第371話 瘴王毒スズメ、討伐支援 上
陥没エリアの崖上で瘴気の除去を続けていると、徐々に瘴気の濃さが薄れてきた。纏浄を使っている弥生さんとルストさん、纏瘴を使っている俺とアル以外のみんなで遠距離から威力控えめの攻撃で翼竜を分裂もしていっている。
「『鷹の目』『識別』! よし、毒スズメの本体は群集拠点種の枝に止まってるやつだ!」
「統率された個体は引き受けるよ。『コイルルート』!」
「あいつだな、目視した。ライ!」
「おうよっと。『ポイズンプリズン』! 攻撃は任せるぜ、ルアー!」
「オオカミ組、根の妨害に動け!」
「「「「「おう!」」」」」
「ははっ、頼りになるオオカミ集団だな。赤の群集も負けてらんねぇな! 『高速遊泳』『斬化ヒレ』『連閃・浄』!」
「お、落ちてきたな。さてと、聞いてたやつを試してみるか。『並列制御』『浄化の光』『ファイアボム』!」
崖の下ではルアーを筆頭に生成された3体の毒スズメを相手に頑張って戦っている。本体は隠れているようで、ガストさんの鷹の目で位置を特定し、識別で本体の判別。そこからルアーが飛んでいき、斬り刻んで落下し始めた毒スズメをキツネの人が浄化の力を帯びたファイアボムで吹き飛ばしていた。
オオカミ組は瘴気を纏った状態で、ここの群集拠点種の木の根の妨害を行っている。蒼弦さんを筆頭に頑張ってるね。久々にオオカミ組の戦いを見た気がするけど、連携が凄まじい精度になってるな。
赤の群集の方は初めて競争クエストでルアー達と戦った時のメンバーと知らない人の1PT分か。イカの人と、キツネの人と、チューリップの人と、ライさんと、ルアーの5人組だったはず。まぁイカは以前より巨大化してるし、キツネは二尾になってて様子はかなり違うけども。チューリップはパッと見はそれほど変わらないかな?
「『回鱗刃・浄』! よし、これで2割削ったぞ」
「攻撃パターンが変わりますので要注意してください! 統率の個体が増えますよ!」
そして今の一連の攻撃によって今の毒スズメの本体はHP8割くらいに減っていた。ふむふむ、ボスによって攻略方法は地味に違うのか。でもイカの人が注意喚起をしているから、行動パターンの変化のHPはヒノノコと同じか……?
あ、瘴気収束の効果が切れた。ほぼ同時にルストさんの浄化の光も効果が切れているね。弥生さんとアルの方も同じくか。
「ルストさん、再発動するぞ」
「そうなりますね。『浄化の光』!」
<行動値を1消費して『瘴気収束Lv1』を発動します> 行動値 52/54(上限値使用:6)
「アルマースさん、こっちもだよ。『浄化の光』!」
「あぁ、分かってる。『瘴気収束』!」
はい、再発動完了っと。瘴気収束の効果が切れた事で散らばり始めた瘴気を再び集めていく。ルストさんも浄化の光を再発動して、瘴気の除去を進めている。うーん、結構瘴気は薄れたと思っても集めると禍々しい瘴気の塊が出来上がるね。まぁそういうスキルなんだけど。
常闇の洞窟の入口の方で瘴気が溢れ出て来ないようにしている集団も攻撃頻度は高いみたいだけどうまく凌いでいるね。赤の群集の方でオオカミ組がヒノノコ戦でやってたみたいに防衛線を用意しているようである。うーん、プレイヤー名は遠くて見えないけどクマが数人、あとイノシシとネズミとリス……? 電気魔法を使ってる人もいるっぽいな。
それにしても崖の上から瘴気の除去はしているけど、割と暇だ。まぁガッツリと見学は出来るので、これはこれで新鮮な気分。あ、言ってた通りに毒スズメから新しい統率されたスズメが生成されて、さっきまでは3体だったのが4体に増えた。
てか地味に耐久力あるな、この統率されたスズメ。ここにも強化用のスキルでもあるのか?
