第389話 ハイルング高原を通って
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ハイルング高原』に移動しました>
ちょっと予定外の事はあったけども、森林深部の木々が減っていく中を移動していくとエリア切り替えになった。切り替えたばかりの位置だからそれ程はっきりとは見えないけど、ボス戦をしてるっぽい集団が見えるね。
戦っている相手は、角の生えたデカい牛か……? そういやここのボスは葉っぱっぽい擬態の蝶の方しか見てないんだった。へぇ、ここの群集支援種って牛だったんだな。
「お、ボス戦やってんな」
「牛……牛肉……一般生物の牛はどこー!?」
「はいはい、ハーレ。それはその内探そうね」
「はーい! それじゃ牛探し開始だねー! 高原なら牛はいるはずさー!」
「雪山に行くのはどうなったのかな!?」
「もちろん行くよー! でも途中で探すのはいいよね!?」
「あ、それなら別にいいかな?」
「ハーレさん、脱線し過ぎない程度にな」
「はーい!」
ハーレさんの様子が変わったと何度も思ったけど、食べる物に関してはほんと変わらないな。まぁこれでこそハーレさんって感じはするけどね。
それにしても地味に牛はまだ見た事が無かったっけ。ふむ、そんなに多くはないけど塩は手に入ったんだし、牛肉のステーキというのもありかもしれない。そういや何度かあったバーベキューの時に普通に牛肉もあったような気はするから、一般生物の牛はどこかに普通にいるんだろうな。
「ま、あんまりゆっくりし過ぎると肝心な雪山での行動時間が減るからな。飛ばし気味でなくても良いが、基本的に立ち止まらずに行くぞ」
「アルの言う通りだな。今が8時半だし、9時過ぎには雪山には辿り着いときたいし」
「そだねー! それじゃ特訓は控えめにして、アルさんに乗って移動だー!」
「それが良さそうかな? ごめん、それならクマに切り替えてきていい?」
「あー! それなら私もリスに変えてくるー!」
「まぁ初めて行く場所だし、慣れてるキャラの方がいいか。2人とも早めによろしく」
「うん、分かったかな」
「はーい!」
サヤとハーレさんは慣れているクマとリスでログインし直す為に一度ログアウトしていった。今いるハイルング高原は何度か軽く来たことはあるし敵はそれほど強くないはずだけど、その先の雪山は未知数だしな。
根本的に雪山があるって事と、頼まれた氷柱と氷結草の存在と洞窟があるって事くらいしか事前情報はない。まぁ調べ過ぎても色々と見て回る楽しみが減っちゃうからね。エリア的な情報の仕入れは少なめだ。スキルの強化や取得に関してはそれなりに調べてるけども。
それにしても瘴気が無くなった高原は実に爽やかなものだね。今日はゲーム内は昼間だし、快晴だし、ピクニック気分で進むには良い条件が整っているもんだ。やっぱり瘴気で不穏な空気が漂っているよりは、こういう雰囲気の方がいいね。
周囲を眺めながらそんな事を考えているとサヤとハーレさんが戻ってきた。
「戻ったよ」
「たっだいまー!」
「2人ともおかえり」
「おう、おかえり! んじゃアルに乗っていくか」
「ま、高原なら特に遮蔽物もないからな。で、クジラは大きいのと小さいのとどっちがいい?」
あ、そうか。ここは全然遮蔽物がないから、俺の水のカーペットが無くてもアルが充分に動ける場所なんだよな。それなら、大きなクジラの方が乗りやすいしそっちがいいか。
「アル、大きい方ってか元の大きさで頼む」
「おう。それじゃ小型化と根脚移動は解除だな」
みんなも特に異論はないようで、アルは小型化と根脚移動を解除していく。元の大きさに戻っていくクジラと、その背中に移動していく木という光景も見慣れたものである。今更といえば今更だけど、クジラと木の共生進化ってファンタジー感が溢れているよね。
「それじゃアルさんに乗って、高原の大横断だー!」
「ハーレ、雪山はここから南だからこの場合は横断じゃなくて縦断ね」
「あぅ!? 間違えた!?」
「ま、やる事は変わんないけどな。ほれほれ、みんな急いで乗れー」
「はーい!」
「アルさん、よろしくお願いね」
「アル、いつも移動をありがとうかな」
「そういうのは良いってことよ。何だかんだで俺もこの状況は楽しんでるしな」
いつも何だかんだで移動に関してはアルに任せる事が多いからね。サヤみたいに面と向かって言う気は起きないけど、心の中で感謝しておこう。いつも助かってるぜ、アル! さてみんな乗り終わったみたいだし、出発しますかね。
「それじゃ、ハイルング高原を大縦断して、雪山に向けて出発!」
「「「「おー!」」」」
そうして雪山に向けてアルの空飛ぶクジラは空中を泳ぎ始めていった。まぁまだ高度は2メートルくらいなんだけどね。
出発してしばらく経った頃に、ある意味では目的のものを発見した。まぁさっきハーレさんが言ってた牛が5匹ほどなんだけど。緑のカーソルだから一般生物の牛だけど、黒っぽくて角がある。これ、牛の一種なんだろうけど、なんて種類だ?
