第383話 器を求めて


 サヤの方の魔法砲撃と風魔法は失敗とまではいかないけど、課題は山積みという事は分かった。まぁこの辺は時間をかけて強化していけばいいか。


「それでハーレさんの方は普通に浮いてるけど、どんな感じだ?」

「元々これで飛べるのは分かってたから問題ないよー! ただ傘展開の時間経過で高度が下がるのが少し問題です! でも移動操作制御になれば風の方で調整出来るから大丈夫だと思うー!」

「って事は、もうひたすら使っていくしかないな。それじゃ今日はハーレさんの飛ぶ速度に合わせて移動するか」

「おー!? 良いのー!?」

「まぁな。サヤもヨッシさんもそれでいいか?」

「うん、それは問題ないかな。私もそれに合わせて魔法と魔法砲撃を鍛えるよ」

「私も問題ないよ」

「それじゃ移動はそういう事で。桜花さん、とりあえず竹林まで行ってくるわ!」

「おうよ。頑張ってくれな!」


 桜花さんに見送られながらそうしてハーレさんは風魔法と風の操作を駆使して、クラゲの傘の中に風を入れて浮かびながら移動していく。とりあえずミズキの森林まで移動しようかな。

 俺は水のカーペットに乗り、サヤは竜に乗って飛んでいく。ハーレさんは以前首吊り状態になった事の反省として、クラゲの触手は胴体に巻きつけるようにしている。逆にヨッシさんが俺の水のカーペットの上に乗っていた。


 ハーレさんの移動方法は、移動操作制御になってしまえば割と使えるかもね。空飛ぶクラゲを被ったリスがその内出来そうだ。まぁたまにはログインするキャラを変えての活動も良いもんだね。俺はあまり変わらないのでコケだけども。


「ケイさん、もう少しで応用スキルの毒のポイント取得が可能になるんだけどポイントであっさり取るのと、他の条件を探すのはどっちが良いと思う?」

「んー、条件だけ満たしておいてどうしても必要な時にポイントで取れば良いんじゃないか? ポイント取得以外の条件がどこかにあるかもしれないしさ。それに、ヨッシさんは氷の昇華も気になってるだろ?」

「あはは、大当たり。毒もだけど、氷魔法の防壁や氷の昇華もかなり気になってるよ」

「それならそっちを優先しよう。昇華になれば手札が増えるしな」

「そうだね。ケイさん、特訓の相手をお願いしていい?」

「おう、いいぞ。俺も土の昇華にはしたいしな」


 状態異常特化のヨッシさんの毒は昇華になって毒性は凶悪にはなったけど、昇華魔法にはならないっぽいしね。状態異常特化でどちらかというと魔法寄りのヨッシさんとしては氷の昇華魔法にも興味はあるんだろう。

 アルも水の昇華を目指しているし、ヨッシさんが氷の昇華、俺が土の昇華を手に入れれば出来る事が一気に増えるはず。ということで、移動中は俺は土の操作を、ヨッシさんは応用の毒の条件を満たしたら氷の操作の強化に決定だ。


「ところでタケノコは食べれるのー!?」

「あ、そういやどうなんだろな? 一般生物のタケノコの情報は聞きそびれたな」

「……タケノコってアク抜き大変なんだけどね」

「でもタケノコの刺身ってあったよね!?」

「あれは新鮮だったらだね。……その辺はゲーム的にどうなんだろ?」


 相変わらず隙あらば食べる方に意識がいくハーレさんだね。でも実際問題、タケノコってゲーム的にはどうなんだろう? うーん、余裕がありそうなら取れるか探してみるか。


「ま、その辺は辿り着いてから考えようぜ」

「タケノコ採りに行くぞー!」

「採りに行くのは竹の方かな……?」

「ハーレ、カキ氷は?」

「はっ!? そっちの方が重要だった!?」


 ハーレさん的な優先順位はタケノコよりもカキ氷の方が上なのか。まぁどっちでもいいけども、とりあえず現地に行くのが最優先だな。サヤ達が一旦ログアウトする6時までには確保までやらないとね。



