第366話 一息ついて


 ガストさんとの勝負は僅差で負けとなってしまった。うーむ、流石に初使用で1日の差は埋められないか。でも悔しいとこだね。


 まぁ勝敗の結果は別として、とにかく今回の一戦は色々と参考にはなった。2キャラの同時操作は難しいけど、意外と動かないコケからの魔法砲撃とかは相性が良いのかもしれないね。

 流石にあの土壇場での4つの照準を合わせるのは無理があったけど……。ただ、慣れればあれも有用ではありそう。それに『遠隔同調』は複雑過ぎて常用は出来る気はしないけど、使い方に気をつければ切り札にはなるだろう。……迂闊な使い方をすれば自滅もありえるからそこは要注意。


「一応勝ったけど、ぎりぎりだったぜ……」

「いや、ガストさん、とんでもないって」

「……そうは言うが、ケイさん、遠隔同調を初発動で良くあんな真似が出来たな」

「いやいや、思いっきり外してたし……」

「つっても水魔法の照準が甘かったのは狙いを正確につける暇がなかったからだろ。いきなり視界が増えて混乱しながらあれだけ狙えりゃ充分だって。ところで土魔法の方はありゃなんだ? 土の操作も無しに途中で照準は変えられんだろ?」

「あーあれか」


 うーん、教えるべきか教えないべきか悩むとこだね。魔法砲撃は実際に使ってみて、何となく化けそうな気がしてたのは大当たりだったっぽいしね。連射の途中で攻撃方向を変えられるのは相当な強みだな。

 まぁ、ガストさんは好意から『遠隔同調』の使い方をレクチャーしてくれたみたいだし、その返礼として教えておこうかな。借り自体は同調化への情報で充分だしね。



 という事で、ガストさんに魔法砲撃のことを簡単に説明していった。まぁここにいる大体の人は瘴オオヒノノコで使ってるのは見てるし、隠してもあんまり意味はないだろう。


「なるほどな。あの使い道のなさそうなスキルがそんなに化けるのか」

「ただの照準補佐用のスキルかと思ってた……」

「そういやフラムも魔法砲撃は使ってたな。もうちょい使いこなせよー」

「分かってるよ、ガストさん! あぁ、もう徹底的に魔法を鍛えてやるぞ!」

「フラム兄、頑張れー!」


 フラムは魔法型に転向したし、頑張れば何とかなるだろ。どうもコケの方は魔法砲撃にすると始点に指定出来るのが核のみだったけど、砲撃化自体は任意で決めれるからな。砲撃化同士の複合魔法化も良いけど、通常発動と砲撃化した魔法でも複合魔法には出来るし色々と出来るはず。


「これは共生進化での強化が楽しみになってきたかな」

「うん、私もちょっと魔法砲撃には興味出たかも」

「ケイさんの遠距離攻撃が強化されて、私の立場が地味にピンチ!?」

「ハーレは攻撃だけじゃないんだし、そうでもないんじゃない? 地味に回復アイテムの投擲は役立ってるよ」

「うー!? それはそうなんだけどさー!?」

「ハーレさんの投擲は、ケイの遠距離魔法とは物理攻撃か魔法攻撃かで明確に違うからな。魔法吸収持ちが相手だと圧倒的にハーレさんが優位だろ」

「あ、それもそっか。って、ケイさんは他の手段も沢山あるからそうでもなかったー!?」

「ハーレ、何か投擲以外も特訓してみる?」

「そだね! ヨッシ、それも考えてみるよ!」


 ふむ、何気なくやってたけど確かに遠距離攻撃としては役割は被るのか。まぁ敵にもよるけど、これは被っても問題はない範囲だと思うけどね。近接が多過ぎたら動きにくくはなるけど、遠距離ならその辺の融通は効くし。

 それでもハーレさんが他にも手段を模索したいならそれも良いだろう。手札が増えるのは決して悪い事ではないからね。むしろ幅が広がっていいくらいだ。


「ハーレさんは逆に近接を鍛えてみるか? クラゲで自動カウンターを狙うとか?」

「はっ!? アルさん、それナイスアイデア!」

「……まぁ共生進化で強化があればの話だけどな。強化内容がわからないとどうしようもねぇし」

「うー、それもそうだね! それじゃ今はリスを普通に鍛えつつLv上げだねー!」


 そうか、そうだよな。支配進化で同調共有と遠隔同調という強化が、単独での進化の場合は孤高強化Ⅰというステータスの増強があるんだから、共生進化にも何かしらの強化はあるはず。

 いや、強化が無ければバランスが滅茶苦茶になる。……タイミングこそ違っても強化要素自体はあると考えていい気はするね。


<ワールドクエスト《この地で共に》のボスが1体撃破されました> 赤の群集 1/5


 ほうほう、赤の群集のボス戦が1ヶ所終わったみたいだね。森林は夜からの予定だから、森林以外のどこかだろうけどどこだろ? 当たり前といえば当たり前だけど、他のエリアも討伐を頑張ってるんだな。


「ん? フレンドコールだから、ちょっと失礼しまーす」

「ほいよ」


 そしてボスの討伐のアナウンスが出てすぐに弥生さんへフレンドコールがあったようである。少し距離を取って弥生さんが話し始めていた。このタイミングって事はボス戦終了の報告か?


「おや、弥生さんに連絡が来るということはどの方でしょうか?」

「確か今は赤の群集の方だと草原と荒野に行ってるやつらがいたな。このタイミングで連絡が来るってことはそのどっちかだろ」

「あぁ、そうでしたね」


 ルストさんとガストさんの会話を聞く限りでは赤の群集の草原と荒野には赤のサファリ同盟のメンバーが行ってるみたいだね。あ、それほど長話でもなく、すぐに話は終わったみたいで弥生さんが戻ってきた。


「うん、ボス戦の結果報告だって。さっきのは赤の群集の荒野のボス戦が終わったってさ」

「……連絡早いな、赤のサファリ同盟」

「いやいや、ルアーさん。このくらいの情報ならすぐにどこかのチャットに報告上がるでしょ?」

「まぁ、それもそうか」


 それほどエリア毎に分断されている今は、隣接していないエリアのボス戦の結果は急ぐ種類の情報でもないもんな。この手のボスの討伐の進捗状況についての情報が必要になってくるのは、自分の群集と隣接している別の群集のボスの討伐が両方終わってからだしね。

 身近なとこが終わってないのに、他のエリアまでの移動に手間がかかる今も状況ではそれほど重要ではない。まぁ気にはなる情報だけどもね。


<ワールドクエスト《この地で共に》のボスが1体撃破されました> 灰の群集 2/5


「おー! 灰の群集は2体目だー!」

「灰の群集のどこだろ?」

「情報共有板で見に行くか?」

「あー、それもありかもな」


 立て続けにボス撃破アナウンスが表示されているけど、順調っぽい感じだね。どこの誰が倒したのか分からないけど、グッジョブ!

 それに少し空き時間も出来たから、ここで一度情報を整理するのも良いかもしれないね。


「少し情報も上がってるから、手が空いてるなら見てきたらどうだ?」

「そうするかなー。ベスタはどうすんの?」

「俺は上がっている情報の整理中だ。ここに来る前にケイがやったあれの再現の検証結果も上がってきてるからな」

「え、マジで? よし、それなら確認しとこう」

「まとめ終わり次第、俺も顔を出す。ルアー、共同で検証していたようだからそっちにも上がってるだろう?」

「……あぁ、今その情報が上がっているのを確認した。俺もまとめていくか」


 赤の群集は赤の群集で同じ情報が上がってるみたいだね。詳細は確認しないといけないけど、具体的にどんな情報が集まってるのかは気になるところ。


「……おや? 弥生さん」

「んー? 誰か来たっぽいね。ルスト、悪いけど応対しててくれない? セールスなら追っ払っといて。そうじゃなければすぐにわたしも行くから」

「はい、分かりました」


 そうして急にルストさんがログアウトしていった。会話の内容的にリアルでの来客っぽい感じかな。まぁ、そういうのはVR機器本体のシステムメッセージで通知されるようになってるもんな。同じ家からログインしているのなら同時に通知が来てもおかしくないか。


「さてと一段落ついたとこだし、わたし達は一旦ログアウトするよ。急な来客もあったけど、そうでなくてもちょっとする事もあるからね。……あれ、来客ってお義母さん? 遠いのに随分と急な……あ、そういえば……」

「あのー、弥生さん? リアルの情報、断片的にとはいえ口に出てるよ?」

「……あ。まぁ気にしないで! とにかくそういう事なので、わたしとルストはここまでね。夜には戻るけど、とりあえずここまではお疲れ様!」


 どうやら弥生さんの家に来客があったようだし、流石にゲームを続けている場合でもないんだね。まぁ急な出来事でポロッと喋ってしまうのは経験がない訳でもないので、分からなくもない。


「弥生さん、お疲れ様ー! 楽しかったよー!」

「弥生さん、またね」

「また夜に会えたら良いかな!」

「うん、わたしも楽しかったよ!」

「……弥生さんの旦那さんってのにも会ってみたいとこだな」

「ん? アルマースさんはわたしの旦那に興味あり? シュウさんはあげないよ?」

「え、アルってそういう趣味なのか……?」


 弥生さんがからかうつもりで言ってるのは分かってるので、ここは全力で乗っていこう。アルをからかうチャンス! ドン引きする様に身を守るようにしつつ、距離を取る演出付きだ!

 っていうか、弥生さんの旦那さんはシュウさんって言うのか。流石に本名ではないだろうから、プレイヤー名がシュウなんだろうね。どんな種族なんだろう?


「いらねぇよ!? ただどんな人か興味があるだけだからな!? っていうか、ケイも乗っかってんじゃねぇよ!」

「あはは、冗談、冗談。夜までにはシュウさんの急な仕事も片付いてるとは思うから、夜には一緒にやるよ? 予定が狂わなければだけどね。っと、そんなに長話してる場合じゃないや。それじゃまたねー」


 そうして慌ただしく弥生さんもログアウトしていった。まぁ急な来客ならこの慌ただしさは仕方ないか。


「ガストさん、シュウさんってどんな人? やっぱり強いのか?」

「ん? シュウさんは、基本的には無茶苦茶強くはない……と思うぞ」

「何、その曖昧な言い方?」

「いや、ぶっちゃけあの人って普段はのほほんとしてて、全力での戦闘って見たことないんだよ。ルストから聞いた話だと、唯一バーサーカーになった弥生さんを止めれる人とは聞いてるけどな。それが実力行使で止めるのか、精神的な方で抑えれるのかすら分からねぇ」

「……うん、どう凄いのかは分からないけど何となく凄い人なのだけは分かった」


 あのバーサーカー状態の弥生さんを手段不明とはいえ止められるのなら、それは間違いなく凄い事なのだろう。……やはり赤のサファリ同盟は侮れないという事か。


「さてと、ちっと早いが俺もログアウトして夜に備えとくか。ルアー達はどうする?」

「俺は今のうちに少しまとめの整理をしておく」

「私達は少し早いですが晩御飯の材料でも買いに行きましょうか。アーサー、メニューのリクエストを聞きますので手伝いなさい」

「え、水月、リクエストしていいの!? それなら肉が食べたい!」

「肉料理ですね。具体的なメニューは買い物をしながら考えましょうか」

「やったー! フラム兄はどうするの?」

「俺か? 俺はちょっと特訓しとくぜ!」


 赤の群集のメンバーはそうしてそれぞれの今後に予定を立てていた。もう少しで4時だし、本格的に自炊をしている人は色々と用意があるのだろう。7時までには食べ終えて戻ってくるつもりならね。


「はっ!? ケイさん、私達も晩御飯の予定をお母さんに変えてもらおうよ!」

「あー、それは考えたけど流石に我儘過ぎないか? それに明確な理由なしでは変えてくれないぞ」

「うー!? 確かにそれはそうだけど……」


 我が家の晩飯は基本的に19時で食べれる様に母さん調整してくれているからな。……とはいえ、よっぽど予定に余裕がない状況でもなければ多分、ハーレさんがヨッシさんやサヤと遊ぶ為なら母さんは融通は効かせてくれるだろう。

 逆に明確な理由がなければ却下される可能性は高いけども……。ふむ、どうしたものか。晩飯の時間をズラして欲しい理由については、今の状況ならいけるか?


「ハーレさん、ちょいこっち来い」

「ケイさん、何ー!?」


 これはあんまり大々的に言う事でもないので、小声で伝えておこう。ハーレさんについては母さんも心配してたからね。


「母さんはハーレさんの事を結構心配してたから、その辺の事をちょっと自分の口で話してこい」

「……え? お母さん、気付いてたの?」

「どこまでかは知らんけど、少なくともゲームを始める前までの空元気は筒抜けだったみたいだぞ」

「……そんなに前からなんだ。お母さんには隠せないんだね……」

「って事でちょっと安心させてこい。多分、理由的にはそれで行けるとは思うぞ」

「そっか、分かったよ!」


 さてと、俺が言えるのはここまでだな。これで晩飯が前倒しになって間に合うのならそれでよし、間に合わなくても途中参戦で支援に動けば良いだろう。


「ちょっとログアウトしてくるねー!」

「いってらっしゃい、ハーレ」

「おばさんによろしくね」

「うん、分かったー!」


 そんな感じでハーレさんは母さんと話す為にログアウトしていった。まぁどうなるかはハーレさん次第だね。そして弥生さん、ルストさん、ガストさん、水月さん、アーサーはログアウトしていき、ルアーとベスタはまとめの作業を行っている。

 俺とアルとサヤとヨッシさんは、もう少しログインだな。さてと情報共有板で最新情報の確認をしていくとするか。……そういや誰かを忘れているような気もする。


「おーい、俺の事を忘れてない……?」

「あ、そういやライさんも居たんだった」

「素で忘れられてた!?」

「ライ、それが嫌なら何度も言うけど擬態を解除しろって」

「それだけはお断り! これは俺の意地だからな!」


 いや、だって見た目的に神経集中しないとライさんがいるかどうか分からないんだよね。看破を使えば擬態は見破れるけど、あれってあんまり効果時間は長くないからなー。

 ライさんのその意地は別にいいんだけど、その代わり忘れたとしても大目に見てね。さーて、情報確認をしていくとするか。

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