第349話 強化をしつつ……


 まとめで水砲ザリガニが使っていたと思われる『魔法砲撃』というスキルの事も分かったし、条件も既に紅焔さんが見つけているようだからこれを取得していこう。これは紅焔さんが発見してから、他の人が条件を確定させたような感じかな。


「アルマースさん、そろそろ海水ですので一度中断しましょうか」

「お、もうそんなとこまで来てたのか。意外と早いもんだな」

「えぇ、早いものです。アルマースさんには、もう私のレクチャーは必要無さそうですね」

「おう、何とかコツは分かった。これに根脚強化を加えたら更に速度が上がるって考えていいのか?」

「えぇ、それで瞬発力も静止の為の制動力も確保出来ますからね」

「……なるほど。今度は根脚強化を狙ってみるか……それとも水の昇華か悩むところだな」


 いつの間にやら海水の地下湖の直前まで辿り着いていたようである。うーむ、樹洞投影もなしで調べ事をしてたらもう到着か。アルも順調にコツを掴んだようだし、思った以上に移動が早いもんだね。……それにしてもルストさんの移動では樹洞の中にいても案外揺れがないんだよな。バランスが凄い良いみたいだ。

 アルはアルで次の強化に悩んでいるとこのようだね。まぁクジラの空中浮遊を優先するか木での走る手段を優先するかは悩む所か。飛ばない時の方が良い事もあるだろうから、ここは慎重に優先順位を決めていかないとね。


「アル、ルストさん、それで海水の中はどうするんだ? 海流の操作で時間短縮するか?」

「折角ですから、ゆっくりと見物しながらでも構いませんか? 次にいつ灰の群集の常闇の洞窟に来れる機会があるか分かりませんから……」


 あ、そういえば行きは海流の操作で飛ばし気味だったもんね。そこまで焦る必要もないし、ここはルストさんの要望に応えるのも良いかもしれない。……まぁ、ゆっくりし過ぎるのも駄目だけど海水部分を抜けるまで位は別に良いか。


「反対意見のある人?」

「特にないさー!」

「俺もねぇな」

「私もかな」

「私もだね」

「んじゃ満場一致って事で、海水の中はのんびり進行で!」

「「「「おー!」」」」

「なら、普通のクジラの大きさに戻しとくか」

「あ、隣を歩ける程度の隙間は空けて貰えませんか?」

「ん? 別にいいぞ。それならこのままでもいいか」


 通常サイズのクジラが少し余裕を持たせて通れるくらいの広さなので、牽引の為に小型化しているクジラならそれなりに余裕はあるね。さてと、海中洞窟をのんびり進んでいこうかな。


 それじゃその移動の間に魔法砲撃の称号取得をやっていくか。俺の場合だとハサミを基準に照準をつけるのが良さそうだね。よし、その方向で取得をやっていこう。ポイントで取っても良いけど、条件が分かってるならそっちの方が良いしね。


「ルストさん、樹洞の中で特訓してていいか?」

「えぇ、構いませんよ。ダメージもありませんしね」

「そっか、ありがと。それじゃサヤ、特訓手伝ってくれ」

「え、私かな? それはいいけど、ヨッシはどうする?」

「私は私で応用スキルの毒の為にスキルLv上げてるよ。毒の生成スキルは地道に上げていくしかないしね」

「そっか。同じ群集やPT内だと毒の意味はないから、地道になるんだね」

「そういう事。だから私の事は気にしなくていいよ」

「だったら、ヨッシは一緒に洞窟見学しよー!」

「わ!? いきなりびっくりさせないでね、ハーレ」


 いつの間にやらアルの巣からルストさんの樹洞の中へと移動してきたハーレさんにびっくりしていた。うん、いつの間に近づいて来ていたのか気付かなかったよ。


「生成だけなら眺めながらでも出来るよね!」

「はいはい。分かったから、引っ張らないの」

「ヨッシ、発光針の使用を要望します!」

「発光針を……? 別に良いけど、どうするの?」

「エンの根に刺して、イルミネーション代わりにします!」

「おぉ!? 飾り付けですか、良いですね!」

「どんな風になるかはやってみないと分からないけどねー!」

「光量が弱い可能性もありそうですが、ここまで灯りがなければ逆に映える可能性もありますね。是非やりましょう!」

「あはは、ルストさんまでやる気になってるね。まぁそういう事なら別にいいよ」

「やったー! それじゃ移動しつつ設置していこうー!」

「えぇ、そうしましょう!」

「そういう事になったから、サヤとケイさんも頑張ってね」

「うん、分かったかな」

「ほいよ」


 何だかのんびり進行が更にのんびり化した気もするけど、まぁ今はとりあえずそれでもいいか。いざとなれば俺の水流の操作やアルの海流の操作を使えば時間短縮も可能だしね。そういう手段があるからこそ、こうやってのんびり移動出来るんだよな。


「それでケイはどういう特訓がしたいのかな? ロブスターの近接強化?」

「それは多少出来たから、別の事をやろうかと思ってる」

「……何をするのかな?」

「競争クエストの時の水砲ザリガニの攻撃あったじゃん? あれの再現」

「あのハサミの先から水球や高圧水流を放ってたやつだよね?」

「そう、それ。似たような事は出来るけど、同じじゃないみたいなんだよな」

「あれ、そうなのかな?」

「うん。昇華にしてはあの水流の威力は低過ぎる」

「あ、確かに言われてみればそうかも……」


 あれが水の昇華での水の生成なのだとすれば、あの程度の水量のはずがない。それこそ水の昇華には擬似的な川が作れる程の水量があるからね。まぁ魔法砲撃で狙いに制限がつく代わりの強化があれなんだろう。そしてそれは利点があると思うんだよね。俺というよりは、サヤにだけど。


「あとこれは多分サヤ向きだな」

「え、どういう事かな?」

「まとめで確認した限りでは『魔法砲撃』っていうスキルなんだけど、多分通常の魔法使用より上の照準補正があるっぽい。遠距離牽制用にどう?」

「……それは確かにありかな? ちょっと実物を見てみたいかも」

「だろ? って事で特訓開始!」

「私は魔法を叩き落とせば良いのかな?」

「サヤも一緒に取ったら良いんじゃね? これ、取得条件は単なる発動回数だからな」

「あ、そっか。それならとりあえずクマで試してみようかな」

「とりあえず俺が撃ち落とすから、サヤは適当に魔法を撃ってくれ」

「うん、分かった。それなら『ファイアボール』!」


 サヤが選んだのは火属性か。まぁこれについてはどの属性でも良いはずだしね。さーて、魔法砲撃の取得を目指して頑張りますか! 属性の組み合わせ的には複合魔法もならないやつにしておかないとね。


<行動値2と魔力値6消費して『水魔法Lv2:アクアボール』を発動します> 行動値 52/54(上限値使用:4): 魔力値 176/182


 ロブスターのハサミで照準を合わせるようにして、水球の狙いをつけていく。ふむ、やっぱり感覚的に少し狙いやすくはなるんだな。あ、両方のハサミでそれぞれに狙いをつけるのもいけるんだ。……でも、これって狙いバレバレ。とりあえずこれで撃ち出して、火球を打ち消していく。


「……ケイ、これはいくらなんでも狙いが分かりやす過ぎないかな?」

「まぁそれはそうなんだけどな。それに関しては『魔法砲撃』が手に入るまでの我慢!」

「……確かにそれはありそうかな。うん、それにこの狙い方なら私もやりやすいかな」

「そりゃ何よりで。ま、俺の水魔法のLv上げも兼ねてるからちょっと付き合ってくれ」

「うん、分かったかな」


 そうして海水の中を進んでいる間はひたすらに水魔法をバレバレの照準で撃ち続けていた。狙いがバレバレなのでサヤとしてもやりやすいみたいである。サヤはサヤで爪の先を照準にして火魔法で迎撃してるしね。魔法砲撃の使い勝手が良さそうなら、サヤの竜でも取っておくのがいいかもね。


「ケイ、サヤ、そろそろ海水から出るからそのつもりでな」

「分かったかな」

「ほいよ。それじゃサヤ、これで最後な」

「うん、分かったよ」


 もう時間切れっぽいし、これで最後だな。適度に回復を入れつつ数えていたけど、次で50回目だっけ? うーん、ちょっと回数が怪しい。大きく間違ってはないと思うんだけど……。


