第391話 遠隔同調の使い方


 とりあえず成熟体のクジラについてはまとめ機能への報告はしておいたけど、軽く情報提供欄を見てみれば同様の報告が多数上がっていた。まだこの情報のまとめは出来ていないようだし、これはちょっと最新情報を確認しておいた方がいい?

 時刻としては9時は過ぎているくらいだけど、少しくらいなら情報共有板で情報収集しても大丈夫か……?


「ケイさん、多分だけどエリア切り替えの目の前に来たよー!」

「ほいよ」


 お、そんな事を考えてる内にとうとう雪山に到着か。目前に迫った雪山は遠目からでは分かりにくかったけど、比較的緩やかな傾斜で木が全然なくて雪と雪に隠れた岩場ばっかりのようである。もうちょっと雪景色の中に木々とかあるかと思ったけどこの辺は違うっぽい。

 ここら辺の雪山は常に雪が解けない感じかな? これは、山の反対側がどうなっているかも気になる。これはこれで良い景色だけど、雪に包まれた針葉樹の森とかいうのも見てみたいところだね。


「むー! 思ったより険しめの雪山だー!」

「ん? ハーレさんはどんなのを期待してたんだ?」

「アルさん、私はこう、スキー場っぽいやつを期待してたのさ!」

「あ、なるほどな」

「折角クラゲをソリ代わりにして滑ろうと思ってたのに、ここは無理そうだー!」

「……確かにここは大惨事になりそうかな?」


 ハーレさんは軽いし、最悪飛べるからどうとでもなるとは思うけど、あまり滑るには向いてない感じではある。なんというかそれほど無茶苦茶高い場所ではない筈だけど……いや待てよ。傾斜自体はそれ程ではなかったけど、ずっと上りではあった気がする。

 思った以上に高度があるんじゃないか、今の場所って。ちょっと振り返って見てみようっと。


「うおっ!? 結構高いな、ここ!?」

「まぁ植生を見れば確実に森林限界を超えてる高度だな。ゲームだから現実のそのままの高さ通りとも限らんが……」

「森林限界って森林を形成できなくなる高度だったっけ。まぁ現実の地形通りにしたら距離が離れ過ぎるから多少の簡略化はあるよね」

「それにしてもこれは見事な景色かな」

「そうだよねー! そこで提案です!」

「ハーレさん、どんな提案だ?」

「記念のスクショを撮ろうよー! そして頂上まで行ってもう一回!」


 ふむふむ、ここから見えるのは遠くには赤の群集の森林を越えた平原エリアから始まり、広い森林を経て、高原へときて、徐々に高くなっていく様子が見て取れる。アルが飛んでいて、みんながそこに乗っているので角度を考えればこの風景をバックに記念のスクショを撮るのは出来なくもないか。


「でもそれだと1人だけ写れなくならないかな?」

「あぅ!? そういえばそうだった!?」


 まぁ誰かの視界を使ってスクショを撮る以上は、誰かが写らないっていう事にもなる。でも俺にはそれを解決する手段がある! まぁまともにスクショを撮った事がないから、構図とかは適当にはなるけども……。


「ハーレさん、俺に任せとけ。まぁ下手なスクショになるかもしれんけど」

「えー!? でもみんなが写らないなら、無理にする気はないよ!?」

「大丈夫、遠隔同調を使って撮るから」

「あー! その手があったね!?」

「そういう事。って事で、みんなアルの上に整列ー!」

「「「「おー!」」」」


 ふふふ、何だか戦闘にはまだまだ使えてない遠隔同調だけど、地味にこういうところで役に立つね。さてと準備していこうかな。


<行動値上限を15使用して『遠隔同調Lv1』を発動します>  行動値 60/60 → 45/45(上限値使用:15):効果時間 5分


 よし、これでコケの分離が可能になった。流石に周囲にはコケは……多くはないし雪に埋もれてたりはするけど無くもないな。生命力が凄いな、コケって。……まぁ今回は自前で用意しよう。熟練度稼ぎは重要だしね!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 44/45(上限値使用:15): 魔力値 191/194

<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 40/45(上限値使用:15)


 生成した小石に増殖させたコケを付着させていく。まぁ今の時点では不要ではあるけど、おまけでロブスターの背中にもコケがびっちりと生えている。過剰に増殖させて付着させる方が楽なんだよな。そして既にこの増殖のコケは群体の一部なので、必要なのはこっちのスキルだ。


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 39/45(上限値使用:15)

<『遠隔同調』の効果により、視界を分割表示します>


 距離は必要ないのでLv1でいい。よし、これでコケの核の移動と視界の分割は完了。メインの視界はコケ側になってるけど、ちょっとやりにくいのでロブスターの視界をメインに切り替えてっと。


