第386話 新機能のお知らせ


 いつものいったんの場所にやってきた。いつものように胴体部分を見てみれば『腹減った……』とだけ書いてある。うん、たまにある割とどうでも良い内容だな。


「晩御飯かな〜?」

「おう、そうなるな。今は特にお知らせはないっぽい?」

「そうだね〜。それじゃスクリーンショットの承諾をお願いします〜」

「ほいよっと」

「そっか。それじゃよろしくお願いします〜」

「おうよ!」


 いったんからスクショの一覧を受け取り、手早く処理をしていく。そんな件数は来ていなかったのですぐに済んだけどね。


「んじゃ、飯食ってくるわ」

「はいはい〜。いってらっしゃい〜」


 そうしていったんに見送られながらログアウトしていった。



 ◇ ◇ ◇



 ログアウトして現実へと戻ってきた。あれ、今日は晴香は勝手に入ってきてはいないんだな? まぁ、勝手に入ってきてない分については問題ないか。とりあえず、一階に降りて晩飯だな。さて今日の晩飯はなんだろなー?


「兄貴ー! あれ、いない!?」

「晴香、思いっきり扉を叩き開けるな! 下まで響いてるだろ!」

「あ、下にいたー!?」


 自分の部屋から出てきて、俺の部屋に即座に移動していた様子だけどそこには俺は既にいない。


「晴ちゃん、静かにねー!」

「あぅ!? お母さん、ごめんなさい!」


 ま、今のは流石に怒られても仕方ないな。その辺の話し合いについては晩飯を食べた後にみんなが勢揃いしてからでも別にいいんだろうけどね。


 そんな騒動もありつつ、今日の晩飯も食べ終わり食器洗いを済ませていく。ちなみ今日の晩飯はオムレツであった。少し余り気味になっていた卵の始末だそうである。


「兄貴、先に行ってるねー!」

「おう!」


 そうして先に晴香はゲームをしに自室に戻っていった。まぁこれはいつもの事だな。その様子を見た後に母さんが近づいて来て、声を潜めながら話しかけてきた。……弥生さんによって見抜かれた晴香の件かな?


「ねぇ、圭ちゃん。晴ちゃんって思った以上に無理してたのね……?」

「あー、それは俺も気付かなかったよ……」

「でも晴ちゃんが自分から打ち明けてくれて、嬉しかったわよ」

「そっか。……そういや、晴香って引越し先の方に遊びに行く計画してるらしいよ?」

「え、そうなの? 晴ちゃん、自力で何とかする気なのかしら?」

「それは分からないけど、結構本気っぽいな」

「……そう。晴ちゃんがもし頼ってきたら、どうにかしてあげないとね」


 晴香は母さんにはまだ言ってなかったのか。今回は理由が理由だから、母さんが旅費くらい出してくれるという事はありそうだけど、今のところ晴香はそれに頼る気はないらしい。


「ん? それって晴香の幼馴染の子の事か」

「あ、父さん。まぁ、そういう事になるかな」

「……ふむ、時期にもよるがいっそ有給を取って家族旅行でそっちに行ってみるか?」

「あら、それも良いわね。雫ちゃんのお母さんとは私も会いたいわよ」

「え、マジで?」


 これはちょっと意外な展開になってきた。父さんはなんだかんだで仕事は忙しそうだけど、有給をまともに取らせてもらえないという事は今まで特になかった。母さんの方も同じだな。

 だから実行しようと思えば確かに可能ではあるね。それに母さんもヨッシさんのお母さんとは面識はあるようだし、ありといえばありなのか? まぁ晴香次第ではあるんだろうけども。


「まぁ晴香次第だがな。圭吾、それとなく伝えてみてくれるか?」

「ほいよ」


 ヨッシさん側の都合もあるだろうし、サヤにも聞いておく必要はあるか。ま、晴香がどう言うか次第ではあるかな。今回の件については自力で何とかしたいっていう意思も感じられるので、断ってくる可能性も充分ありそう。


 そんな会話をしつつ、食器の片付けも終了。さてとゲームの続きをやっていきますか。



 ◇ ◇ ◇



 そして再びログイン場面にやってきた。特に変化ないだろう思ってたけど、いったんの胴体部分を見てみると『新しいお知らせがあります。詳細はいったんか、公式サイトまで』とあった。

 ほうほう、何か新情報があるのか。公式サイトで確認してもいいけど、ここはいったんから聞いておくか。


「いったん、新しいお知らせってなんだ?」

「要望のあった機能の最終調整がほぼ終わったので、次の木曜日の定期メンテナンスの時に新機能が追加されます〜!」

「おぉ!? マジか!」


 次のメンテナンス終了後って事は、共闘イベントの終了後と同じタイミングでアップデートが入るって事だな。そして要望があってその最終調整が終わったという事は、あれが遂に実装か! 待望のギルド的な機能!