<行動値2と魔力値6消費して『水魔法Lv2:アクアボール』を発動します> 行動値 32/54(上限値使用:4): 魔力値 116/182

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『水魔法Lv4』が『水魔法Lv5』になりました>

<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『拙い照準を使うモノ』を取得しました>

<スキル『魔法砲撃』を取得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『拙い照準を使うモノ』を取得しました>

<スキル『魔法砲撃』を取得しました>


 拙い照準で悪かったな! これって派生スキルかと思ってたけど称号での取得スキルかい! 紅焔さん、これはわざと書いてなかったやつか? うーん、知らない訳がないだろうからわざと書かなかった可能性は充分ある。条件さえあれば称号の名前は無くても問題ない情報ではあるからな……。

 ついでに水魔法もLvが上がったから、後でどんなものか確認しとこ。さーて、Lv5の魔法はどんなもんだろな?


「よし、海水から出たぞ! ルストさん、ちょっとどっちが速いか勝負しないか?」

「良いでしょう。ですが、コツを覚えたての方には負けませんよ」

「ま、勝てるとは思ってないさ。ただ、こっちの方が上達は早いだろ?」

「そうですね、それは尤もな意見です。では全力で参りましょうか。『根脚強化』!」

「俺は俺で海水の中での移動中でクジラとの共生進化での別の方向性を見つけたぜ。『自己強化』『高速遊泳』!」

「そうきますか。では、アルマースさんのお手並みを拝見と行きましょうか!」


 って、海水から出たら即座にその勝負かよ。いやいや、なんで2人して全力を出す気でいるのさ!?


「ヨッシ、嫌な予感するから樹洞の中に急いで!」

「これはヤバそうだもんね!」


 そうして慌ててヨッシさんが俺らのいるルストさんの樹洞の中へと戻ってくる。ハーレさんは……いつも通り外で楽しむ気でいるようで、アルの巣にいた。まぁ、大丈夫かな……?


「それじゃゴールは次の転移地点だね! アルさん、ルストさん、準備はいい!?」

「おうよ!」

「問題ありません!」

「それではレース開始です!」


 そのハーレさんの合図と共にアルとルストさんが猛烈な勢いで移動を始めた。樹洞の入り口から眺めてみるとルストさんはアルに教えた手法そのままであった。それに対してアルはクジラで木を思いっきり引っ張りながら、木は少しジャンプ気味にして対空時間を伸ばしてクジラの高速遊泳を活かしきっている。

 だけど、あのアルの移動の仕方だと揺れまくって樹洞の中にいたら酷い目に合いそうだ。うん、ここはルストさんの樹洞の中にいて正解だった。とはいえ、速度が上がった今はこっちでも結構揺れてるけどね!?


「いやっほー! アルさん、行けー!」


 そしてそんな揺れを一切気にしないハーレさんは楽しそうであった。いつもの事とはいえ、そこまで完全に平気っていうのは少し羨ましくもあるかな。




 そうしてレースをしつつ常闇の洞窟を移動してきた結果、ヒノノコがいる入り口の2つ手前の転移地点まで戻って来ていた。結構距離があったはずなのに、凄い早かったな、おい!?

 もうすぐ12時だから一旦中断だけど、流石にこの地点まで間に合うとは思ってなかった……。あー、でも揺れまくってたおかげで魔法砲撃も水魔法Lv5も確認する余裕が無かったな。まぁ昼飯食ってから確認でいいか。


「勝者、ルストさん!」

「流石にまだ負ける訳にはいきませんよ。ですがやりますね、アルマースさん」

「そこまで甘くはなかったかー!」


 とりあえずルストさんの勝ちではあったけども、充分アルも張り合っていた。ベスタとサヤの2人での牽引より遥かに早かった気がするぞ。まぁあれは成長体の時だから比べる対象として少し不適切な気もするけど。


