第369話 現地に向けて出発


 晩飯の準備の為に現実へと戻ってきた。さてと、今日の晩飯は例のアジフライだな。……昼間のカツ丼では悲しい事になったけども、その結果として晩飯には何の影響もないからね。アジフライを作るのを手伝ってから、味わって食べて、ゲームを再開して赤の群集の森林でのボス戦だ!


 そしてリビングへと移動していく。晴香は今回は俺の部屋にいなかったから、先にリビングにいるのかと思ったけど居ないな。どうやらまだ自分の部屋っぽい。まぁ、晴香が料理絡みを手伝うとトラブルの可能性もあるので別にいいか。


「おう、圭吾。なんか用事があるから晩飯を前倒しして欲しいんだってな?」

「あ、父さん。まぁ、そうなるけど問題あった?」

「いんや、別にないぞ。そうそう、昼飯の時に何か元気なかったからさっきスイーツを買ってきといたぜ」

「お、マジで? 父さん、サンキュ」

「良いってことよ。みんなの分はあるから、圭吾の好きなタイミングで食ってくれ」

「ほいよ」


 昼飯の時のあれは俺の自業自得だっただけだけど、父さんに気を遣わせてしまったか。それにしてもスイーツか。父さんは甘党だし、さては理由をつけてただ自分が食べたい物を買ってきたな? まぁ文句を言うような事でもないので、ありがたく食べさせてもらおうかな。よし、デザートにしようっと。


「あ、圭ちゃん、そろそろアジフライを揚げていくから手伝ってね」

「ほいよ」


 そしてキッチンにいる母さんから声がかかってきたので、手伝いに向かう。ふむ、アジ自体はもう既に捌き終えて、あとは衣をつけて揚げるだけの状態だね。


「圭ちゃんは衣をつけていってね」

「分かった。ところで父さんの言ってたスイーツって?」

「冷蔵庫の中にある少し良いプリンね。あ、でも1つ違うプリンがあるけど、それはーー」

「おー!? 大きいのが1つあるー! これ貰ったー!」

「あ、晴ちゃん!?」


 いつの間にやら冷蔵庫の中を覗き込んでいた晴香がその手に持っているのは、チラッと見えている他の4つのプリンよりも大きな手作り感のあるプリンである。そしてそれを既に晴香は一口食べていた。……あれ、母さんの雰囲気が……。


「はーるーちゃーん?」

「これ、もしかして食べたら駄目だったやつ!?」

「そうよー? 張り切って大きめなものを作ってたらお父さんが別のプリンを買ってきちゃったから、明日の朝のデザートにでもしようと思ってたのよ?」

「あう!? お母さんの手作り!?」


 あ、だから妙に大きくて手作り感があるのか。……それほど頻繁にではないけど、時々母さんはこうやってお菓子作りをしてデザートを用意する事もあるんだよな。父さん、悪意は一切無いんだろうけど、少しタイミングが悪いぜ。

 あーあ、思いっきり晴香が一口食べてるし、これはすぐに食べないと駄目っぽいな。まだ未完成っぽい感じもするし、これは完全に母さんを怒らせたかな。よく見るとキッチンの隅に果物の缶詰とかもあるからデコレーションする予定だったみたいだしね。うん、これは確認不足の晴香の自業自得って事で。


「……あぅ、ごめんなさい……」

「晴ちゃんに選択肢をあげます」

「……はい」

「次のお小遣い半額か、ゲーム1日没収か、晩御飯のおかずなしから選んでね?」

「あぅ!? どれも厳しい!?」


 あ、母さんが本格的に怒ってる。確実にどれを選んでも晴香が辛い選択肢の提示だな。さーて、俺は関係ないので、アジフライの衣をつけていこうっと。


「……晩御飯おかずなしで……」

「分かったわ。あなた、買ってきたプリンは明日の朝とかでも良いかしら?」

「おう、問題ないぞ。……晴香、確認なしに不用意に食べるもんじゃないぞ?」

「……はーい」


 おかず抜きとなったしょんぼりしている晴香に父さんが励ましの声をかけていた。まぁ、よく見ればそもそも梱包すらされてないプリンだったもんな。不注意過ぎる晴香が悪い。



 そんな雰囲気で、俺はアジフライの衣をつけ終えて、母さんがそれを揚げていく。そしてそれが今日、晴香の口に入る事がないのは確定だ。ま、明日の弁当用に多めに用意してるっぽいけどね。

 食い意地の張りすぎも、時にはこういう事もあるという事だね。色々晴香にもあるのは弥生さんが引き出したので分かったけれど、食い意地には関係なかったみたいだし同情の余地なしってことで!



 ◇ ◇ ◇



 一口だけ食べられた大きなプリンを母さんが手早く果物と生クリームでデコレーションしたデザートとおかずが抜きになった晴香がしょんぼりしながらの晩飯を食べ終え、再びログインをしていく。

 7時が割と近かった為、後片付けは父さんが代わってくれた。父さん、ありがと!


