第385話 竹の取引
「それじゃ、私達はご飯食べてくるね」
「また後でね、ハーレ、ケイさん」
「おうよ!」
「また後でねー!」
さてとサヤとヨッシさんは晩飯の為にログアウトしたので、1時間ほどはハーレさんと2人だな。とりあえず桜花さんのとこに竹を持っていくか。四本採ってきたうちの一本でも残しておけば俺らが使う分には余るくらいだ。
「それじゃ桜花さんに竹を届けに行くか」
「おー! 『傘展開』『ウィンドクリエイト』『風の操作』!」
「ちょっと移動速度が早くなったか?」
「ふっふっふ、風魔法も風の操作もLv4になったのさー!」
「あー、なるほどね」
移動の為に連発しまくってたからスキルLvが上がったんだな。そしてその分だけ移動速度も上がったと。ふむふむ、ハーレさんのクラゲも割と良い感じに育ってきてるじゃないか。
とりあえずハーレさんの移動速度に合わせて、水のカーペットで横を飛んでいこう。水のカーペットは出しっぱなしだったから良いとして、折角だから移動中も俺も土の操作を鍛えておこうっと。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 56/57(上限値使用:3): 魔力値 191/194
<行動値を3消費して『土の操作Lv5』を発動します> 行動値 53/57(上限値使用:3)
あんまり動かし過ぎて邪魔になっても面倒なので、3個生成した石をロブスターの右のハサミの上で重ねてバランスを取っていく。移動しながらって事もあるけど、これは地味に難しい。んー、試しにやってみたけどまだ根本的な操作精度が足りないか?
あ、崩れたからやり直し。精密な操作はやっぱりLv6までいかないと難しそうだけど、これはこれで練習にはなるだろう。
「ケイさんは操作系はほんと器用だねー!?」
「つっても、すぐに崩れまくってるけどな。オフライン版の世界樹ルートで石垣作りってやらなかった?」
「私はそもそもその世界樹ルートをやったことが無いよー!?」
「あ、そういやそうだっけ」
ついやってるものとばかり思ってたけど、そういやよく思い出せばハーレさんはオフライン版の世界樹ルートの事そのものを知らなかった気もする。それならその中であった要素を知る訳ないか。そもそも世界樹ルート自体が隠しルートだしな。
「ちなみにそれってどんなのー?」
「んー、オンライン版で言うなら根の操作で石を積み上げる感じだな。これが上手く出来るかどうかで、突発的な災害イベントに対する被害度合いが変わってくるんだよ」
「へー! そういうのもあるんだ!?」
「地味に世界樹ルートは別ゲーム1本分とまで言われてるからな」
世界樹ルートは自身が人類種を目指さなくなって、全く別ゲーム化して文明育成ゲームになるからな。まぁその分だけ攻略難度も高いし、あくまでおまけだからそのエンディングも特にないんだけど。
「うー!? ちょっとやってみたくなったけど、今はオフライン版に時間は割きたくない!?」
「まー、必須でもないから別にいいだろ。後から出たオンライン版の方が色々と自由度は高いしな」
「それは私も思ってたー! とりあえずオンライン版で頑張るぞー!」
「おう、頑張れー」
あの世界樹の根の操作が今の操作系スキルの扱い方には繋がってる気はする。とは言っても、コツが近いってだけでオンライン版はオンライン版で扱いこなした方が良さそうだけどね。
あの世界樹の根の操作も操作感は近いとはいえ、属性毎の差異はないわけじゃないしね。これ以上に操作系の操作感が特に似ているのは桜の桜吹雪とか、キツネの狐火とかのなんちゃって魔法なんだよな。
「そういや、カウンター技はどうするんだ?」
「えっと、ポイントで取ろうと思ってるんだけど悩み中!」
「……どう悩んでるんだ?」
「私のクラゲで今取れるのが『触手流し』と『返し突き』って2種類あるのさー!」
「あー、なるほど。2種類あってどっちにするか悩んでる訳か。どういう違い?」
「まとめ情報によると、『触手流し』は反撃無しの完全防御型で、『返し突き』はカウンター攻撃型だってさー!」
「なるほど、そういう違いか」
「どっちが良いと思うー!?」
ふむふむ、受け流す防御と、カウンターで突き刺す攻撃の2種類って訳か。カウンターといえば斬雨さんが使ってた返しの太刀を思い出すけど、あれは相手によっては無力化されるからな。
それとは別に応用スキルの連閃との組み合わせも見たけど、クラゲで攻撃主体ではないハーレさんには不向きか。となれば、ここは近付かれた時に徹底的に防御に徹する方がいいのかな。
「ハーレさんなら戦法的に『触手流し』だろうな。使うなら、並列制御で爆散投擲と同時発動が良いんじゃないか?」
「はっ!? 防御しながらチャージするんだね!?」
「そうそう、そういう事。下手にカウンターでの攻撃だとレナさんみたいな相手にはどうにもならんだろ」
「あぅ!? それは確かに!?」
「あと、遠距離攻撃で狙われた時用だな。遠距離相手だとカウンター届かんだろ」
「あ、それは思ってたー!」
レナさんレベルの相手だと、カウンター攻撃だと完封されて動きを制限されるだけだからね。受け流すタイプの方が多少はマシな筈。
あ、でも共生指示を並列制御で呼び出せるのか……? うーん、俺は進化の系統が違うから仕様上の問題で試せないな。試してる人は絶対いるだろうし、再使用時間に引っかかりさえしなければ行けるのか?
「ハーレさん、根本的に並列制御で共生指示って出来るのか?」
「同じ枠は再使用時間の関係で無理だけど、そうでなければ大丈夫だってー!」
「あ、そうなんだ」
その辺は既に確認済みだったようである。そういう事ならばハーレさんは根本的に相手を近付かせないのが最適解だな。そこについてはハーレさん自身も分かってたみたいだし、この感じだと大体決めてたけど決めきれてなかっただけか?
「ハーレさん、どっちにするか大体決めてただろ?」
「うん、自分なりに一応ねー! でもみんなの意見を聞きたかったんだー!」
「……なるほどね」
「チャージしながら利用は思いついてなかったから、それを決め手に決定します! でもすぐに実用段階になるかは分かりません!」
「確かにそりゃそうだ。それならそっちの特訓をするか?」
「んー、移動操作制御を取ってからにするー! 順番に鍛えていくさー!」
「ほいよ」
確かに先に取りたいものがあればそっちが優先かな。ハーレさんが空中で自由に飛び回った上で投擲を出来るようになれば色々と出来そうだしね。
俺の遠隔同調でのコケの分離と組み合わせて、多角的な遠距離攻撃というのも可能になるだろう。サヤの竜の強化や、ヨッシさんの氷の昇華、アルの水の昇華とそれぞれが目標に到達すれば色んな可能性が広がってくる。俺も土の昇華を頑張らないとね。
そんな雑談をしながら、桜花さんの桜の木まで辿り着いた。さてと竹を渡してしまわないとね。樹洞の中から灯りが漏れてるし、桜花さんは普通にいるみたいだ。
「桜花さん、竹を採ってきたぞ」
「二本分ねー!」
「お、ケイさん、ハーレさん、思ったより早かったな。ちょっと商談中だから、待っててくれるか?」
「あ、先客ありか。失礼しました」
「はーい、待ってます!」
意気込んで桜花さんの樹洞の中に入ったものの、思いっきり先客がいるところだった。これは失礼しましたー! 先客の人は知り合いではなかったので、終わるまで大人しく待っていようっと。
それにしても先客の人はヤドカリのプレイヤーっぽいね。青い殻には草花がいるから水属性で共生進化か、支配進化の人かな。……はて? ヤドカリと草花の組み合わせのプレイヤーってどっかで聞いた覚えがあるような無いような……?
「……ほう、癒水草が大量なのはありがたい。この量って、どこで手に入れたんだ?」
「……巨大な湖の湖底だ」
「へぇ、例のあそこか! よく食われてるやつが居るって聞いてたが、その先に沢山あるんだな」
「……あぁ。それで氷の小結晶と回復アイテムの交換を頼む」
「あいよ。癒水草がこの量ならこんなもんでいいか?」
「……あぁ」
へぇ、このヤドカリの人は癒水草を大量に持ち込んで来たんだ。灰のサファリ同盟で栽培出来るようになっているとはいえ、量には限りはあるだろうからありがたいんだろうね。
巨大な湖といえば、前に掲示板で見た首長竜が居るってとこなのかな? 確かその姿を確認しようとして食べられてた人が見切れたスクショを上げてた気がする。そこの奥に行ったって事は、このヤドカリの人って強いのかな。
「これで商談成立だ。毎度あり!」
「……あぁ、これで失礼する」
あ、どうやら取引は終わったみたいだ。さて、俺らも竹を桜花さんに渡してしまわないといけないね。氷の小結晶は後払いになってるけど、その辺は早めに精算しておきたいとこでもあるし。
竹だけで足りるかは分からないけど、まぁ多少の足しにはなるだろう。元々、氷柱との交換って事になってるしね。
「……コケの人、同調の再現感謝する」
「……え? あ、ちょ!?」
ヤドカリの人が俺の横を通り過ぎていく際にそんな事を小声で呟いていた。すぐに振り向いたけど、既に姿はなしって移動早いな!? え、今の一言ってどういう事……? 同調の再現って……あ、もしかして!?
