第340話 再び始まる実況


 みんなと合流の予定時刻まではあと1時間ほど。みんながログインしてくるまでの間にハーレさんと特訓でもしておこうかな。

 あ、その前に忘れないうちにログインボーナスを貰っとかないと。大量の進化ポイントがあるとはいえ、折角のログインボーナスを無駄にするのも勿体ないもんな。


<ケイが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>

<ケイ2ndが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>


 よし、これで問題なし。さーて、それじゃ特訓でも始……って、おい。ハーレさん、何やってんのー!?


「はっ、そこだー! 『散弾投擲』!」

「お? 良い反応だけど、まだ甘いね。『爪刃乱舞』!」

「あぅ、全部叩き落とされた!? 参りました!」


 そこではそこそこ広範囲に広がる闇の中から奇襲に動いた弥生さんに対してハーレさんが散弾投擲でカウンターを狙ったものの、舞うように動き回る弥生さんが爪で叩き落としながらハーレさんの喉元に攻撃を寸止めしていた。

 おぉ、すげぇ。あれを全部叩き落としたのか。なんとなく予想はしてたけど弥生さんは近接系かつ闇属性での隠密系みたいだね。遠距離主体のハーレさんだと、弾を弾かれて距離を詰められたら厳しいか。


「……で、ハーレさんは何やってんの?」

「ちょっと手合わせー! いやー、弥生さん強いねー!」

「私でも組み伏せられますからね。弥生さんは強いですよ!」

「え、ルストさんでもか」


 これは相当強いと判断しても良いんだろうね。っていうか、大きさ的には普通のネコの弥生さんが大きな木のルストさんを組み伏せるってどういう事……? ふむ、考えられるのは大型化持ちって可能性か。もしかして弥生さんの闇纏いはそれを誤魔化すため……?


「おっと、これ以上は下手にやるとコケ組に分析されそうだね。まぁ別に良いといえば良いんだけど」

「……ジェイさん、分析してたのか?」

「……そういうケイさんこそ、分析していたようではありませんか」

「その辺はお互い様か」

「まぁ、そういう事でしょうね」

「……分析結果の共有をする気はある?」

「……良いですね、その案に乗りましょうか」


 弥生さん自身が気分が変わって対人戦に出てくる可能性もあるけど、それ以上に弥生さん自身の戦闘方法が赤の群集に広まる可能性は高い。ここは今は敵じゃないけども、その内また競争クエストもあるだろうし、敵の敵は味方という事で対策を講じておくのもありだろう。


「俺としては闇纏いで大型化しているのを隠していると見た」

「……その可能性はありますね。ですがそれも罠の可能性もあるのでないかというのが私の見解です」

「……というと? いや、ちょっと待って、自分で考える。……あー、嫌な可能性を思いついた。そうか、2択を迫るのか」

「えぇ、おそらくは。大型化を警戒すれば元の姿で翻弄し、元の姿を警戒すれば大型化で叩き潰すとそういうパターンなのではないかと」

「……だよな。地味に闇の量が多い気がするのは移動操作制御を使っての偽装か?」

「おそらく暗黒空間か闇の操作のどちらか、もしくはその両方という可能性もあると思います。ただ、1つ気になる事が……」

「どう考えても対モンスター用というよりは対人用の戦法だよな?」

「えぇ、そうなるんですよね」


 対人戦には興味がないと思っていたけども、その戦闘方法は対人戦向けの感じである。うーん、その理由までは思いつかないぞ。赤のサファリ同盟としては対人戦に興味はなくても、弥生さん個人としてはそうではない……?


「おー! ちょっと見せただけなのに、凄い分析されてたよー。うん、まだ見抜かれてない点はあるけど概ね正解だしさ」

「随分とあっさり認めるのですね?」

「秘密主義ではないからねー。あ、対人戦には参加意図は一切ないけど、これはそこのルストとか他のメンバーを抑え込む為のものだからね」

「……抑え込む必要があるメンバーが他にもいるのですか」

「弥生さんって、地味に苦労してる?」

「一部たまに盛大に暴走するのもいるけど、基本的には好き勝手に楽しくやってるよ?」


 思いっきりルストさんの方を見ながら発言である。ふむ、赤のサファリ同盟の中でもトップクラスに暴走しやすいのがルストさんか。よし、ルストさんの危険度を少し上方修正して、全体としての変人度は少しだけ下方修正しておこう。

 それにしてもまだ隠している何かがあるのか。……ふむ、隠しているのはなんだろうね? 


