第400話 氷結草の群生地


 カキ氷もまだ未完成ではあるけどほぼ完成して洞窟も抜ける前に、みんながアルの樹洞から出てきていた。さてと、この先の景色はどうなってるんだろうね。


<『名も無き雪山・氷結洞』から『名も無き雪山』に移動しました>


 景色に期待しながら洞窟を出てみれば、その先には雪を被った針葉樹の森と雪原が広がっていた。まぁ、これは大体予想してた通りの光景だね。


「やっぱりこっち側は雪に覆われた森林か」

「そうみたいだな。ま、その先は今日は無理だな」

「確かにそうだよな」


 アルの言う通り、今日はこの先の森林まで行く時間の余裕はない。まぁ興味自体はあるし、敵も割と強そうな気もするから後日という事で。


 もっと詳しく観察してみると出てきた洞窟の入り口は少し他の場所と比べると高台にあるようで、少し前で崖となっている。あ、でもこの崖には登ってこれそうな足場自体はあるね。青の群集のキツネの人は先に広がる雪に埋もれた森と、この崖を登ってきて洞窟へ入っていったって事なんだろう。

 マップで全体像を確認してみれば、雪山の真ん中を貫いている洞窟って感じだね。実際には多少の蛇行はしてたけども、回り込むよりは洞窟の中を通る方が近道かもしれない。


「わー! 雪景色の森だー!」

「私としては、これは割と見慣れた光景かな?」

「え、サヤ、そうなの?」

「うん、そうだよ。ほら、私の家の近くにスキー場があったでしょ? あの辺りがこんな感じかな」

「あ、あの辺りはそうなるんだね」

「サヤとヨッシにしか分からない話は禁止ー!」

「あはは、それもそうだね」

「そうだよね。まぁ冬になったら嫌でも見る事にはなると思うかな」


 東北と雪が積もる地域に住んでいるサヤと、そこに引っ越したヨッシさんには身近にあるような景色という事か。まぁ俺らの住んでる地域じゃまず見る事はないから、比較的新鮮な景色ではある。

 でもVRゲームをやってると割とありがちなものなので、それほど意外性はない。まぁこのゲームだとまともな道がないという大きな要素はあるけども。


「リアルの気候の話は別にいいんだが、とりあえず移動しながらにしないか? 時間はそんなにないぞ?」

「そうだよー! いざ山頂に向けて出発さー!」

「んー、折角だし氷結草の群生地まで行ったら、そこでカキ氷を食べる? あそこは寒々しい感じはしなかったしね」

「ヨッシ、それいいね!」

「そうだな、スクショを見せてもらった感じだと、冷たい場所というよりは神秘的な場所って印象が強かったしな」

「確かにそうかな。うん、高原まで戻っている時間はあるか怪しそうだしそうしよう!」


 確かにあそこは神秘的な印象は強かったけど、寒い場所って印象はなかったな。時間的にもあそこなら少し余裕はありそうだし、カキ氷の試食会をしながら氷結草の群生地を眺めるのもいいかもね。

 灰のサファリ同盟にどう扱うかは任せると決めたけど、場合によってはそう簡単に見れなくなるだろうし今のうちにしっかりと見ておこう。あの光景は気に入ったし、後でハーレさんが撮ってたスクショを貰っておこう。


「ケイもそれでいいかな?」

「あ、おう。それでいいぞ」


 いかんいかん。つい考えるだけで返事をするのを忘れていた。俺的にはオンライン版での風景の中でも上位に入る気に入った場所だからね。

 それじゃ肝心のあの場所へ進んでいこうじゃないか。その為にも大雑把にでも現在地と目的地の確認をしていかないといけない。とりあえずマップを開いて……あ、洞窟内のマップはここからじゃ見れないのか。それだと大体の見当をつけるしかないね。


「で、肝心の場所へはどう行けばいいんだ?」

「あー、ちょい待って。大体の目星をつけるから」

「ほいよ」


 アルは実際に行ってないから、その辺は現地に行った俺が確認しておくべきとこだろう。えーと、現在地から考えて方角的には……ここからちょっと東寄りの方か……? ふむ、そっちの方を見てみれば山頂へ続く感じの場所はあるね。

 まぁ道と言えるようなものはなくて、ただ雪原が広がっているだけではあるけども……。ただ、現在地も結構高めの場所のようなのでそれほど遠いって感じではないか。


「よし、多分ここから少し東の方でそれ程遠くはないはず。アル、時間短縮で飛んでいくぞ」

「ま、この場合はその方が良さそうだな。小型化を解除っと」

「それじゃアルさんに乗って出発だー!」

「「おー!」」


 アルがクジラの小型化を解除して元の大きさに戻ると、ハーレさんは即座に木の巣の中へ移動し、サヤとヨッシさんもクジラの背の上に待機している。

 なんだか今日はみんなテンションが高めだね。まぁ初めてきたエリアでの探索だから気持ちは分かるし、俺も結構楽しんでるからな!