「凄い勢いで誰かが来たと思ったら、ケイさん達か!」


 そして、猛烈な勢いで転移地点に突っ込んできた俺らの様子を伺いに来た人がいた。思いっきり見覚えのある人である。まぁ、なんとなく桜花さんはここにいる気はしてた。


「桜花さんだー! また出張中ー!?」

「おうよ! 戻ってきてる人も多いし、その人らに向けて今は回復アイテムと毒の弾がメインだな」

「もしかして、ヒノノコ対策か?」

「ご明察! ま、今はここだが昼からはもう1ヶ所手前のとこに移動予定だけどな」


 なるほど、今度はヒノノコの襲撃に対して有効な防御手段を用意しているという訳か。他の修復した場所から常闇の洞窟を経由して戻って来ている人達には有効な手段だもんな。

 それにしても状況に応じて品を変えながら出張取引所を行っている桜花さんは逞しいね。まぁ地下湖で回復に使える小魚とかは獲れなくもないけど、瘴気の影響で獲れる量は激減していたみたいなのでありがたいところである。


「ねぇねぇ桜花さん、麻痺毒の実はある!?」

「おう、それほど数はねぇがあるにはあるぜ!」

「それじゃ私とサヤ用にいくつか下さいな!」

「え、私もなのかな?」

「サヤ、万が一に備えて持ってた方が良いと思うぞ」

「……うん、それもそうだね。桜花さん、私の分もお願いかな」

「あいよ、毎度あり! で、何と交換だい?」

「海の欠片と海の小結晶、持ってる分だけ全部で!」

「あいよ! クエストが進展した関係で需要量は減ったから弾の数は少なくはなるが、問題ねぇか?」

「あ、そうなんだ!? でも、問題ないさー!」

「あいよ、毎度あり!」


 とりあえず道中で手に入った使わない海の欠片や小結晶を麻痺毒の実と交換して、ハーレさんが10発分、サヤが5発分を持つことになった。ま、需要度の変化で交換個数が変わるのは仕方ないとこだね。

 今はちょっと損した様な気分にはなるかもしれないけど、需要が高い時には好条件で交換をしてくれるという事でもあるからね。


「さてと、時間も時間だし昼休憩にするか」

「私も弥生さんから呼びかけがありますので、ちょうどいいですね」

「おー、もうすぐ12時だー! 今日はおかずが大量だー!」

「ハーレは勝負に勝ったもんね」

「くっ、負けは負けだ。昼のおかずは持っていけ、ハーレさん」

「ケイが変な油断するから、負けるんだよ?」

「まぁ、あれはケイの油断し過ぎだな」


 みんなして言わなくても自覚はありますとも! いつ取得になるか分からないのに、勝利条件が俺にとって有利だと思ってたんだもんな。……改めて考えると、いつ取得か分からない状況で勝負の途中での有利不利は分からなかったはずなのに、つい調子に乗ってしまったもんな……。

 まぁ、済んだことはいい。昼のおかずを賭けるとは言ったが、母さんに頼んでアジフライは晩飯にしてもらっている。ふふふ、これで何も問題はない!


「それは良いとして……。とりあえずここで一度解散して、食べ終わって全員揃ったらヒノノコを突破してミズキの森林へ移動で良いか? 遅くても1時半までには集合って事で」

「ま、そんなとこだな」

「うん、それでいいよ」

「私もそれで良いかな」

「それで問題なしさー!」

「えぇ、構いません」

「よし、そういう事で解散!」


 そうして昼の休憩の為にみんな、ログアウトしていった。さてと昼飯はなんだろね?



 ◇ ◇ ◇



 そしていつもにように、いったんの場所へとやってきた。胴体部分には『共闘イベント、最終段階へ突入! まだ参加のチャンスはある!』となっている。

 へぇ、まだ参加のチャンスはあるって事は進化ポイントを稼ぐ事も可能ではあるんだな。まぁ前編程の効率は出ないだろうけど、それでも全く無意味ではないんだね。


「お疲れ様〜。ご飯休憩かな〜?」

「ま、そんなとこ。お知らせって何かある?」

「特にはないよ〜。スクリーンショットの承諾はどうする〜?」

「あー、それは後で。飯食ってからログインしたときにやる」

「了解です〜」

「そんじゃ、また後で」

「はい〜、お疲れ様〜」


 さてとこれで午前の部は終了っと。昼からはまず進化ポイントの譲渡を優先して、そこからヒノノコの攻略を頑張りますか!

 そういや昼飯は何になったかな? まぁ手は打っているし、どうせ取られるのが確定してるんだ。別に何でもいいか。

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