第355話 予定変更
さぁ、ヒノノコからの防衛戦を始めようじゃないか! 今回の勝利条件は後続の人達が倒されないように時間を稼ぐこと!
「お前ら、準備は良いか?」
「おう、俺は良いぜ」
「私もいつでも問題ないさー!」
「問題ないかな!」
「うん、私も大丈夫」
「俺も問題なし!」
俺のPTのみんなはもうやる気一杯である。フラムやルアー達も頷いているので、準備は問題ないようだ。何かフラムが少し変わって自信があるような感じなのが少し苛つくけど、この雰囲気だと魔法型への転向は上手く行ったみたいだな。
「ちょっといいかな、ベスタさん?」
「赤のサファリ同盟のリーダーの弥生だったな。どうした?」
「ちょっと行動方針の確認をね。これ、場合によっては倒し切ってもいいのかな?」
「……可能であれば別に問題はないぞ。もしかして倒す気か?」
「折角この大人数が揃ってるんだしね。初手は防衛に回るので賛成だけど、そのまま逃げるんじゃなくて崖上から包囲して一気に叩くのもありだと思うよ。……それにここまで来る時に気付いてない事はないよね?」
「……瘴気の流れの件か?」
「うん、それ。あ、ベスタさんのポイントの譲渡を優先したいって事や、突発的に攻略するんじゃなくて時間を決めて参加したい人が参加しやすいようにって配慮があるのは分かってるけどね」
「ちっ、思った以上に厄介なのが赤の群集にいたのか」
「厄介って言い方は失礼じゃないー!?」
「あぁ、すまん。言葉の綾だ」
「それならいいけどさー。それで私の提案としてはまずは撤退戦をして、主力以外は崖上に退避。そこから赤の群集と灰の群集で役割分担をして、常闇の洞窟の入り口を塞いでから戦闘エリアの瘴気の除去。その上で可能ならボスの撃破かな。それほど無茶な案じゃないと思うけどどう? 実行出来るだけの人数はいるよね?」
ふむふむ、ベスタの思惑を把握した上での弥生さんのこのままボス討伐という提案か。まぁ瘴気の流れについてや、人数の事を考えれば倒せるだけの条件は整うのかもしれない。
それにしても弥生さん、簡単に常闇の洞窟の入り口を塞ぐと言ってくれるけど……いや、もしかして出来るのか? それには少しだけ必要になるものがありそうだけど、その心当たりは充分にある。……これはこのまま討伐も可能……?
「……簡単に言ってくれるが、おそらく可能な範囲だな。少し待て、必要な条件を確認する。ハーレ、ラックを経由して灰のサファリ同盟がすぐに動けるか確認を取れるか? それとその防衛戦力を確保できるかもだ」
「入り口を塞ぐのに灰のサファリ同盟の力を借りるんだね! 分かった、連絡してくるよ!」
「そこが最重要な要素だから任せたぞ」
ベスタからの要請を受けてハーレさんが灰のサファリ同盟のラックさんへとフレンドコールをかけていく。灰のサファリ同盟には土の昇華持ちが複数人いるって話だし、岩を生成して常闇の洞窟からの瘴気の流出を防げば、現時点で溢れている瘴気の除去のみで済むはず。土の昇華持ちが1人なら厳しいかもしれないけど、複数人いるのなら可能かもしれない。
それに防衛戦力ならレナさんが多分いるだろうし、場合によってはオオカミ組辺りもいるのか。まぁそれについては返答待ちだね。
「ルアー、赤の群集の森林との連絡はつくか?」
「そっちにはガストがいるから問題ないな。で、どういう連絡を取ればいい?」
「今このタイミングでここのボスを倒すと参加しそびれる奴も出てくるだろう。その代わりというのもあれだが、赤の群集の森林のボスを計画的にやりたい。そう話を通してもらえるか?」
「まぁそれは必要か。よし、ミズキの森林に行ってる俺のPTメンバーもいるからそっちにも話を通してもらっておく」
「全体への通知は少し待て。通知するのは攻略の為の条件が整って、この場にいる連中の了承を取ってからだ」
「あ、それもそうだな。それじゃとりあえずガストの方に話をするまでに留めておく」
「あぁ、任せた」
ここで突発的な攻略に移る代わりに、赤の群集のボスの攻略を計画的にやっていこうという事だな。これはもう完全にこれからヒノノコを殺る気だな。もっと後からになると思ってたけど、可能そうなのであれば願ってもない事だ。
こうなるのなら通路でのログアウトを活用してさっさとミズキの森林まで戻ってなくて良かったのかもしれないね。流石にこれからヒノノコを倒してすぐにポイント譲渡が不可能になるとも思えないから、今のうちに倒してしまうのも確かに有りだろう。
それにして弥生さんはいつの間にそんな最新情報を……って、ルストさんに俺が話したからそっち経由か。ふむ、さっきのフレンドコールの時なんだろうな。
「アルマース、ケイ、俺を目立つようにしてくれ」
「ほいよ」
「おう。小型化解除っと」
アルがクジラを元のサイズに戻して、ベスタがそのアルのクジラの頭の上に乗っていく。ベスタを目立つようにか。となれば、光の操作とか色々なスキルの出番だな。
<『発光Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 53/53 → 53/56(上限値使用:2)
<行動値上限を4使用して『発光Lv4』を発動します> 行動値 53/56 → 52/52(上限値使用:6)
とりあえず光源の発動Lvを上げて明るさを強化。さて、本番はここからだな。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 51/52(上限値使用:6): 魔力値 179/182
<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します> 行動値 47/52(上限値使用:6)
3個の小石を生成してその表面にコケを増殖させれば、光るコケ付きの小石が3個の完成である。さー、次の段階だ! 結構無駄なスキルの使用な気はするけどそこは気にしない方向で!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を19消費して『光の操作Lv3』は並列発動の待機になります> 行動値 28/52(上限値使用:6)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を8消費して『土の操作Lv5』は並列発動の待機になります> 行動値 20/52(上限値使用:6)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
さてこれで準備は完了! それぞれの小石をベスタの上に持っていき、3方向に設置。そして……あ、光源は1ヶ所しか光の操作で扱えないのか。それなら3つ分を全部束ねて、収束させるのではなく拡散させるように光を操作していく。よし、これでベスタを照らすスポットライトの完成だ!
「……ケイ、目立たせろとは言ったが、いくら何でもこれはスキルの無駄遣いじゃねぇか?」
「目立ってるからいいだろ。ベスタの要望には応えたぞ」
「……まぁいいか。どうやら思った以上に注目は集まってるみたいだしな」
俺達の後ろに待機している人達の様子を伺ってみれば、まぁその通りだね。急に照らし出されたベスタの姿を見て困惑している人も多くいるようだ。
「え、何事?」
「あれ? このままヒノノコを突破するんじゃなかったのか?」
「あのスポットライトってどうやってるんだろ?」
「何かあったのかな?」
「ベスタさんが無意味な事をするとも思えないし、少し待とうぜ」
「それもそだな」
多少困惑はしていても、特に悪意のようなものはないどころか信頼感が凄いな。基本的に灰の群集の人達の方ではあるけどもね。赤の群集の人は単純に困惑している人の方が多い。
「あー、赤の群集の方から少し提案があった。お前ら、一度駆け抜けた後に包囲してボス戦をやる気はあるか? もちろんこれは倒す為のボス戦だ」
「え、ボス戦!?」
「あー、そういう事か」
「そっか。地味に人数はいるし、ここに居る人達ならボス戦をやる人も多い?」
「いいじゃねぇか、やろうぜ!」
「俺は賛成だぜ!」
「え、この後ちょっと用事があって脱出までならなんとかなるけど、その後ボス戦をやるとなると参戦出来ない……」
「俺、フレンドがまだログインしてないんだけど……」
反応を聞いている感じだと時間に問題がない人はやる気はあるけど、時間に問題がある人が難色を示しているね。まぁいきなりの提案だもんな。その気持ちは分からなくもない。
「それに関しては、急な提案で済まない」
「ごめんね、これってわたしの発案なんだよね。もし苦情があるなら、わたしの方によろしく」
「赤の群集からの提案って、あ!? 赤のサファリ同盟か!?」
「え、あの人って赤のサファリ同盟の人!?」
「昼間の虐殺騒動の張本人だな」
「バーサーカーなネコの人か!」
「いやいや、それはそうだけどあの人は悪い人じゃないぞ」
「あ、そうなの? てっきり怖い人かと……」
いつの間にやら弥生さんはベスタの隣に行っていて説明に加わっていた。どうやら弥生さんの暴走状態についてはそれなりに広まっているようである。それにしても弥生さんはなんか吹っ切れたのか、積極的に指揮に動き出してるんだな。少しベスタと系統は違うけど、弥生さんもリーダー気質っぽいよね。
「そういう事だけど、駄目なら駄目で良いからねー! でも、全員にとって都合の良い時間っていうのも確保出来ないのは忘れないでね」
「まぁそりゃ確かに……」
「そりゃそうだ。それを気にしてたらいつになっても何も出来ねぇ」
「むー、理屈は分かるけど……」
「これは自分の都合が悪いからってワガママを言う方が駄目かな」
「しゃーない、今回は諦めるか」
まぁ全員がログインして集まれる時間なんて存在しないもんな。大人数になればなるほどそれは困難になっていくから、どこかしらで妥協が必要なのは間違いない。とはいえ、参加出来ないのが分かっているってのが悔しいという気持ちも分からなくはないんだよな。
でもそれに関しては今、ルアーが確認を取ってくれているはず。隣のエリアのボス戦が時間を決めて討伐が出来るのであれば、多少は違うとは思うんだよな。どっちにしても全部のボス戦への参戦は不可能だろうしね。
そんな様子を見ているとベスタに向けてルアーが近寄っていく。フレンドコールが終わったみたいだし、ガストさんと話がついたっぽいね。
「よし、ガストから確認取れたぜ。流石に灰の群集ほど戦力が多くないから、むしろ好都合だとよ。こっちが討伐する事になったら、それに合わせて討伐計画を立てるために説得していくって話だ。もちろん俺らの方でその調整はしていく」
「その辺の調整は提案したわたしも手伝うね。ベスタさん、これならいけるんじゃない?」
「そうだな。ハーレ、そっちはどうだ?」
「少し準備時間が欲しいけど、可能だってさー! それとオオカミ組の方で防衛隊を組んでくれるって! 準備が出来たら私経由で合図するね!」
「よし、分かった。これで必要な条件は整ったな」
これで攻略の為の最低条件は整った。これ以上は実際にヒノノコと戦ってみないと分からないけど、もしこれでも勝てない要素があるのならその条件を知る必要もあるからな。後は、今ここにいる人達が納得するかどうかも重要になってくる。
「全員聞いてくれ。いくつか条件を確認したが、実行可能と判断した。ボス戦の参加に関しては、赤の群集の森林の方で時間を設定して行うという方針で同意も取れた。まぁこっちに関しては詳細を詰めるのはこれからになるが、全くの無意味な形にはしないつもりだ」
「赤の群集の森林に関しては俺らの方で調整をする。それで許容してもらえないか?」
「ルアーがそう言うのなら、それでも良いのかな」
「色々頑張ってくれてたんだし、ここで困らせてもな……」
「俺はいいぞー!」
「ふむ、2回ボス戦が出来そうだな」
「こっちは無理でも他の場所で出来るならありかな?」
「そだね。弥生さんが言ってた通り、全員の都合が合う事はないもんね」
雰囲気的にはこれからボス戦を行う事は受け入れられそうな感じだね。それにしてもルアーがようやく報われ始めたみたいで良かったよ。
「はい、質問!」
「そこのチューリップの人、どうした?」
「赤の群集のボス戦の時間帯についてはどうなりますか?」
「……これからの調整次第だが、人の多い夜になる可能性が高いだろう」
「纏瘴や纏浄の効果もあるからね。最低でも3時間以上……あ、切れてから3時間だから4時間後にはしないといけないかしら。今が3時だから、最低でも7時以降かな?」
「返答ありがとうー!」
「そうか、使用制限の事もあるんだな」
「それなら今のうちにやっておくのが正解かもしれないな」
「両方に参加したいならそうなるんだね」
「夜なら参加出来るかな」
「俺は逆に夜は参加出来ねぇ!? 今やってくれる方がありがたい!」
「あ、そっか。そういう人もいるんだ」
「当たり前といえば当たり前な話か。リアルの都合もあるんだし、全員が全員参加できる訳がない」
それからしばらくの間、みんながそれぞれに考えていった。難色を示している人がいない訳でもないけど、それは少数派みたいである。……申し訳ないけど、全員の要望を汲み取るのは無理だもんな。俺だって参加出来ていないクエストとか結構あるし、全部に参戦は戦場がバラけている以上は不可能である。
「よし、準備が出来次第、ヒノノコの討伐を開始する! まずは当初の予定通り、突破して崖上に退避。そこからまだ未使用のやつで赤の群集は纏瘴を使いつつエンの妨害、灰の群集は纏浄を使いつつヒノノコの標的を分散。可能な限りPTには危機察知持ちを入れて、狙いの目印にしろ。察知した場合は大声で報告だ」
「纏浄か纏瘴の使用制限がかかってる人は、翼竜を分裂させていってね! あと麻痺毒持ちの人は翼竜への麻痺毒を最優先で! 狙いが分散すればするほど、1人ずつの負担は減るからねー!」
「ヒノノコの動きが鈍っている状態になれば、積極的に瘴気収束と浄化の光を活用して瘴気を除去していけ。ここが序盤での最重要ポイントだからな!」
「そこまで済んだら、その先の行動パターンはまだ不明だから臨機応変で対応ね! 基本的には各PTのリーダーの判断に任せるけど、みんなで連携してやっていくよー!」
ベスタと弥生さんの交互の説明により、瘴気の除去までの手順が説明されていく。まぁ、俺らはまず崖上まで退避の為の防衛戦をするのは間違いないね。そこから灰のサファリ同盟とオオカミ組に常闇の洞窟の入り口封鎖を任せて、本格的にヒノノコとの激突って事になる。
弥生さんの提案で予定が変わってヒノノコの討伐に変わったけども、この流れはむしろ望むところ。この1戦でヒノノコを仕留めてやるぜ!
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