第373話 瘴王毒スズメ、討伐支援 下


 唐突なベスタの提案ではあるけど、まぁ別にあと1回ならリスポーン位置設定も大丈夫だしやってしまおうか。どこかで誰かが試しておくべき事だしね。


「ベスタさん、もう瘴気魔法って検証情報は上がってたよな?」

「あぁ、少し前にな。まぁ無理にやる必要はないが、見てみたいやつは多いと思うぞ」

「だろうなー。俺も見てみたいし、ケイさんがやらないなら俺がやっちまうぞ?」

「条件的にはダイクでもいけるな。ケイ、どうする?」


 あー、そっか。ダイクさんなら俺と同じ水の昇華持ちだからおそらく同じ事が出来るはず。まぁダイクさんは今は纏瘴を使っていないから、多分一発で解ける纏瘴をこれから使うのも勿体無いか。

 それに既に検証済みなら実演をするってだけだろう。ま、瘴気魔法は瘴気魔法で何かデメリットはあるだろうけど、多分大丈夫だろ。


「あー、分かった。その役目は引き受けるよ」

「そう言うと思ったぞ。攻撃範囲からは退避させるから、ケイは遠慮なくぶっ放せ」

「おうよ!」


 そしてベスタが攻撃範囲に入りそうな人達に声をかけて、準備を整えている。その結果、興味深そうに道を空けて、見物に移っていく人が増えてきた。まぁ条件的にホイホイと気軽に見れるものでもないから、気になるのはよく分かる。


「よし、折角だしスクショ撮っておくか!」


 あ、ダイクさんが地味にサファリ系プレイヤーみたいな事を言ってるね。レナさんに引っ張り回されて、サファリ系プレイヤーに染まってきたとかそんな感じかな? まぁそれはそれで楽しめそうだし、良いんじゃないのかな。


「あ、ケイさん。瘴気魔法の反動は知ってるか?」

「そういや、その情報は見てないから知らない。どんなの?」

「『瘴気汚染・重度』って状態異常になるってよ。自己回復系のスキルでもHP回復不可で、行動値と魔力値の回復も極端に遅くなるとさ。ついでに効果時間切れまで纏瘴の解除も不可」

「……そのデメリットは戦闘の途中じゃ使い物にならないな」

「ま、その代わり瘴気属性持ちの敵からはほぼ狙われなくなるらしいけどな」

「……なるほど」


 浄化魔法は負荷がかかり過ぎて纏浄が即座に解除になって身動きが取れなくなるけど、瘴気魔法は瘴気に汚染され過ぎて纏瘴が解除出来なくなると。浄化魔法も瘴気魔法も軽々と使うような物ではないっぽいね。


「よし、まぁ今から使う分には問題ないだろ。アル!」

「移動だな? 任せとけ」

「みんなで行こうかな!」

「そうだね。ハーレ、PTを戻しとこ?」

「そだね! 弥生さん、シュウさん、ルストさん、私はこれにて失礼します!」

「はーい、今回はありがとね、ハーレさん。さて、ルスト、シュウさん!」

「ハーレさん、色々楽しかったですよ。弥生さん、私は左側でよろしいですか?」

「わたしは右側だね。シュウさんは上からお願いね?」

「何か目的が変わったけれど、それも醍醐味だね。上からは任されるよ」


<ハーレ様がPTに加入しました>


「ただいま戻りましたー!」

「おかえりかな」

「ハーレ、おかえり」


 一時的に弥生さんのPTにいたハーレさんが俺らのPTに戻ってきた。それにしても赤のサファリ同盟3人は手分けをして瘴気魔法のスクショを撮る計画を立てているね。まぁこれでこそサファリ系プレイヤーって感じもする。

 そもそもルストさんはこういうのが見たくて俺らのPTに同行を希望してたんだった。まぁ色々あったけど、ルストさん的には概ね目的通りだったのかもね。


 さて瘴気魔法を使うと決めたことだし、みんなでアルの背に乗って崖下へと移動していく。そこそこ射程はあるとは思うけど、流石に崖上からだと遠いから近づいておいた方がいいだろう。

 さて思わぬ方向から瘴気魔法の使用依頼が来たけど、やるだけやりますか。合間をみてちょいちょい行動値は回復させてたし、消費自体は多くないから大丈夫。むしろこれについては発動後の方がヤバい。


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 46/54 → 46/53(上限値使用:7)


 形としては浄化魔法を参考にすればほぼウォーターフォールに近い形にはなるから、ここは魔法砲撃で砲撃化した方が良いかな。指向性を持たせるには魔法砲撃が地味に便利だしね。


「それじゃ始めるぞ!」

「おー! ケイさん頑張れー!」


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 45/51(上限値使用:7): 魔力値 191/194

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を2消費して『瘴気収束Lv1』を発動します>  行動値 43/53(上限値使用:7)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 アクアクリエイトは砲撃化して放水になるように設定。始点は右のハサミに指定して、その前の位置に瘴気を収束させていく。あ、でも瘴気の量が減っているので収束するのに時間がかかるっぽい。

