第362話 判明する事


 とりあえずガストさんがここまで来るのに少し待つ必要があるので、その間にミズキへ進化ポイントの譲渡をやっていこう。折角空いているんだし、直接会話していこうかな。


「ミズキ、進化ポイントの譲渡に来たから処理よろしく!」

『あぁ、事情はグレイから聞いている。後ろの者たちもか?』

「おうよ!」

『……助かる。では各自、任意進化情報の提供を頼めるか?』

「ほいよ」


 簡潔にそんなやり取りを経て、進化ポイントの譲渡の指定画面が表示された。みんなの前にも出ているね。

 なるほど、PTを組んでいる状態でメンバーが揃って行って、混雑していないとこういう風な処理になるんだね。混雑してる時には他の人の画面表示がされているのは分からないもんな。


「いつ進化が出たり、スキル取得に必要になるか分からないから、節約しつつ注ぎ込むよー!」

「ハーレはその調子で、お金の節約も覚えようね」

「先月はこのゲームを買う為に頑張って節約したよー!?」

「それならそれを継続しようね」

「むぅ、ヨッシが厳しい!? でも夏休みに遊びに行く計画だから、節約頑張ってるよー!」

「ハーレ、楽しみにしてるから頑張ってね」

「私も楽しみにしてるかな」


 なんだ、ハーレさんはそんな事を計画していたのか。まぁ、交通費くらいなら何とかなるか……? そういやこのゲームも初日には入手していた訳だし、目標がしっかりと定まっていればちゃんと貯めれるっぽい?

 ハーレさんの普段の金の使い方を把握している訳じゃないからなんとも言えないけど、この言い方だともしかして既にそれなりに貯めているのか……? 思っている以上に抜け目はないみたいだし、もしかするともしかする……?


「ありゃ? ハーレさん達ってオフ会でもやるの?」

「あー、そういう訳じゃないんだけど……」


 いや、ある意味オフ会ではあるのか……? ヨッシさんはサヤとハーレさんと直接会った事はあるのは確定だけど、サヤとハーレさんはリアルで直接会った事はないはず。ハーレさんがこの数ヶ月で泊りでどこかに行ったというのも覚えはないしな。っていうか俺も初耳だし、リアルの関係性を勝手に言うわけにもいかないか。


「サヤ、ヨッシ、話してもいーい?」

「事情くらいなら別に良いよ」

「私もそれは問題ないかな」

「おや、同意があれば別にリアルの話をしても問題はないのですね。そういう事でしたら、私も迂闊に弥生さんのーー」

「ルースートー? もしかして、またポロッと喋っちゃったのかなー!?」

「はっ、失言しました!?」

「後で話は聞かせてもらうから、覚悟しておくように!」

「……はい」


 あーあ、折角みんなはルストさんが迂闊に喋ったのを聞かなかった事にしてたのにルストさん本人がバラしてどうするのさ……。


「さてと、ルストは後でいいや。それでどういう状況なのか、お姉さんに話してごらん? ハーレさん達については少し気になってたんだよねー」

「弥生さん、気になってたのー!? えっとね、私とヨッシは幼馴染! 今年の春にヨッシが引っ越しちゃって、今はヨッシとサヤが同じ学校なんだー!」

「それでこのゲームで一緒に遊ぼうって事になったんだよね。結構遠くになっちゃったし……」

「うん、そうなるかな。オフライン版の話で私はヨッシと友達になったもんね」

「なるほど、そういう事かー。そっかそっか。あんまり勝手に踏み込み過ぎるのはあれなんだけど、これは口出ししといた方が良さそうだね」


 そう言いながら弥生さんがハーレさんのところに近づいていく。そして、ハーレさんの頭に手を置いて撫でるようにしていた。……何やってるんだろう、弥生さん? ハーレさんも不思議そうに首を傾げている。


「……弥生さん?」

「ハーレさん、急に幼馴染がいなくなって寂しかったんだね」

「えっ、弥生さん!? いきなり何!? 私は別にーー」

「もう大丈夫ってヨッシさんには伝わってると思うから、必要以上に強がらなくても大丈夫。ハーレさん、少しだけわざと明るく振る舞ってるよね。元々素ではあるんだろうけど、それを少し演じてる?」