 ◇ ◇ ◇



<『ミズキの森林』から『フレッシュ平原』に移動しました>


 ミズキの森林ではサヤとハーレさんの飛行訓練に付き合いながら、何とか目的の竹林がある平原エリアまでやってきた。ここは赤の群集の森林の調査クエストエリアだから既に名ありである。

 ここってフレッシュ平原のマップの西の端の方みたいだけど、ミズキの森林とは繋がってるんだね。その移動した地点から正面を見てみれば聞いていた通に少し先の場所に竹林が広がっていた。見た感じだと竹林を越えれば別エリアって感じかな?


 周囲をというか東の方を見てみれば、ちらほらと赤の群集の人がいるっぽい。まぁここは赤の群集の専用場所って訳ではないけど、優先的な場所ではあるからね。その辺は適度に節度を守っていこうじゃないか。


「さー! 竹を取っていくよー!」

「思った以上に移動に時間かかったもんな。急ごうか」

「ここはみんな飛んでた方が良いかな?」

「多分そうだろうね」

「足元注意でいくぞ!」

「「「おー!」」」


 さて目的の竹林で竹の伐採作業をやっていくぞー! まぁ竹を切り倒すのはサヤのクマの爪の出番である。あー、でも俺のロブスターのハサミでもいけるかな? それについてはやってみれば分かるか。



 そして少し移動して、竹林の目の前までやってきた。うーん、これはぱっと見では敵なのか一般生物なのかが区別がつかない。よし、あれを使おう。


<行動値を3消費して『獲物察知Lv3』を発動します>  行動値 55/58(上限値使用:2)


 そこから緑の一般生物を示す矢印と、敵を示す黒い矢印が伸びていく。普通に矢印が出たので、擬態というわけではないようだね。……地面の中にも矢印が向かっているけど、タケノコってどういう扱いなんだろうね。


「結構いるな……。これはみんな固まってた方が良さそうだ」

「そんなにいるのー!?」

「まぁ視界内で竹が5〜6体はいるな。地面の中にもいるけど、これはタケノコか?」


 正直、倒すだけなら海水をばら撒くなり、ヨッシさんの強化した毒との複合魔法を使ったり、焼き払うほうが遥かに楽だな。でも竹を採るのが目的だからそれは出来ない。なるほど、これが桜花さんの言ってた面倒な部分か。


「そういう事ならみんなでケイの水のカーペットに乗ってた方が良さそうかな」

「おう、そうしてくれ」

「はーい!」

「その方が良さそうだね」


 みんなはすんなりと受け入れてくれて、俺の水のカーペットの上に乗っていく。この方が確実に守りはしやすいけど、実際どんなもんかは突入してみないと分からないな。

 それにしても竹林は地味に森林より間隔が狭めなので、アルだと移動が地味に難しかったかもしれない。アルが乗れるぎりぎりのサイズに水のカーペットを調整する必要があったもんな。いやもういっそアルのクジラを盾にした方が楽だった……? うん、流石に普段の時にそれはないな。


「それじゃ突入するぞ!」

「「「おー!」」」


 地面の下にも警戒しつつ、水のカーペットに乗った状態で竹林の中へと進んでいく。地面の下から刺してくるというタケノコもだけど、獰猛なパンダってのも警戒しとかないとね。まだ姿は見えないけど、いつ襲ってくるかわからないし。


「あ、登録してないからクラゲからじゃ危機察知が使えないよ!?」

「そういう事は先に言っとけー!?」

「あぅ、ごめんなさい……」

「ケイ、下からタケノコかな!」

「分かってたけど、早速か!」


<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 50/58(上限値使用:2): 魔力値 179/194


 攻撃の察知はいつもハーレさんに任せてたけど、危なかった。とりあえず防御は間に合ったぜ。そっか、いつもとログインしているキャラが違うからスキル構成が変わっているから注意しないとこうなるのか。

 水のカーペットの下に展開した水の防壁に次々と鋭いタケノコが伸びて突き刺さって、短くなって、再び伸びて突き刺さってくる。これは随分と殺意の高い竹とタケノコだな! でもどうやら竹の方は攻撃してこないっぽいか?


