第348話 移動手段の特訓
ルストさん指導によるアルの木の移動速度の強化特訓が始まった。とりあえずどんな内容かが気になるので、俺とサヤとヨッシさんとハーレさんも見学中である。
周囲にも何事かと興味を示してチラチラとこちらを伺っている赤の群集や青の群集の人もいた。灰の群集の人については堂々と見学している。割合としては木の人が多いね。ま、そりゃこの状況は興味深いか。
「まずお聞きしますが、アルマースさん。現在の根脚移動のLvはいくつですか?」
「根脚移動は今はLv5だな」
「おや、思った以上に高いですね。ふむ、Lv6になれば『根脚強化』という強化用スキルも手に入るのですが、どうされます? 一応ポイント取得も可能なはずですが」
「あー、増強進化ポイント20と融合進化ポイント20で手に入るようにはなってるな。……これは必須なのか?」
「いえ、より強力になるだけで必須ではありませんよ」
「それならこれはLv6で狙うか」
「分かりました。では、根脚強化はなしでのコツをお伝えしましょう」
「よろしく頼む」
「ではまず、根脚移動の発動をしてください」
「おう。『根脚移動』!」
スキルの発動と共に、アルの木の根が地面から姿を現していく。ふむふむ、まぁこの辺は特にこれと言って今までと特に変わる事もない光景だな。
「基本的にこの状態では根脚移動に使う根は移動以外には使えません。木の固有スキルか、根の操作が必要になってきますからね」
「あぁ、それは知ってるぞ」
「ですが、ここに意外な落とし穴がありましてね。基本的にシステムの自動アシストが入って歩きやすいように自動調節されますが、あえてこれを使わずに手動で行います」
「それで移動は出来るのか……? てか、自動アシストって切れたのか?」
「いえ自動アシストは切れないのですが、そこが落とし穴でしてね。移動の為ならこの根の操作制限は根の操作より緩くて、自動アシストがかかる前なら手動で扱えるんですよ。根脚移動のLvがある程度上がっている事が前提にはなるんですけどね」
「……ん? ちょっと待て、それって……」
「正直言おうかどうかは迷ってたんですが、アルマースさんの根の操作と水の操作で滑るあの移動には根の操作は不要ですよ。今朝少し試しましたが、必要になるのは他のプレイヤーとの固定が必要な場合だけですね。おそらく根脚移動はどこかで移動に関しての操作性が根の操作を上回り、不要になるタイミングがある筈です」
「マジか……!? それなら共生進化の俺には必要ない!?」
「アル、ドンマイ!」
「うっせーよ、ケイ!」
まさかの共生式浮遊滑水移動での根の操作は不要説。そういやあれってコケ付きの皮も滑らせるのに不要になってたっけ。スキルLvが上がった事や進化で構成が変わった事によって、必要なスキルの構成が変わってたのか。うーん、スキルの熟練度稼ぎ的には無駄ではなかったかもしれないけど、ちょっと拍子抜けである。
っていうか、これは裏技的というか小技的な内容だね。そうか、根脚移動はLvが上がって移動に限定すれば根の操作よりも精密動作が可能なのか。
「続けてもよろしいですか?」
「……色々と衝撃的だったが、頼む」
「まぁ、使用するのは根脚移動だけと思っていただければ。あ、滑らせるのは地形によっては有効ではありますよ。では本題へ移ります。大雑把に分けてコツは2つですね」
「ほう、2つか」
ふむふむ、滑らせるのは無駄にはならないんだな。まぁ滑りやすい地形ってのもあるし、滑りにくい地形もあるからそういう所の違いという事なのだろう。
「まず1つめ。これに関しては既に知っているかと思います」
「……既に知っている? あ、ケイの体当たりか!?」
「えぇ、その通りです。まぁ厳密には似てはいても少し違うのですが、こちらのコツは前方の地面に根を引っ掛けて本体を引っ張る形で跳ねていくという感じですね」
「なるほどな。もう1つってのは?」
「こちらは真逆です。単純に説明しますと、デコピンの要領ですね。後方に根の1本をしならせて力を溜め、他の根で固定して一気に解き放つ事で推進力へと変えていきます。あ、どちらも地盤が柔らかい場所ですと無理ですのでご注意を」
「……そりゃ地面がしっかりしてなきゃ無理だよな」
「ちなみにタイミングをしっかり取れば、併用も可能ですよ。私は併用していますしね」
「そりゃ盲点な移動方法だったな。そうか、それであの速度か」
ふむふむ、ルストさんの移動速度にはそんなからくりがあったのか。根脚操作は常に発動してるだろうから、スキルの予備動作も一切ない訳か。そして一瞬の溜めがあるのは根をしならせて力を溜めていたって事なんだね。
というか、よく考えればこのコツって普通に動物がやってる事じゃないか? それを木の根で再現していると……。ふむ、プレイヤースキル次第だけど、これは確かに速くなるかもしれない。オフライン版ではそんな事を意識したことが無かったから、これは盲点だったね。
「……よし、理屈は分かった。少しやってみるか」
「おう、アル! 頑張れよー!」
「アル、頑張ってね!」
「アルさん、頑張って」
「アルさん! 勇姿はちゃんと撮っておくからね!」
何かハーレさんは違う気もするけど、まぁいいや。とにかくアルが練習を始めたけれど、いきなり上手く行く訳でもないだろうから、今のうちにちょっとまとめで良い情報がないか確認していこうかな。少し気になってる事もあるから、それに関する情報があればいいんだけど……。
それにしても周りで見てた人達も便乗して一緒に練習を始めているね。って、あれ!?
