしている内に、俺達の前の集団がエリア切り替えを終えたようである。今まで地味に気付いてなかったけど、エリアを跨ぐと姿は見えても声は聞こえなくなるんだね。
この辺がエリア切り替えの判別方法かな? まぁPTを組んでいれば普通にPT会話が通じるだろうから、今みたいな大人数でなければ大して意味は無さそうだけどね。
「よし、これで全員だな。ケイさん達もエリア切り替えをしてくれ」
「ほいよ。それじゃ大きな湖のエリアに突入するぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
みんなの気合は充分である。現在の時刻は9時前くらいだから、まぁ2時間ちょっとくらいは湖の調査は出来そうかな。ほぼ一直線で進んだおかげで思ったよりは移動に時間はかかっていなかったみたいだしね。
「水月、俺、ちゃんと案内とか報告とか出来たよ!」
「頑張りましたね、アーサー」
「おう、よくやったな、アーサー!」
「うん! ガストさん、俺頑張った!」
そしてアーサーは色々動いていたと思えば、そういう交流的な特訓をしてたっぽいね。初めに会った時はどうしようもない感じだったけど、アーサーは成長したものである。
逆にフラムのポンコツさが表面化している気もするけど、まぁそれが素なんだから俺が何かを言うこともない。
さてとその辺は良いとして、今日の目的地の大きな湖に行ってみよう。どんな事になるかが楽しみだね!
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