「そ、そんな事はないよ!?」

「ほら、無理はしなくてもいいの。寂しいなら寂しいって言っていいんだよ。それに伝えたい事があるなら尚更ね? だよね、ヨッシさん?」


 弥生さんのその言葉で明らかに動揺しているハーレさんと、何かを考え込んでいるようなヨッシさんである。え、ハーレさんがわざと明るくなるように演じている……? あ、そう言われると空元気で母さん以外には気付かれないように隠してたっけ。


「……そうだね。でもそれは私からは言えない言葉だったから……」

「ヨッシさんもそれじゃ駄目。ちゃんと言葉にしてあげて」


 え、なんだか妙な展開になってきた。ハーレさんの空元気は解消しきったものだと思ってたけど、まだそうじゃなかったって事……? ヨッシさんもこの反応だと薄々気付いてたっぽいな。

 あ、今度はヨッシさんがハーレさんは近づいて向かい合って、弥生さんは邪魔にならないように位置を移動していった。


「……ヨッシ?」

「ごめんね、ハーレ。家庭の都合でどうしようもなかったけど、寂しい思いをさせちゃって。……うん、私がちゃんと言わないと駄目だったね。ハーレが『もう大丈夫だ!』っていう気持ちは伝わってるから、必要以上に強がらなくても大丈夫だよ」

「……うぅ、ヨッシ、寂しかったよ……! でも、でもね、もう私も大丈夫だから! 私は私で頑張るから!」

「うん、分かってる。充分伝わってたけど、それを言えなくてごめんね」


 そうしてしばらく泣いている様子のハーレさんとそれを受け止めているヨッシさんの姿があった。……全然気付かなかった。ハーレさん、そんな風に強がっていたのか……。ゲームを始める前までの空元気よりは改善していたけども、ヨッシさんとリアルで気軽に会えなくなったという事実が変わった訳じゃないんだよな。

 それでもヨッシさんに心配をかけないように、『もう大丈夫だ!』ってハーレさんは自己主張をしてたのか。……これは身内として気付いてあげるべきだったかもしれない。あ、弥生さんが俺の方へと歩いてきた。


「ケイさんはハーレさんときょうだいなんだっけ? ケイさんがお兄さんかな?」

「あ、うん。そうだよ」

「多分これで作った明るさは少なくなると思うけど、ハーレさんは辛くても結構溜め込んで平気に振る舞って隠すみたいだから少しだけ気にかけてあげてね」

「……わかった。でも弥生さん、よく気付いたね?」

「弥生さんはそういう事には鋭いですからね。私の兄もそういうところでーー」

「ルスト、余計なことは言わないの。殆どは素の性格と変わらないんだろうけど、ほんの少しだけヨッシさんがいる時のハーレさんの妙な作った感のある明るさが気になってたんだよね。後はゲームを始めた理由とさっきのわたしの言葉を聞いた時のヨッシさんの反応かな」

「……なるほど」


 弥生さんの観察眼は相当侮れないという事がこれでよく分かった。……そうなると、俺のおかずを取ったりするのもその辺が影響してたりもするのか……? それなら、もう今までの事は完全に水に流しても……。


「あ、ケイさん。多分だけどハーレの食い気に関してだけは違うと思うよ。ね、ハーレ?」

「うん! それは完全に素です!」

「あれは素かよ!」


 ヨッシさんが地味に俺が考えてた事を予想していたらしい。今、少しでも心配して水に流そうとした俺の気持ちを返せ! よし、そういう事なら食事に関しては一切の遠慮はいらないな。賭けには二度と応じないとして、次に横取りしてきたら遠慮なくVR機器を没収するとしよう。

 それにしても今は周囲には見知った相手ばっかで良かったかもしれない。流石に普通に人が多い時ではこの会話はね。……もしかして弥生さん、このタイミングを狙ってたのか?