「よし、折角だし3群集合同の特訓会でもやろうかー!」

「え、マジで?」

「うん、マジマジ!」

「へぇ、面白そうだな」

「そうですね、これは良い機会かもしれません」


 いきなりの弥生さんの発案により、どうやら予想もしていなかった方向性になってきた。まぁ確かに貴重な機会ではあるし、特訓をするのは決めていた事だし別に良いのかな。でも、死なないようにだけは気をつけないと。


「弥生さん、どういう風に特訓会をやるんだ?」

「んー、折角だから実戦式が良いかな。でも流石に今の状況で死亡はアウトだから、PTを組んだ上で初めに明確に一撃を入れた方が勝ちってのはどう?」

「あぁ、あれですか。プレイヤースキルの上達には良いんですよね。今度フラムさん達ともやりましょうか」

「それもいいね、ルスト。今度そうしよっか」

「ん? 赤のサファリ同盟ではそういう事をやってんのか? 海では当たり前に広まってる形式のやり方ではあるが……」

「うん、やってるよ。スキルの熟練度稼ぎには対戦型でやるのが一番だからね」

「まぁ、淡々とスキルの発動をし続けるよりはやる気は出て効率いいもんな。考える事は似たようなもんなんだな」


 ふむふむ、赤のサファリ同盟も俺らと同じような形で特訓はしていたようである。そして海出身であろう三日月さんも海水の的あてでの特訓を知っていたみたいだし、しっかりと鍛えてるところでは割と当たり前の強化方法になっているっぽい。


 まともに広まってなかったのは赤の群集の陸地だけって感じかな。周囲にいる赤の群集の人達は興味深そうにこっちを見ながら、まとめも確認してるみたいだしね。これはどこの群集も興味津々のようだし、何か見世物になる予感。この流れだとハーレさんが間違いなく……。


「それでは私は中継でも致しましょうか?」

「お、ルスト、それいいね。フラム君はログインしてるのかな?」

「つい先程ログインしたようですよ。少しフレンドコールで事情を話してきますね」

「うん、任せたよ」

「はい、弥生さん!」

「ハーレさん、何かな?」

「実況しても良いですか!?」

「……実況? あぁ、そういえば灰の群集でそういう事が稀にあるってレナから聞いたね。うん、他の人が良いなら良いよ」


 ここでもレナさんの名前が出てくるんかい!? 流石、青の群集に『渡りリス』というあだ名を付けられただけの事はある。もうあの人はどこでどういう風に名前が出てきても不思議じゃないな。

 そしてハーレさんはみんなに許可を取っている。やっぱり予想通りに実況やりたがってきたね。……意外と面白がってあっさりと許可を出してる人が多いな。っていうか、誰の分を実況と中継するんだ……?


「ん? これは何の騒ぎだ……?」

「おー! アルさん、良いところに来た!」

「はい? いや、ハーレさん、何事だ?」

「3群集共同の特訓会、実演解説と実況をやるのさー!」

「……ほう? そりゃ面白そうだな」

「あれ、いつの間に実演解説になったんだ?」


 ログインしてきたばかりのアルがハーレさんに完全に捕まってしまっていた。そしていつの間にやら少し趣旨がズレた気もする。……うん、みんな乗り気のようだし別に良いか。


「弥生さん、フラムさんは問題ないようです。昨日の一件もあって、少し情報共有板の人数も増えたそうで興味を持っている方がかなり多いようですよ」

「昨日の騒動自体は無駄じゃなかったんだね。まー、そうでなきゃ困るんだけど。さてと、それじゃどういう組み合わせでいこうかなー?」


 そう言いながら弥生さんが俺たちを値踏みするように、じっと眺めていく。あれ、そういやなんで弥生さんが主導権を握ってるんだ……? 


「よし、決めた。バトルロイヤル形式で行こう! 参加者は赤の群集はわたしとルストね。青の群集はジェイさんと三日月さん。灰の群集はケイさんと……ちょうどログインしてきたヨッシさん!」

「え、いきなり何? 私がどうかしたの?」

「ヨッシ、頑張ってねー!」

「え、え、何がどうなってるの!?」


 ログイン早々、妙な流れで巻き込まれたヨッシさんだった。うん、この場にいた俺でも急激な変化についていけてないし、ログインしたばっかりのヨッシさんなら尚更だろう。……赤のサファリ同盟のさっきの下方修正は取り消して上方修正しておかないと駄目そうだ。

 なんだかんだでリーダーの弥生さんも相当なマイペースな人なのがよく分かった。それでも仕切っていくだけの力もあるのも分かった。ベスタとは違って、弥生さんは自分のペースに巻き込んで引っ張っていくタイプだね。




 そうして着々とバトルロイヤル形式の特訓の準備が進められていく。準備をしている間にログインしてきたダイクさんが水流の操作でリングを作る予定になって、サヤもログインして早々よく分からない状況に困惑しながらも見学するように眺めていた。何がどうしてこうなったんだろうなー。