<行動値を3消費して『土の操作Lv5』を発動します>  行動値 36/45(上限値使用:15)


 よし、これで分離したコケによる遠隔視界の確保に成功。……何気なくスクショを撮るためにやったけど、これって地味に偵察とかに使えるのでは……? うん、これは有用そうではあるけど他の人が使える可能性も考慮して気をつけておこう。まぁ時間制限は長くもないから、そこまで万能とも言えないかな。

 さてとコケの方に視界を戻して、コケ付き小石で浮かび上がっていこう。これなら俺のキャラもしっかり写ったスクショが取れる!


「よし、準備完了!」

「……なんだか盛大に無駄遣いをしてる気がするのは気のせいか……?」

「そうでもないぞ。これ、何かの機会で慣らさないとまだ実戦じゃ使いにく過ぎるしな」

「初使用でガストさん相手にあれだけやっててその心配って必要なのか……?」

「アルさんに同感です!」

「あはは、私も同感かな?」

「ごめん、私もだね」

「ふふふ、みんな甘いな! 今の発動で俺は新たな可能性を発見した!」

「……偵察かな?」

「あっさり見抜かれたー!?」

「まぁそりゃね? でも確かにそれは有効かな」


 勿体ぶって言おうと思ってたら、呆気なくサヤに気付かれたよ。まぁ実用性については間違いなくある。何よりもコケは群体数の全てが仕留められない限り、核が殺られても問題ないからな。これは間違いなくコケの強みである。


「ま、それは良いとしてスクショ撮るぞー!」

「「「「おー!」」」」


 それからアルの木を少しクジラの頭部の方に寄せて、その木に寄りかかるサヤと、サヤの肩にいるヨッシさん、巣にいるハーレさん、頭部に俺のロブスターという状態でスクショを何枚か撮っていった。

 いやー、アルのクジラの全体像を写しつつ、みんなもちゃんと写って、なおかつ広大な森林や高原を背景に入れるというのは案外難しかった。とりあえずみんなでスクショを共有して、確認中である。


「あ、これ、良いんじゃないかな?」

「駄目なのが多いけど、これは良いねー!」

「ハーレさん、駄目なのが多いってのは一言余計だ!」


 駄目なのが多いのは自覚はあるけど、俺は俺なりに頑張って撮ったんだ。ダメ出しされる筋合いはない! サファリ系プレイヤーみたいにスクショを撮りまくる訳じゃないから、上手いスクショの撮り方とか分かんないからな!

 でも、サヤが良いと言ってくれたのは奇跡の一枚だね。よし、これをみんなで共有してしまえばいいか。


「ハーレさん、これって承諾申請はどうやんの?」

「みんなで持ってるだけなら必要ないけど、私は外部出力したいしね! えっとね、この状態からなら……右下の方に承諾申請ってあるよね!?」

「あー、あった。これを選べば良いんだな?」

「うん、そだよー! 枚数やる時はログイン場面の一覧で選択した方が楽なんだけどね! これは私達だけだから、みんなが承諾すれば外部出力も可能なのさー!」

「ほいよ。承諾申請したから、後でみんなよろしく」

「おう、折角だしな」

「うん、分かったかな」

「了解」

「それじゃ、今度こそ雪山に向けて出発だー!」

「「「「おー!」」」」


 あ、自然とハーレさんの号令になってたけど流れ的には普通だったし別にいいか。割り込んできた感じでもないし、そろそろ寄り道も終えて雪山に向かわないとね。

 そういやさっきのクジラの件に関して情報共有板で情報確認をしたかったとこでもあるけど、それはもうちょっと後でもいいかな。具体的には氷柱とか冷凍アイテムの作成とか氷結草を確保してからで。


 でもその前にもう不要なものは解除しておこうっと。遠隔同調に特訓は必要だけども、今は本格的にやってる場合でもないし……。


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 44/45(上限値使用:15)

<『遠隔同調』の効果による視界を分割表示を終了します>

<『遠隔同調Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 44/45 → 44/60


 とりあえず役目は終えたのでロブスターの背中にコケを戻して、遠隔同調も切っておく。行動値の上限値の使用量が地味に多いから、不要になったら解除しておかないとね。

 行動値の回復にも関わってくるからこの辺は気をつけよう。そういやスクショ撮ってる間に地味に行動値が回復してたね。


 さて、それじゃ本格的に雪山に進出だな。という事で、夕方に準備したあれを使っていこう!


「さてとヨッシさん以外は纏氷を使っていくか!」

「「「おー!」」」

「私は、みんなが進化が終わるまで待機だね」

「ちょっと待っててくれな、ヨッシさん」

「うん、待ってるね」


 ここから先は完全に氷雪のエリアだ。寒さを感じる事はないけど事前準備が無ければ凍死するだけだという事だし、しっかり対応していかないとね。


「「「『纏属進化・纏氷』!」」」


<『進化の軌跡・氷の小結晶』を使用して、纏属進化を行います>


 コケとロブスターのどっちを進化させるかの選択肢があったので、今回はロブスターを選択しておこう。そして青白い球状の膜に覆われていく。そしてみんなも同様に膜に覆われていった。


<『同調打撃ロブスター』から『同調打撃ロブスター・纏氷』へと纏属進化しました>

<『氷化Lv2』『氷の操作Lv2』『氷魔法Lv2』が一時スキルとして付与されます>


 そして膜が砕け散ると同時に進化が完了した。ほうほう、ハサミが青白くなって表面が薄っすらと凍って冷気を発しているね。うん、地味にこの演出は好きかもしれない。さて、みんなは……。


「あれ? みんなは両方とも纏属進化してるの?」

「……逆に聞きたいんだか、ケイだけなんで片方だけなんだよ?」

「……進化の種類が違うから?」


 そういや俺も支配進化になる前の共生進化の時はどっちも纏属進化をしてた気がする。ぶー、共生進化だけ両方とかズルいぞー!


 みんなの様子は青白くなって俺と同様に薄っすらと表面が凍っている木とクジラのアルと、体毛が氷のようになって全身青白いクマと氷の青白さと電気を纏った竜のサヤと、凍った帽子を被ったような青白いリスのハーレさんとなっている。

 ふむ、何だか氷属性って寒々しい印象はあるけどもどことなく神秘的で格好いいよね。特にサヤの竜が雷と氷の二属性になっているのがいい感じである。


「そっかー、支配進化や同調化じゃ普通の進化の軌跡だと片方だけなんだな。纏浄と纏瘴が特別だっただけかー」

「色々共通化してるからじゃねぇの?」

「……それもそうだな」


 よく考えてみれば、どっちも自由に使える支配進化や同調化としては何の意味もない気はする。……いや、同調化だと同調共有でのスキル登録は出来てないからロブスターで纏属進化をしてしまうとコケから呼び出せないんじゃ……? これって地味に重要な事だし、確認しておこうか。


<行動値1と魔力値5消費して『氷魔法Lv1:アイスクリエイト』を発動します> 行動値 43/60 : 魔力値 189/194


 あ、問題なく発動した。なるほど、一時付与スキルに関しては同調共有でのスキル登録の制限はかからないんだな。これはありがたい仕様である。


「ケイ、どうしていきなり氷魔法を使ってるのかな?」

「あ、すまん。ちょっと疑問があったから、試してた」

「試すのは良いけど、それは先に言ってほしいかな!?」

「それについてはすみませんでしたー!」

「やっぱりケイさんって、妙なところで抜けてるよね」

「それでこそケイさんさー!」

「ま、確かにそりゃそうだ」


 ぐぬっ!? 確かに試す前に言っておくべきだったから、反論の余地がない!? よし、ここは勢いで誤魔化すまで!


「色々やる時間も少なくなるし、急ごうぜ!」

「あ、誤魔化したかな!?」

「サヤもストップ。明らかに誤魔化そうとしてるけど時間が無くなるのも間違ってはいないからね」

「ま、そうだな。もう9時半にはなりそうだし、普段終わらせる11時……少し遅くしても11時半くらいか? あと2時間くらいだからな」

「そだねー! 頼まれ事もあるから、それを最優先ー! 遊べそうな場所かどうかについては今回は下調べさー!」

「うっ、確かにそうかな」


 ほっ、とりあえず話は誤魔化せたというか誤魔化されてもらった。まぁそれほど時間の猶予がないのは間違いないんだよね。

 うーん、早くイベント報酬の転移の種が欲しいね。どうしてもこういう時間が足りないという事態が起こる可能性があるからこそのアイテムっぽいし、あれがあればもっと色々楽にはなるんだろう。まぁ、まだ手に入らないアイテムを熱望しても仕方ないので今日は行ける範囲で行くまでだ。


「それじゃ準備も完了したし、雪山に突入だ!」

「「「「おー!」」」」


 さてと目的のものをササッと見つけてしまわないとね。まずは最優先の氷柱がある洞窟を探していくぞー! 今日は情報共有板を覗く時間は無さそうだけど、それは仕方ない。目の前の事が優先だ!

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