 そしていったんからのお知らせも特に無かったので、即座にゲームの中に入っていった。ログアウトしたのがミズキの森林と赤の群集の森林エリアとの切り替えの直前の場所なので、そこにログインだね。

 さて時間的には7時ぎりぎりか。みんなは流石に集まってるかな? とりあえず夜目を使おうか。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 60/60 → 59/59(上限値使用:1)


 よし、視界良好! 周囲を見回してみれば、みんな来てるみたいだね。


「お、ケイも来たな」

「お待たせ。何とか間に合ったな」

「ハーレ、一体どうしたのかな?」

「ケイさん、もしかしてハーレっておばさんを怒らせた?」

「あー、うん、ちょっとな」

「わー!? ケイさんそれ内緒ー!?」

「内容は言ってないけどな」

「内容を言うのは禁止ー!」

「うん、大体想像つくから問題ないよ」


 どうやらヨッシさんは母さんのあれを知っているようである。そういや前々から土日に母さんとハーレさんが一緒に出かける事もあったけど、その辺にヨッシさんが関わってたりするのかな? 母さんもヨッシさんの事は結構知ってる感じだったし。

 俺があんまり興味を示してなかっただけで、母さんとヨッシさんの親との交流はあったのかもしれないね。

 

「……何かあったっぽいが、もう時間はあんまりねぇぞ。とにかく移動だ」

「それもそうだな。アルは……今回は木でログインか」

「ま、一応な。移動するから、全員乗ってくれ。『樹洞展開』『根脚移動』『上限発動指示:登録1』『上限発動指示:登録2』!」

「ほいよっと」

「ボス戦、頑張ろ……」

「はい、ハーレ。これ食べて、少し元気出してね」

「あー!? イチゴだー!?」

「この辺ウロウロしてたら見つけてね。回復量はイマイチだけど、そこそこ美味しいよ」

「ヨッシ、ありがとー!」

「やっぱりヨッシってハーレの扱いに慣れてるよね。やっぱり長年の付き合いかな?」

「まぁそうなるんだろうね」

「さー、ボス戦頑張るぞー!」


 ヨッシさんによるハーレさんの餌付……いや、気分転換の為のイチゴの提供によって少ししょんぼりしていたのが復活していた。そしてみんなは牽引式で小さくなったクジラに引かれるアルの木の樹洞の中に入っていく。


「あ、そうだ。アル、赤の群集の森林のボスってどんな感じ?」

「あー、それか。統率と毒持ちのスズメだな。名前は『瘴王毒スズメ』だったか……?」

「スズメ……? スズメバチでヨッシさんみたいな感じ?」

「違う違う、スズメバチじゃなくて鳥の方だ」

「あ、そっちか」


 小鳥の方のスズメか。あんまり他のエリアのボス戦の情報を仕入れてなかったけど、統率持ちのスズメかー。そしてボスとしての名前は『瘴王毒スズメ』か。ヨッシさんもだけど統率持ちには名前に王が入るのかな?


「あ、それとだな。基本的に今回は俺らは支援の方に回ってほしいってベスタからの要望が来てるぞ」

「そうなのか? なんでまた?」

「極一部のPTだけで何体も初討伐を取るのは遠慮しておきたいとさ。後、今回は赤の群集に活躍させてやれとの事だ」

「あ、それもそうだな」


 確かに全エリアで15回分しかない初回討伐の主戦力をやるのは流石に悪いか。それに赤の群集の連携を鍛える為にも、その辺は余計な事をし過ぎない方が良いのかもね。

 まぁ独占したいって人もいるだろうけど、俺らはそういうのに拘る気もないしね。瘴気の除去とかの支援も必須ではあるし、ボス戦のカウントはそれでも増える。多分討伐称号も出るから、文句を言うような事でもないな。


「はい! 質問です!」

「……それは良いけど、先に出発するぞ?」

「あぅ!? それもそうだったー!?」

「ある程度は揺れは抑えられるようになったとは思うが、樹洞投影はどうする?」

「んー、それほど距離があるわけじゃないから別にいいんじゃないかな?」

「私はサヤに賛成」

「私は巣にいるから関係なしさー!」

「俺はどっちでもいいぞ」


 基本的にボス戦エリアまでは特に危険性はないからな。妙に巣が気に入って特等席にしているハーレさんや普通にアルが周囲を確認するだろうし、特に問題もないだろう。


「それなら樹洞投影は無しでいくぞ。その移動中にボスの概要を説明しておく」

「ほいよ」

「んじゃ出発するぜ!」

「「「「「おー!」」」」」


 そうして赤の群集の森林エリアに向けて移動を開始していく。今のアルなら揺れを抑えながらでもそれなりの速度は出るだろう。……まぁベスタの要望もあるにはあるけど、少し遅れそうな感じではあるから支援になるのは確定って感じかな。

