第393話 油断に注意


 咄嗟の判断で展開した水の防壁のお陰で、何度も雪の中から突き上げてくる白いモグラの攻撃は一切通じていないけど、この状態は俺も攻撃が出来ない。

 よし、次に雪の中に潜ったタイミングで魔法を解除して水のカーペットを生成しよう。地の利がモグラにあるから、この現状はあまり良くない。お、また雪の中に行ったな。よし、次の攻撃の直後に……今だ! 


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 50/59 → 50/57(上限値使用:3)


 即座に水の防壁を解除して、水のカーペットを展開してそっちに飛び移る! あ、やべ。モグラが雪の中を空洞にしまくったせいか、跳ねようとした瞬間に脚が埋まった上に雪が思いっきり崩れた!? 水のカーペットを……いや、それだと雪に衝突して解除になりかねない。それならこれでどうだ!


<行動値1と魔力値4消費して『風魔法Lv1:ウィンドクリエイト』を発動します> 行動値 49/57(上限値使用:3): 魔力値 167/194


 魔法砲撃で砲撃化して、部位指定は特に落ちかけている左のハサミの方で! 砲撃化した風魔法、発射! よし、少しだけ推進力を得てちょっと浮かぶのに成功っと。その隙間に水のカーペットを滑り込ませて、上空へと退避完了。

 うっわ、俺が居たところの雪が盛大に崩れていってる。……甘く見てるとこのモグラは割と危険か?


「あー、ビックリした」

「どうした、ケイ?」

「いやさ、モグラに足場の雪を削られてね」

「ケイも転げ落ちそうになったのかな!?」

「……サヤ、なんでちょっと嬉しそうなんだよ?」

「これでケイも転がり仲間だからかな!」


 なんだろう、この妙に嬉しそうなサヤの声。よっぽどさっき転がり落ちてしまったのが不覚だったのかな。うーん、転がり落ちるのは自力で回避出来たんだけど、ここは転がり落ちた事にしとくかな。


「ま、転げ落ちたけど、とりあえずは大丈夫だよ」

「……なんだか嘘っぽい気もするかな? ケイ、自力でどうにかしてない?」

「そこであっさり見抜くんかい!」

「ケイさん、嘘は良くないんだよ!?」

「気を遣っただけなのに、俺が悪者!?」


 なんだろう、この流れは猛烈に釈然としない……。俺はただ、サヤの嬉しそうな声を打ち消すのが忍びなくて話を少しだけ合わせただけなのに……。


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 49/57 → 49/59(上限値使用:1)


「あっ……」


 しまった! 会話に気を取られて、水のカーペットにモグラの一撃が直撃して強制解除になってしまった。……こうなったら転げ落ちるのを事実にする方が無難かな。それにこの方向はまだ行ってない場所だし。

 とりあえず丸まって、大人しく転がっていこう。まぁそんなに高い場所ではなかったし、向こう側が崖にでもなってない限り大丈夫……ってそんなに高くはないけど地味に崖だったー!?


<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 44/59(上限値使用:1): 魔力値 152/194


 流石に落下地点が雪とはいえ、落下ダメージは避けたい。えぇい、転がった勢いで回転してるから通常発動じゃ狙いがつけにく過ぎるから砲撃化してハサミから発射だ! よし、このタイミングでこの方向!


 ふー、危ない危ない。何とか着地地点に水の防壁をマット代わりに発動するのに成功した。防壁の魔法を砲撃化すると、撃つ時は普通の水球で着弾地点で防壁として展開されるんだね。ぶっつけ本番だったけど、これはナイス仕様! おかげで落下ダメージは防げた。


「ケイ! ケイ! 何があったのかな!?」

「油断し過ぎて、水のカーペットが解除になってガチで転げ落ちた……」

「……え、冗談だったのにそんな事になったの……?」

「あー、気にしなくていいぞ。敵が目の前にいるのに油断し過ぎた俺が悪いし」

「え、でも……」

「そういう事だから、ちょっと敵に集中させてくれ」

「……うん、分かったかな」


 ちょっと悪ふざけし過ぎた感じでしょんぼりしてそうなサヤだけど、そっちのフォローはとりあえず後だ。今サヤに言った通り、戦闘中なのに意識を散らし過ぎた俺自身の失策なのは間違いないからな。

 とはいえ、全く成果なしって訳でもない。ははっ、落ちた崖が洞窟の入り口だったとは不幸中の幸いってとこかな。そして一緒に落ちてきたモグラは絶対に仕留めてやるから覚悟しろ。



 改めて対峙するのは青白いモグラである。どうやら基本的に爪によるひっかきや刺突がメインだけど、遠距離攻撃も持っていそうだな。

 さっきは近接攻撃を受けないだけの距離は取っていたけど、それでも水のカーペットに攻撃が当たったのならこいつに遠距離攻撃はあるはず。ここは氷魔法が最有力候補か? 次点で投擲だけど、ここは識別で確認するほうが安全だな。


 おっと、攻撃はさせないぜ。って、砲撃化した防壁ってハサミの延長線上だけなら前後に動かせるのか。水だと衝撃を吸収するから微妙だけど、土とかで出来るようになればシールドバッシュ的に吹き飛ばし攻撃とか出来そうだね。

 まぁ今は出来ない事を考えても仕方ないので、とりあえずモグラの連続突きを凌いだら水の防壁は解除して、識別だ。……よし、今!


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 40/59(上限値使用:1)


『雪モグラ』Lv6

 種族:黒の瘴気強化種(刺突投擲種)

 進化階位:未成体・瘴気強化種

 属性:氷

 特性:刺突、投擲


 なるほど、投擲持ちの瘴気強化種か。この雪モグラは属性として氷は持ってるけど、刺突投擲種ってことはどちらかというと物理寄りっぽいね。となれば投げる弾も大体推測は出来るし、近付かせないようにした上で投擲される前に遠距離から仕留めるのが無難か。

 雪の上は歩ける事は歩けるけど、あんまり移動速度は良くないしね。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値2と魔力値8消費して『火魔法Lv2:ファイアボール』は並列発動の待機になります> 行動値 38/59(上限値使用:1): 魔力値 144/194

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値4と魔力値8消費して『火魔法Lv2:ファイアボール』は並列発動の待機になります> 行動値 34/59(上限値使用:1): 魔力値 136/194

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 俺の持ってる属性的には火魔法は相性は良くないんだけど、魔力が高ければなんとかなるだろ。左右のハサミにそれぞれ砲撃化して合計6連射で火弾を発射!


「げっ……。こいつ、意外と強い?」


 モグラの爪は氷化しているようで、氷が解けつつも俺の魔法砲撃を迎撃してきた。……ふむ、迎撃してきた際にダメージ自体は通ってはいるけど、ある程度は相殺されたのか思ったほどのダメージではない。

 これは初めに油断し過ぎたのは盛大な失敗だな。あそこまでで無駄に行動値を消費し過ぎた。ふむ、今日は昼間の日だし晴れだからあれを使うか。熱という意味ではこっちも有効だろうし、これならそれなりの時間は使用出来る。


<行動値を19消費して『光の操作Lv3』を発動します>  行動値 15/59(上限値使用:1)


 雪モグラに向けて太陽の光を収束させていく。敢えて収束させ過ぎずに広範囲を熱するような感じで、周囲の雪と一緒にモグラを温めていこう。おぉ、やっぱり氷属性は火でこそないけど熱に弱いみたいだな。おっと、範囲から逃げようったってそうはいかん!

 ふははははは! 雪モグラが雪の中に逃げようとするけど、光の操作で追いかけて逃しはしない! 劇的なダメージ量ではないけど、ジワジワと減っているからこのまま削りきってやる! 微妙なLvの火魔法よりこっちの方が地味に効果的だ!


「ケイ、増援に来たよ!」

「お、サヤは既にチャージ完了か! よし、それじゃ止めは任せた!」

「……あれ? ちょっとこの辺って雪が解け過ぎなんじゃ……?」

「それじゃ行くよ!」

「あー!? サヤ、待ったー!」

「え……?」


 残りHPが半分くらいになった時にみんながやってきてサヤが攻撃に移っていく。サヤの攻撃は多分、重硬爪撃かな? そしてハーレさんの静止は間に合わず、飛び降りてきたサヤが眩い銀光を纏う巨大な爪で雪モグラを斬りつけ、HPが全て無くなりポリゴンとなって砕け散っていった。

 勢い余ったのか、雪が解けて水浸しになっている地面に亀裂を入れる勢いで……。あ、こんな雪山の地形で雪を解かした状態で衝撃を与えたりなんかしたらマズいんじゃ……。


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


 そんな討伐称号と共に地響きが起こり始めていく。あー、やっぱりそうなった!? いや、前に冗談で考えてた事ではあるけどほんとにそうなっちゃうのー!?


「あはは……、これは雪崩が起きるかな……?」

「だから止めたのにー!?」

「まぁしゃーないって、ハーレさん」

「そうそう、よくある事かな」

「元凶二人が何言ってるの?」

「「あはは……」」


 そしてそんな話をしている間にも、俺達のいる場所からすぐ下の方の積もった雪が崩れ始めていく。……これはもう止められないね。巻き添えが出ない事を祈ろう。それにこれは多分だけど、また称号が増えるんだろうな……。


<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『雪山を荒らすモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>

<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『氷雪を扱うモノ』を取得しました>

<スキル『氷雪の操作』を取得しました>


<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『雪山を荒らすモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『氷雪を扱うモノ』を取得しました>

<スキル『氷雪の操作』を取得しました>


 雪崩が収まった後に、予想通りの称号とスキルが手に入っていた。まぁそうなりますよねー。あ、アルが慌てるようにやってきた。って、なんで雪崩が起きた方から……?


「……おいこら、またか」

「今回は俺だけじゃない!」

「……会話は聞こえてたから知ってる。サヤ、慌てたからってトドメを刺して雪崩を起こしてどうする?」

「……あはは?」


 思いっきり顔を背けているサヤだった。この様子だと、雪山を荒らすモノの判定は俺とサヤっぽいな。ふむ、氷雪の操作はほぼ間違いなく応用スキルだよなー。っていうか、これはヨッシさんこそが持っておくべきスキルな気もする。

 あ、でも昇華の方から狙っているんだから別にこの手段でなくても別に良いのか。むしろ俺は先に氷の操作を取っておくべきですよねー。


「……はぁ。まぁいつもの事だし、これがスキル習得の効率のいい手段だから文句を言う気はないが……」

「既に文句言ってない……?」

「……とりあえず最後まで聞け。俺は地響きが始まった段階で巻き込まれそうな人を助けに行ってたんだからな」

「「ご面倒をおかけしました……」」

「まぁそういう事だ。今回のは被害者は出てないから安心しとけ」

「アル、ありがとな」

「私からもありがとうと言わせて欲しいかな」

「おう、感謝してくれて構わんぞ」


 若干誇らしげなアルの様子に思うところが無いわけではないけども、巻き込まれそうな人を助けに行って被害者なしにしてくれたのはありがたい話である。ここは素直に感謝しておくとしてーー


「しっかりと、今回はコケとクマの2人組の仕業と念入りに言っておいたからな!」

「そこを念入りに伝えるのかな!?」

「その情報は要らなくない!?」

「いや、それは重要だよね。PTとして『ビックリ情報箱』って呼ばれてるみたいだし」

「そうともさー! 実態は正しく伝えないとねー!」


 くっ、今回の件は実際に実行したのは間違いないから否定が出来ない! 実態としてはアルとヨッシさんとハーレさんだって俺とサヤの事は言えない筈なのに……。

 いや、待てよ。俺だけがそう呼ばれる事も多いから、今回はサヤを当事者として巻き込む事には成功しているのか。うん、そう考えてみればアルの行動にも多少は納得出来る。


「ま、やったのは事実だし仕方ないか。な、サヤ!」

「……巻き込めるようになって喜んでないかな?」

「いやー、そんな事はないぞ……?」

「……はぁ、元はといえば私が悪ふざけで似たような事を言ったのが原因かな……」


 まぁ俺の気が逸れたのは、確かにその通りではある。そういう事だから、サヤも一蓮托生って事で! ……どっかでアルとヨッシさんとハーレさんも反論の余地なく『ビックリ情報箱』の一員に巻き込んでやろう。

 まぁ、その辺は後々考えるとして今は目的地が見つかっている事を喜ぼうじゃないか。


「話は変わるんだけど、みんなあっちを見てみてくれ」

「「「「あっち……?」」」」


 俺がハサミで指し示した先にあるのは、探していた洞窟の入り口だ。もっと奥の方にあるかと思ってたけど意外とエリア切り替えに近い場所にあったもんだね。


「なんだ、ここにも入り口があったのか」

「え、アルさんの方にもあったのー!?」

「私達の方にもあったかな」

「1ヶ所だけじゃないみたいだね」

「あれ? みんなも見つけてたのか!?」


 どうやら俺だけが見つけた成果という訳ではなかったようである。……うーむ、洞窟が複数あるとは聞いてなかったから、この展開は予想外だったよ。

 

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