「ずばり、追加される機能はーー」

「ギルド的な機能の実装で合ってるか!?」

「食い気味に来たね〜。まぁその通りなんだけどね〜」

「よっしゃ! 詳細仕様は!?」

「まぁまぁ、慌てないでね〜。順番に説明していくから、落ち着いて〜」

「あ、悪い……」


 でもこれは既にみんなと作る事は決めてるから、思わずテンションが上がっても仕方ないとは思うんだよね。詳細仕様の説明を早く! 結成に必要な最低人数と、結成条件を特に!


「えっと、まずはこのゲームでの機能としての名前ね。他のゲームならギルドとかクランとかが多いけど、ここでは『共同体』という単位になるよ〜。機能としての名前は『登録制の群集内共同体』だね〜」

「へぇ、『共同体』か」


 共同体ってコミュニティとかと同じ意味か。同じ目的を持って集まる集団とかって意味だったはず。コミュニティでも良さそうな気はするけど、群集を基準にして日本語にしたって感じかな。


「結成条件は同じ群集に所属している事と、群集の移籍をした人は新入り期間が終了している事だね〜」

「ほうほう、流石に移籍組が即座に所属したりは出来ないんだな。結成方法は?」

「流石に移籍に関してはね〜。結成方法は条件を満たすメンバーが3人以上でPTを組んで、その状態で群集拠点種に申請を出せばいいよ〜」

「なるほど、そうなるのか」

「『共同体』のリーダーは申請時のPTのリーダーになるからね〜。共同体名も公序良俗に反しない限りは自由に決めれるようになってます〜」

「そりゃ名前は決めたいもんな」


 とりあえず聞いている限りでは、実装されたらすぐにでも作れそうではある。結成の為のクエストとかは特になくて、群集拠点種に申請を出せば良いだけか。それとリーダーについては誰がやるかと、共同体名はみんなと相談して決める必要があるね。


「次の情報に行くよ〜。標準状態では上限は30人までだけど、共同体の連盟機能っていうのもあるからね〜。1つの共同体では特定のクエストをクリアしないと上限人数は増やせないけど、連盟機能をうまく使って規模の拡大も出来るようになってます〜」

「へぇ、そういう風になってるのか」


 そういう形なら灰のサファリ同盟とかだとメインに行う事を部門別に分けて連盟にしてしまう方がいいのか。っていうか、そこら辺の需要に向けての機能調整な気がする。その上で特定のクエストとやらで共同体の上限人数を増やす形かな?

 俺達はいつもの5人だけでやるつもりだから、その辺は特に使わない要素になりそうだね。


「あ、そういやキャラ枠はどうなんの? 個別に別の共同体に入れたりはする?」

「えっと、それは無理だね〜。君みたいに別々に出来ない人もそれなりにいるから、共同体の加入はアカウント単位になるよ〜」

「あ、そっか。そういう風にもなるよな」


 流石に支配進化のように同時に2枠を使用し続ける進化もある訳だし、バラバラに入れない人がいるからにはそういう対応にはなってくるか。人によって複数の共同体に入れたり、それが不可能だったりとバラバラな状況になれば流石に不公平だもんな。


「後は実装されてから、ヘルプで確認をお願いします〜」

「ほいよ」


 結成時以外でのメンバーの加入方法だとか、共同体ならではの交流機能とか、細々とした内容も気にはなるけど、それは実装されてから色々と考えてみればいいだろう。


「それじゃ続きをやるかー!」

「楽しんでいってね〜」

「ほいよ!」


 新機能のお知らせは聞けたし、共同体の実装はちょっと楽しみかも。まぁ、今はまずみんなとの合流が先だな。



 ◇ ◇ ◇



 いったんに見送られて、ゲームの中へと戻ってきた。さてとログアウトしたのは桜花さんの目の前だったな。みんなはどこにいるのかなっと?

 少し周りを見渡せばクジラが小型化しているアルと、相対するようにクラゲの触手を蠢かせているハーレさんがいた。それを横から見物しているサヤとヨッシさんがいるので、今は特訓中かな。


「行くぜ、ハーレさん。『アクアクリエイト』『水の操作』!」

「新技行くよー! 『触手流し』!」

「あ、これは良さそうかな?」

「お、良い感じだね」

「ほう、そうなるのか。それじゃこれならどうだ!」


 お、どうやらハーレさんは例の防御技を試している最中みたいだね。相手はアルがしているようで、アクアクリエイトで作った3発の水球を手動操作してるっぽいな。

 初めはハーレさんの触手に受け流された水球だけど、手動操作にする事でその後からも追撃へ切り替えている。生成した水をそれなりに育った操作系スキルで操作した場合は極端に速度を上げたりしなければそれなりに効果時間はあるからね。この辺はアルの操作が上手いもんである。


「わ!? あ、でも意外と大丈夫だー!」

「でも、まだ長くは保ちそうにないね」

「あー!? 効果時間切れたー!?」


 そんなアルの手動操作での攻撃は触手流しの効果時間中は受け流し続けられたけど、効果が切れた瞬間に着弾した。ふむ、手動操作で粘着すれば意外と鬱陶しそうだ。

 でも、ハーレさんの防御手段としてはかなり高水準で機能してたからこれはありだな。あれを破るとなれば、受け流しきれない広範囲攻撃か捌ききれない連続攻撃が有効か。うん、それらは俺の手札にはあるね。


「あ、ケイが来たね」

「おう、ケイ。夕方に準備しといてくれたってのは聞いてるぞ」

「ふはははは、もっと褒めてくれてもいいぞ!」

「ケイだけじゃなくて、サヤもヨッシさんもハーレさんもやってただろうが!」

「まー、それはいいだろ。アルの分の氷の小結晶は受け取ったか?」

「さっきサヤから貰ったぜ。それにしても竹林とはまた面白そうなとこに行ってたみたいだな」

「まぁ、アルはあそこは厳しいと思うぞ」


 アルをカバーしきるにはアクアウォールだけじゃ範囲が足りないから、複合魔法のアクアプロテクションが必須かも……。いや、そもそも大きさ的に小さくなってもクジラが竹林の中に入るのが厳しそうか。


「ま、聞いてる感じだとそうみたいだな。それにしても言われてみりゃ、竹は確かに器に使えるよな」

「あ、それに関してアルに聞きたい事があった。竹を器にするなら、輪切りにするのと縦に割るってどっちがいいんだ?」

「あー、そりゃ用途次第だし、竹の太さにもよるな。カキ氷をするならそれ程太くないやつを縦に割るんで良いんじゃねぇか?」

「ほうほう、その理由は?」

「ケイ達のサイズと竹のサイズの問題だな。サヤは問題ないだろうが、そもそもどうやって食う気だ?」

「「「……あ」」」

「はい! 手掴みでいきます!」


 ハーレさんは躊躇なく答えていたけど、そういや食べ方って考えてなかったね。サヤはコップ感覚でそのままいけばいいんだろうけど、スプーンとかってないもんな。

 俺やヨッシさんやハーレさんは手掴みでいくか、そのまま口に流し込むしかないのか。それなら竹を縦に割って浅くて横長の器の方が食べやすそうではある。犬食いっぽくはなるけども……。


「私は爪で掬えばなんとかいけるかな?」

「私はもう直接食べに行くしかないね」

「俺はハサミで何とか……?」

「まぁ一応無理ではないな。俺は誰かに口の中に流し込んで貰うか」

「はい! それは私がやります!」

「おう、ハーレさん。任せたぞ」


 とりあえずみんなカキ氷を食べれそうではあるかな。そういや今更だけどカキ氷って冷たさは感じるんだろうか?

 回復アイテムにはなりそうな気もするし、味自体はシロップ代わりのハチミツや果汁の味はするだろう。でも温度は感じないこのゲームとしてはどういう扱いになるのかが気になるね。


「はい、毎度ありー! お、ケイさんも来たのか」

「お、桜花さん。繁盛してるっぽいね」

「ま、それなりにな。んで、メンバーが揃ったって事はそろそろ出発かい?」

「そうなるのか? みんな、準備は?」

「「「「問題なし!」」」」


 異口同音での返答をありがとう。まぁ俺が一番ログインが遅かったんだし、みんなは既に準備完了でもおかしくないか。

 必要なアイテムについては夕方の内に準備してたしね。氷属性のヨッシさんは問題ないとして、俺らは3時間分の氷の小結晶を用意している。これだけあれば今は8時だし、今日中は大丈夫なはず。


「そういう事だから、雪山に向けて出発するぞー! 行くのはハイルング高原の先の雪山で良いか」

「問題ないさー! 高原ピクニックも楽しみだねー!」

「雪山から帰りに高原でカキ氷を食べるのも良いのかな?」

「あ、それいいね。そうしよっか」

「お、良いんじゃねぇか?」

「俺もそれに賛成!」


 瘴気の無くなった高原なら爽快感がありそうだし、そこでカキ氷というのも良いかもね。まぁ上手くカキ氷が出来るかは分からないけど、そこは最悪でも冷凍蜜柑で代用しよう。うん、俄然楽しみになってきた。


「頼んどいたもの、よろしく頼んだぞー!」

「氷柱と冷凍蜜柑と、もし見つけたら氷結草だよな。任せとけ!」

「さー、楽しむぞー!」

「「おー!」」

「さて、どんな敵が出てくるかね」


 そういや敵の情報は全然仕入れてないけど、まぁ何とかなるでしょ。死んだら死んだで、その時に考えよう。場合によっては掲示板に書いてあったフィールドボスに遭遇する可能性もあるからね。

 とにかく折角の昼の日で快晴なんだから、楽しんでいこうじゃないか! それじゃ、雪山に向けて出発だね。まずはその手前のハイルング高原へと向かおう。

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