「あ、新しく統率された個体が増えたね」
「3体から4体に増えたー!?」
「あれってヨッシの同族統率と同じなのかな?」
「うーん、どうなんだろ? Lvが上がるとどこかで数が増える?」
「おや、ヨッシさんは統率持ちなのですね」
「あ、はい。何か赤のサファリ同盟で情報あったりします?」
お、駄目元かもしれないけどもシュウさんに聞いてみるのか。まぁ今の毒スズメの行動を見れば気になるよな。3体から増えるのであれば、役立つかもしれないし。
「どうだっただろう? 弥生、統率に関しては何かあったかな?」
「統率関係はないねー。統率持ちは赤のサファリ同盟には居ないからねー」
「あぁ、そういえばそうだったね。おっと、危ないよ弥生。『ウィンドウォール』」
「あ、シュウさん、ありがとね」
「弥生さん、シュウさん、イチャつくのはせめてリアルだけにしてもらえませんか……?」
「あぁ、済まないね、ルスト」
「あはは? ごめんね、ルスト」
「……本当にお願いしますね。赤のサファリ同盟の方々は経緯を知ってる方が多いですけど、ここではそうではないですし……」
ルストさんの言い方といい、今の間に寄り添っていった弥生さんといい、隙あらば全力でイチャつくんだな、この夫婦!? 見た目がどちらもネコなので微笑ましい雰囲気にはなるけど、普通にプレイヤーなんだよな……。
まぁこのゲームではパッと見では性別も分からないので、イチャついていても分かりにくいんだけどね。ルストさん的にはリアル側を知っているから何とも微妙な気持ちになるんだろう。
「おーい、崖上の方、翼竜の凍結を頼んだ!」
「あ、ヨッシ、出番かな?」
「うん、凍結なら出番だね。サヤかハーレ、ウィンドクリエイトで複合魔法はいける?」
「ふっふっふ、もちろんさー!」
「ここは私よりはハーレの方が適任かな」
なるほど、複合魔法で広範囲の翼竜の凍結をかけるんだな。えーと、翼竜を凍結させると毒スズメが食べに行くんだったっけ。
風魔法と氷魔法をそれぞれLv1で、コールドエアだったはず。ハーレさんも風魔法を持ってるから多分それを使うんだろうね。風魔法はみんな持ってるけど、俺とアルは瘴気の除去中だしな。サヤも持ってるけど、3人同時には無理だからここは仕方ない。
「ハーレ、行くよ! 『アイスクリエイト』!」
「了解です! 『ウィンドクリエイト』!」
そこそこ広範囲に冷気が広まっていく。うーん、でもどっちも昇華にはなっていないからそれほど効果は高くないみたいだね。ヨッシさんの状態異常特化のおかげでそこそこ凍結にはなったっぽいけど、それでも当たった翼竜の3割くらいか。
「氷魔法持ちは続けー! 『アイスニードル』!」
「おうとも! 『魔法砲撃』『アイスボム』!」
「『纏属進化・纏氷』『アイスニードル』!」
そしてヨッシさんとハーレさんのコールドエアに続き、次々と崖上から氷魔法は撃ち出されていた。あ、統率された毒スズメの4体が凍結状態になって落下していく翼竜を追いかけているね。
この状態になると本体の言う事を聞かなく……あ、いや違うな。一番移動速度の速い本体の毒スズメが真っ先に食いついてるし……。なるほど、どことなくハーレさんみたいなボスだな。
「……どことなくハーレみたいかな?」
「サヤ!? 私、あそこまで見境なくはないよ!?」
「「「「……え?」」」」
「なんでそこでみんなして疑問系なのさー!?」
いや、だってさ……? ハーレさんの今までの行動や、食欲に関しては欠片も演じてないという自白とか、色々総合的に考えると、そこはやっぱりみんなそう思うよね。
「うんうん、随分と愉快な人達だね。弥生とルストが気に入った理由もなんとなく分かるかな」
「シュウさん、それは内緒って約束だよ?」
「まぁこれくらいはいいじゃないか」
「もー、シュウさんってばー」
さてとどうやら気に入られている様ではあるけど、またそこの夫婦はイチャつき始めそうなのでスルーしていこう。うん、この夫婦は揃うと地味に面倒かもしれない。
イチャつきながらもしっかりと瘴気の除去も、時々くる翼竜の攻撃もしっかり防御しているんだから侮れないんだよね。
あ、瘴気収束の効果がまた切れたし、意外と効果が短いな。やってて分かったけどこれって戦いながらだと無理な感じだし、このボス戦では除去要員を用意するのが前提って感じみたいである。役割分担が重要か。
そして主戦場である崖下では魔力集中を発動している様子の毒スズメのHPはどんどん削られていっている。今の段階はあまり崖上への攻撃頻度は高くないから、こっちは比較的安全。まぁ翼竜はいるけども。
<行動値を1消費して『瘴気収束Lv1』を発動します> 行動値 51/54(上限値使用:6)
はい、もう一度再発動っと。まぁしばらくはのんびりとやりますか。……大人数での計画的なボス戦だと、主戦力じゃなければ割と楽なんだね。でもこれはこれで重要な役割であるのも間違いはない。
そしてボス戦の変化は5割を切った頃に訪れた。8割から5割の間はヒノノコとは違って毒スズメは物理攻撃がメインだったようである。
今まさに禍々しい毒と瘴気が混ざり合った昇華魔法が放たれようとしていた。ふむふむ、ここでその強烈な昇華魔法が来るのか。……ん? 毒の昇華効果は複合毒になって昇華魔法にはならないはずだから、複合毒の強烈な毒の複合魔法? ちょっと待って、連発出来るそっちの方が厄介じゃね!?
「ガスト、相殺を頼む!」
「了解だ、ルアー! 『並列制御』『ウィンドクリエイト』『ウィンドクリエイト』!」
その複合毒の魔法を散らすように、ガストさんの荒れ狂う暴風の昇華魔法が炸裂する。あー、多分だけどそれは失策だぞ。
「あ、それは大技過ぎる!?」
「……どういう事だ、ライ?」
「毒の昇華には昇華魔法はないんだよ。今のは複合魔法で相殺出来たはず」
「あ、そういやそうだった!?」
「……おーい、素でど忘れかい!」
今のはガストさんがついうっかりミスったって感じか。まぁたまにはミスする事は誰にでもあるさ。全てに最善の手を用意できる人なんている訳ないしね。
あ、蒼弦さんがガストさんと毒スズメの前に割り込んできた。蒼弦さん、どうするんだろうか?
「魔力値を回復させて立て直せ。それまでは俺らで時間を稼ぐ」
「……悪いな、蒼弦さん」
「なに、気にするな。俺らだって焦って盛大に失敗した事はある」
「まぁあれはボスが1人で突っ走っただけっすけどね」
「そうそう。俺らが止めたのに聞かないから……」
「カッコつけたいんだから、余計な事を言うなー!?」
「……やっぱりボスの座、変えないっすか?」
「でも何度ボス変更の勝負をやっても蒼弦がボスになるんだよな……」
「色々台無しだからサッサと動けー!」
うん、オオカミ組も強くなったみたいだけど本質的には知り合った頃と特に何も変わらないようだね。っていうか、何度もボス交代の勝負をやった上で蒼弦さんはボスになり続けているのか。ある意味すげぇな、それ。
そうしているうちに今の毒スズメは自己強化も魔力集中も切れているみたいだけど、毒魔法を連発するようになっていた。なるほど、毒スズメは5割からが魔法攻撃が主体になるんだな。
あ、統率の1体がこっちに向いてきているね。これは崖上の方に対しても攻撃頻度が上がってきたか。
「危機察知に反応ありだよ!」
「そうなると狙いは弥生かルストだね。まぁさせる訳はないんだけど。『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』」
「おー! 風の防壁だー!?」
「ウィンドプロテクションっていう複合魔法だね。風で攻撃の指向性をズラすだけなんだけど……あ、これは失敗したかな?」
そう言ったシュウさんの言う通り、渦巻く風の防壁によって統率の毒スズメから放たれた毒魔法が逸らされていく。普段ならこれで充分だけど、人が多い今は横に逸らすのはアウトー!
「うお!? なんで隣から!?」
「この状態で横に逸らすなー!?」
あ、やっぱりお隣さんに流れ弾が行った……。まぁサヤとヨッシさんが反応しているし、俺は俺で瘴気収束を発動中だから任せておこうっと。
「これは周りが危ないかな!? 『魔力集中』『強爪撃』!」
「そうだね。『アイスボム』!」
「サヤ、ヨッシさん、グッジョブ!」
「申し訳ない。この大人数での戦闘は初めてだったもので……。ご迷惑をおかけしました」
シュウさんも流石に今のは悪かったと思ったのか、お隣さんの赤の群集の人に頭を下げていた。うん、失敗してもすぐに謝れるっていうのは大事だもんね。シュウさんはいまいち掴みどころのない感じの人だけど、悪い人ではなさそうだ。
「あー、責めてねぇから気にすんな?」
「そういう事だな。まー、失敗に関しては多めに見ないと駄目ってのは色んなやつから聞いたしな」
「いえいえ、申し訳ない。以後気をつけますので」
「いいって事よ。それにしてもさっきの風魔法は地味にすげぇな」
「こういう状況じゃなきゃ普通に便利だよな」
「そうだね。防壁系魔法は属性によってかなり性質が違うから、状況によって使い分けが大事という事が今のでよく分かったよ」
「あー、確かに」
「実際に使ってみればよく分かるもんだよな」
何やらシュウさんは普通にお隣さんのPTの人と普通に雑談を始めていたよ。ふむ、この様子を見ている感じだと赤の群集も失敗に対する許容度が上がってきたかな?
それにしてもシュウさんは赤のサファリ同盟の強者って感じは全然しない。ガストさんがシュウさんの強さに関して曖昧な言い方をしてたのはこういう所なのかもしれないね。
「おう、悪い悪い。待たせたな」
「遅いぞ、ダイク。もう半分過ぎてんぞ?」
「うお、マジか! 今回はオオカミ組以外は赤の群集の戦力でやるって聞いてたからもうちょっとかかるかと思ってたんだがな」
そこに遅れてやってきた様子の大根の人が歩いてきた。っていうか、思いっきりダイクさんじゃん。あー、食事関係で遅れてログインって感じかな?
「あ、ケイさん達だ。おっす!」
「おっす、ダイクさん。見た感じ、今ログインしたとこか?」
「おう、そうだぜ。ホントは開始から居たかったんだけど、リアル都合でな?」
「あー、それは仕方ないやつだね」
リアル都合でログイン出来ないのは仕方ないからね。ゲームはあくまでも遊びなんだから、日常生活を壊してまでやるものじゃない。
過去のオンラインゲームではその手の問題も結構あったらしいから、長時間のプレイし過ぎはログイン制限って形でそれなりに対策はされてるしね。まぁ3連休以上にでもならなきゃ俺は制限に引っかかることもないから気にしてもないけど。
さーて、半分は過ぎたけどここら辺から攻撃も激しくなってくるだろうし、気を引き締めていきますか。
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