「アル、一応補助の水のカーペットは用意しとくぞ?」

「おう、頼んだぞ!」


<『発光Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 56/56 → 56/59(上限値使用:1)

<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 55/59(上限値使用:1): 魔力値 191/194

<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 52/59(上限値使用:1)


 発動したままになっていた発光は解除して、アルのクジラの下に水のカーペットを生成していく。今日は落ちまくっている反省を込めて、移動操作制御ではなく通常発動である。いや、冗談抜きでここの雪山って何がいるか不明だからね。


「ケイ、今日は随分慎重だな?」

「今日は殺意の籠もったタケノコだったり、事故の氷狼だったり、雪に潜ったモグラだったり、ぶつけそうになる狭い縦穴だったり、色々あったからな……」

「……一日にそれだけあれば慎重にもなるか」

「……そういう事だ」


 あまり警戒し過ぎてたら移動操作制御の意味も無くなってきてしまうんだけど、今日は何かと移動操作制御の使用には向いていない日のような気がする。まぁ今はみんなもいるし、攻撃に関しては任せておけば良いだろうって事で!


「それじゃ改めて出発だ!」

「「「「おー!」」」」


 移動の準備は万端。後は目的地まで進んでいくだけである! 多分方角は間違ってないと思うけど、あそこへの入り口がうまく見つかってくれよ。




 そして氷結草の群生地を目指して移動を始めてから、しばらく経った。ここまでは順調に進んできて、出てきた雑魚敵もサヤ達が排除している。この辺は既に誰かが来ているのか残滓が多めだな。

 その途中でまた纏氷の効果が切れて、5つ目の氷の小結晶の使用となっている。予めそれなりの個数を用意してきておいて正解だったようである。


「あ、ケイ、悪い。そろそろ空中遊泳が時間切れだ」

「ほいよ。んじゃ再発動までの間は俺の水のカーペットだけで進んでいくか」


 どうしても木からクジラのスキルを呼び出している関係で再使用時間が発生してしまうから、こればっかりは仕方ない。まぁそういう時は水のカーペットに完全に乗せるか、サヤがフォローするので問題ないけどね。

 それにしても今日は異常に落ちまくってるからな。今もなにか妙に嫌な予感もしてるし、今こそまた危険な状態のようなーー


「危機察知に反応あり! 真下だよ!」

「……何となくそんな気はしてたよ!」


 俺の妙な予感は大当たりだった。雪の中から飛び出てきた何かが攻撃を仕掛けて来たようである。くそ、完全に奇襲を防ぐってのは難しいのか。


 それにしても危なかった。移動操作制御にしてたら今ので解除になってたし、今はアルの空中浮遊も効果が切れている。そのまま雪の上に落下して、下手すれば雪崩を起こしたり、そうでなくてもせっかく登ってきたのに滑り落ちていくとこだった。

 この奇襲の犯人の惨殺は確定だけど、今は手が離せない。ここはみんなに任せよう。


「サヤ、ハーレさん、ヨッシさん、遠慮は要らないからぶっ倒してきてくれ!」

「あはは、ケイがちょっとご立腹かな?」

「みたいだねー!」

「まぁこれだけタイミングが悪い事が続くとね」

「いや、俺も攻撃出来るのを忘れんなよ? 『アースプリズン』! おっとっと……」


 あ、そういや普通にアルも攻撃出来るんだった。今動けないのはアルのクジラの位置を保たないといけないからだもんな。って、クジラの下側にいる敵を視認する為とはいえ木を傾けんな! バランスが崩れる!?

 

「アル! 空中浮遊なしでそんな事したら落ちるから、今は大人しくしててくれ!」

「……確かにそうだな。今のはスマン」

「それなら見えるようにすれば良いかな! ハーレ!」

「とう! いくよー!」


 その様子を見たサヤとハーレさんが一緒にアルの背から飛び降り、サヤは竜に乗り、ハーレさんはサヤの頭の上に乗っている。そしてアルのクジラの下へ移動していった。


「いくよ、ハーレ! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『強爪撃・風』!」

「了解さー! 『魔力集中』『アースクリエイト』『散弾投擲』!」


 そんな声が聞こえながら、クジラの下の見えない場所での戦闘が行われていった。特段強かったということもなく、呆気なく倒されて終わったみたいだけどね。特に報酬も何も無かったし、襲ってきたのはただの残滓の白いキツネだったらしい。




 そんなトラブルもありながら、目的地の付近だと思われる崖のある場所までようやく到着した。途中で出てきた敵には残滓が多かったけど、この辺は瘴気強化種は少なめなのかな?

 瘴気強化種の再出現の法則っていうのも知りたいとこではあるけど、この辺はまだ情報不足かな? 一定期間が経てば、残滓が瘴気強化種に変化すると予想しておこう。


 さてと残滓や瘴気強化種については今は良いとして、肝心の氷結草の群生地の外側からの入り口を見つけないとな。


「多分この辺だとは思うんだけど……」

「ちょっと飛んで確認してくるねー! 『上限発動指示:登録1』『共生指示:登録1』『共生指示:登録3』!」

「私も見てこようかな」

「それじゃ私も」

「三人とも任せた!」


 ハーレさんはクラゲの傘展開と生成した風を操作して飛んでいき、サヤは竜に乗り、ヨッシさんは普通に飛んでいって探し始めていた。ここは手分けをしていくのが正解だろうね。


「よし、アル! 俺らも探すぞ」

「おうよ!」


 そしてアルを水のカーペットで持ち上げるようにして、高度を上げて探していく。さーて、この辺なのは間違いないと思うんだけど、どこだろうな? あの場所から見た光景と同じ場所を探せばわかるはず。

 みんながお互いに目視出来る程度の距離を保ちつつ、周辺を捜索していく。うーん、崖、崖、崖で見つからないな……。


「お、ケイ!」

「見つけたか、アル!?」

「……まぁある意味な? ほれ、そこの左側の方」

「……確かに間違ってはいないけどさ……」


 アルが見つけたのは崖の足場になりそうな場所にちょこんと生えた氷結草が一本。まぁこれの群生地を探している訳で極端に間違っている訳でもない。でもこれは探している場所でもないけども……。


「せっかくだし、採集していくか」

「それもそうだな」


 ハズレではあったけども、これはこれで必要なものではあるだろう。とりあえず増産が可能なように崖を少しハサミで砕いて、根ごと確保である。


<『氷結草』を1個獲得しました>


 さて、次だ次! 氷結草の群生地の入り口はどこだー!


「あ、もしかしてここかな!?」

「あー! そっちなんだね!?」

「うん、確かにここだね」

「ケイ、あっちだぞ!」

「分かってる!」


 お、どうやらそれっぽい場所をサヤが見つけたようである。俺とアルがサヤから一番遠かったけど、ハーレさんとヨッシさんは既に駆けつけているようだ。

 アルも急かさなくても、サヤが見つけたっていう声は聞こえたから問題ないって。とりあえず俺らもその場所に急行だ!


 そしてサヤの飛んでいる場所に辿り着くと、そこには探していた群生地らしき場所が見える。ふむ、予め分かっていなければ外側からは雪や氷柱が邪魔をして見つけ辛いようにはなっていた。サヤも上手くこれを見つけてくれたもんだね。


「お、確かにここだな」

「……これ、俺は入れんのか?」

「小型化すれば大丈夫だって。水のカーペットを横につけるから、ここで小型化していけばいいだろ?」

「そうだな。そうするか」


<『名も無い雪山』から『名も無い雪山・氷結洞』に移動しました>


 別エリアになってたんだから当たり前ではあるけど、ここでエリア切り替えが発生してきた。結構見つけるのに手間取ったものの、とにかく無事に発見できたという事で良しとしよう。とりあえず時間内に目的地に到着!

 

 そしてアルは小型化すれば無事に氷結草の群生地には入れたし、サヤも問題なく入れていた。ふむ、ここに来る為にはクジラ級に大きければ小型は必須で、そうでなくても同行者に飛行手段を持つ人が必須っぽいね。


「おー、こりゃ直接見ると思った以上に衝撃があるな!」

「この景色は私も好きかな!」


 そして直接、この場を見る事になったアルとサヤもかなりテンションが上がっているようである。うんうん、俺もここはお気に入りになったからその気持ちは分かる。さて、カキ氷の試食会でも始めますか!

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