「さぁ、始まりました! 赤、青、灰の3群集によるバトルロイヤル! 実況は私、灰の群集のリスことハーレと!」

「解説は灰の群集の木とクジラのアルマースと!」

「なんかゲストにされた青の群集のタチウオの斬雨でお送りする! っていうか、ジェイ負けんじゃねぇぞ!」

「……なぜ斬雨がゲストなのですか……?」

「ちょうど良いタイミングでログインしたからさー!」


 ログインしてきたタイミングによって、弥生さん主催の3群集バトルロイヤルの実況班に巻き込まれる人が決まっていた。ちなみに中継については参戦しているルストさんではなくアルが担当する事になっている。

 群集が違ってもフレンドであれば中継は問題ないようで、そういう形に収まっていた。流石に参戦中のルストさんが中継は無理があるという事になったからね。


「さぁ、出場選手の紹介の前にまずはルールの説明だー! 解説のアルマースさん、お願いします!」

「はい、ここでルール説明を行わせていただきます。まず、この後の共闘イベントに差し障りが出ると問題なので出場選手全員でPTを組み、ダメージは無しの状況で行います」

「まぁ、この辺の模擬戦設定ってのも欲しいもんだがな」


 確かに斬雨さんの言うように、死亡はしないけど模擬戦を行って勝敗を決められるという機能は確かに欲しいかもしれない。今更言ってもどうしようもないけど、もしそういう機能があったら赤の群集での騒動も違った形になってたかもしれなかったんだよね。

 うーん、これはダメ元でいったんに要望を出してみようか? 運営は機能追加の調整とかしてるみたいだし、場合によっては開発中で実装待ちっていう可能性もあるかもしれないし。


「勝敗については確実にダメージが入ったと思われる攻撃の被弾、もしくは水流のリングの外へと出た場合を負けとします。同じ群集で協力して戦っても良し、他の群集と共闘して1つの群集を潰すのも良し、同じ群集すら倒すのでも良し。またダイクさんの水流の操作時間切れでも終了となります。勝敗につきましては時間切れ、もしくは生き残り1名になった場合で決着とします」


 ルール上はそうなってるけど、ヨッシさんと戦う必要もないよな。まずはヨッシさんと一緒に戦って、弥生さんを潰すべきか。……青の群集と共闘っていうのもありだな。


「ルール説明をありがとうございます、解説のアルマースさん! さて、それでは出場選手の紹介です! まずは赤の群集から赤のサファリ同盟、ネコの弥生選手と木のルスト選手!」

「いやいや、これは思った以上に面白そうだね」

「……私は見物していたかった気分ですね」

「スクショは頼んでるし、勝手な命名の埋め合わせだと思ってね?」

「えぇ、わかっています」


 どことなく不満そうなルストさんと楽しげな弥生さんが対象的だね。この雰囲気だと対人戦に関しては警戒すべきは弥生さんか……? ルストさんは少し嫌そうだけど、弥生さんはそうでもない様子。

 どうも弥生さんは別に対人戦は苦手とか興味ないって訳じゃなさそうなんだよな。でも一応、これって特訓だしね。かなりの制限のある対人戦だから判断材料には少し弱いか。


「そして青の群集は、シャコの三日月選手とコケとカニのジェイ選手だー!」

「なぁ、ジェイ……」

「……なんですか、三日月さん」

「何がどうしてこうなった!?」

「……さぁ? ですが、色々とチャンスではありますよ?」

「……まぁ赤のサファリ同盟についても知っておきたいし、俺はケイさん達の実力は直に見てないからチャンスといえばチャンスか」


 三日月さんとジェイさんはやる気の方向性が少し違う気がする。これは勝つ気はなくて情報収集に徹するつもりなのかもしれない。……っていうか、この状況だとどう動いたもんかな。


「灰の群集からは、コケとザリ……ロブスターのケイ選手とハチとウニのヨッシ選手だー!」

「ねぇ、ケイさん。私、この条件だとものすごく不利な気もするんだけど……?」

「……同じPTじゃ状態異常は効かないもんな。よし、それなら無差別に行くか」

「あ、あれだね。……ハーレから苦情は来そうだけどそれしかなさそうだよね」

「ヨッシさんはその隙で場外狙いで」

「……了解」


 っていうか、ハーレさんはまたザリガニと言いかけたな!? まぁロブスターで食い気を発動されるよりかはそっちの方がいいか。

 今はまだPTを組んでいない段階なので、ヨッシさんと軽く打ち合わせをしておく。状態異常の大半が封じられるのはヨッシさんには厳しすぎるんだよな。まぁそれでも手段が無いわけじゃない。


「それではPTを結成し次第、バトルロイヤルの開幕です!」


 その宣言を受けてからPTを結成して、なし崩し的に始まった3群集でのバトルロイヤルが開始されていく。さて、どうなる事やら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る