「お、案外簡単か?」
「まだ瞬発力不足ではありますが、初めてとしては充分でしょう」
「ま、確かに速度を上げていくには練習が必要か」
アルは呆気なく1発で習得してますがな。いや、アルは操作系に関するプレイヤースキルは高いんだから不思議でもないのか。ふむ、これは根脚移動を使う種族特有の移動操作制御みたいなもんなのかもね。
もしかしてだけど、纏樹を使えば俺も同じような事は実行可能か? ……出来そうな気もするけど、体当たりで充分な気もするし別にいいかな。
「ちょ!? 一発成功!?」
「これ、地味に難しいぞ!」
「いや、そうでもなくね? ちょっとコツを掴みさえすれば、なんとか……」
「これ、あれだ。木の根として考えるな。ヒョウとかオオカミとか、そういう系統の動物の走り方に近い!」
「あ、そういう事? どれどれ」
「おー、マジだ。なるほど、そういう事か」
「うわー、分かんね!?」
「枠空いてたら、オオカミ辺りを操作してみるといい。感覚が掴める」
「あー2枠目空いてるから、それもありか」
そして周囲の人達も悪戦苦闘したり、あっさりと習得していたり、新たなコツを広めている人もいた。悪戦苦闘しているのは赤の群集が多く、習得している人は青の群集や灰の群集が多いね。流石に赤の群集の一般勢とは地力が結構離れてしまっているみたいである。
「よし、これなら特訓しながらでも移動できそうだ」
「思った以上に早かったね」
「よーし、それじゃアルさんの特訓しながら移動開始さー!」
「アル、その状態ならもしかしてクジラでログインしても行けるんじゃないかな?」
「それは俺も思ってたとこだ。ルストさん、樹洞展開は任せていいか?」
「えぇ、構いませんよ」
「それなら木の上限発動制御に根脚移動を登録して……よし、これでいい。共生進化に戻してくるから待っててくれ」
「ほいよ」
ふむふむ、これでアルの移動手段の選択肢が増えたって事かな。実際やってみないと何とも言えないけど、足場が滑りにくい場所だと今の移動方法は良いのかもね。いつでもクジラが浮けるとも限らないし、手段は多いほうがいいだろう。
アルがログアウトしてから少し待てば、共生進化に戻してクジラでログインしたアルが戻ってきた。
「戻ったぞ」
「アル、おかえり」
「アルさん、早速やってみてー!」
「ハーレさん、そう慌てなさんな。んじゃいくぜ。『小型化』『空中浮遊』『上限発動指示:登録1』!」
アルがスキルを発動すれば、見た目的にはこれまでと変わらない牽引式状態へとなっていた。でもこれまでと違うのはクジラ側で発動しているということだろう。少し試しに動き回っていたアルだが、何やら納得したように満足げである。
「こりゃいいな。滑らせる時よりは多少の集中力はいるが、慣れれば安定しそうだ」
「そうですか。それは教えた甲斐がありましたね」
「何よりこれが使えるのが良いな。『高速遊泳』!」
「あ、そういや今までは枠が足りなくて発動出来なかったんだっけ」
「まぁな。とりあえず練習がてら、海水のとこまで行ってみようぜ」
「ほいよ」
「私は巣の中さー!」
「ルストさん、樹洞に入れて貰ってもいい? 樹洞投影は無しで」
「結構速度出そうだもんね。ヨッシはその方が良さそうかな」
「了解しました。『樹洞展開』! ついでに灯りも用意しましょう。『発光』!」
「ルストさん、ありがと」
「それじゃ私もヨッシと一緒に行こうかな」
ルストさんの蜜柑が光り始め、サヤとヨッシさんが樹洞の中に入っていく。分乗しての移動にはなるけど、PT会話で普通に会話は出来るから問題はないな。
「今日は俺もそっちにしとくか。ちょっと調べたい事もあるし」
「おー!? ケイさんも何か計画中!?」
「まぁ、ちょっとね。水砲ザリガニの攻撃が今になって気になってきたもんでさ。あの水砲って何だったんだろうって」