「なんつーか、ケイのとこも色々あるんだな?」

「……フラムの方も初めは相当厄介だったけどな」

「ぐっ、あれはだな……」

「別に良いって。そっちはそっちで色々あったんだろ」

「お互い様って事か」

「ま、そういう事だな」


 ゲームとは言っても人と人との関わりがあるのがオンラインゲームだからね。良い事もあれば、悪い事もあるものだ。家族であってもその心の内を全て見通す事なんか出来るはずもない。


 まぁ鋭い弥生さんのおかげで、ハーレさんもヨッシさんも思ってはいても直接言葉に出来ていなかった事が言えたのは良かったのかもしれないね。……全く関係のない第三者である弥生さんだったからこそ言えたのかもね。

 引っ越した張本人のヨッシさんからは言い辛い内容だっただろうし、ハーレさんとしても心配させたくなかったからこその行為だったんだろう。近過ぎるからこそ、気軽に言えないって事もあるか……。


「さーて、ガストが来る前にさっさとポイントの譲渡を終わらせようねー!」

「そだねー! 弥生さん、ありがとね!」

「このくらい、この弥生お姉さんに任せておきなさい!」


 なんだか吹っ切れた雰囲気のハーレさんと、満足げな弥生さんだった。何気ない話題から思わぬ方向性で脱線していたけども、さっさと交換してしまわないとガストさんを待たせてしまうことになる。

 そういやベスタやルアー達は……あ、もうさっさと終わらせて赤の群集の森林のボスの日程調整に入ってるよ。いや、これは気を遣って距離を取ってくれたって感じかな。ほんと、良い人が多くてありがたい話だ。




 そしていつまでも脱線していても仕方ないので、すぐに進化ポイントの譲渡を行っていった。譲渡出来るのはイベント期間中に獲得した進化ポイントだけで、それ以前に獲得していたのは除外である。

 コケの方がイベント期間中に獲得したのは増強進化ポイントが1447、融合進化ポイントが1438、生存進化ポイントが1447。ロブスターの方は増強進化ポイントが2450、融合進化ポイントが2441、生存進化ポイントが2447ほどあった。


 イベント期間前にあったポイントを含めてそれぞれ300残すように調整して、合計で10429ポイントを譲渡した。うん、とんでもない量の進化ポイントだな。これがイベント報酬の交換に使えるポイント数ってことになるのか。


「そういやこれって進化ポイントの譲渡の上限数ってあるの?」

「ケイ達が話している間に確認しといたが、特にはなさそうだぞ」

「あ、そうなんだ。ふむ、でもそれって良いのか?」

「そうじゃないとイベントの報酬の獲得出来る上限数が設定される事になるから、設定してないんじゃないか? その為のイベント期間区切りだと見た!」

「なるほど。イベント期間でボス戦を達成しても【惑星浄化機構】の進化はイベント終了後か」

「もしくはボスの全撃破が終わった時点で進化はするけど、更に追加譲渡はありって事かもしれないぞ?」

「あー、それも確かにありそう」


 このアルの推測もありえそうな話だね。一旦進化で区切りはつくけど、イベント報酬目当てで進化ポイントやボス戦のカウント数を増やす可能性は充分ありそうだ。ま、この辺は実際になってみないと何とも言えないか。


<ワールドクエスト《この地で共に》のボスが1体撃破されました> 青の群集 1/5


「おー! クエストが進んだね!」

「青の群集か。どこのエリアだろ?」

「分かんない! 聞いてみる?」

「いや、別に良いよ。聞いても行ける訳じゃないし」

「あ、それもそだね!」


 青の群集でもクエストが進むのは重要だけど、転移が使えない今だと常闇の洞窟を踏破するか陸路で移動するしかないからね。いや、フレンドに仲間の呼び声を使ってもらうって手段もあるにはあるか。

 でも、現時点では移動が大変なだけでほとんど意味がないからね。まずは赤の群集の森林エリアのボス討伐を終わらせるのが最善だろう。

 

 あ、そうだ。一応今のクエストの進捗情報も確認していこうかな。クエスト欄を表示っと。


【共闘イベント『瘴気との邂逅』】


 ワールドクエスト《この地で共に》の進行状況


 【赤の群集】

  ボス撃破 0/5


 【青の群集】

  ボス撃破 1/5


 【灰の群集】

  ボス撃破 1/5


 【惑星浄化機構への進化情報】

  累計譲渡進化ポイント 8,765,722


  ボス戦への参加回数:9(使用済み:2)


 思った以上に膨大な量の進化ポイントだな。それだけ惑星浄化機構の進化は特殊で大掛かりなものになるんだろうね。そして今更ではあるけど、ワールドクエストの《この地で共に》の意味は惑星浄化機構とプレイヤーである俺らがこの惑星で共存していくって事なんだろう。


 そんな風に確認していると上空から月に照らされた影が地面に映し出されていく。鳥っぽいって事はガストさんが到着したみたいかな?

 

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