第354話 合流しての大移動
それから大して時間もかからずに1ヶ所目の転移地点まで戻ってきた。ふむ、みんなが集まってきているのもあるようで、結構な大人数になっている。集まっているのは基本的に灰の群集と赤の群集だね。
「ヒノノコを突破しようって奴、集まれー! 固まって一気に抜けるぞ!」
「防壁系の魔法を使えるやついるかー?」
「出張取引所『桜花』では毒の弾を取引中! 上手く投げれば逃げやすいぞ! 可能なら回復アイテムと一緒に投げるのもありだ!」
「それ、やってみたけど難易度高い……」
「投擲は人によって向き不向きが大きく出てくるもんな」
「防壁系はまだだけど、昇華魔法なら行けるぞー!」
「あ、俺も俺も!」
「今はまだヒノノコは倒さなくていいから、まずはミズキの森林まで行くぞー!」
「随分混雑中だね。こりゃ通路でログアウトする方が早い?」
「そうかもなー。まぁ1回くらいなら死んでも良いか」
「そだね、そうしようかな」
「あ、ログアウトを検討してる奴はちょっと待ってくれ。足止めも狙うから、その時にやってくれ!」
「お、そうなの? それならちょっと待ってた方がいい?」
「おう、そうしてくれる方が事故が少なくなって助かる!」
「そういう事なら少し待つか」
「そだね、そうしようー!」
どうやらここに集まっている人達で一斉に突破を狙っているようである。それに通路でのログアウトを利用して移動するのにも、死なないように出来るだけ配慮をしているようだ。まぁ不意に飛ばされたら今ヒノノコを相手取ってる人の邪魔になりかねないしね。
ふむ、常闇の洞窟の脱出手段がこの状態ならこれに便乗して一緒に脱出するのが得策かな? 人が多ければ多いほど突破の安全性は高く……いや、多過ぎても困りそう? ベスタ達と合流予定だから特に気にしなくても良いのかな。
「みんな、どうする?」
「……そうだな。ここでメンバーを揃えて一気に突破しても良いが、ベスタ達も来るんだろう?」
「それは確かにそうだけど、連結PTの人数は最大にした方が……あ、そういやベスタ達って何人で来るんだっけ?」
「そういえば聞いてないね!?」
「これはベスタさん達が来てからになりそうかな?」
「その方が良さそうだね」
「どうやらそうなりそうですね」
何人で来るのか先に聞いておけば良かったよ。最低でもフラムと水月さんとアーサーとルアーはいそう……というかフレンドリストを見れば常闇の洞窟の中でログインしているからここに来るのはほぼ確実だね。
他には招き猫さんは既に外にいるみたいな事を言ってたからいなさそう。ふむ、他の人については流石に分からないな。
「おや、弥生さんから連絡ですね。少々席を外しますがよろしいですか?」
「問題ないぞー」
「それでは少し失礼しますね」
どうやら弥生さんも再びログインしてきたみたいでルストさんが少し距離を取ってフレンドコールに出ていた。弥生さんは来るみたいな事を言ってた気もするけど、またリスポーンを使って来るんだろうか?
あ、リスポーンと言えばアルに作っているリスポーン位置設定は設置し直しておいた方が良いかな? うーん、でもまだ2回は使えるし再設置するなら昨日の内にしとけば良かった気がする。……よし、今日の夜か使い切る事があった時に考えようっと。
そんな事を考えていると見覚えのある集団がやってきた。まぁベスタ達だけども。メンバーとしてはベスタ、フラム、アーサー、水月さん、ルアーの5人か。どうやらPT連結はしていないようである。木の人がいないので、みんなそれぞれに走ってきたみたいだね。
「おーい、コケのアニキー!」
「よう、ケイ。さっきぶり」
「おう、アーサー、フラム。そっちは5人なんだな」
「いえ、ケイさん、違いますよ?」
「ルストさんの言う通りだね! 水月さんの肩の上に誰かいるよー!」
「多分、ライさんかな?」
「気付いてくれる人がいるって良いのな! そうとも、この俺、ラインハルトがいるのさ!」
あ、ホントだ。よく見れば水月さんの肩の上に薄っすらとカメレオンの形に景色が僅かに歪んでいる。ライさんって、気付いてほしいのか気付いてほしくないのかよく分からないとこがあるよね。まぁ擬態のスキルを鍛えようと思ったら自然とそうなるのかもしれないけど。
「ライ、やっぱり擬態を解除したらどうだ?」
「いいや、ルアー、そればっかりはお断りだね。まずはそこのサヤさんとハーレさんとルストさんに気付かれなくなるのが今の俺の目標だからな!」
「それ、物凄くハードルが高い気がするぞ……?」
「良いんだよ、高いハードルこそ乗り越えがいがあるってもんさ!」
どうやらライさんはライさんなりに目標があるみたいである。でもその3人に気付かれない範囲となると、とんでもなく厳しい事になりそうだ。まぁ頑張ってくれ、ライさん。
そうやって赤の群集のメンバーが話しているうちに、ベスタが近付いてきた。周りを見回しながらここの状況を確認もしているようである。
「それにしても結構な人数が集まっているな。……俺達ももう少しメンバーを増員するか?」
「今12人だし、あと1PTくらいを加えてヒノノコを突破するのが良いんじゃないか」
「そうだな。とりあえず現状のメンバーで連結はしておくか」
「ほいよ」
<ベスタ様のPTと連結しました>
とりあえずこれで俺らのPTとベスタのPTの連結は完了。後は1PT分の空きもあるし、適度に人を募集してヒノノコの突破をすればいいかな。
「1PT分、6人募集だ! 希望者がいれば来てくれ!」
そのベスタの発言を聞いた周囲の様子が変わっていく。あれ、何か一気に注目が集まってきているような……? ベスタは有名だし、灰の群集のリーダーだからここに来た時点で結構目立ってたけど、それとは違った雰囲気になっている。え、なんで……?
「おい、聞いたか!?」
「リーダーと一緒のPTになるチャンス!」
「興味はあるけど、あのメンバーについていけるのか自信ない……」
「はい! 参加希望です!」
「いやいや、ここは俺が!」
「あーもう連結しちゃったし、やっぱり解散は駄目だよね?」
「そりゃそうだよ!? あーでも気持ち自体は分からなくもない……」
「灰の群集は同じ群集なんだから遠慮しろ!」
「ベスタさんって大型イベントでの指揮や主戦力として以外では殆どPT組む事ないんだよ!? 赤の群集こそ遠慮しろー!」
「いやいや、そんな理由で喧嘩すんなよ!?」
そしてベスタのその発言を聞いた人達が、俺らの周辺に群がってきた。随分とベスタは人気だなー。俺達は意外とベスタと行動を共にする事も多いけど、よく考えたらベスタってソロメインだったっけ。
確かにクエスト絡みの時以外でPTを組んでいるのはあまり見たことがないね。それにしてもこの様子だと追加のメンバーを決めるのも難しそうだ……。これは俺らだけで行く方が無難?
「俺はルアーと一緒に戦いたいぜ! 応援してるぞ、ルアー!」
「ルアー、色々とありがとなー!」
「もう1つのPTって『ビックリ情報箱』のコケの人のPTだよね?」
「あ、そういやそうか。これは是非とも一緒に行きたい」
「競争率高そうだけどねー」
何やら俺らの方にまで注目が集まってきている。ルアーも何だかんだで慕われているようだ。色々あったけど、ルアーも頑張ってきた甲斐があったというものかもしれないね。……まぁそれは良いことなんだけど、この状況はホントにどうしよう?
「ちっ、面倒だが仕方ない。着いてきたい奴は全員着いてこい!」
「ちょっ、ベスタ!?」
「全員が突破するまで俺らでヒノノコを足止めすりゃいいだろ。ついでだから、検証も兼ねて回復の為の瘴気も消費させてやる」
「お、それはいいね!」
「え、弥生さん!? あれ、いつの間に!?」
そしていつの間にやら会話に混ざっている弥生さんであった。あ、そういやルストさんが連絡を終えて戻ってきている時点でこの可能性は考えておくべきだったのか。あまりにも普通にルストさんが会話に加わっていたのでつい失念していた。
「あぁ、失礼しました。ベスタさん達が来たタイミングと重なったもので言い忘れてましたよ」
「……地味に神出鬼没だよな、弥生さん」
「……まぁ、それは否定しませんね」
「む、何かルストが生意気な事を言ってる気がするなー?」
「いえいえ、気のせいですよ。それはそうと兄さんは来れないのでしたね?」
「うん、仕事関係の急用。あーあ、今日は一緒にやれる予定だったのになー。って、ルスト、リアル話題は許可なしでは厳禁!」
「そうでした!? フラムさん、後ほど少し教えて貰いたい事があるのですがよろしいですか?」
「え、俺に? 俺が教えられそうな事ってあったっけか……?」
なんというかもうルストさんが普通にリアル側の会話して、また弥生さんに怒られてるし……。フラムは不思議そうにしてるけど、ルストさんにオンラインゲームとしてのマナー的なのは教えてやってくれ。
それにしても弥生さんの旦那でルストさんの兄である人は急用でログイン出来ないのか。ふむ、ちょっと会ってみたい気もしたけど、用事があるならどうしようもないね。っていうか、このゲームやってるのは確定なんだな。
そうしている内にベスタが動き出していた。まぁこの状況を収めるのはベスタが一番だろうね。
「流石に人数が多いから、着いて来れなかった奴は置いていく。それでも良いやつだけ着いてこい!」
「おう!」
「やった、一緒に行ける!」
「同じPTじゃないのは残念だけど仕方ないか」
「おっしゃ、行くぜー!」
「おー!」
とりあえずそれで納得は出来たみたいだね。まぁこの大人数から6人だけを選んでいくとかどう考えても無理だもんな。知り合いのPTがいれば良かったんだけど、生憎今回はいなかったしね。まぁ、大人数ではあるけどもヒノノコの突破には問題ないだろう。……多分。
「ところで、ルスト?」
「何ですか、弥生さん?」
「わたしはPTに入れずに1人なの……?」
「……それもそうですね。ですが、この状態ですと……」
「あー、下手にやったら反感買うかな……?」
「別に問題ないだろう。誰をメンバーに入れるかを決めるのは俺らだからな」
「ベスタの言う通りだな。流石に無関係な人だと難しいけど、ルストさんがいるなら身内だし問題ないだろ」
「おー、ベスタさんもアルマースさんもありがたい事を言ってくれるねー! それじゃ、ルストよろしくー!」
「分かりました。少しPT編成を変えますので、待っていて下さいね」
「早めによろしくー!」
そこから一度ルストさんが俺達のPTから抜けて、ルストさんと弥生さんの2人でPTを組んでいった。そして連結PTにしてメンバー調整は完了である。まぁ特に苦情が出ることもなく無事に終了だった。
弥生さんに関しては元々やってくるつもりだったみたいだし、特に問題はない。というか、迂闊に臨時でのメンバーが揃いきってなくて良かったのかもしれないね。流石に自分達で募集しておいて、他の人が来たから決めた後に追い出すなんて真似は出来ないし……。
そんなやり取りを終えた後に、アルとルストさんを先頭にして出入り口に向かって移動開始である。移動手段はここに来るまでの方法と同じだね。まぁ全員が樹洞に入れる訳じゃないので、自分で移動している人も多いけど。
そしてその後ろに続くのが転移地点にいた人達である。てか、人数多すぎじゃない? 何人いるんだ、これ? まぁ木の人の樹洞に入っている人も結構いるので見た目的には実際の人数よりは少なめだけど、それはそれで木が群がっている状態ではあるから奇妙な光景だよなー。
洞窟の中を動いていく小規模な森みたいになってるし……。うん、ルストさんや弥生さんやハーレさんを筆頭にスクショを撮ってる人が結構いるね。まぁ間違いなくこれは珍光景だもんな。
「……話には聞いていたが、木の移動速度が全体的に上がっているな」
「どうやらそのようですね」
「まぁ広めたのはルストさんだがな」
「アルマースさんもではありませんか?」
「そこは2人ともだと思います!」
「ま、そうだよな」
どう考えてもアルがルストさんに教えてもらっていたあの時の事がきっかけだろうしね。まぁ、全体の移動速度が上がる事は良いことなので問題はない。元々ルストさんが持っていた情報だから赤の群集のみになる可能性があった情報だけど、全部の群集に広がったしね。
木の人同士でこの移動方法のコツをお互いに教えあっていたりもするので、良い機会なのかもしれない。まぁ木が集団で練り歩く珍光景なのは否定出来ないけれども……。
そうして1時間ほど進んで行けば常闇の洞窟の出入り口が見えてきた。よし、ようやくここまで到着だ。人数が人数だったので少し時間は掛かったものの、大半の人がこれで常闇の洞窟を抜けれるんじゃないかな。
それにしても気のせいか、瘴気の動きに流れがある気もするんだよな。出入り口の方に向かって流れていっているような……? ふむ、瘴気は常闇の洞窟から溢れていたんだから当たり前といえば当たり前だけど、これは有効活用する手段もあるんじゃないか……?
「よし、これからヒノノコの戦闘エリアに突入する。俺らの連結PTで足止めをするから、全員止まらずに陥没エリアを駆け抜けていけ!」
瘴気について考えていたら、ベスタの号令によって盛大な歓声が上がっていく。やっぱりベスタがいると安心感があるな。流石は俺らの灰の群集のリーダーである。普通に足止め役に抜擢されてるけど、まぁその辺はこれから条件を整えてからぶっ倒そうとしてる敵なんだし問題なし。
さて入る時は倒す気で行って全然駄目だったけど、今回は防戦が大前提だ。ま、みんなが逃げ切るまでの時間稼ぎをするだけだし、新たな水魔法も実戦投入だ。頑張っていこう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます