第368話 低確率な入手方法
現在時刻は5時を少し過ぎた頃である。サヤとヨッシさんはいつも通りに6時で一旦ログアウトだし、俺とハーレさんも少し前倒しで晩飯になる事も決まった。アルはそれに合わせてくれる事になっている。
とりあえず暗視は無くても問題ないし遠隔同調は効果切れだから、通常サイズになっているアルのクジラを水のカーペットに乗せて移動するのが楽かな。連結PTは既に解除したので、フラムを俺らのPTに入れれば問題ないか。
「アル、赤の群集の森林までは飛んでいくのでいいか?」
「おう、今はそれで問題ないぞ」
「よし、ならそれでいこう」
<『暗視』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 56/56 → 56/59(上限値使用:1)
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 56/59 → 56/57(上限値使用:3)
よし、これでアルを浮かせる準備は完了。浮かせ始める前にみんなは既にアルのクジラの背中の上に移動していた。ま、いつもの移動方法の1つだし分かってる事か。
「そういやフラムは晩飯は?」
「ん? 今日は両親揃って出かけてるから、俺1人だな。まぁ適当にカップラーメンか弁当でも買ってくるつもりだけど……おい、なんだその反応!?」
「いや、1人だけ置いてけぼりとか哀れすぎて……」
「俺の両親、職場一緒だからな!? 仕事関係で修羅場中なだけだぞ!?」
「でも放ったらかしは事実だよな?」
「うっせーよ! だったら、夕飯の招待でもしてくれよ……」
「これから往復2時間で移動して、ボス戦に参加が無理でも良ければいいぞ?」
「ぐっ!? なら、これからケイの家にVR機器を持って乗り込んで1晩泊めてもらう! 片道だけなら間に合うだろ!」
「あ、残念ながらそれはお断り。ゲスト認証も発行しないからな」
「そう言われる気はしてたよ!」
そりゃ泊りがけで一緒に遊ぶほど親しい訳でもないからな。まぁ去年フラムが俺の逆鱗に触れてさえいなければそうでもなかったかもしれないけども……。
「あ、そういや水月さんとアーサーは良いのか?」
「ん? あの2人なら俺より移動は速いんだから問題ないぞ」
「なるほど、足手まといがいない方が楽なのか」
「おいこら、ケイ!? ……いや、あながち否定できないけど……」
「跳ねる練習でもしとけば? ヒノノコほど早くはなくても、種族的に瞬発力はあるだろ?」
「まぁ『飛び跳ねる』っていう、移動用の固有スキルはあるけどな。跳んでる間のバランス調整が上手くできなくて……」
なるほど、ツチノコには飛び跳ねる為の固有スキルがあるのか。ヒノノコはそれを使ってたって事なんだろう。
そしてフラムはその跳ねている間にバランスを崩して、スキルをまともに扱えてないという訳か。……スキルならそれなりに動作のアシストは入るはずだけど、とことんそういうのは苦手っぽいな。
「よし、少し特訓に付き合ってやるよ」
「お、マジか!?」
「ま、スパルタで行くけどな。サヤ、手伝ってもらっていいか?」
「それはいいけど、スパルタってどうやるのかな?」
「……程々に頼むぜ?」
「いやいや、簡単な話だぞ。システムのアシストがあるのにバランス崩すって事は、精神的なブレーキがかかってんだよ。って事で、ひたすら慣れろ……な?」
大体は苦手意識で慌てる事がキャラ操作の邪魔になるから、そこを慣らして冷静に対処すればある程度の水準まではどうにかなる。まぁおそらく赤のサファリ同盟でも似たような事はやるだろうし、意外とヒノノコ戦で活躍してたので少しだけ鍛えてやろう。
「あ、分かった。私がフラムさんを投げれば良いのかな?」
「……よし、覚悟は決めた! やるならやってくれ!」
「よく言った! 殺ってやろうじゃねぇか」
「あれ!? やるの字がなんか違った気がするのは気のせいか!?」
ちっ、耳聡いフラムめ。ほんの少しのニュアンスの差で気付きやがったか。まぁ同じPTになってるからしようと思っても出来ないんだけどね。
「ヨッシ、私達も特訓しよー!」
「そだね。私はとりあえず応用スキルの毒の取得を目指そうかな」
「私はクラゲを少し鍛えるよー! 共生進化のあるかもしれない強化に向けて頑張るのさー!」
「あ、なんでクラゲでログインしてるのかと思ったらそういう事だったんだね」
「ふっふっふ、クラゲで捕まえて逃げられないようにしてから、至近距離から投げまくるのさー!」
「それは地味に厄介そうだね」
ハーレさんはハーレさんでパラシュート代わりにしているクラゲを本格的に活用していくつもりのようだね。ヨッシさんは更に毒を強化していくつもりのようである。まぁヨッシさんの毒は時々効かない相手がいるとはいえ、相当に強力だもんな。
あ、そういやベスタに融合進化での強化があるのかどうかの話を聞き忘れた気もする。……まぁ、俺のPTメンバーには融合種も合成種も居ないから急がなくてもいいか。
「それじゃそろそろ出発するぞ。『高速遊泳』!」
「「「「おー!」」」」
「ほんと、仲良いよな。ケイ達ってさ」
フラムがなんかボソッと言ってるけど、それは気にしなくていいや。基本的に仲はいいけど、悪ふざけし合う事もあるからな。まぁ女性陣が特に仲が良いのは間違いないけどね。
そんなこんなで、とにかく赤の群集の森林まで移動開始である。灰の群集の森林深部を経由せずに、ミズキの森林から赤の群集の森林に直接行けば良いだろう。あそこのエリア移動の妨害ボスは討伐済みだしね。
そしてアルの背に乗って移動を開始してしばらく経っている。6時までに到着しておきたいとはいえ、未成体ではそれほど時間がかかるわけでもないので色々しながら移動中だ。
「もう一回行くよ! 『投擲』!」
「わっ、わっ、ぎゃー!?」
「結構な回数やってんだから、そろそろ叫ばなくてもいいんじゃね?」
<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 47/57(上限値使用:3): 魔力値 164/194
サヤによって投げられたフラムを水壁で受け止めていく。ふむ、基本的に同じPTメンバーからの攻撃では時間切れ以外では耐久値が減らないので受け止めるのには丁度いいね。多分、魔力集中辺りで破壊する気なら破壊は出来そうな感じではあるけども。
「いやいや、投げられるのって地味に怖いぞ!?」
「……そうか?」
「別にそうでもないよねー!?」
「あはは、ケイさんもハーレもサヤに投げられた経験あるもんね」
「……え、マジ?」
「おう、マジだぞ」
「嘘をついても仕方ないさー!」
ロブスターを使う様になってからはコケ付きの石で投げられる事は少なくなったけども、投げられた覚えは何度もある。……そういやハーレさんには、黒い饅頭に思いっきり叩きつけられた覚えも……。あの時はほんと苛立ったなぁ。
「はっ!? 何か悪寒するよ!?」
「ケイ、多分あの時の事だとは思うけど、殺気は抑えてね?」
「あ、ごめんごめん」
あれについては水に流したんだから、今更掘り返す事でもないな。またやったとしたら流石に許さんけども、またある事は多分ないはず。
「おい、ケイ。下を見てみろ」
「アル? 何かいるの……あ、水砲ザリガニか」
「おー! 久々に見たねー!」
アルの背中から地面を見下ろしてみれば、徘徊している水砲ザリガニの姿があった。ふむ、見た目は前と特に変わらない気もするけど、折角だから識別してみるか。
<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します> 行動値 43/57(上限値使用:3)
『水砲ザリガニ』Lv2
種族:黒の瘴気強化種(水砲撃種)
進化階位:未成体・瘴気強化種
属性:水
特性:砲撃、堅牢
「……ただの黒の暴走種とほぼ変わらないね」
「まぁ瘴気強化種って言っても、全部が瘴気属性を持ってる訳じゃないからな」
「あー、そういやそうだっけ」
ボスの瘴気強化種は瘴気属性を持ってるばっかだったけど、ボスでないのは特にそうでもなかったな。ふむ、となればこの水砲ザリガニは今はボス判定ではないって事なのかもね。
「こいつには勝ててないままだし、折角だから倒していく?」
「俺はどっちでもいいぞ」
「あ、俺は戦いたいぞ! 経験値が欲しい!」
「はい! 私も賛成です!」
「みんなが戦いたいなら、私もそれで良いかな」
「折角だし倒していこうよ」
アルとサヤはどっちでもいい感じだけど、フラムとハーレさんとヨッシさんは意外と殺る気だね。そういう事なら、1戦やりますか。
「それじゃやりますか! フラムは雷魔法Lv3、ヨッシさんは氷魔法Lv3、ハーレさんは隙間から投擲、サヤは降りて連撃な」
「おうよ!」
「うん、分かった」
「ふっふっふ、狙い撃つよー!」
「それなら私がトドメかな」
「ケイ、俺は?」
「……多分出番なし。俺もだと思うけど」
「……そういやあれってルアーさん1人で倒してたもんな」
水砲ザリガニは成長体の時に戦ったからこそ強敵だったけども、今はおそらくただの雑魚である。ま、リベンジってほどでもないけど、強くなった事の実感ぐらいは得られそうな気もするよね。
「そんじゃいくぜ! 『エレクトロプリズン』!」
「いくよ。『アイスプリズン』!」
「それそれそれー! 『共生指示:登録1』『共生指示:登録2』!」
フラムとヨッシさんの組み合わせによる複合魔法で電気を帯びた氷の檻によって水砲ザリガニが捕縛され、そこに共生指示から呼び出したハーレさんの投擲が次々と着弾していく。そういやハーレさんはクラゲでログイン中だったっけ。見た感じでは普通の投擲と散弾投擲の2つか。
あー、やっぱりHPがどんどん削れているから今の水砲ザリガニはもうただの雑魚敵だな。
「これなら魔力集中もいらないかな? 『爪刃乱舞』!」
そしてアルの背から飛び降りたサヤの連続攻撃によって、水砲ザリガニはあっという間にHPが無くなってポリゴンとなって砕け散っていった。うん、結構Lvに差も出てきてるから楽勝だね。
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<『瘴気石』を1個獲得しました>
あ、普通に瘴気強化種の討伐報酬は出た。そして瘴気石が手に入っている。これってボス戦以外でも手に入るんだな。でも、入手確率ってどんなもんなんだろうか?
「今ので瘴気石が手に入ったんだけど、みんなはどう?」
「ん? 俺はねぇぞ」
「俺もなし」
「えー!? 瘴気石って落ちるんだねー!?」
「私もなし。瘴気石は確率入手かな?」
「そうかもね? あ、私も無いよ」
どうやらみんなは入手出来なかったみたいである。となると今手に入ったのは偶然か。まぁ1個使っちゃったし、これはありがたく貰っておこう。
「1回だけじゃどんな入手確率かは判らないけど、手に入るってことは良い情報だな」
「確かにな。これ、ボスの周回PTに必須アイテムになるんじゃねぇか?」
「それ、ありえそうだな。進化の軌跡に続く、貨幣代わりになりそうな気もする」
「その辺は後で桜花さんに相談してみよー!」
「そうだな、そうするか」
ボス戦の周回をがっつりやる気はないし、場合によっては良い交換用アイテムになるかもしれない。商人プレイをしている桜花さんに相談するのもありだね。
「さて、ちょっと寄り道になったけど改めて出発だ!」
「「「「「おー!」」」」」
そうしてミズキの森林と赤の群集の森林との切り替え地点までやってきた。さてと、割とのんびり移動でここまで来たけども、待機するのはどっちがいいだろうか?
「赤の群集のエリアに入ってから待機するか?」
「ミズキの森林の方で良いんじゃねぇか? ケイ達も7時には戻ってこれそうって事になったんだし、他の群集のエリアでログアウトする事もないだろ」
「うん、私もアルに賛成かな。1人で先にログインになったら少し居心地が悪そうだし……」
「あ、そっか! タイミング的にはそうなる可能性もあるんだね!?」
「サヤはそういうの苦手だもんね。そういう事ならここで良いんじゃない?」
サヤは寂しがり屋ではあるけど、誰に対しても積極的に話すタイプでもないからね。みんながいると平気みたいだけど、アウェーの中で1人になるのは避けたいんだろう。
「よし、それじゃ今の場所で集合って事で!」
「あ、俺は先に行っとくわ」
「そりゃフラムはそうなるか」
フラムにとってはホームだもんな。まぁフラムとPTを組むのはとりあえずここまでって事になるのか。夜からまた一緒に戦うかもしれないけどね。
「ゴホン! 改めて、食事休憩後にこの場所に集合って事で!」
「「「「おー!」」」」
まだ6時にはちょっとばかり早いけども、もう20分もないくらいだからね。何をするにしても中途半端だからここで一旦解散である。
◇ ◇ ◇
いつもと違って少し早めのログアウトで、いったんの所へとやってきた。胴体部分には『おー、連携頑張ってんなー』と書かれている。運営的には連携しての攻略は良い傾向として捉えられているっぽいね。
「お疲れ様〜。いつもより早いね〜?」
「あー、ボス戦に参加する為の時間調整だな」
「うんうん、積極的に連携してくれてありがたいよ〜。赤の群集とか一時はどうなる事かと思ったからね〜」
「あー、まぁあれはなぁ……」
赤の群集赤のサファリ同盟の動きがなければ、色々と危なかっただろうからね。青の群集については特に心配してる様子はないから、迷惑な奴がいるにしても破綻するような状態ではないんだろうね。
「ところで例のアンケートは準備出来てる?」
「ごめんね〜。それはまだなんだ〜」
「そっか、ちょっと時間あったからちょうどいいかと思ったんだけどな」
「それについてはもうしばらくお待ちを〜」
まだ用意出来ていないものについては仕方ないか。それじゃスクショの整理だけでもしておくとしようかな。
「んじゃスクショの一覧よろしく」
「はいはい〜」
いつもの様に一覧を受け取って確認をしていく。あ、チラホラとヒノノコ戦のがあるね。……ライトアップされたベスタと一緒に写っているのもある。
でもルストさんと弥生さんのはないな。ログアウトした状況が状況だったから、整理してる時間が無かったのかもしれないね。
「いつも通り、全部許可でよろしく」
「はい〜、そのように処理しておくね〜」
いつものスクショの承諾も終えて、これで一旦ログアウトだな。さてと、今日は晩飯を作るのを手伝うのが条件だったな。アジフライの衣付けとかを手伝う事になりそうだ。
時間が時間だから掲示板を見る余裕はなさそうだけど、今回は仕方ないね。さて夜のボス戦に向けて、リアルでやるべき事をやっていこう!
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