第337話 攻略の下準備を終えて


 どうも思っていた以上にとんでもない集団という疑惑が出てきた赤のサファリ同盟だけど、赤の群集をまとめ上げていくにはこれくらいは必要なのかもね。ルアー自身も基本的に嫌われているって訳じゃないみたいだし、これなら何とかなっていくだろう。


 まぁそれは良いとして今日はもうすぐ日付けも変わる。ベスタが明日の一斉修復に関しての時間調整はしていたはずだし、まとめでその辺を確認しておこうっと。


 えーと、『常闇の洞窟の金属塊の一斉修復の実行について(灰の群集の常闇の洞窟版)』ってトップに書いてあった。赤の群集版と青の群集版もあるから、それぞれの場所で実行していくんだろうね。さてと俺らが関係あるのは灰の群集版だな。

 ふむふむ、明日の午前10時頃に常闇の洞窟でそれぞれに実行予定。ただし、それまでに終了している場合もあるからその辺は駄目でも文句は言うな……か。あ、他の群集の常闇の洞窟も同時刻でやるって注意書きもあるね。


 これからの深夜にやる人もいるだろうし、状況によっては朝には全部終わっていたという可能性もあるんだよな。それに関しては大人数が参加しているオンラインゲームだから仕方ないとして割り切っておかないとね。アカウントを持っている全ての人がログインしているなんてタイミングは存在しないだろうし……。


 とりあえず明日の時間設定は分かったから、みんなでどの時間に……あれ、なんか弥生さんがルストさんの木に上り始めて、周りを見渡し始めてた。この感じ、ベスタが指示を出し始める時に似ている気がするような……?


「はーい、みんな注目!」


 あ、この感じはこの場のまとめ役を弥生さんがやるつもりっぽい。赤の群集の人達は即座に反応し、青の群集と灰の群集の人達も弥生さんの方に注目していっている。赤の群集の反応が妙に素早いけど、具体的に弥生さんに何をされた!?

 まぁいいや。あのルストさんを抑え込める人なのであれば、この場は任せても大丈夫な気はする。ルアー達だけじゃまだ情報の共有が不完全で、今みたいに活動場所が分散していると手が足りないだろうしね。灰の群集や青の群集で対応してもいいけど、いつまでもそれじゃ駄目だろう。


「まとめで知ってる人もいるだろうけど、明日の予定は各自確認しておいてね。あくまでも自由参加って事だけど、他の群集の人とトラブルを起こさないように! もし騒動があるようなら、赤のサファリ同盟としても今の関係を色々と考え直さないといけなくなるよ。そうなったら灰の群集か青の群集の人よろしくねー!」


 みんなの注意が弥生さんに集まった段階で弥生さんがそう告げていく。一応全員に向けて言ってるけど、赤の群集への注意がメインか。というか、本気で騒動があるようなら移籍するつもりっぽいね。灰の群集と青の群集の人達がざわめいてるよ。


「はい、それじゃ告知は終了! 後は口コミとかで任せるからね!」


 そして簡潔に説明を終えた弥生さんはルストさんの上から地面へと身軽に飛び降りてくる。そこで無意味に回転を加えて見事な着地を決める必要があったのかどうかには疑問はあるけど、流石というか動きが洗練されている気がする。無駄な動きも多いしね……。


「あ、ルストも暴走癖は気をつけてね」

「えぇ、出来るだけ気をつけますよ。そういう弥生さんこそーー」

「ケイさん達もルストが何かやらかしたら、わたしを呼んでくれていいからね。はい、その為にもフレンド登録といこう!」

「え? 弥生さん、それはいいの?」

「ん? あぁ、ルストが気に入って一緒に行動してる人達なら良いよ」


 うお!? 弥生さんが俺に向かって一気に距離を詰めてきた。ルストさんもだけど、弥生さんも移動が早いな。っていうか地味にルストさんの言葉を遮った? 何か俺達に聞かせたくない事でもあるんだろうか? 

