第14章 あちこちを探索しよう:大きな湖編

第403話 いつもとは少し違う日


 慎也が返す為に下駄箱においていた傘を持って、帰宅していく。今日は母さんからの買い出し要請ありだった。なんだか父さんが無性に酢豚が食べたくなったらしく、今家にある材料だけでは足りないから補充との事である。

 まぁ父さんの急なリクエストっぽいけど、ここはいつもの感謝を込めて買い出しに行ってきますか。ただし、俺は酢豚にパイナップルは認めないのでパイナップルは買ってこないけども。母さんからは俺の好きにどうぞとの記載もあるしね。



 そしてスーパーで買い物を終えて、帰ろうとした時によく知っている後ろ姿を発見した。何やってんだ、晴香のやつ……?


「おーい、晴香。何やってんの?」

「わっ!? なんだ、兄貴かー! びっくりしたー!」

「晴香の驚きっぷりに驚いたわ!」


 ちょっと声をかけただけなのに、そんなに盛大に驚かれても困る。っていうか、何か緊張してるのか?


「で、何やってんの?」

「これから短期バイトの面接なんだよ!」

「あー、そういや自分で旅費稼ぐって言ってたっけ。え、ここのスーパーなのか?」

「次の週末のイベントの短期バイトなんだけど、事故に遭った人が出て急に人数が減って急募中らしいのさ!」

「あー、そういや電子チラシにそんなの載ってたような……」


 確か開店十周年で、ちょっとしたイベントをやるとかなんとか……。内容はどちらかというと小さな子供向けだったから興味はなかったけど、晴香はそこで旅費を稼ぐつもりか。

 今回は本気で自力でやる気みたいだな。あ、もしかして今朝言ってた調べものってアルバイト先を探してたのか?


「ま、応援してるから頑張れよ」

「うん、頑張ってくる!」


 緊張していたのは初のバイトの面接だからだろうね。俺も去年の夏休みはちょっとだけ短期バイトはやったけど、面接ってどうも苦手だったな。まぁとりあえず晴香、頑張れよ! ……よし、パイナップルは普段は許さない派だけど、晴香は地味に好きだから応援を兼ねて買ってきてやるか。



 ◇ ◇ ◇



 とりあえず買い物を済ませて帰宅である。晴香はちょっと遅れそうだし、先にログインしておくかな。まぁ食材を冷蔵庫に突っ込んで、母さんに買い出し終了の連絡を入れておいてっと。


 さてするべき事は終わったので、ゲームをやっていこう! という事でいつもの様にやってきました、いったんのいるログイン場面。今回の胴体は『ぎゃー!? こんな土壇場でバグ発見ー!?』となっている。……新規実装の予定は共同体の機能だけど、バグがあったのか。運営の人達、ご苦労さまです。


「なぁ、いったん。バグって大丈夫なのか?」

「あ、それね〜。もう修正は終わってるんだけど、内容の更新を忘れてるみたいだね〜」

「おい、運営! 何やってんの!?」


 もう修正が終わってるならそこの内容は更新しておこうよ! でもまぁ、もう修正が終わってるって事は一安心ではあるな。


「……まぁいいや。何か新情報ってある?」

「既に伝達済みのもの以外は特にないね〜」

「そっか。んじゃスクショの承諾でもしておくか」

「んー、今日は特に来てないよ〜?」

「あ、そうなの?」

「うん、そうなるね〜」


 そういやよく考えてみれば昨日は殆どPTだけでの活動だったし、雪山では殆ど人も見かけていない。PTメンバーの集合のスクショは俺が撮ったから俺から承諾申請は出しても、俺に対して承諾を求める事はないのか。

 ハーレさんが撮ったのはあるだろうけど、まだ整理も出来てないんだろうな。まだ全員はログインしてないだろうから、俺が申請を出したのが承諾済みになるのは早くても夜か。


「んじゃ、ログインボーナスをくれ」

「はいはい〜。それではこちらをどうぞ〜」


 そうしていつもの様にログインボーナスを受け取ってからゲームの中へと入っていく。さて、みんなのログイン状況次第だけど、何しようかな? とりあえず灰のサファリ同盟に行くか。



 ◇ ◇ ◇



 ゲームの中へと移動してくれば、昨日帰還の実で戻ってきたエンの前である。夜の日だから暗いけど、それで見える範囲でも少し焼け落ちてた森が回復しつつあるのが分かるね。でもまだ低木ばっかで森とはまだまだ言えないか。

 とりあえず夜の日には必須な夜目を使っておこう。どうもヒノノコの周回をしているPTもいるのか、飛んでいく火の弾や舞っている銀光とかは見えてるけどね。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 60/60 → 59/59(上限値使用:1)


 よし、これで視界良好。ちょっとボス戦の方が気になるけど、その前に忘れない内にログインボーナスを貰っておこう。


<ケイが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>

<ケイ2ndが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>


 よし、これで今日の分のログインボーナスは確保完了っと。さて今ボス戦をしてるのはどんな人かなー?

 って、纏浄中っぽい赤いドラゴンとタカ、そして思いっきり見覚えのあるクマ2人を主戦力として戦ってるっぽい。


「残り1割まで削るよ、ラーサ! 『爪刃双閃舞』!」

「サヤは頼もしいね! 『爪刃双閃舞』!」


 2人のクマというか、サヤとラーサさんがヒノノコを挟撃して銀光を放つ爪でどんどんと斬り裂いていく。ヒノノコが逃げようとして動いても、それを封じるようにクマ2人が位置取りをしていた。

 サヤのクマ友達のラーサさんが戦っている所は初めて見たけど、育成の方向性はサヤに近いっぽいね。ラーサさんには竜はいないけど。


「サヤさん、ラーサさん、任せたぜ! ソラ、連続でぶっ放すぞ! 『魔法砲撃』!」

「えぇ? また浄化魔法をやるのかい? まぁ別に良いけどさ。『魔法砲撃』!」


 どうやら紅焔さんもソラさんも纏浄中のようだし、浄化魔法をぶっ放すつもりらしい。まぁ2人とも火と風の昇華になってるから可能といえば可能なんだよな。

 纏浄は1日1回しか使えないし、トドメに持ってくるならそれもありか。今のこの場所ならエンも復活してるし、デメリットの行動不能も比較的安全ではあるね。


 サヤを待つ意味も込めてこの一戦が終わるまでは見物していこうっと。あ、そう考えてたらヨッシさんがログインしてきた。いや、ヨッシさんは昨日のログアウトは雪山だったから、これは帰還の実で転移してきたのか。


「あ、ケイさん、今日は遅めだったんだね」

「ヨッシさん、おっす。例の冷凍蜜柑とか回収してきたとこか?」

「うん、ちょうどね。あ、サヤが紅焔さん達とボス戦してるんだ」

「俺がログインした時には既に戦闘中だったぞ」

「まぁ回収してくる間に自由にやっててとは言ってたからね」

「あー、なるほどね」


 それでサヤはヨッシさんとの合流を待つ間に紅焔さんかラーサさん辺りに誘われてボス戦をやってる感じかな。お、2人のクマによる連続斬撃もそろそろ締めっぽいね。

 っていうか、そのまま連閃に繋げた上に更に爪刃乱舞に繋げてないか? サヤとラーサさんで合計ヒット数は何回だ、これ?


「紅焔さん!」

「おう! 『並列制御』『ファイアクリエイト』『浄化の光』!」


 そして連撃が終わったのを確認して紅焔さんが飛び上がり、ヒノノコの真上から浄化魔法の発動を開始していく。紅焔さんのドラゴンの口の前に用意された浄化の光に向けて魔法砲撃となったらしきファイアクリエイトが発動していった。おぉ、輝く多量の火のブレスとか迫力あるな。


「こりゃすげぇな」

「あはは、小さくてもドラゴンだからかなり迫力あるね」

 

 まだ紅焔さんのドラゴンは小さいとはいえ、その浄化属性を帯びて指向性を得た火の奔流は正しくドラゴンのブレスと言っても充分なものであった。でもヒノノコ自体が火属性だから俺がやった時ほどの威力はないな。絶妙な、いや微妙なところでヒノノコのHPが残っている。


「紅焔、ほんの少し残してどうするのさ!」

「……すまん。ソラ、トドメは任せた」

「紅焔さん、ご苦労さま」

「お、あんがとよ、ラーサさん」


 浄化魔法のデメリットによってHPがほぼ消し飛び、身動きが取れなくなった紅焔さんが落下していく。今ので仕留めきれたら格好良かったんだけど、ちょっとHPが残ったのは残念だったね。

 そして落下していく紅焔さんはラーサさんに受け止められていた。まぁ落ちてもダメージはないけど、気分的には無防備に落下させたくもないか。


「まったく仕方ないね。『並列制御』『ウィンドクリエイト』『浄化の光』!」


 確実に過剰攻撃にはなるだろうけど、ソラさんもまたヒノノコの上部へ飛んでいき嘴の先に浄化の光を用意して魔法砲撃になったっぽいウィンドクリエイトを発動する。

 ソラさんの浄化魔法もまた強烈なものである。なんだろう、向きを決められる竜巻が襲いかかっているような感じだった。


 残りHPも僅かになっていたヒノノコはソラさんの浄化魔法を受けて、地面に押し潰されるようになりながらHPが全て無くなりポリゴンとなって砕け散っていった。

 それと共にソラさんもまた浄化魔法のデメリットにより落下していく。そこに滑り込むようにしてサヤが受け止めに行っていた。


「よし、討伐完了! 次の順番のやつ、交代なー!」

「おっしゃ、今日こそ手伝いなしで勝ってやる!」

「倒せる人は割と簡単に倒してるけど、ヒノノコは結構強いもんね」

「頑張るぞー!」

「「「「「「おー!」」」」」」


 順番待ちをしていたっぽい次のPTが次のヒノノコの出現を待ち始めていた。人数的には10人くらいっぽいね。それにしても人によっては勝ちきれていないって人もいるのか。まぁ強い人ばっかじゃないし、そういう事もあるんだろう。


 紅焔さん達はライルさんとカステラさんは不在みたいだけど、サヤとラーサさんと、俺の知り合いではない樫の人と、トマトの人だったようである。

 その知らない2人はすぐに去っていった……いや、他のボス戦のPTに加入を希望していたみたいだから、臨時で組んでた野良PTだった感じである。


「あ、ケイ、ヨッシ! 見てたのかな?」

「おう、見てたぞ。サヤ、ボス戦お疲れさん」

「ラーサさんとの息はピッタリだったね」

「あはは、それほどでもないかな」

「そうだね。かなりサヤにタイミングを合わせてもらったし、私もまだまだだよ」

「え!? ラーサ、そんな事はなかったかな!?」

「いやいや、謙遜しないでいいよ。サヤの方がプレイヤースキルは遥かに上だしね」


 ふむ、見てた感じでは息ピッタリって感じではあったけど、サヤがかなり合わせてた感じなのか。それでもあの水準なら合わせてもらう方にもかなりプレイヤースキルは必要だろうから、ラーサさんも結構強いもんだね。


「おー、ケイさん。魔法砲撃、意外と便利なもんだな」

「まぁな。それにしても仕留め切れずに残念だったな、紅焔さん」

「いやー、思った以上にサヤさんとラーサさんが削ってたもんでな。もっと残ってる状態でソラに任せるつもりが、あんな微妙に残るとは……。あ、ラーサさん、その辺に置いてくれて構わんぜ」

「はいよ。浄化魔法の威力は凄いけど、デメリットは難儀なもんだね」

「サヤさん、僕も下ろしてくれていいよ」

「あ、うん。分かったかな」


 近場で邪魔にならなさそうな場所に紅焔さんとソラさんが降ろされていく。まぁ纏浄は強制解除になってるし、少しすれば動けるようになるらしいから大丈夫だろ。エンのすぐ近くは基本的には安全な場所だしね。


「それでヨッシ、回収してきたものはどうかな?」

「冷凍した果物としての成功は半分くらいかな? 半分は潰れて、凍った果汁ってなってたよ」

「へぇ、凍った果汁か」


 ふむふむ、潰れたからといって完全に駄目になる訳でもないんだな。凍った果汁ということは、解凍すれば普通に果汁として使えそうな気もする。


「あ、それなんだけどさ、凍った果汁を削ってシャーベットにするのもありかなって思ってるんだけど。カキ氷はカキ氷で良かったけど、シャーベットも良さそうじゃない?」

「それ、良さそうかな!」

「ハーレさんがまた喜びそうだな。あ、そうだ。ハーレさんなんだけど……」


 あ、紅焔さんやソラさんがいる前でアルバイトの面接に行ってるっていうのもどうなんだ……? 言っても大丈夫な相手だとは思うけど、気軽にホイホイ話しまくるのも……。


「あ、遅れるのなら聞いてるから大丈夫かな」

「うん、そだね。今日の夕方はログインしないって言ってたよ」

「あ、既に聞いてる後だったか」


 まぁそりゃ女性陣はリアル側で色々交流もしてるっぽいし、ログインが遅れるなら連絡が行ってても何の不思議もない。っていうか、夕方はログインしないのか。ふむ、それならそこまで遠出はしない方が良さそうだね。


 ……ん? 何やら地面の方から妙に視線を感じるんだけど……この視線は紅焔さんとソラさんからか? いや、ラーサさんもだな。


「ケイさん、カキ氷ってなんだ?」

「シャーベットっていうのも気になるね?」

「カキ氷って作れるもんなのかい?」

「あー、みんな興味あり?」

「まぁ、気にはなる」

「僕は甘いものは大好きだよ?」

「確かに気にはなるね」


 どうやら紅焔さんとソラさんとラーサさんは、カキ氷とかシャーベットに興味津々のようである。まだ作成情報については上げてないし、氷結草の群生地についての報告と相談もラックさんというか灰のサファリ同盟に伝えに行かないといけないんだよな。

 それに桜花さんにも氷柱とかを渡しにいかないといけない。こりゃ紅焔さんとソラさんとラーサさんが今日の夕方の同行者になりそうかな。

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