第360話 確認しておく事


 瘴オオヒノノコ討伐は完了したし、時間的には4時前といったところ。とはいえこのボス戦は1時間近くやっていたから、少しここで休憩していきたいとこだね。

 どうやらヒノノコを倒した事でエンの動きもほぼ無くなったようなので、休憩してからミズキの森林に行こう。


「ケイ、お疲れ様かな」

「サヤもお疲れ。それにしても纏浄のデメリットは結構きついな」

「はい、みんな果物どうぞー! 魚や肉もあるよー!」

「お、ハーレさんサンキュー!」


 ハーレさんがくれた蜜柑を食べながらHPの回復をしていく。うーん、流石に消費も激しいからここは治癒活性も使っておくか。あ、脱皮でも……いや、流石にあそこまではいらないかな。


<行動値を1消費して『治癒活性Lv1』を発動します>  行動値 3/51(上限値使用:8)

<纏浄のデメリットが発生します>


 うっ、回復させようとしてスキルを使った事でダメージを受けた。まぁいい、回復アイテムの回復量も増えるから回復の方が上回って問題なしだ! 果物や焼き魚を食って回復! あ、地味に塩味のついた焼き魚が美味いね。


 まぁ、纏浄を解除してしまえば良いだけではあるんだけど、少し思いついた事がある。砲撃化した魔法からの思いつきで昇華魔法を使ったけど、よくよく考えるとちょっとおかしいんだよな。少し推測もあるから、それを試してみたい。


「みんな、お疲れ様ー! いやー、みんな頑張ったねー!」

「これでこの地点でのボス戦は完了だ。これにて討伐隊は解散とする!」

「赤の群集の森林でのボス戦の日程はこれから調整するから、時々確認しといてくれ!」


 そして弥生さん、ベスタ、ルアーの3人からボス戦終了宣言と、次のボス戦への案内が告知されていく。ま、具体的な時間についてはこれから決めるんだし、今はまだはっきりとした事が言えないのは仕方ないね。その宣言を聞いた参戦していた人達は、みんな陥没エリアに降りてくる。ま、みんなも休憩はしたいとこなのだろう。


 それにしてもあちこちに散らばり焼けて無残な光景になっているエンの根や、元々ここにあった森は跡形もなくなってるね。……さっきのウォーターフォールでも少し地面が抉れているし、ヒノノコを叩きつけた崖も少し崩れそうになっている。

 しばらく待てば回復はするんだろうけど、今は仕方ないか。それはそうと、ヒノノコを倒した時に手に入った瘴気石とやらが気になる。これ、一体何のアイテムだ……?


「ねー!? さっき手に入った瘴気石ってなんだろね!?」

「やっぱりハーレさんも気になるか」

「そりゃね! みんなは気にならないの!?」

「私も気にはなるかな?」

「……その前に1つ確認しよ。瘴気石を持ってる人、どれだけいる?」

「俺も持ってるぜ。その件は検証の必要がありそうだな」

「わたしもあるねー」

「私も持っていますよ」


 ヨッシさんの質問に対して、みんながそれぞれに答えていく。その結果としてはこのボス戦に参加していた人は全員持っているようだ。ふむ、確定入手だったっぽい?


「……とりあえずアイテムの詳細を見てみるか」


 名前だけで用途を考えていても仕方ないので、所持アイテム一覧からアイテムの情報を確認していこう。それで何か分かると良いんだけど……あれ? 進化項目が光ってる? 何か進化条件でも満たしたみたいだね。その確認は気にはなるけど状況が状況なので後にしておこう。