 そんなことを考えていると弥生さんが他の人達に聞こえないような小声で言葉を続けていく。


「……それにあの件の当事者とは仲良くしていたいしね?」

「……なるほどね」


 どうやらウィルさんの件も含めて、俺らとは接点を持っていたいらしい。まぁ俺らとしても断る理由もないか。対人戦に出てこない限りは危険視する必要もなさそうだしね。

 そうして俺達と弥生さんとルストさんでフレンド登録をしていく。なんだかんだでフラム達も赤のサファリ同盟入りをしたみたいだし、今後とも何か交流もあるかもね。まぁその辺は追々考えるとしよう。


「さてと、それじゃわたしは今日は終わりにしようかな。ルストも終わらせて自室で待機しておく事!」

「え、弥生さん。私はもう少しやりたいのですけども……」

「えっとね、ガストのリスポーン位置とか騒動の件は聞いたけど、まだ聞いてない事があるんだよね」

「……何かありましたでしょうか?」

「みんなからリアルでも含めて詰問が来たんだけどなぁ? ル・ス・ト、心当たりはなーい? 例えば命名とか、命名とか、命名とか、命名とかね?」

「……その節は勝手な事をして申し訳ありませんでした」

「言い訳は後で聞かせて貰うからね?」

「……はい」


 今日何度目になるのか、再びルストさんは土下座らしきものをしていく。っていうか、弥生さんの隠しきれない怒りの滲んだ声音が地味に怖い……。うん、弥生さんは完全に怒らせたら駄目な人だ。それにしてもルストさんが勝手に赤のサファリ同盟と名乗ってたっぽいけど、その後始末はどうやら弥生さんの方に向かっていったようである。

 そして弥生さんとルストさんはその後すぐにログアウトしていった。これからルストさんは説教タイムなんだろうね。赤のサファリ同盟、色んな意味で恐るべし……。


「あはは、なんか凄いことになってたね?」

「どことなくケイを怒らせたハーレを見た気分になったかな」

「え、そうか? 俺ってあんな風に怒ったりした覚えはないんだけど……」


 少なくともあそこまで怖い感じで怒ったりはしてないと思うんだけどな。そこそこ怒ってる時は直接表面に出してると思うんだが。


「本気でキレた時のケイさんはあんな感じだよ!? 地味に容赦がなくて怖いのさ!?」

「そういやフラムが相手でも結構辛辣だよな、ケイって」

「アーサー君と会ったばっかの時も容赦なかったよね」


 うーん、その辺は自覚はないけどもみんなが言うならそうなのか? まぁいいや、ハーレさんに関しては怒らせるハーレさんが悪いって事で。基本的に怒らせるような事をして来なければ怒る気もないしさ。

 フラムに関してだけはもう色々と累積アウトだけど……。あいつは油断するとすぐ調子に乗って余計な事をするからな。


「ま、その辺の話は良いや。明日はどうする?」

「俺らは9時くらいにここで集合で良いんじゃないか? それより前は自由行動って事で」

「賛成です!」

「私もそれで良いかな」

「私も良いよ」

「みんなが良いならそれでいいか。んじゃ、明日の午前9時にここに集合って事で!」

「「「「おー!」」」」


 ベスタの調整してくれた時間は10時だけど、早めにログインする分には問題ないだろう。まぁ、必ずしもやる事があるとは限らないけど、それは明日になってからでないとどうにもならないからね。

 金属塊のある転移地点の分身体は経験値が多いから、経験値狙いで倒す人がいて金属塊が再破壊されることが無い可能性は充分ある。……再出現までの待ち時間で仮眠を取りつつ、VR機器の連続使用制限を回避する事は出来るからね。


 まぁどうなるかは明日になってからだな。どちらかというと分身体の始末と金属塊の修復は前哨戦だ。本命はその後のボス討伐。つまり、進化したヒノノコ戦である。それが終われば次の段階でエンの正常化なのだろう。

 個人的には本命のヒノノコ戦に参加出来れば、その前の瘴気の除去については終わっていても問題はない。回復速度が早すぎて決定打を与えられなかったヒノノコだけど、今度はぶっ倒してやる。


「……よし、明日の朝はガッツリとスキルを鍛えるか」

「おー!? ケイさんがやる気だー!?」

「いや、いつでもやる気はあるからな」

「やる気というより、殺る気じゃない?」

「ヨッシさん、今のはどの字を当てた!?」


 多分殺る気だとは思うし、ヒノノコに対する殺る気はあるからあながち間違ってはいない。それにみんなも充分やる気なんだよな。よく考えてみれば今日だけでサヤは『連鎖増強Ⅰ』を、ハーレさんは『凝縮破壊Ⅰ』を、アルは根の昇華を、ヨッシさんは毒の昇華で強化した事になるのか。

 俺が真っ先に水の昇華を得ているとはいえ、みんなも順調に強化していっている。俺は俺で更なる強化を目指したいけど、流石に時間が厳しいかな。……土の昇華間に合うかどうか怪しいもんだし、逆にロブスターの地力を上げる方向性で鍛えようかな。


 応用スキルに意識が行きがちではあるけども、通常スキルだって重要ではある。そもそも物理攻撃系の応用スキルは再使用時間があるから、どうしても連発は難しい。……よし、今日これからは流石に無しだけど明日になったら色々考えてみよう。