 たまにはそういうのも良いよね。ヒノノコ戦では終盤は支援組も乱戦に混ざってきてたから、俺らもそうやってもいいだろうし。


<『ミズキの森林』から『始まりの森林・赤の群集エリア1』に移動しました>


 切り替えは目の前だったので、すぐに森林エリアに突入した。あ、そういえば灯りを用意してないから、樹洞の中は暗いままだ。まぁ夜目を使っていれば全く見えないって訳でもないけど、少しくらい灯りは欲しいね。


「流石に灯りは欲しいね。いつもケイさんに任せてるから私がやるよ。『発光針』!」

「おー! これはこれで雰囲気が違っていいねー!」

「確かにそうかな」


 俺の発光は基本的に暖色だけど、ヨッシさんの発光針は寒色だからね。光源の強さも違うから、かなり違った雰囲気にはなる。うんうん、たまにはこうやって違う灯りというのも良いもんだね。

 そしてアルの移動もかなり揺れが抑えられている。ルストさんから教えてもらった移動方法もかなり上達したみたいだね。


「それでハーレさんのさっきの質問って何だ?」

「あ、そうそう! 地形ってどんな感じなのー!?」

「あーそれか。森林深部と森林は群集関係なく陥没エリアだぞ」

「そうなんだ?」

「おいおい、青の群集の森林深部とか赤の群集の森林とか灰の群集の森林とかは行っただろう!?」

「そういやそうだった気もする……」


 どこも森林だし極端に変化のある訳じゃないので全然気にしてなかったけど、そういやそうだった気もする。っていう事は、陥没エリアの包囲の戦法自体は同じでいけるんだな。


「それなら私達は崖の上で瘴気の除去で良いのかな?」

「基本的にはな。ボスの方は序盤だけでもヒノノコと攻撃パターンは違うらしいが、そっちは今回の主力PTに任せればいい」

「森林の翼竜には凍結が効くんだったっけ?」

「あぁ、凍結で身動きが取れなくなると毒スズメが群がって食いに行くらしい」

「食べるんかい!? ていうか群がって?」

「ヨッシさんと同じ統率持ちで、統率された個体がいるんだよ。食ってる間は隙だらけらしいからな」

「……なるほど、統率持ちか。もしかして果物じゃなくて、焼いた肉とか焼き魚が有効?」

「あー、それらは食わないらしいぞ? 生のほうが食いそうな気もするが、生でもいまいちとは聞いた」


 毒スズメの誘導パターンでの行動はまさかの捕食だった。えー、でもヒノノコの毒持ちプレイヤーを食べる事を考えたらそれほど驚くことでもない……?

 ふむ、回復アイテムといえば蜜柑を筆頭に果物系の方が広まってはいるけど、焼き魚とか焼いた肉とかもある。でも焼いたのは食べないのか……。生もあまり食べないとなると無駄っぽい? でもヒノノコにあれだけ果物が効いたんだし、何か見落としがありそうな気もする。


 とにかくそれなりにボス戦攻略に向けての情報の検証は行われているっぽいね。聞いている限りだとヒノノコとは随分と戦い方が違うんだな。

 まぁ全部が全部同じでも面白くはないか。瘴気石を使って再戦できるなら尚更だね。


「ま、あくまで序盤の話だし、まずは瘴気の除去からだな」

「はい、もう1つ質問です!」

「ハーレさん、何だ?」

「灰のサファリ同盟は参戦しないってラックから聞いたけど、常闇の洞窟の封鎖はどうなるのー!? 赤の群集にそれだけの土の昇華持ちの人っているの!?」

「ごもっともな質問だな。聞いた話だと、常闇の洞窟内の入口の中で常時、浄化の光で除去するってよ」

「そっか、封鎖しなくてもそこで消滅させれば良いんだね?」

「でもそれって狙われないのかな……?」

「オオカミ組みたいに防衛班を用意すればいけるか?」


 案としては良いとは思うけど流石にその手段だと安全過ぎるから、それほど簡単に済むとは思えない。とはいえこのゲームは攻略法が1種類ではない事も結構あるので、無意味な作戦という事もないだろう。ここは赤の群集の頑張りを見せてもらおうかな。

 このボス戦は常闇の洞窟から陥没エリアへの瘴気流入を防ぐのも攻略の要なのかもしれないね。いくつもの必須な条件を満たして初めてボスと戦えるようになるって事なんだろう。


 ボスの数自体は少ないけども、多くの人達と協力して倒すようになってるんだな。個別で戦いたい場合は初回が終わってから瘴気石を使って再戦しろってことなんだろうね。


「よし、到着したぞ!」

「それじゃボス戦、頑張るぞ!」

「「「「「おー!」」」」」


 さーて、今回は支援メインにはなるけどそれでも重要な役割なのは間違いない。確認は出来てないけど、晩飯食ってる間にも他のボスも倒されたりはしてるはず。今日中に全てのボス戦が終わればいいんだけどね。

 そういや今回はハーレさん、俺の台詞を持っていかなかった。晩飯の件が影響してるのか、それともあれもヨッシさんへの主張の一環だったのか、正直分からないな。ふむ、ハーレさんの行動の変化にはちょっと気をつけておこうっと。

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