第365話 同調種同士の戦い


 ガストさんと対戦ということで、ミズキから少し南下して拓けた場所へと移動してきた。うん、程々に拓けていて勝負するには良い感じだね。先頭を飛んでいたガストさんが近くの木の枝に止まったし、ここでやる感じかな。

 さて、始める前に肝心のスキル内容を確認しとこうっと。仕様が分からないと対策も立てにくいしね。


『遠隔同調Lv1』

 特性『同調』を持つキャラ同士が少しの間、それぞれに離れて行動する事が可能になる。

 上限値使用で初期値15からLv上昇により使用量は減少し、効果時間が延長。


 ふむふむ、使ってみないとよく分からん! これは完全に実践あるのみだね。それにしてもそれぞれに離れて行動か。ガストさんは下手すれば中途半端で弱くなるって言ってたけど、操作性はどんなもんだろうね?


 まぁそれを確認する為の対戦でもある。細かい仕様は実際に戦いながら試してみればいい。多分だけど、その方が良いからこその対戦の提案なんだろうね。


「さーて、そんじゃ始めるか」

「よろしく、ガストさん」


 そしていよいよガストさんとの勝負開始である。ルールとしては先にHPを削った方が勝ち。まぁこれはあくまでお試しだから、そこまで本気でやる必要もないか。……まぁ負ける気もないけども。


「そういえばハーレは、今回は実況って言わないのかな?」

「んー? 実況は周りの人から要望があればやる事に変更しました!」

「そっか、そういう風にするんだね」

「そういう事さー! でも楽しい事は楽しいから、要望があればいつでもやるよー!」


 なるほど、ハーレさんの実況は楽しんでいた側面はあってもヨッシさんへの自己主張がメインだったって事か。それにしては今朝のバトルロイヤルでの実況を始めた時はヨッシさんはまだログインしてなかったような気も……うん、どこまで素で、どこまでが演じていたのか全く分からない。

 それにしても自分の妹の事だけど、ここまで感情を誤魔化すのが上手かったとはね……。これは無理にでもそれを表に引き出してくれた弥生さんに感謝しておくべきかもしれない。まぁ後で母さんに一応言っておくとして、これ以上考えても仕方ないか。


「今回は見て分からない見物人も少ないだろうし、別に解説無くてもいいだろ」

「アルマースさん、俺は解説が欲しいんだけど!?」

「フラム兄、そこは自力で頑張ろうよ?」

「そうですよ、フラム。少し観察力を鍛えましょう」

「水月はともかく、アーサーにまで言われるとは思わなかった!?」


 何かフラムが喚いているけど、解説が必要そうなのはあいつだけみたいなので放置で良いや。ベスタやルアー達に解説役は不要だろうしね。わざわざ離れた場所に移動したから、見知らぬ人は1人もいないし。


「ケイ、ガスト、審判は必要か?」

「あー、この2人だと場合によっては判定がシビアにはなるかもね。ベスタさん、それなら審判はわたしがやるよ」

「……だそうだが、2人はどうだ?」

「弥生さんが審判なら問題ないぜ。任せた!」

「弥生さん、よろしく」

「いえいえ、任されましたとも」


 あの鋭い観察眼の弥生さんなら審判としては申し分ない。……とはいえ、ほぼ同じタイミングにならない限りはあんまり意味ないんだけどね。

 でも万が一という事もあるから、審判をしてくれるならその方がいいね。この辺はシステムとしてある訳じゃないから、手動でやるしかないのは仕方ないか。


「それじゃ試合開始!」


 そして弥生さんの号令により、同調種同士の対決の開始である。さて、まずはどう出てくるかな?


「行くぜ。『闇胞子』『遠隔同調』!」

「いきなりか!?」


 試合開始早々にガストさんは黒いキノコの胞子をばら撒いて自身の姿を隠し、遠隔同調を使ってきた。煙幕っぽい胞子は本体のキノコがどこに行ったかを誤魔化すためか! この手の目潰しスキルには暗視が有効のはず。


<行動値上限を3使用して『暗視』を発動します>  行動値 59/59 → 56/56(上限値使用:4)


 よし、これで目潰し対策はいい。タカは飛び立っている状態で……キノコはどこに行った? いや、倒し切るのが勝利条件でなく、一撃を当てるのが勝利条件だから片方が視認出来ていれば問題ない。


「『並列制御』『ウィンドボール』『ウィンドボール』!」

「……ん? げ、後ろからも!?」


<行動値3と魔力値9消費して『土魔法Lv3:アースプリズン』を発動します> 行動値 53/56(上限値使用:4): 魔力値 185/194

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『土魔法Lv3』が『土魔法Lv4』になりました>


 前後から同時に襲いかかってきた風魔法を、拘束の土魔法で自分を覆って防御する。危ねー、タカとキノコで別方向から同時にとかそんな攻撃方法ありなのかよ。地味に土魔法のLvも上がったけど、これは後だな。

 飛んでいるタカの方から風の弾が撃ち出されたのはすぐに確認出来たけど、真後ろからも風の弾が来るとは思わなかった。これが遠隔同調の効果ということは……ふむ、色々で出来そうな気がする。よし、俺も使ってみよう。


<行動値上限を15使用して『遠隔同調Lv1』を発動します>  行動値 53/56 → 41/41(上限値使用:19):効果時間 5分


 ふむふむ、これはさっき確認した仕様通りだけど、ここからどう分離するんだ? それにしても行動値の上限使用量が多いな。……それだけ強力なスキルって事なんだろうけどさ。

 それと視界の左端に何かウィンドウが追加されたね。遠隔操作に関係してそうではあるけど、具体的にどうなるんだろう? 


「まだまだ行くぜ! 『麻痺胞子』『自己強化』『翼撃』!」

「地味に厄介!?」


<行動値1と魔力値4消費して『火魔法Lv1:ファイアクリエイト』を発動します> 行動値 40/41(上限値使用:19): 魔力値 181/194

<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 35/41(上限値使用:19): 魔力値 166/194

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を8消費して『火の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 27/41(上限値使用:19)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 とりあえず正面からのタカの攻撃を水壁で防ぎ、背後からのキノコの胞子を焼き払っていく。……地味に厄介だけど、タカは動きまくっててもキノコの方はそれほど動いてないっぽい? 直接見て確認したいとこだけど、上空にタカがいる以上は迂闊に視線は外せないな。これは2対1で戦ってる気分だよ。


 だからといって呑気にしている訳にもいかない。水壁も火の操作も効果中ではあるけども、これだと『遠隔同調』の実践での確認の意味がない。という事で、まだ攻撃にも防御にも使えるけどどっちも解除だな。

 地味に今気付いたけど、水魔法Lv5は耐久値が残ってれば近場であれば操作の要領で移動させれるんだね。良い発見ではあったけど、今やるべき事でもないな。さてと『遠隔同調』を発動してコケとロブスターの分離が可能になったのなら、この手段でいけるか?


<行動値を3消費して『群体化Lv3』を発動します>  行動値 24/41(上限値使用:19)

<行動値を3消費して『群体内移動Lv3』を発動します>  行動値 21/41(上限値使用:19)

<『遠隔同調』の効果により、視界を分割表示します>


 おー、タカの少し向こう側にあったコケを群体化して核を移動してみたけど発動して分離する事が出来た。なるほど、コケの核がロブスターから離れるようにすれば良いんだな。

 それにしてもロブスターの背から離れたのは久々な気がする! ……あ、ちょっと前にロブスターが死んだ時に少しだけ分離してたっけ。うん、あれは何か違う。


 そしてガストさんのキノコがあまり動いてない理由が分かった。さっきの追加されたウィンドウって、ロブスター側の視点かよ! え、2キャラの同時操作って難しくね?

 あ、これって支配進化や共生進化でスキル以外のキャラ操作を切り替えるのと同じなのか。メイン操作を切り替えれば、メインの視界がウィンドウに表示されてる方の視界と切り替わるんだな。


「隙ありだ、ケイさん! 『鷹の目』!」

「やばっ!?」


 2キャラの同時操作に戸惑っているとガストさんが鷹の目で俺のコケの位置を絞り込んだようで、群体化した俺のコケにキノコの胞子を、ロブスターにタカの風魔法で狙いをつけてきた。くっ、あれでコケの位置を特定出来るのか!? ということは何か仕掛けてくる?


「『並列制御』『腐食胞子』『ウィンドボム』!


 これは先に『遠隔同調』を取得していたガストさんの優位性があるな。……タイミング的に両方を防ぎ切るのは無理か。コケとロブスターの分離を上手く狙われたけれど、鷹の目で狙う事を知らせたのは失敗だったね。迎撃開始!


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 21/41 → 21/40(上限値使用:20)


 とはいえ後から発動して間に合うか? 幸いな事にガストさんのどっちの攻撃も攻撃速度としては速くはない。さっきガストさんがやった攻撃の基点が別キャラであっても並列制御で同時発動が可能なら、スキルの発動さえ間に合えばなんとか……。

 てか分離してなきゃ、これは普通に防げた気がするぞ!? 同時に狙われると対処の難易度が上がるのが『遠隔同調』の欠点か。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値2と魔力値12消費して『水魔法Lv2:アクアボール』は並列発動の待機になります> 行動値 19/40(上限値使用:20): 魔力値 154/194

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値4と魔力値12消費して『土魔法Lv2:アースバレット』は並列発動の待機になります> 行動値 15/40(上限値使用:20): 魔力値 142/194

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 魔法砲撃で土魔法を砲撃化して3連射、水魔法は通常発動で3発同時射出、両方共に追加魔力消費も加えて速度を加算。ぶっつけ本番だったけど、始点の指定も土魔法はロブスターの右のハサミに指定出来た。その時気付いたけど、コケって核のみの指定なんだな。

 普段はここまで速度を必要としないから魔力の追加消費での弾速加算はしないけど、今は速度こそ最重要! 操作Lvが上限で弾速加算だから、今Lv5の土の操作は通常より4段階上の加速が可能だからな! 物凄く大慌てだけど何とか間に合ったし、アースバレットの3連射とアクアボールの3発同時射出開始!


「速!?」


 3発のアクアボールの狙いは全て別方向。1つは上空のガストさんのタカ。2つ目はウィンドボムの誘爆の為にそっち狙い。3つ目は思いついた事の下準備用!

 そしてロブスターからはタカに向けたハサミから連射の1発目が撃ち出されていく。……思いっきり反応してるし、今のガストさんのメイン操作はタカか。


 あ、しくじった。流石にほぼ一瞬で照準を定めたからウィンドボムを狙ったアクアボールは盛大に外れて、アースバレットの1発目でウィンドボムの発動の誘発になった。あー、これじゃアースバレットの2発目は絶対に当たらない。

 外す可能性は考えてたからメイン操作をロブスターに切り替えて強引だけど照準変更だ。右の2発目の撃ち出しが始まったハサミを左のハサミで横から殴りつけて強引に向きを変える。狙いは背後のキノコ! コケの視点からキノコの位置はロブスターの右斜め後の木陰って事は判明済みなんだよ!


「なに!?」

「いっけー!」


 もうコケの目前まで腐食のキノコの胞子が迫っているけど、逃げた上で群体化解除しなければ被弾になって負けになるからどうしようもないね。

 ここは当たる前に当てる事に賭けるしかない。よし、アースバレットの2発目は見当違いの方向に吹っ飛んでいったけど3発目の撃ち出しには間に合った! そして、タイミングと位置はピッタリだ! 


 先に撃ち出していたアクアボールと3発目のアースバレットが衝突したけども特に変化はなし。あれ、複合魔法にはならない組み合わせだった!? あ、でもアースバレットは勢いは落ちながらもキノコへ当たったね。……それとほぼ同時に俺のコケに腐食のキノコの胞子が直撃した。


<群体の核が撃破されたため、核を他の群体へと強制移動します>

<『遠隔同調』の効果による視界を分割表示を終了します>


 森の方のコケの群体が腐食毒によって全滅したみたいで、ロブスターの背中へと戻ってきた。ふむふむ、分離している時でないとウィンドウには別視点表示されないんだな。

 それにしても胞子系は散布型の物理系の毒っぽい感じだね。拡散速度は早くないけど範囲は広そうだし、結構厄介だな。これは風の操作と併用すればかなり厄介だね。


「ちっ、途中で狙いを変えてキノコを狙うのかよ」

「だってそのままだったらタカには避けられそうだったしさ」

「……そうしてくれた方がありがたかったんだけどな」


 おそらく反応はしてたから最大速度のアースバレットにでもガストさんには避けられてたね。侮りがたし、ガストさん。


「で、これはどっちが勝ち? 正直、どっちが先か確認する余裕なかったんだけど」

「……さぁな? 俺もよく分からん」

「それじゃ弥生さん、判定よろしく!」

「はいはい、了解だねー!」


 俺のコケは群体数が減ったし、ガストさんのキノコもHPは減っている。これ、どっちの勝ちなんだろうか? ここは審判の弥生さんの判定を待つしかない。これは予め審判を用意しておいて正解だったね。


「んー、すっごい際どいところだけどガストの腐食毒がケイさんのコケに当たった方が先かな? って事で、ガストの僅差での勝利!」

「よし、俺の勝ち!」

「あー、負けた……」


 弥生さんによる判定はガストさんの勝ちだった。あーあ、負けたー。流石に先に同調化していたガストさんには敵わなかったか……。

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