『瘴気石』

 瘴気強化種の体内で瘴気が自然に結晶化して、石のようになったもの。

 それを取り込んだものは、その石に蓄積された力を得て急激にその姿を変える。


 要するに瘴気強化種の体内で作られた瘴気の塊か。これは纏属進化用のアイテム? うーん、でもそれっぽい説明はないし、纏瘴には瘴気の凝晶もあるしね。


「よーし、ちょっと試してみようー! ……うん、これは纏属進化用じゃないね」

「すぐに躊躇なく試しましたね、弥生さん……。ですが纏属進化は外れですか。一体これは何に使うのでしょうね?」

「さっぱりだな……」


 早速試してみた弥生さんやルストさんでも、この瘴気石の用途は分からないようである。姿を変えるってあるから、何かに対して使うんだろうけど用途が全くわからない。


「ん? 今、何か赤いのがいたような……」

「どうした、フラム?」

「いや、ちょっとな。『熱感知』!」

「何やってんの、フラム兄?」

「……あそこの焼けて倒れた木の影になんかいるぞ。シルエット的に俺に非常に似てる気が……」

「フラムに似てるって事は、ツチノコ……? あ、もしかして!?」

「ケイ……?」


 姿を変えるというのは、もしかしたらプレイヤーじゃないのかもしれない。ボス戦については、これまでタイミングや見た目は違っても再登場があった事や共闘イベントの期間がまだ結構残っているという事を考えれば、1回のみで終わる可能性は低いんじゃないか……?


「みんな、崖上に移動しててくれ。ちょっと試したい事がある」

「……大体、予想はついた。ケイ、1人で問題ないか?」

「ま、みんなで2連戦はキツいしな。確認するだけで別にいいだろ、ベスタ」

「……それもそうだな。よし、全員退避しろ!」


「え、何事?」

「何か試すっぽいぞ」

「あ、そうなんだ」

「邪魔にならないように退避しとくか」

「瘴気石の使い道が分かるのかな?」

「その為の実験じゃね?」

「よし、崖上から見学すっか」


 そう口々に雑談をしながら、俺以外のみんなは退避していく。ま、下手に巻き込んでも仕方ないし、ここは俺一人で充分だ。少し行動値も魔力値も回復はしてきてるから、確認するだけなら何とかなるだろ。あ、でも誘き出す為の手伝いは少し欲しいかな。


「ヨッシさん、まだ統率のハチ残ってたよな?」

「え、うん。特攻していく人が多かったから、地味に残ってるよ」

「それじゃさっきフラムが言ってた倒木の上辺りに毒持ちで統率のハチをよろしく」

「うん、分かった。『ポイズンクリエイト』『同族統率・毒』! 行け、ハチ2号!」


 生き残ってたのはハチ2号か。そのヨッシさんの統率のハチが何かが潜んでいる倒木の真上に来た頃に、赤い影が飛び出してきて統率のハチを食っていく。


「あー!? 普通のヒノノコ!?」

「やっぱりか」


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 21/51(上限値使用:8)

<纏浄のデメリットが発生します>


『ヒノノコ』Lv6

 種族:黒の暴走種の残滓(隠密俊敏種)

 進化階位:成長体・黒の暴走種の残滓

 属性:火

 特性:隠密、俊敏


 デメリットは発生したけど、これってどう見ても瘴気強化種になって進化する前のヒノノコだよな。よし、ここからが実験だ。


 ハサミで挟んで持っていた瘴気石を地面に置いて、少し後退して距離を取る。ヒノノコは俺が置いた瘴気石に興味を示して、一気に食いついた。その瞬間にヒノノコの表面に禍々しい模様と瘴気が溢れ出し、瘴気に包まれて大きくなっていく。

 そして覆っていた瘴気が霧散したかと思えば、先程まで戦っていた瘴オオヒノノコと瓜二つの姿へと変化していた。よし、これは予想通り。もう一回識別をしよう。


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 17/51(上限値使用:8)

<纏浄のデメリットが発生します>


『瘴オオヒノノコ』Lv10

 種族:黒の瘴気強化種(隠密俊敏種)

 進化階位:未成体・黒の瘴気強化種

 属性:火、瘴気

 特性:隠密、俊敏、瘴気吸収


<ワールドクエスト《この地で共に》のボス戦に参加しました> 参加回数:9


 よし、ボス戦カウントも出たって事は瘴気石を食べさせれば再戦可能か! でもエンの方は動く気配はないし、始末しきった翼竜もいないか。初戦はエンや翼竜が居て厄介ではあるけど、あれが特別厳しいだけっぽいね。

 とりあえず分かった事を報告しとくか。これは相当重要っぽいけど、これから2連戦をするには少ししんどい。あれだけ大量に瘴気石を持ってる人がいるんだし、1個くらい無駄になっても何とかなるだろ。


「報告! 識別情報は同じで、ボス戦カウントがされた!」

「え、マジか!?」

「うお!? ボスが復活した!?」

「え、でもクエストのボス討伐の数には変化ないよ?」

「これ、ただ再戦出来るだけ?」

「瘴気石を使えば再戦可能?」

「もしかしてボス戦の回数はこれで稼げるのか!?」

「エンの妨害や翼竜はいないから、攻略方法が少し変わりそう……?」


 崖上から見学している人達がざわめいている。まぁ、まさか再戦出来るとは思ってなかったもんね。さて、休憩もしたいからここから本格的に戦うのは無しかな。ちょっと実験したい事があるから、それだけやって退避しようっと。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 16/51(上限値使用:8): 魔力値 32/184

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を2消費して『浄化の光Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 14/51(上限値使用:8)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 さて瘴オオヒノノコの黒い火は昇華魔法っぽいのはほぼ確実だし、魔法砲撃を使っている可能性は極めて高い。でも瘴気魔法ってのは今わかっている限りでは存在しないんだよな。そうなると、事前に瘴気を集めていたあれが再現の鍵になりそうなんだよね。

 という事で、折角纏浄中なので対となっているっぽい浄化の光を使って実験だ。起点に指定した右のハサミの前に浄化の光を展開する。そして、その浄化の光に重なるように砲撃化した水の放水を開始!


<『浄化魔法:ピュリフィケイション・アクア』が発動しました>


 うぉ、何かあるとは思ったけど浄化魔法ってこうやって発動するのか!? 浄化の暖かな光を帯びた放水がヒノノコへと直撃し、一気に1割くらいのHPを削った上にヒノノコが苦しんでいる。……これは結構な威力だな。


<纏浄のデメリットが発生します>

<浄化魔法の発動負荷により、纏属進化・纏浄が解除になります>

<『支配ゴケ・纏浄』から『支配ゴケ』へと戻りました>

<『傀儡ロブスター・纏浄』から『傀儡ロブスター』へと戻りました>

<『浄化制御』『浄化の光』が使用不可になりました>


 あ、纏浄が解除になった。っていうか、HPと群体数が1残して全て消え去ったー!? え、浄化魔法を使うと負荷が大き過ぎてHPと群体数が全て消し飛んで、問答無用で纏浄は解除になるのか……。まぁ、纏浄自体が無理をして力を引き出しているって事だし、これは仕方ないんだろうけどさ!?


 今回は砲撃化したけど、魔法砲撃がなくても多分出来そうな気はする。でもLv2以上の魔法でやったらどうなるんだろ。……昇華魔法になる魔法限定か、それ以外でもいけるのか、どっちだ? いきなり昇華の効果があるやつにしたのは失敗だったかも……。とはいえ、今更どうにもならないから離脱しかないか。


「実験終了! 倒したい人に後は任せた!」

「え、マジで!?」

「さっきの何あれ!?」

「浄化の光と魔法を合わせた……? でも複合魔法っぽいけど複合魔法じゃないよな?」

「浄化の光は魔法じゃないから複合魔法じゃないはず……」

「いや、そんなもんは試してみりゃいい!」

「そりゃそうだ。纏浄が解除されてたみたいだけど、纏浄を使用中の奴は沢山いる!」

「再現しに行くぞー!」


 さて倒したい人は結構いたようなので後は任せて、俺は水のカーペットに乗って崖上に移動済みのみんなのとこへ移動しよう。いるのはベスタ、俺のPTメンバー、赤のサファリ同盟のメンバー、ルアー、ライさんだな。

 って、あれ……? キャラの操作が効かない……? もしかして、負荷がかかり過ぎで操作制限すらかかってるのか!?


「ケイ、後ろ!」

「え……? あ……」


<『傀儡ロブスター』のHPが全損しました。『支配ゴケ』が大幅に弱体化します>

<群体が全滅しました>

<リスポーンを実行しますか? リスポーン位置は一覧から選択してください>


 俺が動けなくなっているところにヒノノコの普通の火の弾が直撃した。うん、普通の時なら耐えれるけど今はどう考えても無理! はい、思いっきり死んだのでアルの木でリスポーン。後1回で使えなくなるから、今日中にはリスポーン位置は再設置かな。


「あはは、死んだけど移動の時間短縮にはなった!」

「それは見たら分かるが、ケイは具体的に何をした?」


 アルのところにリスポーンしたら地味にみんなの視線が痛い気がする。そして何かを聞きたそうな雰囲気だ。概ね見たままの事だからそれほど説明はいらないと思うけどなー。やっぱり説明しないと駄目かな?

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