第401話 カキ氷を食べよう


 見つけるのに中々手間取ったものの、目的地の氷結草の群生地には辿り着いた。もう11時も過ぎてしまったし、さくっとカキ氷を完成させてしまおうじゃないか。


「それじゃ目的地に到着って事で、カキ氷を食べよー!」

「そだね。もう11時も過ぎちゃったし、カキ氷を食べたら終わりにしよっか。冷凍蜜柑とかの回収は明日で良いよね?」

「時間的にそれは仕方ないかな」

「ま、時間ばっかりは仕方ないな。アル、それでいいか?」

「回収は夕方にやるって事だろ? 俺は別にそれでいいぞ」

「それじゃそういう事で決定な」


 時間的にこれから冷凍蜜柑を作った場所まで戻ると日付が変わりそうだし、これは仕方ない。まぁもし誰かに取られてしまっても、基本的に俺らのPTでアルが生産している蜜柑だし特に痛手ででもない。

 あー、でも桜花さんへの取引の受け渡しは明日になるかもしれないのか。これはフレンドコールで一報入れて……って、桜花さんログインしてねー!? ログインしてないなら、どうしようもないな。


「それじゃカキ氷を配っていくよ。えーと、このままのサイズだとやりにくいね。『大型化』!」

「お、状況によっては大型化も便利なもんだな」

「ハチが元々小さいしね。ケイさんも大型化を取ってみたら?」

「俺が大型化? うーん、それはどうなんだ……?」


 水砲ザリガニみたいに大きな状態になるっていうのもありはありか? 竹を切る時にもハサミの大きさが足りてなかったし、状況次第では大型化ってのもありなのかもしれないね。

 でも上限値の半分消費は地味にコストが重いんだよな。ふむ、ポイント無しでも取れるスキルだし取るだけ取っておくか……? いやでも使いどころが微妙だし……。


「まぁ、言ってみただけだからそこまで本格的に悩まなくても良いよ?」

「……それもそうだな」


 ロブスターの大型化の取得については追々と考えておくとして、今はヨッシさんが取り出している果汁入りの竹と、竹の器に入った未完成のカキ氷が優先だ。さーて、カキ氷にかけるのは何がいいかな?


「準備完了っと。シロップ代わりの果汁は何がいい?」

「はい! はちみつレモンをお願いします!」

「私はイチゴが良いかな?」

「ハーレははちみつレモンで、サヤはイチゴだね。アルさんとケイさんは?」


 ヨッシさんはみんなの要望を聞きながら、テキパキと手際よくシロップ代わりの果汁が入った竹を抱えて飛び、器を傾けながらカキ氷にかけていく。そういや現実でよくあるカキ氷のシロップって色が違うだけで味は同じらしいけど、これは果汁だから結構な贅沢品だったりするのかな?

 お、ハーレさんの輪切りにしたレモンを乗せてその上からハチミツをかけたのも良さそうだし、サヤのイチゴの果汁も良いですな。よし、俺はまだ選ばれてない蜜柑にしよう。


「……そもそも種類は何があるんだ?」

「あとは蜜柑の果汁だな。ヨッシさん、俺は蜜柑で!」

「うん、了解。アルさんは?」

「なら、俺も蜜柑果汁で頼む」

「アルさんとケイさんは同じだね。うん、分かったよ」


 そんな風にそれぞれの好きなようにカキ氷に果汁をかけて、神秘的な氷結草の群生地を眺めながらの夜となった。ヨッシさんはハーレさんと同じで薄切りのレモンとハチミツの組み合わせにしていた。


「こうすりゃ自力でも食べれるか。『根の操作』!」

「あー、そういやそういう手段でもいけるのか」


 アルは木の根で竹の器を持っているし、サヤとハーレさんは手掴みだね。ヨッシさんは、そのまま丸かじりでいくつもりのようである。さてとそれじゃ食べてみますか、蜜柑果汁のカキ氷を!

 縦に割った竹の器からハサミでカキ氷を掬いつつ食べてみる。アルも根で掬ってクジラの方で食べているみたいだね。って、あれ……? これって……。


「……ちょっと甘さが足りない」

「……私のもかな」

「俺のもだな……」

「えー!? ちゃんと甘くて美味しいよー!?」

「あ、やっぱりそうなるんだ」


 俺とサヤとアルの感想は一致していた。どうなのか少し気になっていた冷たさに関しては普通に冷たく感じるし、不味いって訳ではないんだけどちょっと甘みが足りなくて、なにかこれじゃない感がある……。っていうか、ヨッシさんのその一言が気になるんですけど……?


「ヨッシさん、やっぱりってどういう事……?」

「えっとね、シロップって地味に砂糖が大量なんだよね……? 果汁だけじゃ甘さが足らない可能性はあるかなとちょっと思ってたんだよ」

「予想済みだったんかい!」

「えー!? ヨッシ、そうだったの!? でも私のはレモンは甘酸っぱいけど、カキ氷自体は甘いよ……?」

「多分ハチミツもあるからだよ。私のもハチミツはあるから甘いしね」


 そういえばハーレさんははちみつレモン……というかレモンのハチミツ漬けをかけたカキ氷だもんな。そうか、ハチミツで甘さを調整すれば良いのか。


「ヨッシ、ハチミツをもらえないかな?」

「俺もよろしく!」

「俺も欲しいとこだな」

「まぁそんな気はしてたから、用意はしてるよ。ハチミツそのままだと粘度が高いから、少し水で薄めたやつね」


 ヨッシさんはそう言いながらインベントリからまた別の竹の器を取り出してきた。予測済みだったという事は、その為の対策は万全という訳か。流石、調理に関することは非常に頼りになる。


「あ、何か作ってたと思ったらそれを作ってたのかな!?」

「なるほど、俺から水を、サヤからハチミツを貰ってたのはその為か」

「うん、そういう事。はい、どうぞ」

「お、サンキュー!」

「ありがとうかな!」

「おう、ありがとな」


 ヨッシさんが少し水で薄めたハチミツを砂糖の代わりにカキ氷へと追加でかけていく。これで甘さは補填出来たんだろう。まぁこの辺はお好みで追加すれば良い感じかな?


「……折角だし、果物もそのまま乗せるのもありじゃないか?」

「あー! その手があったー!?」

「お、アル! ナイスアイデア!」

「いいね、それ。今の手持ちで合いそうなのはイチゴと蜜柑だけど、どうする?」

「俺は果汁と同じで蜜柑が良い!」

「俺もケイと同じだ」

「私はイチゴが欲しいかな?」

「私は既にレモンがあったー!?」


 まぁハーレさんのは元々薄切りのレモンが乗ってるし、追加する必要はないだろ。ヨッシさんもハーレさんと同じなので特に問題はない感じかな。

 とりあえずヨッシさんが俺とアルに皮を剥いた蜜柑を、サヤには軽く切り分けたイチゴをトッピングしてくれた。うん、これは良い感じのカキ氷になったね。


「それじゃ改めて、いただきます!」

「「「「いただきます!」」」」


 ハチミツを追加したカキ氷には甘みが増えていて、しっかりとしたカキ氷になっていた。いや、そこら辺の市販のシロップのカキ氷よりも美味いかもしれない。まぁ食べにくいのは難点だけど、この調理のし辛いゲームにおいては大成功と言って良いんじゃないかな?


「そういや回復アイテムとしてはどうなってんだ……?」

「えーと、お! 蜜柑のはHP40%回復ってなってるぞ!」

「はちみつレモン乗せは魔力値20%回復だってー!」

「イチゴは元の質がそれ程でもないから、HP1000回復かな?」

「戦闘中には食べれそうにはないけど、戦闘後の休憩には良さそうだね」


 どうやらカキ氷に乗せるものによって回復性能が変わるっぽいね。そしてプレイヤー産と天然産ではHP回復のは割合回復と固定値での回復自体は変わらず数値だけが上昇し、魔力値回復のレモンは割合回復化か。

 ヨッシさんの言うように流石に戦闘中では今までの果物以上に食べれないけど、有益なのは間違いない。あと、単純に娯楽代わりというのでも充分である。まぁ全部食べきってからでないと効果は出ないみたいだけども。


「うはー! 満足さー! ヨッシ、ありがとね!」

「いえいえ、どういたしまして。明日になったらラックさんに成功報告しとかないとね」

「それなら俺の方でまとめに報告を上げとこうか?」

「ううん、細かい注意点もあるし、これは私が直接伝えるよ」 

「そっか、そういう事なら了解っと」


 傍目には簡単そうにしてたように見えるけども、どうやら加工する上で注意点もあるようだ。多分聞いてもよく分からないと思うから、これは余計な事はせずにヨッシさんに任せようかな。



 そうしている内にゲーム的にも夕暮れ時になってきた。そしてそれはいつものログアウトの時間を少し過ぎている証明でもある。

 氷結草の群生地に夕陽が入り込んできて、また違った雰囲気の神秘さが良い感じだね。そういや氷結草って雪山の南側でしか見かけなかったけど、生育にはその辺が何か関係しているのかな?


 そして夕焼けをバックにしてハーレさんがスクショを撮りまくっていた。丁度いいタイミングだし、スクショを貰えるように頼んでおこうかな。


「あ、ハーレさん。後でここでのスクショ貰えない?」

「うん、いいよー!」

「あ、私も欲しいかな!」

「ハーレ、私のもお願い」

「俺も頼んだ」

「みんないるんだねー! 了解です!」


 どうやらみんなもかなり気に入った様子で、ハーレさんからスクショを貰っていた。もちろん俺もしっかり貰った。他のプレイヤーは一切写っていないので、承諾処理も必要ないスクショだね。


「あ、そうだ! みんな集合したスクショも撮ろうよ!」

「よし、遠隔同調の出番だな!」

「ケイ、任せたぞ!」

「ケイ、よろしくね」

「こういうのも良いもんだね」


 とりあえず遠隔同調を使って、コケを分離してみんなの集合スクショを撮っていった。これはハーレさんとかは外部出力をしたいだろうし、後で承諾申請を出しておかないとな。

 それにしてもこういうスクショを撮るのには遠隔同調が地味に役立つね。初めは戦闘で切り札的な使い方を考えていたけど、意外と応用範囲は広そうである。


 さてとカキ氷も堪能したし、良い景色も見る事が出来た。だけど、もう時間としてはぎりぎりだから楽しい時間はそろそろ終わりかな。


「それじゃ今日はこの辺で終わりだな」

「そだねー! ログアウトの場所はどうするー!?」

「みんな氷の小結晶は使い切っちゃったから戻ったほうが良いんじゃないかな?」

「だろうな」


 用意した氷の小結晶はなんだかんだで使い切ってしまったので、明日ログインしても補充をしなければ雪山での活動は満足に出来ない。冷凍蜜柑の回収は必要だけど、それは戻ってから改めて来るしかないか。


「あ、それに関してなんだけど、私はここでログアウトしておくね。みんなは戻っていていいよ」

「え、ヨッシ、なんでかな?」

「私は小結晶が無くても平気だからね。明日ログインしたら、冷凍した果物を回収して戻るよ」

「ヨッシ、いいのー!?」

「うん、良いよ。適材適所って事だね」

「ヨッシさんがそう言うなら任せるか」

「ま、死なないようにだけは気をつけてくれよな?」

「……それだけは気をつけないとね」


 そんな感じで明日の夕方にヨッシさんが冷凍した果物を回収する為にこの場でログアウトする事に決まり、他のみんなは帰還の実で森林深部に戻る事になった。

 まぁここはヨッシさんの好意に甘えさせてもらおうかな。割と危ない敵はいたけども、逃げに徹すれば多分大丈夫だとは思う。


 そういう事に決まって、ヨッシさん以外は森林深部に戻って解散となった。新しい帰還の実を貰うのは忘れずにね!

 さてと明日は明日で夜は湖探検だし、夕方には桜花さんや灰のサファリ同盟に顔を出さないとね。何度か確認はしたけど、桜花さんはログアウトしたままだったし今日はリアルで用事でもあったんだろう。ま、その辺については明日だね。



 ◇ ◇ ◇



 そしていつものようにいったんのいるログイン場面へとやってきた。いつもの流れで胴体を見てみれば『只今アンケートを実施中。未回答の方は任意ではありますが、ご回答へのご協力をお願いします』となっていた。

 これは模擬戦のアンケートの事だろうな。もう既に回答済みだから問題ないはず。でも間違っていても困るから確認しておくだけしておこう。


「いったん、このアンケートってこの間のやつ?」

「うん、そうだよ〜。君は既に回答済みだから、気にしなくて良いかな〜」

「ほいよ」


 予想通り、この前に回答したアンケートだったようである。まぁしばらく継続してアンケートをしていく必要もあるんだろう。


「あ、そうだ。いったん、スクショの承諾申請を出したいんだけどどうすればいい?」

「お、珍しいね〜?」

「PTメンバーとの集合のスクショを撮ったからな。その関係だ」

「なるほどね〜。えっと、君の撮ったスクリーンショットの一覧を渡すから申請をしたいスクリーンショットを選んでから承諾申請の所を選択してね〜」


 そう言いながらいったんは、スクショの一覧を渡してきた。基本的には承諾する時の画面とほぼ同じだな。えーと、オプションで拒否された時に置き換えをするかどうかの選択肢もあるのか。

 でも拒否される事はないと思うので、ここはチェックを入れなくて良いだろう。ついさっきみんなで撮ったスクショを選択して承諾申請を選択っと。


「いったん、これでいいのか?」

「うん、問題ないよ〜」

「案外簡単なんだな?」

「基本操作はね〜。ただ数が多い人は大変そうかな〜」

「ははっ、確かにそりゃそうだ」


 数が多いという大半の人はサファリ系プレイヤーの人なんだろうね。まぁスクショの枚数が増えれば増えるだけ手間が増えるのは仕方ないだろう。


「それじゃスクリーンショットの承諾もお願いね〜」

「ほいよ」


 これの日課になりつつあるけど、承諾申請が来ているのに許可を出して終わりである。今日は撮られていたスクショの枚数は少なかったみたいだね。


「全部許可でよろしく」

「はいはい〜。そう処理しておくね〜」

「それじゃ今日は終わりにするよ」

「お疲れ様〜。またのログインをお待ちしております〜」

「おうよ」


 そしていったんに見送られながら今日のゲームは終わり! さて色々片付けてから、父さんに晴香が自力で旅費を稼ぐつもりだという事を伝えて寝るか。

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