「サヤ、識別を頼む!」

「ごめん、私も無理かな!?」

「ケイさん、私の方でやるよ。『識別』!」

「ヨッシさん、任せた!」

「瘴気強化種の不動種の未成体。属性は樹で、特性は刺突と突撃と分体生成! Lvが足りないからそこまでしか分かんない!」

「そこまで分かれば充分! って事はタケノコは統率個体じゃなくて生成された分体!? いや、もしかして混ざってんのか!?」


 今の竹はタケノコを伸ばして攻撃中のようである。伸ばした後は縮んでいくみたいだな。でも水の防壁にぶつかって落ちてから歩いているタケノコもいるので、こっちは普通に地面から出てきたタケノコか?

 それにしても特に魔力集中とかも使ってないみたいだから、防壁魔法で防げるけどこれは地味に面倒な……。確かにこれは面倒な上に、死亡率が高いのがよく分かった。雨の後っていう事もあるんだろうけど、これは殺意があり過ぎる。


「ケイ、どうするかな? これは降りて避けたり迎撃は出来ても、竹の伐採は厳しいよ?」

「……よし、ものは試しだ。サヤ、威嚇で追い払ってみるぞ」

「ごめん、ケイ。それも無理かな……」

「あ……。よし、それなら俺が使うか」


 うーむ、いつもと違って調子が狂うな……。でも違うキャラを育てるのならこういう事もあるのが当然か。どっちでも自由に使える俺の方が異質なんだろう。


 さてと威嚇は使ってなくて育ってはないとはいえ、全く無意味って事もないだろ。とはいえ、防御を切るわけにもいかないからここは並列制御を使うか。タケノコが水のカーペットに当たると駄目だから、そこは攻撃が途切れるタイミングを見計らって……よし今だ!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 45/58(上限値使用:2): 魔力値 164/194

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を2消費して『威嚇Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 43/58(上限値使用:2)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 水の防壁を切って即座に並列制御で威嚇と共に水の防壁も再発動。よし、水のカーペットには被弾無しで再発動が出来た。そして少しタケノコによる攻勢が収まったかな? 歩いていたタケノコも走って逃げていっている。


「おー!? 効果ありだね!」

「それなら今のうちかな!」

「サヤ、獰猛なパンダがいるって話もあるし、威嚇の効果時間もそれほどないから気をつけろよ! あ、すぐ目の前のが一般生物の竹だったはず!」

「一本伐採したら、それを持って一旦ここから出ようね」

「うん、分かったかな! 『共生指示:登録1』!」


 そしてサヤが周囲に警戒しつつ、目の前の竹に両手の爪で交差する様に攻撃していた。竜から共生指示で呼び出したあれは双爪撃だね。

 物理攻撃の強いサヤの一撃によって、無事に一本の竹が切り倒されていく。でかいというか長いけど、アルのクジラに比べりゃ軽いもんだろ。それに竹一本だけでもそれなりの数の器にはなるはず。加工については竹林を離れてからでいい。


「サヤ、竹を持って飛び乗れ!」

「うん、分かったかな!」


 竹をクマの肩に担いだサヤが、水のカーペットに飛び乗ってくる。かなり長いからバランスが悪いけど、問題ない範囲! あ、威嚇の効果切れ。その瞬間に苛烈なタケノコの攻撃が再開されてきた。逃げていったタケノコもこちらに向けて体当たりしてきている。


「このタケノコ、地味に嫌だね! 『ポイズンボム』!」

「食べれないタケノコはいらないよー! 『連刺突』!」


 俺の水の防壁ではカバーし切れない側面からのタケノコの攻撃はヨッシさんとハーレさんが防いでくれている。ふむ、リスが頭に被ったクラゲもそこそこ使えているようだね。

 それにしても時間は短かったけど威嚇も場合によっては使いどころはあるんだな。これは合間を見てLv3くらいまでは育てておいた方が良いかもしれない。


「あー! 竹を持ったパンダ発見! ヨッシ、迎撃さー!」

「獰猛なパンダが出てきたね。今は私達の出番みたいだよ」

「ハーレさん、ヨッシさん、任せた!」

「2人ともお願いかな!」


 今は俺とサヤは手が離せないからね。目の前から竹を持って投げようとしてきているパンダの迎撃は手の空いている2人に任せよう。俺は今のうちに竹林から抜けてしまわないと。


「ハーレ、投げてくる竹の処理は任せたよ! 私はパンダの相手をするからね」

「了解さー! 『ウィンドボール』『ウィンドボール』!」

「麻痺毒と腐食毒の複合毒の『ポイズンクリエイト』『猛毒の操作』!」


 そしてパンダが投げた竹をハーレさんが上から風魔法で無理矢理叩き落とし、ヨッシさんが生成し、猛毒の操作で毒性を更に強化した複合毒をパンダに直撃させていた。投擲メインなだけあってハーレさんの狙いは正確だし、ヨッシさんの毒も強烈である。

 ヨッシさんの猛毒を受けたパンダは、倒れ伏して身動きが取れずどんどんHPも減っていってる。流石、状態異常特化のヨッシさんの毒である。猛毒の操作、恐るべし……。


 そうしてパンダが身動き取れなくなっている内に切り倒した竹を一本持って、竹林から脱出した。うん、竹の調達が面倒だというのはよく分かったかな。でも、必要なスキルやメンバーさえちゃんと整えれば無茶苦茶というほどでもないか。


「わっ!? パンダが動き出してきたかな」

「ヨッシ、もう一回行くよー!」

「あ、ヨッシさん、ハーレさん。俺に殺らせて貰ってもいい?」

「え、別にいいけど、ケイさんどうするの?」

「あ、ケイさんが地味に暴れ足りない時の雰囲気だー!?」


 お、よく分かったな、ハーレさん。防御と移動のみじゃ、あのタケノコの攻撃に対して不満があったりもするんだよね。一発くらい攻撃をお見舞いしないと、若干不完全燃焼である。まぁパンダが相手なのはちょっと違うけど、妨害してきたのは同じだから同罪って事で!


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 43/58 → 43/57(上限値使用:3)

<行動値10と魔力値90消費して『半自動制御Lv1:登録枠1』を発動します>  行動値 33/57(上限値使用:3): 魔力値 54/194 使用時間 90秒


 魔法砲撃をこんなにすぐ使うんだったら、解除せずにいれば良かったね。まぁいいや、これでアースバレットの45連射でも食らっとけ。いやー、これを実戦で使ってみたかったんだよね。右のハサミに始点を指定して、発射!

 おー、見事に次々と当たっていく。おっと、逃げようったってそうは行かない。全弾撃ち込んでやる!


「……容赦ないね」

「こういうとこもケイらしいよね」

「ケイさん、地味に鬱憤溜まってたー!?」


 本当なら予め聞いていたとはいえ思った以上に鬱陶しかったタケノコを焼き払ってやりたいとこだけど、赤の群集の優先度が高いエリアだからね。その辺はちょっと自重しておく。代わりに八つ当たりとしてパンダには容赦はしない!


 動き出したとはいえ、毒の効果がまだかなり影響しているパンダには避けようとしても避けきる事は出来ず、アースバレットの連射は全て当たってHPは消し飛んでいった。無事にポリゴンとなって砕け散っていったので、パンダ退治はこれで終わりっと。


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


「さてと、もう2〜3本くらい竹を採っていくか」

「まぁ確かにこれなら何とかなりそうかな?」

「灰のサファリ同盟のみんなにお土産だー!」

「あと、桜花さんにもだね」


 特に反対意見も無いようなので、もう何本か仕入れて行こうっと。あ、その前にインベントリに入るかどうかも確認しないとね。

 サヤが切っただけの竹を担いでいるのを見ると、少し小さくしないとインベントリに入らない気もする。その辺も確認しながら追加の伐採もやっていこう!

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