第370話 瘴王毒スズメ戦の準備


 赤の群集の森林エリアのボス戦に向けて移動を開始して、少しすればボス戦の場所となる陥没エリアに辿り着いていた。正確な位置は行ったことがなかったので分からなかったけども、他に急いで移動している人達の流れを見て着いていけば無事に到着出来た。

 っていうか、エリアの真ん中を通っている川の少し西側なんだな。見覚えはないけど近くまでのマップは埋まっていた。確か俺は情報収集か何かしてて見てなかっただけか。


「わー! 人がいっぱい集まってるねー!」

「予め時間を決めてたらこんなもんだろ」

「今回は予定通り支援になりそうかな?」

「そだね。まずは空いてる場所を探そう」

「了解っと。アル、人手が足りてなさそうなとこに移動だ。ちょっと浮かすぞ」

「おう、任せた」


 地上は混雑気味なので空飛ぶクジラ計画を実行中のPTとしてその優位点を存分に活用しよう。その前に暗視も発動して、見通しを良くしておこうかな。


<行動値上限を3使用して『暗視』を発動します>  行動値 59/59 → 56/56(上限値使用:4)

<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 56/56 → 54/54(上限値使用:6)


 よし、これでアルを浮かせられる。アルも小型化を解除して元の大きさに戻っていた。既に19時は過ぎているので、赤の群集も灰の群集もそれぞれにボス戦の準備を行っている。

 微妙に出遅れた感があるけど、流石に仕方ないか。さーて、どこか赤の群集の人と協力しないと流石に瘴気の除去は出来ないんだよな。


 飛んでいるクジラのアルで目立っているけど、既に準備を終えている人が多いみたいだからちょうど良い相手が見つからないね。ふむ、まだ主戦力が陥没エリアに突入はしてなくてボス戦は始まっていないけど、ぱっと見でヒノノコ戦より人数が多いみたいだしこれは急いだほうが良さそうだ。


「お、ケイさん達発見ー! こっちこっちー!」

「あ、弥生さんだ」

「ケイ、呼んでるみたいだしとりあえず弥生さんのとこに行くぞ」

「ほいよ」


 木に投げられつつ飛び跳ねている黒いネコの弥生さんが少し離れた所から呼びかけてきたので、そちらに移動していく。投げてる木は多分ルストさんだね。てっきり弥生さんやルストさんは主戦力の攻撃部隊かと思ったけどそうでもないようである。


「お、来た来た」

「夕方ぶりですね、皆さん」

「こんばんは、弥生さん、ルストさん。2人は主戦力じゃないのか?」

「ガストとルアーさんが張り切っちゃってたから任せてきたのさ! それに、わたしは今日は色々と不満があったからその埋め合わせなのですよ!」

「弥生さん、何かテンションがおかしくなってますよ?」

「だまらっしゃい、ルスト! お義母さんが急に訪ねてきたのはルストが理由でしょ! なんで携帯端末をゴールデンウィークで帰った時に実家に置き忘れて、今の今まで放置出来るかな!?」

「いえ、ですからてっきり紛失したものかと……」


 あ、リアルの方で色々あったっぽいね。うーん、今日の弥生さんの言動を思い返すと予定が狂いまくって鬱憤が溜まっているって感じなのかな?


「弥生、そろそろ落ち着いて。ルストも悪気があった訳じゃないんだし、僕が細かく確認せずすぐに新しいものに買い替えたのも悪いからね」

「まぁシュウさんがそう言うなら……」

「兄さん、ありがとうございます」

「ルスト、ゲーム内でその呼び方は禁止だよ?」

「あ、そうでしたね。すみません、シュウさん」


 そこに出てきたのは白いもう一匹のネコである。カーソルは赤だし、シュウさんという名やルストさんが兄さんと呼んでいた。という事はこの人が弥生さんの旦那さんでルストさんのお兄さんなんだな。

 っていうか、弥生さんがシュウさんに引っ付いて甘えているなー。見た目はネコ2匹がじゃれ合ってるように観えるけど、実態としては夫婦がイチャついてるだけなんだよなー。


「あぁ、失礼したね。僕は赤のサファリ同盟所属のシュウ。弥生やルストから面白い人達がいるとは聞いているし、2人が色々とお世話になったみたいだね。ありがとう」

「あ、いえ、こちらこそお世話になってます。俺はケイって言います」


 そしてみんなもそれぞれに挨拶をしていった。なんだかシュウさんはのほほんとしてて、どことなく緩い感じのする人だね。何となくだけどつい敬語になってしまったよ。でもこの人がバーサーカーになった弥生さんを唯一止められる人なんだね。……雰囲気的にあまりその光景が想像つかないな。