「おーい、ハーレさん。あっちに一般生物の牛がいるぞ」
「ケイさん、グッジョブです! アルさん、これって何ー!?」
「それは確か……ヤクか? 確か高地に住む牛の一種だったはずだな」
「そうなんだー! 牛には違いないって事だから食べる為に仕留めるぞー! でも位置がバラバラだー!?」
「ん? 普通に狙撃していけば良いんじゃないか?」
「ふっふっふ、ケイさんには言い忘れていたけど新技があるんだよ! でも狙いにくいかなーってね?」
「あ、ハーレ。あれを使うのかな?」
「そうだよー!」
ふむ、俺が聞いていないだけで何かハーレさんは新技があるんだな。多分というかほぼ確実に過剰攻撃だし、普通の狙撃を繰り返せば未成体の今なら殆ど逃す事はないはずなんだけど、その新技はちょっと見ておきたいかな。
「……よく分からんけど、固めりゃいいのか?」
「え、どうにか出来るの!? だったら一直線にお願いします!」
「ほいよ。アル、ヨッシさん、拘束魔法を手動操作でやるぞ。一気に距離を詰めて3匹は確実に仕留める」
「なるほど、そう来たか」
「了解!」
「サヤは逃げたやつを仕留めてくれ」
「うん、分かったかな」
サヤはいつでも駆け出して行けるように、身構え始めていた。まだ牛たちは俺達には気付いていないけど、これって近付き過ぎると逃げられる? そしてハーレさんの新技は一直線に固める必要があるって事は、もしかしてあれか……?
まぁいいや。それはこれから実物を見れば分かる事だしね。
「アル、突撃!」
「おうよ!」
アルは強化用のスキルは何も使っていないけど、それなりの速度で距離の離れた牛の群れへと距離を詰めていく。よし、逃げ出したけど逃がすものか! ふふふ、一般生物が未成体から逃げられると思うなよ!
「アルは左端、ヨッシさんは右端、俺は真ん中で行く。サヤ、突撃!」
「おうよ。『並列制御』『根の操作』『コイルルート』!」
「了解! 『並列制御』『氷の操作』『アイスプリズン』!」
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を3消費して『土の操作Lv5』は並列発動の待機になります> 行動値 57/60
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値6と魔力値9消費して『土魔法Lv3:アースプリズン』を発動します> 行動値 51/60 : 魔力値 185/194
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
アクアプリズンでも良いんだけど、今は土の操作の強化中なので土魔法で行こう。でも拘束魔法は拘束がメインだけど、全くダメージがない訳じゃないんだよな。まぁ微々たるものなんだけど、一般生物が相手ではどうか怪しいとこはある。
とりあえず、即死はさせずに牛の捕獲は成功。とはいえ、HP減っていってるなー。あ、素早く動いたサヤが残りの2匹をあっさり仕留めたね。サヤの物理攻撃だとスキルすら必要ないか。
「それじゃいくよー! 『貫通狙撃』!」
「やっぱりそれか! アル、ヨッシさん!」
「おうよ!」
「うん、並べればいいんだね」
操作の支配下にしたので、拘束した後にも移動する事は可能だ。という事で、手分けをして3匹の牛を一直線に並べていく。もうHPが8割くらい無くなってるし、正直応用スキルの貫通狙撃を使う意味は全くない気もするけど……。
うん、チャージは全然進んでないからハーレさんの手が纏っている銀光はまだ弱々しいけど、ぶっちゃけチャージ要らないよね。というか応用スキルすら要らないけど、もう発動してるのでもったいないか。
「ハーレさん、拘束魔法で死にそうだからもう投げとけ」
「うー!? 弱過ぎるよ、一般生物ー!?」
ハーレさんがそんな風に言いながらも投げ放った弱い銀光を纏う弾は、俺達が一直線に並べた3体の牛を貫通して仕留めていった。
<『牛の肉』を3個獲得しました>
よし、牛肉の確保完了っと。この辺の一般生物の狩りはサヤとハーレさんが合間で良くやってるから久々にやった気分だ。
それにしても明らかにスキルの無駄遣いが酷い。どう考えても一般生物相手に応用スキルの貫通狙撃は必要無かっただろう。あといつの間に取得したんだ……?
「ハーレさん、貫通狙撃っていつの間に?」
「えっとね、凝縮破壊Ⅰを手に入れた時! 多分だけど、条件を満たした時に取得になる応用スキルを既に持ってたら同系統の別枠の応用スキルが手に入るみたい!」
「あー、あの時か」
受けるべきではなかったおかずを賭けた勝負をしてしまった時の話だな。そっか、あの時にハーレさんは貫通狙撃も取得になってたのか。ハーレさんは爆散投擲を既にポイント取得してたから、同じチャージ系の貫通狙撃が取得になったんだな。
ふむ、同じ系統の別の応用スキルがあればそっちが手に入るというのも良い話だね。俺も凝縮破壊を手に入れれば、他の打撃系の応用スキルが手に入る可能性があるんだな。確か他にも同じ系統のはあったはずだしね。
「そういや、サヤも連撃系で他の応用スキルも何か取れるんじゃないか?」
「あ、うん。それは取れそうなのはあるかな」
「取らないのか?」
「うーん、必要になってからでも良いかなって思ってるよ。今はそこまで必要性は感じないし……」
「サヤ、そういうのは余裕があるうちに取っておいた方がいいよ? チャージ系ならどうしても時間がかかるけど、連撃系はそうでもないんだしね」
「……そうかな? 私はいまいちその状況が思いつかないんだけど……」
あ、これはあれか。サヤの近接でのプレイヤースキルは非常に高いから、連撃系の応用スキルの連発って状況があまり想定出来ないせいか! チャージ系なら俺の水流とかで連続攻撃に出来るけど、連撃系はそうでもないもんな。
サヤのプレイヤースキルでそれが必要になる状況となると、応用スキルの威力が必要な上に連撃を与え続ける必要がある場合か。……敵に囲まれて薙ぎ払い続ける必要がある状況くらいしか思いつかないぞ。でももしそうなった場合には……。
「サヤ、悪い事は言わないから取っとけ。多分だけどもし必要になった場合は、それを取ってる余裕はない」
「え、ケイ。それってどういう事かな?」
「多分だけど必要になる時は、複数の強敵に囲まれた時だと思う。俺の昇華魔法で殲滅する必要がある状況だろうけど、防がれたり魔力値が足りない可能性もあるからな」
「あ、そっか。そういう状況もあり得るんだ」
「あんまりその状況には遭遇したくないね!」
「……下手すりゃ壊滅一歩手前の絶体絶命な状況じゃねぇか、それ?」
「でも切り抜ける可能性を増やす意味ではありだと思うよ」
アルの言う通りほぼ負けが確定するような状況だとは思うけど、ヨッシさんの言うように逆転の可能性を掴む切り札になる可能性もある。
まぁそんな状況に陥りたくないというのはハーレさんに同意ではあるけど、格上の敵が群れで出てくれば無いとは言えないもんな。
「それなら取っておこうかな」
「おう、そうしてくれるとありがたい」
よし、サヤがその気になってくれたっぽい。まぁポイントには余裕はあるだろうし、切り札は多くて困る事はない。これでサヤの連撃の手札が増えた訳だ。
「うん、新しいのは取れたかな」
「ちなみになんてスキルー!?」
「何度か見た事がある『連閃』だよ。これは今までの『爪刃双閃舞』よりは連撃数が少ないかな。他にも一応あったけど、今回はとりあえずこれにしておくね」
「あー、あれか。他にもあるにはあるんだな」
「うん、でも取り始めるときりがないからね」
「そりゃそうだ」
とりあえずこれでサヤが少し強化された。まぁそれ程頻繁に使う事はないだろうけど、安全策ってことでね。
あ、でも素早く戦闘を終わらせたい時とかには良いのか。まぁその辺の利用は臨機応変に行こう。
「とりあえずそろそろ移動再開するぞ」
「牛肉も手に入ったしね! さー、今度こそ雪山だー!」
「地味にこの肉の部位って謎なんだよね……? どこの肉なんだろ?」
「ヨッシ、細か過ぎてもゲームとしては複雑になり過ぎるかな」
「まぁそれはそうなんだけどね。ま、いっか」
どこの部位の肉なのかまで考え始めると確かに面倒だよね。まぁその手の料理に拘ってるのはゲーム以外のVR料理教室とかVR試食展とかのサービスでがっつりやってるもんな。VR空間では満腹感が出ないように調整されているらしいけど、あれはあれで人気だしね。
まぁそんな話は良いとして、あんまり寄り道ばっかりしないで雪山へ進んでいこう! まだ雪山まで半分くらいしか進んでないしね。
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