「それじゃ今日は解散って事で! 俺は少し情報をまとめに上げてから終わりにするけどみんなは?」

「私は終わりにしようかな」

「私もだね」

「私は『凝縮破壊Ⅰ』の効果も見たいし、まだやるさー! アルさんもだよね!」

「おう、良いぜ。俺も枝の操作を扱いこなしたいとこだしな」

「なるほどね。アルもハーレさんも頑張ってくれ。そういや、サヤは『連鎖増強Ⅰ』の試しは良いのか?」


 ハーレさんが試しておきたいのは分かるし、それならサヤも試したいんじゃないんだろうか? その辺はどうなんだろう。


「あ、それなら既に実験済みかな」

「あー、ハーレさんと俺の勝負中にか?」

「うん、そうだよ。ちなみに連撃系のスキルは『爪刃双閃舞』になったかな」

「お、ベスタと同じやつか」

「うん、そうなるよ。でも種族が違うから全く同じ動きにはならないけどね」


 その辺は当たり前といえば当たり前の話だね。四足歩行のみのオオカミと二足歩行も出来るクマでは同じスキルでも違う形になっても不思議ではない。むしろベスタのオオカミよりもサヤのクマの方が扱いやすそうではある。


 その会話をしてからサヤとヨッシさんはログアウトしていった。アルとハーレさんは特訓へと行動を移している。俺は俺で目の前で合成進化したコウモリや、融合したコケ・クモ、そして増殖したコケの発光を利用した光の操作の情報を上げておいた。

 意外な事に合成進化や融合進化した瘴気強化種の情報は上がっていなかったんだよね。もしかしたら、出現頻度はあまり高くなかったりするのかもしれない。……正確なHPの数値は出ないから断定出来ないけど、地味にコケ・クモを倒すのには時間がかかったし普通より強かったのかも……? ま、その辺はそのうち情報が集まってくるだろう。

 それと灰の群集では不足していた情報である、ルストさんの戦闘パターンから分析した物理型の木の情報の報告も忘れずにやっておいた。この情報が地味に重要だったかもね。



 俺の今日の予定はこれにて終了。日付けが変わる前には全部終わったね。少し青の群集のジェイさん達と話はしたけども、特別重要な話も無かった。

 もう解散してみんなも自由に動いているし、俺もログアウトしてちょっとやるべき事をやってくるか。



 ◇ ◇ ◇



 そしていつものログイン場面へとやってきた。いったんの胴体には『何処の群集も頑張ってるね。ちょっと不安要素もあったけど、これなら大丈夫だね』との記載。

 もしかして運営にも心配されてたのか、赤の群集!? これはルアーの頑張りと弥生さんの威圧とルストさんの暴走が効果ありだったっぽい?


「お疲れ様〜。今日はもう終わりかな〜?」

「まぁな。何かお知らせはある?」

「今は特にはないね〜」

「そっか」

「それじゃいつもの様にスクリーンショットの承諾をお願いね〜」

「ほいよ」


 いったんからスクショの一覧を受け取ってみれば、ルストさんが撮ったスクショが大量だった。って、地味に弥生さんからも来てるし!? まぁ普通に俺らのPTの勢揃いのスクショだったけど、結構構図も良いし集合したスクショも意外と少ないから記念にもらっとこ。

 少し残念なのは洞窟内って事くらいかな。まぁ色んな人の灯りでこれはこれで雰囲気はあるけどね。


「これを貰って残りは全部許可で」

「はいはい〜。そう処理しておくね〜」

「それじゃ、お疲れ様」

「またのログインをお待ちしてます〜」


 スクショの整理も終えて、本日のゲームはこれにて終了! 



 ◇ ◇ ◇



 そうして現実に戻ってきた。寝る前に風呂に入ったりして色々片付けることもあるけども、今日はそれ以外にもやる事がある。

 とりあえずリビングに行って、まだ起きていた母さんに頼む事があるんだよな。あ、父さんと母さんは一緒に映画を見てたっぽいね。


「あ、母さん。明日のアジフライは昼じゃなくて晩飯でお願い出来ない?」

「それは良いけど、どうかしたの?」

「いや、ちょっとね?」

「それならお昼は何にしようかしら?」

「俺の好物じゃないものでお願い」

「圭ちゃん、変な要望ね? 別にいいけど……」

「おし! 母さん、ありがと」


 これでアジフライを奪われるのは阻止した。ふふふ、あくまでも賭けるのは昼飯のおかずであって、アジフライと決めたわけではない。ちょっと自分でもズルいような気はするけど、勝負の結果を反故にはしてないからな。

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