「……今の人がもしかして、例の不確定情報の提供者?」
「あー!? あの人ってもしかして、ヨッシに共生進化の情報を教えてくれたってヤドカリとヨモギの人ー!?」
「……あ、どっかで見た覚えがあると思ったらあの時か!」
確かみんなが2ndを作ってバラバラになってた時に、ヨッシさんに共生適応について教えてくれた人か! そしてさっきの俺への言葉からして、あの人はやっぱり不確定情報の提供者か。
前の時といい、今さっきといい積極的に表に出てくる気はなさそうだけど、情報を提供する意思自体はあるっぽい。そっか、匿名情報のみって事は名前を広めたくないんだろうね。
「なんだ、ケイさんとハーレさんは今の人と知り合いか?」
「うーん、知り合いではないけど、無関係でもない……?」
「私達としてもよく分かりません!」
「よく分からんが、そうなのか? まぁ、あの人はたまに現れて最低限の会話のみで取引していくからな」
「よく来るのか?」
「いや、回数は少ないぜ。ただ、持ってくるものの質は良い。ちなみに今、灰のサファリ同盟で栽培してる毒草を初めて持ってきたのはあの人だぞ」
「え、マジで?」
今は量産されているけど、初めに毒草を見つけたのはあの人なのか。まとめ機能での匿名の情報提供では同じ人物ばかりとは限らないけど、意外と書き込んでそうだよね。
少なくとも同調共有に関してはあのヤドカリの人で間違いなさそう。って事は、あの人も俺と同じ同調化になっているのか。それも俺よりかなり早い段階で……。
「おう、マジだぜ。俺は強さに関してはよく分からんが、多分相当強いんじゃねぇか?」
「……だろうな」
「あっという間にいなくなってたもんね!?」
「居るだろうとは思ってたけど、灰の群集にも隠れた強者はいたんだな」
「みたいだねー!」
「ははっ! そうか、そういう事になるんだな! やっぱり灰の群集に移籍してきて正解だったぜ!」
随分と桜花さんは楽しそうだね。まぁ桜花さんが青の群集にいた時の頃は知らないけども、移籍してきてからは灰のサファリ同盟と仲良くしてたり、出張取引で活躍してたり、今みたいに色々と重要な取引もしてれば楽しいだろう。
俺としても初めはどうなるかと思ったけど、戦闘は駄目でも思った以上に商人のプレイヤーとしては優秀な桜花さんと知り合えて助かってるしね。
「さて、こっちはこっちで商談に移ろうか! 竹が二本って言ってたよな?」
「おう、そうだぞ。ここで出していい?」
「あー、いや待った。出さなくてもこっちのウィンドウで良いぜ」
「ほいよ、了解」
桜花さんから取引用のウィンドウを提示されて、その中にインベントリから竹を取引画面に移していく。うん、こっちの方が楽ではあるね。
「ほうほう、持ち運べるまでの加工だけなんだな」
「……もうちょい加工しといた方が良かった?」
「いんや、こっちの方が用途に合わせて加工できるから、これでいいぜ」
「おー! そうなんだー!?」
ふむふむ、加工前の方が需要はあるんだな。っていうか、ここから用途に合わせて加工するのか。あれ、輪切りにすることしか考えてなかったけど、長さの問題かな?
「ちなみに用途に合わせて加工ってのは?」
「ん? あー、輪切りにするか、縦に割るかだな」
「あ、縦に割るのか!」
そういやその手もあったな。ふむ、竹を縦に割ったら底が浅めの器が出来るのか。リアルで竹を加工するなんて事をしたこと無いから思いつかなかったな。この辺はアルが地味に詳しそうだから、アルがログインしたら詳しく聞いてみようっと。
「太いとこも細いとこもあるし、二本分あればそこそこな量にはなるからな。そうだな、一本で氷の小結晶6個、二本だから小結晶12個分ってとこか」
「ほうほう、結構貰えるんだな」
「氷の小結晶は需要高めだが、そこそこ供給量も多めだからな」
「え、そうなの!?」
「おうよ。氷については必要になる頻度が高そうって事で、使い捨てじゃない輝石を取ってる奴がそこそこいるからな。そういう奴が過剰分を流してくるんだよ」
「……なるほど」
確かに氷の進化の輝石を持っていれば、かなり使い勝手も変わってくるか。うーん、それなら俺もいっそ交換しとこうかな……? その辺はみんなとちょっと相談してからにしようっと。
「あ、ケイさん! そろそろ時間ー!」
「え、もうか?」
時刻表示を見てみれば、もう少しで7時になろうとしている。これは時間切れだけど、取引自体は終わっていたから良しとしようか。
「悪い、桜花さん。一旦ログアウトの時間だ」
「お、晩飯か? ま、残りの分は雪山での氷柱分を期待しとくぜ」
「期待しててねー!」
「だな。採れるだけ採ってくる!」
「おう、頑張ってくれよ!」
「それじゃ雪山から戻ってきたらねー!」
「そういう事で、桜花さん、また後ほど!」
「おう!」
そうやって一旦別れを告げて、樹洞の中から出ていく。さてと晩飯を食ってみんなと合流したら雪山に出発だな。初めて行く雪山だけど、どんな風な感じかな? どんな敵がいるかも気になるところ。
まぁ、今はログアウトして晩飯を食ってこよう。今日のメニューはなんだろうなー?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます