第372話 瘴王毒スズメ、討伐支援 中
隣のPTにダイクさんが遅れてやってきて、毒スズメもHPは5割を切ってきた。主戦場の崖下にいるよりは遥かに暇とはいえ、攻撃パターンが変わって攻勢が激しくなってくるとどうなるか分からない。気を引き締めていかないとね。
あ、また瘴気収束の効果が切れた。ずっと発動したままでいられるスキルではないので適度なとこで再発動しないといけないのは地味に面倒だけど、かなり瘴気は薄れてきたかな。
「危機察知、反応ありだよー!」
「よし、ちょうど効果も切れたから今回は俺が防御するよ」
「おう、ケイ、任せたぞ」
「ケイ、任せたかな!」
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 46/54(上限値使用:6): 魔力値 179/194
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値10と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 36/54(上限値使用:6): 魔力値 164/194
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
指定してから思ったけど魔法砲撃にした防壁系の魔法も地味に気になるね。まぁ今更言っても今はもう遅いので通常発動だな。統率の毒スズメが毒魔法の弾を撃ち出したのが見えたし、ここのみんなをカバー出来そうな位置にアクアウォールを二重生成!
<『複合魔法:アクアプロテクション』が発動しました>
よし、それほど魔法の攻撃力も高くないのかあっさり防御成功っと。他の属性の防壁も気にはなるけど、これはなんだかんだで地味に便利である。
「ほう、これが水の防壁なんだね。風の防壁とは随分と違うんだ? これは衝撃吸収みたいな感じかい?」
「水はそんな感じ。俺としては風の防壁が気になる」
「まぁそれはさっき見せた通りだよ。複合魔法にしなければ少し規模が小さくなるくらいかな。……状況次第では周囲に迷惑をかけると学習したところだけどね」
「あー、確かにさっきのはな……」
あれは確かに風の防壁の欠点かもしれない。とはいえ水の防壁の衝撃を吸収する性質以上に、そもそもの攻撃を逸らすという風の防壁の性質は厄介ではある。
防御系の魔法とはいえ、この辺りはこれから結構重要になってきそうだよね。多分だけど、敵も使ってくるようになってくるだろうから、その突破方法も考えないと駄目なんだろう。
それにしても、少し前の凍結した翼竜の食べっぷりからして回復アイテムがいまいちっていうのが微妙に釈然としない。この毒スズメって絶対大食いだよな。ん? あ、もしかして……?
「そういや回復アイテムは毒スズメには微妙って話だったよな?」
「あー、そうなんだよねー。果物に見向きもしないし、肉にも魚にも反応薄くて困っちゃうんだよね」
「弥生さん、反応薄いやつってどんなやつ?」
「どんなやつって焼き立ての美味しいやつだよー? ……あれ? あ、そっか、そういう事。なんでこんなの見落とすかなー?」
「凍結した翼竜を食べるのなら、熱くない方が良いんじゃないかな。……弥生、ルスト、前に雪山に行った時のあれは今持ってるかい?」
あ、言おうと思ってた事を弥生さんとシュウさんに持っていかれた。っていうか、流石サファリ系プレイヤーだね。当たり前のように雪山に行った時とか言ってるよ。ところであれって何だろう?
「使いどころに困ってたけど、あるにはあるよ。はい、天然の
「私も持っていますよ」
「アイテムとして氷柱があるのかよ!?」
まだ雪山に行った事はないからそんなアイテムの存在を知らなかったわ! でも、それを投げたら氷の操作って手に入りそうだよね。……うん、それは今すべき事じゃないな。
「よし、そんなアイテムがあるならやってみるしかないな。アル、天然の水をくれ!」
「ほいよ。でも、ケイも持ってなかったか?」
「あるにはあるけど、大量にはないんだよ」
<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します> 行動値 33/54(上限値使用:6)
アルがインベントリから出してくれた天然産の水を操作の支配下におく。アイテム加工には基本的に天然産の方が確実だからな。水は水分吸収で近くの川まで調達しに行ってもいいけど、水なら木の人は自分の回復用に持っている。
その水と氷を使っていこう。……後でヨッシさんの氷魔法でも試すけど、こっちが確実性は高い。今までの経験的にアイテムの加工には天然産の方が遥かに重要なはず。
「なるほど、そういう事だね。弥生、ルスト、その水の中に氷柱を入れておくれ」
