第336話 新たな種類の敵


 そこからはコケ・クモとの戦闘は行動値の回復を優先する為に、回避優先で戦闘を行った。思っていたほど強くもなかったので、それほど大変ではなかった。まぁ雑魚敵だし、大々的に検証するほどでもないしね。

 コケ渡りを使われていれば厄介だったかもしれないけども。どうもコケを利用しようとする行動パターンがあったみたいだけど、群体化した事で完全にコケ渡りを封じていたようである。コケの天敵って、ある意味では行動を制限出来るコケなのかもしれない。

 

 それにしてもこのクモの糸、意外と燃え続けるようであちこちで火が上がっていた。そして幾度となく増殖をしようしたコケも燃やしたのでそちらでも火の手が上がっている。

 行動値も必要量まで回復させたし、あれを使うには充分だろう。もうコケ・クモのHPも1割と少しだしね。


「さーて、止めだ! くたばれ!」


<行動値を20消費して『炎の操作Lv1』を発動します>  行動値 1/50(上限値使用:8)


 その場にある火を全て支配下に置き、コケ・クモを丸焼きにしていく。まぁまだLvが低くて制御が甘過ぎるので全部の火を集中させる事は出来なかったけど、それでも倒し切るには充分だ。炎の操作で丸焼きになったコケ・クモはポリゴンとなって砕け散っていく。


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


 これにて無事に討伐成功である。1人で倒したから結構な経験値が入ったね。さてと、それじゃ本題に……って脱線し過ぎ!?


「ケイ、止めって言ってたけど、倒されて戻ってくるんじゃなかったのかな……?」

「いやー、相手が相手だったもんでね?」

「どんなのがいたのー!?」

「クモとコケの融合種の瘴気強化種」

「え、融合種っているんだね?」

「……近くにいない時でホッとしてるかな」

「……それはいいんだが、ケイも早めに戻ってこいよ? 勝負中って事、忘れんなよ?」

「あ、それもそうだった」


 勝負中で俺は倒される必要があるのに、なんで全力で敵をぶっ倒してんのさ!? うーん、敵にコケが出てくるとどうにも負けたくない気持ちになってくるんだよな。……よし、次は何が出たとしても大人しく倒されよう。勝負の事もあるけど、そもそも合流の事を忘れたら意味がない。


「……よし、気を取り直して倒されに行くか」

「今度は倒すなよ、ケイ」

「あ、ケイ。別に倒しても良いかな」

「そだね! ケイさんのんびり戦ってていいよー!」

「勝負中だから、サヤとハーレさんはそりゃそうだよな!?」

「あはは、ケイさん頑張って」

「ヨッシさん、応援どうもー!」


 何かを賭けている訳でもないんだからそこまで必死になる事もないけれど、どっちにしても合流しなければならないのは間違いない。それに勝負ならば負けたくもないからね。



 さてとそういう事で本格的に戻る事を検討しよう。っていうか、さっきのコケ・クモに倒されてれば早い話だったんだよな。敵として初めて融合種の敵に遭遇したし、コケだったからつい負けたくなくて倒してしまったけども……。

 共闘イベントの前半では明確に支配種とは見えていなかったけどそれっぽいのはいたし、未成体からは敵として登場って事なんだろうね。……ふむ、これは色んな進化先を見るチャンス?


 とりあえずいつまでもランダムリスポーンしてきた場所に居続けても仕方ない。それとさっきから見て見ぬふりをしていたけど、発動したままの炎の操作はどうしよう。制御が甘くて暴れ回っているけど、燃えるものが殆どない常闇の洞窟で良かったのかもしれない。そうでなければ大火災になって、慌てて消火してるとこだよね。


 特に燃え移るものもないし、そのまま解除すればいいか。これで地面に広がっている光る俺のコケを燃やせれば楽なんだけどね。

 あ、群体化解除すれば俺のコケではなくなるから燃やせるのか……? でも、特にやる意味もないし普通に解除で良いや。ほい、解除っと。


 解除すれば燃え移るものもなく、炎というか火は消えていった。さて、次だ、次。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 1/50 → 1/48(上限値使用:2)


 移動用に水のカーペットを生成し、その上に飛び乗って移動していこう。次の敵は成長体なら無視で、未成体なら倒されるのに利用するとして戦うのは無しである。だから行動値の回復を待つ必要もない。よし、それじゃ草原エリアに向けて出発だー!




 そうしてリスポーンしてきた行き止まりの分かれ道から主要経路へと向けて進んで行く。発光を発動したままだったし、暗視に切り替える必然性も特にはないのでそのままである。

 あと、地味にハサミが火を纏っているから手元は明るい。発光の方で充分な光量があるからあんまり意味もないけど。


<『魔力集中Lv2』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 24/48 → 24/50(上限値使用:8)

<『操作属性付与Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 24/50 → 24/51(上限値使用:7)


 そんな事を考えていると魔力集中の時間切れになって、普通のハサミに戻っていった。ふむ、ハサミといえばもうちょいロブスターの攻撃を育てていきたいところだね。

 いざソロで戦ってみて思ったけれど、水や魔法攻撃との相性が悪い相手だと少し手札が弱い感じがした。せめて土の昇華で岩の生成、もしくはロブスターの物理攻撃の強化をしていきたいね。せめてLv3までは上げて、連撃系も1つくらいは取っておきたい。うん、少し弱いところが見えて良かったのかも。


