第363話 支配から同調へ


 急に月に照らされた影が現れたと思って上空を見上げてみれば、そこにタカが飛んでいる。赤いカーソルも表示されているし、名前も確認した。やっぱりガストさんだな。

 そしてガストさんが急降下して、ルストさんの枝に止まっていく。首筋には本体のキノコがいるけど、なんか妙に平べったいキノコに変わってるね。ガストさんのキノコは姿が大きく変わる進化をしたのかな。


「よし、到着! ルスト、弥生さん、呼ばれた通りにやって来たぜ!」

「お、来たね、ガスト」

「お待ちしておりましたよ」

「おっす、ガストさん!」

「おう、ケイさん! で、ケイさんが『同調共有』の事が知りたいって?」

「そうなるね。教えてくれるならだけど……」

「教えるのは弥生さんから許可も出てるし問題ないが、個人的に気になってる点があるからそこを教えてもらうってので良いか?」

「こら、ガスト! そういう交換条件じゃ借りを返す事にならないよ!」

「悪い、弥生さん。これについては地味に重要情報なんだよ」

「……どういう事?」


 ガストさんが何を聞きたいのかは分からないけど、別に俺としては交換条件でも問題はない。まぁ内容次第ではあるんだけどさ。


「で、ガストさん。どういう関係の質問?」

「この進化の発生レベルは変動性っぽいんだよ。だから、発生レベルの情報が欲しい」

「あー、そういやそんな感じの表記もあったっけ」

「……なるほどね。ケイさん、そういう事なんだけど良いかな?」

「そういう内容なら問題ないぞ。ベスタもそれで良いか?」

「俺としてもありがたいから問題ねぇよ。支配共有から同調共有への変化の為の進化は情報が不足し過ぎているからな」

「よし、ならそれで決まりだな。じゃあまず、俺の質問を先で良いか?」


 ガストさんなら聞いてそのまま教えずに逃げるなんて真似はしないだろう。……そんな事をすれば弥生さんがまたバーサーカーになりそうな気もするしね。


「それでいいぞ。で、具体的にどんな内容?」

「ケイさんの強制進化時のレベルと、今の進化が出たレベルを教えてくれ」

「えーと、強制進化は成長体のLv15の時で、今の進化が出たのは未成体のLv10だな」

「……なるほど、これは推論が合ってそうだ。ちなみに俺は強制進化は上限Lv20の時で、同調への進化が出たのはLv5の時だ」

「それって、強制進化時のレベルによって同調への進化のLvが変化するって事か!?」

「おそらくな。強制進化の時のレベルが低いほど同調への進化には時間がかかる。そしてこれは推測だが、その場合の進化でのステータスの上昇幅は大きいはずだ」

「あー、もしかして強制進化で無駄になったステータスの補填?」

「まだ試せてないから、推測だけどな。Lv20で強制進化だと同調へ変異進化じゃほとんどステータス伸びないんだよ」

「ふむふむ」


 強制進化で無理矢理引き出した力が馴染んで支配から抜け出す進化みたいだし、強制進化時のLvによって同調への変異進化の条件Lvが変わるならそれ相応に他の変化はありそうなものではある。

 それに強制進化を早くに行えば少なからず無駄になるステータスが発生する仕組みだったから、そこに関係する何かがある可能性は低くはない。……これは、ロブスターのステータスを上げるチャンスか? いや、でもまだそれを決断するには早いね。


「かなり興味は湧いてきた。で、一番知りたいのは『同調共有』の効果なんだけど……」

「ま、それは俺もかなり気になった点だったからな。悩む理由は分かるぜ」


 ガストさんもその点は相当気になっていたっぽいね。そしてこの感じでは意外と悪くないのか……? とりあえず詳細を聞いてみないことには判断出来ないか。さて、どんな仕様になってるのやら。


「んじゃ軽くだが、『同調共有』の特徴を軽く説明するぜ」

「よろしく、ガストさん!」

「おうよ。まず支配進化の『支配共有』が『同調共有』へと変化するんだが、そこは知ってそうだな。肝心なのは登録になるスキルの数についてだろう?」

「まさしくその通り! あれって仕様はどうなるんだ?」


 今までの支配進化ではロブスターのスキルも好き放題に使えてたけど、そこに制限がかかるのは嫌なんだよな。共生進化での呼び出しはレベルが上がれば増えるけど、それでも枠数は少ないしさ。


「単刀直入に行くぞ。ケイさんの心配はほぼ杞憂だぜ」

「……マジで?」

「おうよ。登録数はキャラLvの3倍の個数まではあるし、魔法も各Lvで登録する必要もないからな。一度登録しておけば、支配進化とほぼ同様に扱えるぜ。スキルの登録も消費型と上限使用型の区別はねぇ」

「ほほう? キャラLvの3倍の個数ってのは良さそうだね。それに種類での区別も無しか」


 思っていたよりかなり良さそうな感じである。今はLv10だから30個まで登録可能って事か。そしてその登録したスキルは支配進化の時と同様に扱えると……。ふむ、魔法が各Lv個別に登録しなくていいなら、30枠もあれば充分か? コケとロブスターで重複して使ってないスキルは登録する必要もないしね。


「ついでに支配進化と同じで両方のステータスやインベントリの操作も可能だ。傀儡の方にログイン出来るようになる以外は基本仕様は同じだな」

「お、それは地味にありがたい!」

「ただし、同調の解除は不可能だ。ま、こりゃ多分成熟体への進化の際に何かしらあるとは思うがな」

「なるほど、あくまで支配進化の延長線上で共生進化とは別物なんだな」


 基本仕様は同じって事は、死んでも同じ場所でリスポーンも可能なんだろう。ふむふむ、支配進化の利点が無くなる訳じゃなくて、出来る事の幅を広げる内容っぽいね。

 でも解除そのものは出来ないんだな。まぁそれは支配進化をした時から分かってた事だから別に良いか。それに確かに成熟体への進化の際にこの状態を解除する進化ってのもありそうな気はするよね。


「それとだな! いや、これは自分でやってみるほうが楽しいか……?」

「……まだ何かあるのか?」

「支配進化では絶対に出来ない、ある行為が可能になる。正直これは自分でやってみた方が良いと思うけど、ケイさん聞くか?」

「無茶苦茶その内容は気になるんだけど!? ……ちょっと考えさせてくれ」

「おうよ、推測するってのも楽しいもんだしな」


 聞いておきたい情報でもあるけど、何でも聞けばいいって訳じゃないもんね。支配進化では絶対に出来ないある行為……? 傀儡側のログイン制限は撤廃されるのは多分違うよな……? ふむ、ちょっと予想がつかない……いや、もしかして……?

 もし今俺が考えている事がそうなのだとすれば、これは進化する価値はあるのかもしれない。というか、予想通りなら相当やばいぞ。


「ガストさん、推測したのはあるんだけど……」

「ほう! 具体的な事は欠片も言ってないけど、どういう結論になった? どうする、答え合わせするか?」

「確認しときたいから、俺の推測が合ってるかどうかだけ教えてくれ」

「おう、良いぜ」

「ずばり、同調共有では戦闘中の分離が可能とみた!」

「……すげぇな、ケイさん。正解だ」

「おっし! やっぱりか!」


 無条件で分離しっぱなしって事は流石に無理だとは思うけど、コケとロブスターの一時的な分離が可能になるのか。そうなるとログインしている方が本体になって、分離中はもう片方を遠隔操作とかそういう感じかな。


「そこまで推測出来たなら、伏せる必要もないな。ログインしてる方が本体になって、ログインしてない方が遠隔操作になるぜ。この辺は支配進化の前提条件の操作系スキルの名残りだろうよ」

「ま、そりゃそうなるか。それでデメリットは?」

「同時に2体操作になるから、下手すればどっちも操作が中途半端になって弱くなるな。それと支配、傀儡の上下関係は無くなるから、死亡条件はログインしている方が死んだら終わり。もう片方が死んでも大幅に弱体化だ」

「なるほどね。その辺はログインしてる方が基準になるだけで基本的に支配進化と一緒か」


 ふむふむ、分離しての遠隔操作は下手な使い方をすれば弱体化の可能性を招く危険な手段か。でも、扱いきれればコケもロブスターも十全の性能を発揮出来るという事でもある。


「なんか、聞いてるだけでもとんでもない強化な気がするんだが……」

「そだね!? 支配進化の更なる強化は恐ろしいよ!?」

「え、そうかな? これって、操作性がかなり複雑化するんじゃない?」

「……そうだろうけど、扱いこなせれば相当厄介だとは思うよ」

「うーん、私には使える気がしないかな」

「私も多分無理です!」

「俺は逆に興味は湧いたけどな。これだと木で回復環境を整えつつ、クジラを前線に突撃させられる」

「あ、そっか! アルさんだとそうなるんだね!?」

「ま、つっても俺は共生進化だからな。現状では無理か」

「アルは成熟体で狙ってみればいいんじゃないか? 多分そっちはそっちであるだろ」

「おう、そう考えてるとこだ。だけど支配進化や単独での進化に強化があるのなら、共生進化にもありそうじゃねぇか?」

「……確かに」


 アルはアルでこの支配進化のその先の進化にはかなり興味があるみたいだね。それにアルの言う通り、支配進化でこれだけの強化があるって事は他の系統の進化でも違った形での強化がある可能性は高そうだ。

 俺らのPTは俺以外は共生進化だけど、そこにも何か相当な強化がありそう。……条件的には一定Lv以上育てるとかかな……? ま、あるならそれもそのうち分かるだろうね。


 よし、これだけの情報が手に入ればもう迷う余地はないだろう。情報を教えてくれたガストさんには感謝しないとね。これ、自分だけだったらしばらく保留にして進化するかどうか悩みまくってた気がするよ。


「決めたぞ。俺は同調への変異進化と強制進化をする!」

「おー!? ケイさんの進化だー!」

「ケイなら扱いこなせるかな?」

「多分出来そうだよね」

「頑張れよ、ケイ。俺もその進化は参考にしたいからな」


 みんなも特に反対って事はなさそうだね。まぁ聞いた感じでは、もし扱いきれなかったとしても今までの支配進化とほぼ同等の事は出来ると考えて良さそうだ。

 

「それじゃ早速進化するか!」

「おー!? わくわく!」

「今日、ケイが進化する事になるとは思わなかったかな」

「私もそれは同感」

「ま、どこにどんな条件があるかはまだまだ未知数だからなー」


 確かにみんなの言う通りだね。俺自身、進化する事になるとは思ってなかったし。さてとロブスターの方から変異進化を実行だな。


<『同調打撃ロブスター』へと変異進化します。宜しければ了承を選択してください>


 もちろん了承である。同調魔砲ロブスターは明らかに魔法系へと変更の進化っぽいので論外。コケのわざわざ被ってるステータスを上げても意味ないし、ロブスターは物理型でいい。


<『傀儡ロブスター』の進化に伴い『支配ゴケ』の強制進化も実行されます。複数の進化先がありますので進化先を指定して下さい>


 強制進化でも複数の進化先があれば選択は出来るんだね。まぁここは魔法型の同調強魔ゴケ一択だ。もう片方のデフォルトっぽいのを選ぶ理由もない。

 お、今までコケがロブスターを侵食していたけれど、それを押し退けていくような……いや、互いに強固に結び合っていくような様子だな。


<増強進化ポイント25、融合進化ポイント50、生存進化ポイント25を消費して『傀儡ロブスター』が『同調打撃ロブスター』へと進化しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『支配に抗うモノ』を取得しました>

<スキル『同調共有』を取得しました>

<スキル『遠隔同調』を取得しました>


<強制進化により『支配ゴケ』が『同調強魔ゴケ』へと進化しました>

<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『支配から同調へと変わるモノ』を取得しました>

<スキル『支配共有』が『同調共有』に変化しました>

<スキル『遠隔同調』を取得しました>


<スキル『同調共有』の効果により、『同調強魔ゴケ』及び『同調打撃ロブスター』の所持スキルを事前に登録することで相互使用が可能になりました>

<『同調打撃ロブスター』へのログイン不可状態が解除になりました>

<支配進化から継続し、ステータスの全ては高い方を参照します>

<複数の生存条件がある為、死亡はログイン側の生存条件が基準になります>

<非ログイン側が生存不可になった場合は、ログイン側が大幅な弱体化が発生するようになりました>

<リスポーン位置設定はログイン側のものが基準になります>


 よし、進化完了! ロブスターへのログインが解禁になって少し違いは出たけども、基本的には支配進化がベースになってるみたいだね。これならコケでログインした場合は今までと大差は無さそう。見た目の変化は……ロブスターのハサミのゴツさがより増したっぽいね。でも全体像はよく分からないな。


「大きくは変わらないのかな……?」

「いえ、今までコケが侵食していたのが薄れていますね」

「なんだろ? 共生進化に戻ったみたいな感じ?」

「上手く説明できんが、少し違う気がするな」


 うーん、みんなの反応的に見た目に大きな変化はないっぽい? よし、ここはハーレさんに頼もう。


「ハーレさん、スクショ!」

「了解です!」


 すぐにハーレさんがスクショを撮って共有してくれた。さてどんな風に変わったんだろう? えーと、ハサミがさっきの通り更にゴツくなっていて、コケについては確かに侵食されてる感じはないね。

 そして、何か別のものでコケとロブスターが繋がっているような感じはする。一見分かり辛いけども、接点の部分に無属性の魔力集中を発動した時のようなオーラ的なものがあるような気が……。はっ!? という事は、ガストさんもこの状態か!?


「おう、ケイさん。進化おめでとさん!」

「ありがと、ガストさん」


 そう言いながら改めてガストさんのキノコとタカの接触部を見てみれば、薄っすらと無色のオーラっぽいものが見える。そうか、これが同調の証ということなのか。分かりにくいけど、これが見える相手は支配進化の先へ行ってるって事だから遠隔操作が可能になってて割と要注意ということか。


「さーて、これでケイさんとベスタさんへの借りは返したって事でいい? あ、この情報に関しては好きに公開していいからねー!」

「あぁ、問題ない。不足していた情報だからな。感謝する」

「良いって事さー! ルストとかを他の群集だからって邪険にせずに一緒に特訓とかもしてくれてたしねー! あれで邪険に扱うようなら赤の群集として借りがあっても、わたし達の赤のサファリ同盟としてはお断りだからさー」

「他の群集の人だからって、そんな扱いはしないって。そりゃ好き勝手に無茶苦茶な事を言ってきてたら別だけど、ルストさんとかガストさんって変ではあるけど悪い人じゃないしさ」


 そもそも対戦型のイベント中ならそれなりに気にするけど、共闘イベント中に邪険に扱うなんて事は失礼にも程があるからね。俺はゲームを楽しくやりたいんだから、マナー違反の連中以外とはギスギス関係はお断り!


「ケイさん! ルストはともかく、俺は変じゃねぇぞ!?」

「いやー、どっちもどっちじゃない? まぁガストの方が比較的まともだけどさ?」

「弥生さんには言われたくないんだけど!?」

「そこはガストさんに同意ですね」

「ほー、言ったね、2人とも?」

「ちょっ!? 3人ともストーップ!」


 何やら少し殺伐とした雰囲気になりかけている弥生さんとガストさんとルストさんの間にルアーが割って入る。……大変そうだね、ルアー。


「ルアーさん、邪魔しないでね?」

「これは赤のサファリ同盟の問題ですからね」

「おう、ここに口出しはしないでもらおうか」

「でしたら、新入りではありますが私なら問題ありませんね。……ここで暴れるなら変な3人組という印象を与えますよ?」

「「「うっ……」」」


 そして水月さんのその1言であっさり沈静化した。……今の状況を1言で終わらせるとは、やるな、水月さん!


 とりあえずこれで進化は完了。さてとこれから色々試してみないとね。まずはスキルの登録からやっていくか。




【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:支配ゴケ → 同調強魔ゴケ

 所属:灰の群集


 レベル 10

 進化階位:未成体・支配種 → 未成体・同調強魔種

 属性:水、土

 特性:複合適応、同調、魔力強化


 群体数 150/5350 → 150/5400

 魔力値 184/184 → 184/194

 行動値 59/59 → 59/60


 攻撃 68 → 69

 防御 95 → 96

 俊敏 72 → 73

 知識 137 → 139

 器用 146 → 149

 魔力 191 → 195




 名前:ケイ2nd

 種族:傀儡ロブスター → 同調打撃ロブスター

 所属:灰の群集

 

 レベル 10

 進化階位:未成体・傀儡種 → 未成体・同調打撃種

 属性:なし

 特性:打撃、堅牢、同調


 HP 5550/5550 → 5550/6050

 魔力値 86/86 → 86/90

 行動値 47/47 → 47/53


 攻撃 162 → 192

 防御 155 → 181

 俊敏 124 → 148

 知識 58 → 64

 器用 58 → 68

 魔力 30 → 36

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