「わたしとシュウさんとルストは、今回は支援に回るからね」

「これは僕のワガママでね。皆さんに挨拶をしておきたかったのもあったんだ。どうだい、僕らと一緒にやらないかい?」

「みんなどうするー!?」


 あれ? いつもは勝手に独断で決めるハーレさんが、勝手に決めずに普通にみんなの意見を聞いてきた……? くっ、とことん俺が気付いてなかっただけでこの辺はわざとだったのか。食べ物関係以外は冗談抜きで演じてたのが多いっぽいな。

 そして今のハーレさんこそが素なのだろう。弥生さんに言われるまでは元気があり余ってるように見えるようにしてたって事なんだな。


「俺は別にいいぜ」

「私も問題ないかな」

「うん、私もいいよ」

「ケイさんはー!?」

「あ、うん、俺もそれで良いぞ」


 他の事を考えている間に、既にみんなの意思確認は済んでいた。それにしても、この状況で一緒にやろうという提案って事は元々そのつもりでいたって事なんだろうね。


「それならよろしく頼むね」

「本来なら連結PTにしたいところなのですが、同じPTですと瘴気の除去が出来ませんのでこのままでお願いします」

「ま、それについては仕様上の問題だから仕方ないな」


 そういう事で俺ら5人と弥生さん、ルストさん、シュウさんの合計8人となった。まぁ瘴気の除去だけならこの人数でも充分か。それに場合によっては出遅れた事もあって協力出来ない可能性もあったもんな。


「お、ケイ達は間に合ったか」

「あ、ベスタ。何やってんの?」

「崖上メンバーの瘴気の除去の組み合わせの確認に回っている。……お前らのとこは問題なさそうだが、ハーレは弥生の方のPTに入っとけ。そっちの方が狙われた時の確認がしやすい」

「あ、そだね! 了解です!」

「そっか、纏浄を使うPTにいたほうがいいのか」

「そういう事だ。そういう微調整をしているとこだからな」


 なるほど、確かに危機察知持ちの割り振りは重要だよな。それでボスからの攻撃の狙いを絞るんだから、重要度は高くなる。事前準備が出来る今回はその辺はしっかりとしておいた方がいいのだろう。


<ハーレ様がPTを脱退しました>


 そしてハーレさんが俺らのPTから抜けて、シュウさんのPTの方へ入っていく。まぁ別のPTになったとはいえ、一緒にやる事は間違いないからね。


「あ、そうだ。今回の主戦力って誰?」

「ルアーのPTメンバーにガストを加えたメンバーと、灰の群集からはオオカミ組だ。基本的には灰の群集で主戦力になってなかった奴がほどんどだが、オオカミ組は防衛班って重要な役割ではあったがほとんど戦ってないからな」

「なるほど、それは納得」


 オオカミ組は時々抜けた攻撃を迎撃してたりはしたけども、基本的には灰のサファリ同盟を守ってただけだもんね。そういう事情なら今回主戦力として参加していても不思議ではない。


「とりあえずだ、俺が一通り確認を終えたら号令をかける。そこからボス戦の開始だ」

「基本的には崖上はヒノノコ戦と同じだからねー!」

「聞いている感じだとそうだね。ところで弥生、そろそろ皆さんの視線が痛いよ?」

「あ、つい!? いやー、失礼しました!」


 シュウさんに窘められて弥生さんがシュウさんに引っ付くのを中断していた。うん、夫婦仲は良いみたいだけど、流石に人目が多いとこでは遠慮願いたい。見た目はネコ同士でじゃれ合ってるだけだけども……。


「……まぁいい。俺は確認と人員の微調整を終わらせるから待機しておけ」

「ほいよ」

「はーい!」

「分かったかな」

「了解」

「わかったが、ベスタも大変だな」


 そうしてボス戦の調整に向けてベスタは走っていった。今回は言ってた通り、ベスタは徹底的に裏方に回るつもりみたいだね。

 赤の群集も少し前ならこんな作戦は無理だったんだろうけど、意識改革も進んできているようでトラブルも特に見られないもんな。後々対戦型のクエストがあれば強敵も増えてそうではあるけど、力量差があり過ぎて蹂躙するだけってのも楽しみは薄れるからね。そういう意味では赤の群集も多少は強くなってもらわないと。


 そしてしばらく待機している。さてと、それなりに時間も経ったしそろそろじゃないかな?


「ルアー! 崖上の準備は完了した!」

「了解だ、ベスタ! 行くぞ、ボス戦の開始だ!」

「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」


 そのルアーの声に呼応し、崖上から飛び降りていく集団がいた。ルアーを筆頭にした主戦力の連結PTのようである。さてと、俺らもボス戦の範囲に入るとするか。


<ワールドクエスト《この地で共に》のボス戦に参加しました> 参加回数:10


 ボス戦の範囲に入ると同時にボス戦の参加回数もカウントされた。よし、これで本格的にボス戦の開始である。さて、瘴気の除去をやっていくぞ!


「わたしとルストで纏浄を使うね。シュウさん、防御任せてもいい?」

「僕は今回のタイプのボス戦は初めてだからね。弥生の指示に従うよ」

「ありがと、シュウさん。ハーレさんは危機察知をお願いね?」

「任せといてー!」

「……私の意見は聞かれないのですね。いえ、やりますけどもね」


 ドンマイ、ルストさん。さて弥生さんとルストさんが纏浄という事は、俺らの方で纏瘴を使って瘴気収束をするって事になるな。

 えっと、ここの翼竜は凍結が有効って話だからヨッシさんはそっちに回ってもらおう。そして瘴気収束はまだ使ったことがないから正確なところは分からないけど、自由度が低いとはいえ若干操作系に近かったのでサヤには不向きだね。そうなると……。


「アルと俺で纏瘴を使うぞ。弥生さんはアルの背中の上で、ルストさんは俺と地面でいいか?」

「うん、それでいいよ。シュウさんも一緒にね」

「それが良いだろうね。アルマースさん、背中の上を失礼するよ」

「おう。ところでシュウさんはどういうタイプの戦闘スタイルだ?」

「あぁ、まだ言ってなかったね。僕は光属性と雷属性の魔法型だよ。まぁ光魔法はまだ無いから風魔法と電気魔法がメインだね」

「なるほどな。まぁよろしく頼む」


 そんな会話をしつつ、アルの上に弥生さんとシュウさんが跳び乗っていく。それにしてもシュウさんは魔法型のネコなのか。あれ、ルストさんって魔法は興味ないって言ってたけど身内に思いっきり魔法型の人がいるじゃん。

 あ、でもガストさんも魔法は強いか。……単純にルストさんが興味を示してなかっただけって事かな。……魔法は魔法で強いのに勿体無い。でもそれを決めるのは個人の自由だもんな。


「……何か失礼な事を考えていませんか?」

「……気のせいじゃない?」

「ルストが魔法に興味無かったのは事実だよね?」

「……それもそうですね。シュウさん、ガストさんには逃げられてしまったので今度魔法について鍛えて貰ってもよろしいですか?」

「いいよ。それにしても、あのルストに興味を持たせるとは大したものだね」


 弥生さんといい、ルストさんといい、そしてシュウさんも地味に観察眼が鋭いな!? もう俺が何を考えていたかの内容を理解しているのを前提にして話が進んでいる。

 んー、俺ってそんなに考えてる事が分かりやすいのかな……? まぁ、今それを考えても仕方ないか。とにかくやるべき事をやっていこう。


<『瘴気の凝晶』を使用して、纏属進化を行います>

<『同調強魔ゴケ』から『同調強魔ゴケ・纏瘴』へと纏属進化しました>

<『同調打撃ロブスター』から『同調打撃ロブスター・纏瘴』へと纏属進化しました>

<『瘴気制御』『瘴気収束』が一時スキルとして付与されます>


 よし、纏瘴が終了。あー、ハサミとか見える範囲の部分の色合いが禍々しいものになっている。うーん、必要だとはいえあんまりこの禍々しい見た目は好きじゃないな。


「さーて、わたしもいくよ。『纏属進化・纏浄』!」

「私もいきましょう。『纏属進化・纏浄』!」

「俺もだな。『纏属進化・纏瘴』!」


 そして弥生さんとルストさんは纏浄を、アルは俺と同じで纏瘴を行っていった。暖かな光を放つ黒ネコと何だか神々しい感じの蜜柑の木が誕生しているね。そして禍々しいクジラと木も誕生していた。

 弥生さんは元々黒ネコだったから纏瘴は気になってなかったけど、クジラや木は地味にインパクトあるなー。まぁヒノノコ戦の時にも同じ種族の他のプレイヤーはいたけど、身近で見るとまたなんとも不思議な感じである。


「それじゃ瘴気の除去を開始するよー! 『浄化の光』!」

「いくぜ。『瘴気収束』!」


 アルのクジラの背の木の前に瘴気が集まっていき、浄化の光によって瘴気が除去されていく。見える限りの崖上の人達も同様に瘴気の除去を開始していた。さて、俺もやりますか。


<行動値を1消費して『瘴気収束Lv1』を発動します>  行動値 53/54(上限値使用:6)


「いきますよ。『浄化の光』!」


 俺とルストさんのセットでも瘴気の除去を開始していく。さて、ここからはボスの行動に気をつけながら、徹底的に瘴気の除去だな。

 ここからはほぼ反対側になる常闇の洞窟の入口部分でも同じような光景が遠目ながら見えているから、今回は岩で封鎖するのではなく常闇の洞窟を出る前に消し去ってる様子。さて、ボスがそれを大人しく見逃してくれるとは思わないけどどうなるかな。

 

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