「ほうほう? そういえば私もそれは知りませんね」
「ケイさん、ケイさん!」
「どうした、ハーレさん?」
「詳しくは覚えてないけど、それは聞いた事はある気はするよ!」
「覚えてないんかい!」
何か情報を知ってるのかと思って少し期待したじゃないか。……でもそういう事ならまとめの方に情報がある可能性はあるな。やっぱり同じ事が気になった人は既にいたのか。
「ま、ケイは今回はのんびりしてていいぞ。移動は任せとけ」
「そうですね。ここは私達に任せて貰いましょうか」
「おう、2人に任せた!」
ここはお言葉に甘えて、情報収集と場合によってはスキルの習得に専念しよう。既に夜目と発光は発動中なので、ルストさんの樹洞の中に入っても灯りは問題ないな。外はルストさんの蜜柑で照らされているし、移動開始といこうか。
「んじゃ、出発するぞ」
「えぇ、参りましょう」
「出発だー!」
そうして移動を開始した。ルストさんがまだ不慣れなアルにペースを合わせつつも、クジラの高速遊泳での移動速度に合わせて走るように木も移動出来ている。地面が平坦じゃなくて岩場というのが滑る時よりも安定している要因みたいだね。これは地形によっては十分過ぎる移動方法のようだ。
さて、俺は俺の事をやっていこう。さてと特性の砲撃に関する情報、もしくはそれに関係しそうなスキル、それか水砲ザリガニそのものに関するまとめはないかな……?
おっと、これか……? 砲撃関係のスキルについてってのがあるね。どれどれ……? えーと、あれ? 攻撃スキルじゃなくて、補助スキルなんだ。これは意外だね。
えっと、まとめにある範囲だと今のところ2種類か。『大型砲撃』は大型化の発動中か大型種族で投擲系スキルを使用時に大きな弾を投げれるようになるのか。これは斬雨さんを投げたゴリラのウッホさんが使ってたやつだな。
あ、水砲ザリガニのやつはもう1つのやつみたいだな。『魔法砲撃』っていうのが攻撃の始点をキャラの一部に固定して方向性を限定する代わりに威力を増幅するようである。これは基本的に弾は魔法のみで、照準を身体の一部使って行うんだね。あ、生成系だと量も増えるけど、操作系では扱えない制限がかかるのか。
要するに水砲ザリガニはこの『魔法砲撃』を使ってハサミの先に攻撃の始点を固定して、水球や水流を撃ち出してた訳か。ハサミの向きで攻撃の方向性はバレバレになるけど、威力の増幅はちょっと魅力的。
「ハーレさんは砲撃系の補助スキルは使わないのか?」
「どっかで見たと思ったらそれだー! いまいち性能が私に合わなさそうだから忘れてたのさ! 大型化はする予定ないし、魔法主体じゃないからねー!」
「……確かにこれはハーレさんのスタイルには噛み合わないのか」
これはどちらかというと、細かな操作は苦手な人向けって感じの補助スキルだもんな。だけど、使い方次第では化けそうでもある。逃げられる状態の相手には効果は薄くても、逃げられない状態の相手であれば……。
うーん、使ってみたい気はするけどどうしようか。『魔法砲撃』は融合進化ポイント20と生存進化ポイント10で、ポイント取得以外の取得方法は……お、普通にあるじゃないか。
えーと、起点となる攻撃部位から狙いをつけて50回以上魔法を発動する事か。……編集者が紅焔さんって事はドラゴンで火を吐く演出で口からやりまくったから……? まぁ紅焔さんはその辺に拘りそうだから、ある意味納得かな。
そして俺には関係はないけど、『大型砲撃』は大型化した状態で大きめの何かを投げると『大きな物を投げるモノ』という称号と一緒に取得可能なんだね。前提として投擲系のスキルは必須のようである。『大型砲撃』については俺には合わないけど、『魔法砲撃』は使い方次第で化けそうだから取得をやっていこうかな。
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