「はい、分かりました」
「うん、意図は分かったよー!」
そして俺の操作する水球の中に天然の氷が入れられていく。……ふむ、氷自体は操作出来ないけど水の操作Lv6もあれば水球の中から落とすことはないか。
「ヨッシさん、ハーレさん、何でもいいから食べ物系をこの中に突っ込んでいってくれ」
「冷やした食べ物を作るんだねー! 了解です!」
「そっか、これは盲点だったね」
そう言いながら、ハーレさんは果物を、ヨッシさんは生肉、生魚、焼いた肉、焼き魚を氷柱で冷たくなっているだろう俺の操作する水球の中に放り込んでいく。……これは水球よりは岩の生成で器を作って、そこでやった方が良さそうな気はするね。
まぁ今は土の昇華を持ってる知り合いが近くにいないからどうしようもないけどさ。いや、探せばラックさん達がいるとは思うけどね。
「……何やってんだ、ケイさん達?」
「有効そうな回復アイテム作りー!」
「まぁ正直なところ、回復量自体は下がりそうだけどな」
「あー、これって食べ物を冷やしてんのか。そういう事なら俺もいくらか氷柱持ってるから使うか?」
「マジか、ダイクさん!?」
「おう。レナさんに結局雪山に連行された時に採ってきたやつだがな」
「あー、あの時のか」
青の群集との前編での共闘イベントの後にレナさんが雪山に行くのにダイクさんを連れて行こうとしてたもんな。結局連行されて雪山まで行ってたんだな。まぁこの際それは気にしないとして、上手くいくようであれば使わせてもらおう。
「ケイさん、アイテム名に変化あり!」
「お、マジか!? ヨッシさん、どんな名前になってる?」
「『冷たい蜜柑』と『冷たい生肉』と『冷たい魚』だね。焼き魚と焼いた肉は駄目になったよ。蜜柑は少し効果が上がって、生肉と魚は少し効果が落ちたね」
「焼いたのは駄目なんだな。よし、とりあえずそれで試すぞ! サヤ、ハーレさん、毒スズメに向かって投擲準備! 弥生さん、下への連絡よろしく!」
「そこはわたしが適任かな」
「分かったかな!」
「了解です!」
回復アイテムを冷やす事で変化する事はこれで確定。そしてそんなアイテムがあるという事は使い道があるって事だ!
「あ、ガスト、急にごめんね。ケイさんが毒スズメに有効そうな回復アイテムを見つけてね。うん、そう。今作ったとこ。うん、これから試してみるけど大丈夫? あ、うん。合図したらやればいいんだね。うん、了解」
そしてすぐにガストさんへフレンドコールを行ってくれた弥生さんが確認を取ってくれている。弥生さんの言葉的には問題なさそうだね。
「うん、確認取れたよ。少しの間防御陣形に変えるから、その後に試してくれってさ。合図は上空にファイアボール放つってさ」
「ほいよ。それが見えたらサヤとハーレさん、頼んだ!」
「分かったけど、3種類あるのはどうするのかな?」
「私は蜜柑だねー! 肉は私が投げるには少し大きいです!」
「……そういやそうだな。んじゃハーレさんが蜜柑で、サヤは肉と魚を順番に頼む。違いを見たいからバラバラの方向に投げてくれ」
どれが有効かは試してみないと分からないからね。どれも駄目だという可能性もあるし、どれも有効だという可能性もある。こればっかりは試してみないとわからないんだよな。
「お、そういう話なら俺も手伝うぜ?」
「良いのか?」
「さっきからチラッと見てたしな。俺も投擲持ちだしな」
「そっか、それなら魚を頼む」
「おう、任しとけ!」
そしてさっき攻撃を逸らしてしまった側とは反対側のPTの人から協力の申し出があった。赤の群集のサルの人で、投擲持ちならば頼りにさせてもらおう。
「ヨッシさん、上手くいくかは分からないけど氷魔法で回復アイテムを凍らせられないか試してみてくれ」
「……うん、やってみる。『アイスクリエイト』『氷の操作』」!
ヨッシさんはヨッシさんで、蜜柑と生肉と生魚を取り出して氷魔法で凍らせられないかを試していっている。食べ物に関しては焼くことばっか考えてたけど、冷やすという方向性もあるんだよな。……これが終わったらハーレさんがカキ氷を食べたいとか言いそうな気もする。
「崖の上の実験、頼んだぞ!」
「合図いくぞー!『ファイアボール』!」
「合図が来たぞ! 投擲開始!」
「「「『投擲』!」」」
ルアーの声とともにキツネの人が打ち上げたファイアボールを合図にして冷やされた回復アイテムがそれぞれ別方向に投げられていく。お、毒スズメが反応した。
……あれ? 個体によって食べに行く種類が違うっぽい? あ、一番動きの早い本体が狙うのは冷たい生肉か。統率の方は冷たい魚を食べに行っている。ふっふっふ、これは予想以上に良い結果だね。
「チャンスだ、一斉に畳み掛けろー!」
そしてしっかりと肉を食べた本体の毒スズメはヒノノコと同じように苦しみ、動けなくなっていた。ふふふ、作戦大成功!
「あ、凍らせられたよ!」
「マジか!?」
「うん。あ、でも凄い勢いで解けてるね。これは相当素早くやらないと厳しそう?」
「完全に凍ってなくても冷たきゃいいから問題なし!」
「……何やってんのかと思えば、そういう事か」
「あ、ベスタ」
いつの間にやらすぐ近くまでベスタがやってきていた。まぁここだけ露骨に他と違う事をやってればベスタなら気付くか。
「氷魔法で凍らせるのはまともに出来ないって話だったが、使い手次第なんだな」
「え、ベスタさん、そうなの?」
「そのくらいなら試してないわけがないだろう。……ヨッシ、関係ありそうなスキルか何かはあるか?」
「……関係ありそうなものなら、特性の異常付与か、調理上昇Ⅰかな……?」
「もしくは両方ってとこか……。まぁいい、少なくともヨッシの氷魔法なら時間は短いとはいえ効果はあるんだな?」
「あ、うん、かなり効果は短いけどそうみたい。火は天然じゃないと無理だけど、多分凍らすのはすぐに解けて元に戻るから少しだけでも出来るんだと思う」
「……流石にこれから氷柱を取りに行ってる時間は無いからな。よし、ハーレはラックに連絡して灰のサファリ同盟へ通達。加工条件を探ると同時に成功したら増産に移るように伝えてくれ。赤の群集は弥生に任せていいか?」
「了解です!」
「それは良いけど、ベスタさんは?」
「俺は直接話して回る。ケイ達は量産しておけ」
「ほいよ!」
そんなやり取りを経て、冷やした肉による毒スズメ妨害作戦が突発的に開始した。さーて、隙だらけのボスともなればここからは相当楽になる。まぁ苦戦しそうな感じでもないけど、この辺の情報は後々の周回にも役立ってくるはず。
そしてベスタや灰のサファリ同盟や弥生さんが通達して、氷魔法で凍らせるには調理上昇Ⅰが必須という事が確定していた。その後すぐに量産に移った成果もあり、ほぼ何もさせないままに毒スズメの本体も2割を切りそうになっている。
でも氷魔法で冷やしたやつは凄い早さで無意味になったので、何人か持っていた天然産の氷柱を使って冷やしたのが一番効果あり。やっぱりアイテム加工には天然産のものが必須みたいだな。天然の氷が必要とか、そりゃ見落とすよ。
まぁその辺は赤のサファリ同盟のおかげでなんとかなったし、意識を切り替えていこう。ヒノノコの事を考えると毒スズメも2割で何か大技がある可能性は高いよな。ヒノノコ戦みたいにいつでも崖上のメンバーも参戦出来るように気構えはしておいた方が良いかもね。
あ、変化が始まっていく。群集拠点種の根がヒノノコの時と同じように土台が組み上げられて、その上に止まった毒スズメのクチバシの先に瘴気が集まっていく。これはヒノノコの時と同じパターン!
これは実際に食らってみないと効果は分からないけど、応用スキルに分類される凶悪な毒になっている気がする。これは潰すのが確実だろうね。
「ここからが正念場だ! 崖上のやつも一斉に降りてこい!」
「ルアー、それでいいんだな?」
「あぁ、ベスタ、それで構わねぇ! 遠慮は要らねぇから、邪魔な根を排除してくれ!」
「全員聞いたな! 総攻撃開始だ!」
ベスタのその宣言により、崖上でいた人達が一気に雪崩降りていく。さて、そういう事なら俺達も行きますか。大暴れしてここの群集拠点種の根を排除してやるぜ。
「さー、みんなで暴れるよー!」
「僕は待っているから、弥生とルストは行っておいで」
「あれ、シュウさんは行かないの?」
「流石にこれだけの人数がいればね? それにたまにはこうやって戦闘中の自分のスクショもほしくはないかい?」
「もうシュウさんってば。そういう事ならお願いしようかな」
「あぁ、行っておいで、弥生」
よし、この夫婦については何かを考えるのはやめておこうっと。ため息をついて呆れている風なルストさんの様子を見る限り、多分言っても何も変わらないやつなんだろう。
まぁ確かに大人数だし、俺達も無理に行く必要はないのかもしれない。でも折角だし、思いっきりあの根をぶっ飛ばしたいという気持ちもあるにはあるんだよな。何だか暴れ足りない感があるし、ヒノノコ戦でみんなが一気に降りてきたのはこういう心境だったのかもね。
「おい、ケイ」
「あれ? ベスタは行かないのか?」
「今回は俺は補佐に徹するつもりだからな。そこで少しケイに相談なんだが……」
「……もしかして瘴気魔法をぶっ放せとか?」
「察しが良いじゃねぇか。その通りだ」
「それ、必要か?」
正直、今崖下に相当な人数が降りていったのであまり意味は感じないんだよな。絶対にデメリットあるだろうし……。
「ま、最後の大盛り上がりの為の演出だな。ちなみにトドメはガストの浄化魔法って事で算段はついている」
「決定済み!? そういう事は先に言っててくれない……?」
「纏瘴の時間の問題もあったからな。……誰かさんが効率いい手段を見つけた事で、効果時間に余裕があるからな」
「……なるほどね」
ボス戦開始から40分位だから、あと20分位は効果時間に猶予がある。それに瘴気魔法は誰かがどこかで試し打ちしておいた方が良いのは間違いないだろう。……他のエリアで試している人がいないとは思えないけど、実際に見たいってのもあるんだろうね。さて、どうしようかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます