第358話 瘴オオヒノノコ討伐戦 その3
これは毒持ちの人を囮にするようなものなので、あまりしたくはない。でもこれはゲームだし、死んでもどうにでもなる。
今のヒノノコの攻撃優先度は毒持ちみたいだし、流石にこの大人数では全員をカバーし切れないな。ある程度は防ぐけど、基本的には個別に頑張ってもらうしかない。その為にもこれは言っておかないとね。
「毒持ちの人! 万が一の時に一矢報いる為に、回復アイテムをインベントリから出して常に持ち歩いてくれー!」
「ほほう、そういやそうか! ふっふっふ、大人数過ぎて出番がないかと思ったらそうでもないらしい!」
「おい、どういう事だ? 毒持ちに囮になれって言われた気がするんだが……?」
「赤の木の人、それはあながち間違っちゃいないけど、弱くても大活躍するチャンスなんだぜ!」
「どういうこった?」
あ、崖上に呼びかけて反応があったと思ったらトリカブトのザックさんか。崖上の方でボス戦に参加してたんだな。どうやら赤の群集の人と一緒に、俺達に比較的近い位置の崖上で瘴気の撤去をしていたようである。
そういやトリカブトのザックさんも、ハチの翡翠さんも毒持ちだから危険ではあるのか。あ、キノコのタケさんも地味に危ない? あのPT、よく考えると地味に毒持ちが多いね。
「おう、それはだな、ヒノノコにこの蜜柑とかの回復アイテムを食べさせるとーーぎゃー!?」
「おい、思いっきり食われたぞ!? 良いのか、あれ!? って、ヒノノコが苦しんでる……?」
「……ザックはすぐに戻ってくるから問題ない。……私たちは作業を続けるべき」
「……そうだ。今はこのヒノノコを叩き落とす。『魔力集中』『硬化』『重突撃』」
「それもそうですね。翡翠さんも毒持ちですし、気をつけて下さい」
「……大丈夫。ザックほど油断はしない」
「ビックリする程、動じてねぇのな!?」
ザックさんはインベントリから蜜柑を取り出した瞬間にヒノノコに襲われ、食われていった……。うん、どうやらザックさんは襲われながらもしっかりと蜜柑を食べさせたようで、ヒノノコは痙攣する様に崖の上で蹲っているようだ。
その状態のヒノノコにイノシシのイッシーさんが突撃して、崖下へと吹き飛ばしていく。おー、回復アイテムの効果は抜群だな。今までのどれよりも隙が盛大に出来ている。あと赤の群集の木の人、灰の群集ってのはそんなもんだ。
「攻撃部隊、赤の群集も一斉に攻撃に移れ! 『並列制御』『重硬爪撃・風』『爪刃双閃舞・風』」
「いやー、効果抜群だね。それにベスタさんは全力だねー! みんな、互いに邪魔しない程度に叩き込んでいくよー! 『爪刃乱舞・風』!」
「分かったかな! 『強斬爪撃・土』!」
「おうよ! 『重突撃』!」
「エンの根が邪魔ですね! 『爪刃乱舞』!」
「よし、俺もだ! 『エレクトロボム』!」
「根が鬱陶しいな。『回鱗刃乱舞』!」
そしてそんな隙を見逃す筈の無い、陥没エリア内にいるメンバーが次々に攻撃を仕掛けていく。まぁ赤の群集のみんなはヒノノコの防衛に動いたエンの根の始末がメインだけど。ヒノノコがあの状態になるとエンがヒノノコの防衛に動くようである。地味にエンの根が邪魔だな……。
さて、見てるだけじゃなくて俺もやっとくか。……近接はみんなが攻撃しているから俺が無理に割り込むと邪魔になりそう。俺には遠距離攻撃があるんだからそっちが良いけど、魔法の爆発系でも邪魔になるな。……となれば、魔法のLv2か水流の操作かもしくは……。
よし、あれでいくか。さっき生成して放置していた水のカーペットに飛び乗って、上に飛んでいこう。おっと、翼竜が邪魔だな。分裂して大量にいるけど、今何体になってんだ?
「『ポイズンプリズン』!」
「お、ヨッシさん、サンキュー!」
「どういたしまして。翼竜は私が抑えるからケイさんも攻撃をお願いね!」
「ほいよ!」
さてと頼りになるヨッシさんの援護もある事だし、盛大に一撃を叩き込むか。それにしても纏瘴の被弾減少効果はかなり有効みたいだね。毒で狙われやすいはずのヨッシさんが狙われる確率がかなり下がっているようである。
<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します> 行動値 39/51(上限値使用:7)
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を19消費して『光の操作Lv3』は並列発動の待機になります> 行動値 20/51(上限値使用:7)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を2消費して『閃光Lv1』は並列発動の待機になります> 行動値 18/51(上限値使用:7)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
閃光はLv3まで上がってはいるけど、どうもLv上昇では光の量が変わる訳じゃないようなので光の操作でレーザーの光源としてはLv1で充分だ。暗黒空間とかを相殺する時にはLvは重要っぽいけどね。
流石に魔法攻撃ではないから、砲撃化は無理か。まぁいい、即座に光を収束させてレーザーにしてヒノノコを撃つ! お、頭部に直撃。光の操作はLv3にもなれば狙いは相当正確なものにはなったね。
「行くぜ。『斬化ヒレ』『連閃・風』!」
「皆さん、やりますね。ですが、そろそろ時間切れですか。『根槍連衝』!」
「動けるようになる前に食らっとけ!」
次々に叩き込まれる縦横無尽に泳ぎながら銀光を纏うヒレで切り刻んていくルアーに、チャージしながら追撃効果の風の刃で切り刻んでいくベスタ、それらを邪魔しないように立ち回りながら銀光を纏う根で突き刺していくルストさん。そして、ヒノノコが回復アイテムで効果で痙攣していたのから復帰しようとしたところでチャージを終えたベスタの一撃がヒノノコに炸裂する。
ははっ、一気にHPが5割から4割を切るくらいまで減ってるよ。これはかなりダメージ効率がいいけど、まだまだ削れるはず。うーん、果物を食べるタイミングを図れればチャージ系の応用スキルを叩き込む事も出来るかな? でもこの状態でタイミングを図るのは少し難しいか。
「赤の木の人、実演はこんなもんだ!」
「……戻ってきたのか。なるほど、情報では見ていたがこういう事なんだな」
「そういうこった! 活躍したい毒持ちは回復アイテムを持てー!」
「ははっ、こりゃいいや!」
「なるほど、ただ食われるよりはよっぽどいい!」
ザックさん、実演とか言ってるけど多分偶然だよな!? いや、盛大な隙を作ってくれてありがたかったけどさ。でも、さっきのはこの大人数だからこそ出来た話。流石に3PT分の連結PTではあそこまで捨て身な事は出来ないな。
ふむ、大人数が揃っていた状態で後の憂いもない形にしてボス戦に入れたのが大きいかな。急な予定変更にはなったけど、弥生さんの発案は相当役立った感じだね。
「あ!? 今度は自己強化に切り替わったよ!?」
「ちっ、また隠れやがったか。フラム!」
「おう! 『熱感知』! あ、やべぇ!? 移動速度が早くてすぐ分からなくなる!?」
「お努めご苦労さん。下がってていいぞ、フラム」
「俺ってお役御免なのか!? ケイ、酷くねぇ!?」
フラムが何か言ってるけど、それはスルー。熱感知があっても移動速度が早くて見失うのなら意味はない。……さて自己強化状態になって全身が赤く光ってたけど、それでも見失うとは厄介だね。自己強化って防御も上がるから魔力集中の時よりダメージ与えにくいんだよな。
「ベスタ、どうする?」
「ここはカウンター狙いでいくか。ヨッシ、統率のハチはどれだけ使える?」
「まだ1体も倒されてないから、3体全部いけるよ。固めて囮にする?」
「あぁ、それが良いだろう。頼むぞ、ヨッシ」
「了解。それじゃ再生成するね。『ポイズンクリエイト』『同族統率・毒』! ハチ1〜3号、集結して防御!」
「他の連中も一度集まれ。今の状態だとバラける方が危険だ」
そのベスタの言葉に従い、みんなが1ヶ所に集まっていく。ボスの場合だと自己強化がほんとに厄介だ。攻撃の威力は魔力集中よりは下がるけど、他が一律に強化されるからな……。
みんなが集まっている間にヨッシさんが再生成した統率のハチを少し前の離れた場所に固めていく。さて、ここに突っ込んできてくれればいいんだけど……。
「崖上の方! 危機察知が反応したら即座に少し下がってボス戦エリアから出ろ」
「えー! カウンターしちゃ駄目?」
「出来る奴はそれで良いが、出来ない奴は退避でいい!」
「はーい、了解! それじゃ無駄打ちかもしれないけど準備しとこうかなー。『纏属進化・纏浄』『浄化制御』『重脚撃・浄』! ほーれ、ヒノノコおいでー!」
いつの間にやら崖上に戻っていた様子のレナさんだけど、カウンターを叩き込むつもり満々だな。そして木の実を4個ほど使ってジャグリングをしている。あれってもしかして麻痺毒の木の実か……?
まぁレナさんならそれで問題ないだろうけど、誰でも可能ではないからね。そこら辺は臨機応変にやるしかない。
「危機察知、来たよ!」
「即座に退避ー!」
「逃げろー!」
そしてその状況を見越した上なのか、ヒノノコがレナさんからは離れている方の崖上のPTを目掛けて突っ込んでいく。って、銀光を纏ってるって事は応用スキル!? これはチャージ系か!? あ、でもぎりぎり退避が間に合ったみたいだね。
ん? え、ちょっと待って、そこでなんで一気にエンの根が急激に伸びて行くんだよ!? 突撃していくヒノノコの進行方向の前に巨大なエンの根が現れて、ヒノノコを跳ね返すようにして連携していく。そんなのあり!?
「ふっふっふ、こっちに危機察知が出たね。ヒノノコ、来るがいいさー!」
エンの根によって急激な方向転換を行った次のヒノノコの狙いは、挑発しまくっていたレナさんのようである。あ、木の実をヒノノコに向けて放り投げたね。そして跳び上がったレナさんが、突撃してくるヒノノコの顔を狙って銀光を纏う蹴りを叩き込んだ。
うわー、見事なカウンターだね。軽く朦朧が入ったのかヒノノコが落下していく。
「ケイさん、今!」
「ま、そうなるよな!?」
<行動値3と魔力値9消費して『水魔法Lv3:アクアプリズン』を発動します> 行動値 15/51(上限値使用:7): 魔力値 95/182
距離も比較的近いので砲撃化して、強度を上げておく。自己強化ありのヒノノコにはすぐに破られる可能性は高いけど、それでも少しはマシな筈。……よし、捕獲完了! でも、結構消耗してきてるからそろそろ回復をしたいとこだな。
「ケイ、よくやった。破られたら直後に攻撃を叩き込む。各自準備をーー」
「おっ、良い事を思いついたぜ! おーい、ベスタさん!」
「……なんだ、ザック。あまり猶予はないから手短に話せ」
「んじゃ手短に! 自滅覚悟の特攻してもいい? さっきの回復アイテム食わせるのが一番楽だろ?」
「……ちっ、誰かが言い出す可能性は考えてたがやはり居たか。……良いんだな、ザック?」
「おうよ! 食われるだけで大貢献出来るなら問題ねぇぜ!」
「……ザック、私も付き合う」
「仕方ありませんね。私も付き合いましょうか」
「お、良いのか? タケ、翡翠?」
「……良い。ヨッシが頑張ってるんだから私も頑張る」
「PTメンバーですしね。それにすぐそこにリスポーン位置の設定をすればすぐに戻ってこれますし」
「……俺は毒を持っていないから待っておく」
「よし、決まりだ! 俺らで隙を作るから、リーダー達に任せるぜ!」
「……分かった。お前達のその案、採用させてもらおう」
ザックさんの無謀とも言える特攻作戦がベスタに承認されたね。まぁ、普通に回復アイテムを食べさせるのは難しくても、食べられそうな毒持ちの人と一緒なら難易度は相当下がるのは他でもないザックさん自身がさっき証明した。
無理強いするような内容じゃないからベスタは考えてはいたけど発案はしなかったのだろう。でも立候補があって、本人が良いと言うのであればこれ以上ないチャンスでもある。……って、これ以上ヒノノコの拘束は無理!
「悪い、拘束が限界だ!」
「ケイさん、私が交代します! 『根縛』!」
「ルストさん、木だと相性悪いだろ!?」
「承知の上です。その作戦の実行準備を!」
「やれやれ、ルストも甘いねー。わたしも手伝うよ。『コイルウィンド』!」
「……弥生さん」
「さーて、それほど保たないから急いでねー!」
「しばらく任せるぞ、ルスト、弥生!」
そしてルストさんと弥生さんが決して相性が良いとは言えない状態でヒノノコの足止めをしていく。とはいえ相性が良くないせいで弥生さんはともかくルストさんがどんどんダメージを受けている。……くそ、2人とも纏瘴を使っているから外部からの回復は出来ないのがもどかしい……。
「ザック達がヒノノコの隙を作った後に、全力での総攻撃を行う。各自、今使える最大威力の攻撃の準備を開始しろ。『浄化制御』『重爪斬・浄』!」
「分かったかな。それにちょうど浄化制御も再発動可能になったしね。『浄化制御』『重硬爪撃・浄』!」
「おう! 『浄化制御』『激突衝頭撃・浄』!」
「それでは私も参ります! 『瘴気制御』『重爪斬・瘴』!」
「さて、新技を使うか。『瘴気制御』『断刀・瘴』!」
うお!? みんなが次々とチャージ系の応用スキルを発動していく。これだけ一気に揃って禍々しい銀光と暖かな光の混ざった銀光が次第に強くなっていくのはすごい光景だな。
「ケイ、水流の用意をしろ。一気に連続で叩き込む! ライ、ザック達の危機察知に入れ!」
「よしきた! 任せとけ!」
「水流だな、了解だ!」
前半のボス戦で使ったウォータースライダー的なあれを使うのか。無駄なく叩き込むのならあれは間違いなく有効だしな。
ライさんはライさんでやるべき事の為に、ザックさん達のPTへと移っていく。元々危機察知の要員が居たらよかったけど、居なかったみたいだしね。
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 14/51(上限値使用:7): 魔力値 92/182
これも砲弾化は出来るんだな。でも今はそれは関係ない……あ、ヤバい!? 水流の操作を発動する為の行動値が足りないぞ……。くそ、回復を待ってる時間はないし、どうする!? この場に同じ水流の操作を使えるダイクさんか、代用できる砂の操作を使えるジェイさんがいれば……。くそ、無駄に生成しただけで終わってしまった。
いや、灰のサファリ同盟なら! ……あ、見てみたらなんか洞窟の中から出てきている人がいて、その対応中で余裕はなさそうだ。何か手段はないか!? いや、待てよ。砲撃化って、水砲ザリガニはどうしてた……? あの高圧水流の正体は、俺の水流の操作と本当に同じものか……? そうか、魔法砲撃には生成量の増加が効果としてあったはず!
「ベスタ、悪い! 行動値が足らん!」
「ちっ、この状態でそう来たか。作戦はーー」
「待った! 代わりの手段はまだ試してないけどあるにはある!」
「……ぶっつけ本番か。良いだろう、乗ってやる!」
「もう限界です!」
「やっぱり長時間は無理だったかー。さて、ケイさんのお手並み拝見だね」
一か八かの賭けにはなるけど、魔法砲撃のスキルの性質とその実物は見ている事になるからそれほど分は悪くないはず。うまく行ってくれよ!
「それじゃ行くぜ! 来いや、ヒノノコ!」
「……私達だって強くなくても出来る事はある」
「そうですね。それを証明しましょうか!」
そして崖下へと降りてきたザックさん達が回復アイテムを持った状態でヒノノコに対峙していく。拘束から抜け出したヒノノコは、姿を隠しつつ攻撃の隙を伺ってきている。
「危機察知、来たぜ!」
「食ってこいや、ヒノノコー!」
ザックさんがそう言った直後に、再びザックさんがヒノノコに食べられていった。そしてその代償として、ヒノノコは再び食べさせられた回復アイテムにより痙攣して苦しみ始めていく。よし、ここまでは狙い通り。
みんなのチャージも完了済みだ。水流の操作は行動値が足りなくて無理だったけど、もし予想通りなら問題ないはず。あー、予め使って性質を試しておくべきだった。ま、駄目だったらその時はみんな自力で当てに行ってもらおう!
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