 ふむ、砲撃化したのはある程度待機はさせられるみたいだからなんとかなりそうだけど、これは周囲の瘴気量に影響されるのか。


「……瘴気が集まるの遅いな」

「もうほぼ除去しちゃったもんね!?」

「こういう事なら少し残しておけば良かったのかな」

「おーい、そこのクジラ一行! 話は聞いたから、ちょっとこっち来い!」

「ねぇ、ケイさん。あっちの人が何か呼んでるよ?」

「ん? あ、マジだな。アル、あっちに移動!」

「おう、分かった。でも何の用だ?」


 何やら少し離れたところにいた赤の群集の木の人のPTが呼んでいたので、瘴気を収束させながら近付いていく。あ、近付いてみて理由が分かった。そっか、そういう事なんだな。


「おら、これ使え!」

「こっちもどうぞ!」

「ほらよ!」

「助かる! 瘴気の提供に感謝!」


 呼んできた人達が何人かで瘴気を収束して集めていたようで、俺が近付いた段階で瘴気収束を解除して俺の方へと瘴気を融通してくれた。これで収束が少し早くなって、最低限必要そうな密度の瘴気が集まりそうだ。ご協力感謝です!


「ベスタ、そろそろ行けるぞ!」

「あぁ、分かった。射線上にいるやつは左右に分かれろ! 巻き込まれるぞ!」

「え、あー!?」

「あれって、もしかして噂の瘴気魔法!?」

「他のエリアで使ったってのは聞いたけど、見れるのか!」

「避けろー!」

「ルスト、撮り逃さないように! シュウさんもね!」

「分かっているよ、弥生」

「もちろんですとも、弥生さん!」


 他のエリアで検証情報を知ってた人や、ベスタの通知が間に合わず大声で注意勧告を行ってそれに反応している人も多い。

 そして分かってたことだけど赤のサファリ同盟はブレないね!? まぁ、それはいいや。瘴気の量はこれくらいで充分だろう。さて、瘴気の塊に向かって放水開始!


<『瘴気魔法:ミアズマ・アクア』が発動しました>


 よし、狙い通り瘴気魔法が発動して、禍々しい色合いになった大量の水がここの群集拠点種の根に直撃した。瘴気属性は持ってるだろうし、水属性だから相性はどうかと思ったけど結構お構いなしに妨害にはなったっぽい。これはHPが減らないという特殊仕様があるからなのかもね。


<瘴気の過剰使用により、『瘴気汚染・重度』の状態異常になりました>

<HPの回復が不可になり、行動値魔力値の回復速度が大幅に低下します>

<『瘴気汚染・重度』により、効果時間切れ以外での纏属進化・纏瘴の解除が不可になります>


<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『力に蝕まれるモノ』を取得しました>

<スキル『異常回復Ⅰ』を取得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『力に蝕まれるモノ』を取得しました>

<スキル『異常回復Ⅰ』を取得しました>


 聞いていた通りのデメリットが発生して、HPが回復不可になったね。さて、あと20分もないくらいだけどこの状態で我慢するしかないか。……もう1発、ミアズマ・アクアを放ってみたい気もするけど何となく危険な気がする。

 この攻撃って瘴気によるものだしね。基本的に瘴気属性のボスは瘴気を取り込む事でHPを回復するっぽいし、連発したら回復に使われそうな気もする。そもそも1発でこのデメリットだし、2発目を使えばどうなるか分かったもんじゃないからね。


 それにしても称号が取得になったか。条件的には多分だけど浄化魔法と瘴気魔法の両方を使う事だろうね。この『異常回復Ⅰ』とやらはどんな効果なのやら。


「ガスト、俺らを風で吹っ飛ばせ!」

「例の水流のあれを風でやれって事だな。任せとけ!」

「そういう事だ。お前ら、チャージの準備はいいな!?」

「当たり前だ! 一気に仕留めるぞ!」

「オオカミ組も問題はない! だよな、お前ら!」

「「「「「おう!」」」」」


 瘴気魔法に集中してたから見れてはなかったけども、ルアーのPTの近接の人やオオカミ組のみんなはそれぞれに纏浄の浄化制御や纏瘴の瘴気制御を使って、暖かな光の混ざった銀光や禍々しい光が混ざった銀光がどんどん強くなっていっている。

 流石に今回の主戦力という事もあり、近接の人はチャージ系の応用スキルは普通に持っているようだね。まぁ銀光の強さが人によって違うので凝縮破壊Ⅰの有無はあるみたいだけど。


「行くぜ! 『並列制御』『ウィンドクリエイト』『強風の操作』!」


 そしてガストさんの操る規則的な強風によって他の人達が風で浮かび上がり吹き飛ばされるように加速して、身動きの取れなくなっている毒スズメの本体に次々と攻撃を叩き込んでいく。

 おー、水流の操作で俺がやってる事だけど、似たような感じである程度の距離を確保して勢いをつけてしまえばいいんだな。どの属性でも出来るわけじゃないけど、風でも同じような事は出来るんだね。


 その攻撃を受け、HPが全て無くなった毒スズメは毒らしきものを撒き散らしながら四散していった。そしてその毒を浴びた群集拠点種の根も枯れていく。ふむ、ここはこういう演出なんだね。


<ワールドクエスト《この地で共に》のボスを1体撃破されました> 赤の群集 4/5


<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『瘴王毒スズメを討ち倒すモノ』を取得しました>

<増強進化ポイント30、融合進化ポイント30、生存進化ポイント30獲得しました>


<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『瘴王毒スズメを討ち倒すモノ』を取得しました>

<増強進化ポイント30、融合進化ポイント30、生存進化ポイント30獲得しました>


<『瘴気石』を1個獲得しました>


 よし、とにかくこれでボス戦は完了! あとは他のエリアがどうなってるかを確認して、終わるのを待つだけだな。ルアー達もやりきった感じで満足げに勝利を喜んでいる。

 まぁ色々あったけども、これで赤の群集の問題は解決したって思っていいだろう。……まぁ正直予想外の事が多かったので、今後の赤の群集との対戦型イベントがちょっとどころではなく油断出来なくなった気もするけどね


「ケイ、お疲れ様。……それにしても、瘴気汚染って禍々しいかな」

「え、そんなに?」


 ハサミを見てみれば禍々しい瘴気がオーラの様に纏わりついているし、確かにこれは……。ハーレさんにスクショを……あ、そうだ。折角なんだし、遠隔同調で見れば良いか。


<行動値上限を15使用して『遠隔同調Lv1』を発動します>  行動値 43/53 → 38/38(上限値使用:22):効果時間 5分


 とりあえず遠隔同調を発動してっと。さて周囲は毒スズメの腐食毒で荒れ果てているようなのでコケはない。となれば、増やすのみ!


<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 34/38(上限値使用:22)


 ちょっと無駄に行動値を使い過ぎな感じはあるけど、遠隔同調は使い慣れておきたいからね。瘴気汚染・重度はHPの回復は出来ないけど、今回は全然HPは減ってないし問題なし。

 あ、『瘴気汚染・重度』は行動値と魔力値の回復速度が大幅に遅くなるのもあったっけ。まぁあと15分くらいで纏瘴の時間切れだし、そこまでの間に無茶しなけりゃ大丈夫だろ。


<行動値を3消費して『群体内移動Lv3』を発動します>  行動値 31/38(上限値使用:22)

<『遠隔同調』の効果により、視界を分割表示します>


 過剰に増殖させて地面にもコケを用意した状態で、少し位置をズラしてからロブスターの背中ではない方のコケに移動した。コケの核がロブスターから離れれば視界分割になる。よし、これで直接ロブスターを自分で見る事が出来るね。

 うん、禍々しいオーラを放つ真っ黒い紋様が浮かび上がる毒々しいロブスターになっていた。このデザインは好きそうな人は好きそうだけど、俺の好みではないかな。……そして食べたら苦しみそうだな、このロブスター。


「うーん、闇属性よりも闇属性っぽいね?」

「弥生、こういうのは好きだったね」

「うん、闇属性っぽいのは好きだねー。そっかー、瘴気汚染・重度だとこういう風になるんだねー」

「流石にこれの常用は無理そうですけどね」


 どうやら弥生さんはこういう禍々しいデザインが好みみたいだね。……うん、バーサーカーになる事を考えれば意外と似合っているのかも? あー、だから闇属性っぽい黒ネコに育ててるのかな?


「俺はあんまりこういうのは好みじゃないな」

「ケイってそうなのかな?」

「ケイさんは光とかそういうのが好きなんだよー!」

「……ハーレさん、なぜそれを知っている?」


 その通りではあるけど、それを語った覚えはないと思うけども……? あれ、何かの機会でハーレさんに教えた事はあったっけ? 昔一緒にテレビに繋ぐ系統の据え置きゲームではそれっぽいのをよく使ってはいたけども……。


「ふっふっふ! この間、ケイさんの持ってたゲームをちょっと見てねー!」

「何やってんの、ハーレさん!?」

「ダークファンタジーはほとんど無くて、光の勇者的な王道的なゲームが多かったです!」


 確かに俺はオフラインのゲームだとそういう王道系が好きだけどさ……。普通に部屋にパッケージは置いてあるから、最近よく俺の部屋に勝手に入っているハーレさんならそれを見ててもおかしくないか。

 とはいえ、今はそういう問題ではない。そういう事ならば俺にも考えがあるからな。


「よし、ハーレさん、覚悟は良いな?」

「え!?」

「後でハーレさんのVR機器を一時的に没収な。ハーレさんが今までどんなゲームを何やってたのか、全部確認しとくから」

「疚しいゲームとかは欠片もないから、問題ないよ!」

「……面白みないな、それ」


 堂々と見ても良いと返事をしてきたよ。……まぁそれほど変なゲームがあるとは思ってなかったけど、ここまで堂々とされると思わなかった。

 何だか言い負かされた気分だけど、まぁ良いか。とりあえず近場のボス戦はこれにて終了! さてと、他のエリアの進捗状況を確認してみようっと。今日中に全ボスの撃破が出来たらいいけど、それは他のエリアの人達の頑張り次第だね。

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