「あ、やったかな! 『連鎖増強Ⅰ』が手に入ったよ!」

「サヤ、やったね」

「あー!? サヤに負けた!?」

「……サヤ、早くない?」

「うん、思ったより早かったかな。もう上がる直前だったみたい」

「……そうか」


 まぁたまにはそういう事もあるよね。でもさっきのコケ・クモを倒す事にこだわらなければ、勝っていたのは俺のはずだと思うと少し悔しいものがある。まぁ自業自得なんだけども。


「ケイさん!」

「ん? ハーレさん、何だ?」

「明日のお昼のおかずを賭けて勝負しよう!」

「ほう、俺の方が圧倒的に有利だけど良いんだな?」

「もちろんさー!」

「おや、ケイさんとハーレさんはリアルお知り合いで? ……もしや、恋人同士ですか!?」

「「兄妹です!」」


 ルストさんめ、いきなり何を言い出すかと思えばハーレさんは恋人じゃねぇよ! っていうか、残念ながら俺にはそんな相手は今のところ存在していない。ハーレさんの方は知らないけど、まぁ今はまだいないっぽい感じはするけども。


「おや、兄妹なのですね。それでは私と同じようなものですか。まぁ私の場合は義理の姉にはなりますけれど」

「……ん? ルストさん、それってどういう事?」

「いえ、弥生さんは私の兄の結婚相手でしてね。兄と弥生さんの出会いもオフライン版のファンサイトでしたし、今は私の通学の関係で兄の家に居候させてもらって時間があれば3人で……いえ、弥生さん、少し待っていただけませんか……? ……はい、喋り過ぎたような気はします」


 あ、またルストさんがログアウトになった。えーと、思いっきりリアル情報を口にしていたようだけど、何となくルストさんと弥生さんの力関係が分かったような気がする。そしてさっきの言い方だと少なくともルストさんの兄もこのゲームをやってるっぽい感じだぞ。


「アル、ルストさんはどうなった?」

「あー、弥生さんに怒られてまた2人揃ってログアウトだ。まぁ、さっきのは流石に勝手に喋り過ぎだろうな」

「だよなー」


 どう考えてもさっきのルストさんの発言はリアル情報を喋り過ぎである。でも、赤のサファリ同盟の本質が見えてきた気もする。推測ではあるけど、もしかしたら赤のサファリ同盟は結成の段階はリアルで繋がりがある身内集団なのかもしれない。ガストさんはゲーム内で知り合って新たに加わったメンバーとかそういう感じだろうか。

 そこから今の赤の群集に合わせて、フラム達の勧誘といった人員拡大へと行動方針を変えた……? まぁ実際のところは本人達に聞かないと分からないけど、流石にリアル情報も絡むなら迂闊には聞けないね。


「なにはともあれ、ケイさん! 明日のお昼のおかずを賭けて勝負だよ!」

「よし、乗ってやろうじゃないか!」

「あはは、ハーレの食い意地が勝ちそうな予感がするね」

「私もヨッシに同感かな」

「俺も同感だな」

「あれ!? 俺の味方が一人もいない!?」


 おかしい、条件的には俺の方が圧倒的に有利なはずだ。無駄な事をせずに仕留められてくれば、すぐにでも戻れるはず……。それにそれほど草原エリアは遠くないし、最悪ボスで死ねばいいだけだ。もし他のプレイヤー……ここなら青の群集かな。その人に頼んで倒してもらっても良い。

 よし、明日のおかずを賭けたんだ。すぐにでも行動を開始して、死んでアルの所に戻っていこう。


「それじゃヨッシ、的をお願いねー!」

「うん、それじゃ行くよ。『ポイズンクリエイト』『毒の操作』!」

「いっくよー! 『狙撃』!」


 今度こそ負けてたまるか。普段取られてばっかのおかずを取り返す時である! ふふふ、ハーレさんめ、覚悟してろよ。母さんは明日はアジフライをするって言ってたし、結構好きだからおかずは貰った!


 お、コウモリ集団を発見。これは幸先がいいね。コウモリには以前食われた事もあるし、斬雨さんとジェイさんに倒してもらった手段を使えばそう手間もかからないだろう。おし、来いや、コウモリめ!




 そうしてコウモリに仕留められるべく奮闘していく。こいつ、まだ分裂してないのに攻撃が弱い!? これじゃ脱皮したとしても、満足なダメージは……あ、確認してなかったけど、こいつもしかして成長体か……?


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 47/51(上限値使用:7)


『瘴闇コウモリ』Lv20

 種族:黒の瘴気強化種(分裂種)

 進化階位:成長体・黒の瘴気強化種

 属性:闇、瘴気

 特性:分裂、合体


 あ、やっぱり成長体か!? 焦ってしょうもないミスをした!? こいつじゃ使い物にならないから、他の敵を探さないと。どっか近くにいないか……? よし、こういう時は獲物察知の出番だ。


<行動値を3消費して『獲物察知Lv3』を発動します>  行動値 44/51(上限値使用:7)


 ありがたい事に早速反応あり。少し先の壁面に別のコウモリがいた。さて、こいつが未成体ならありがたいんだが……って、あれ? さっきのコウモリと今見つけたコウモリが互いに攻撃をし始めた。

 あ、コウモリがコウモリに噛み付いたと思ったら、噛みつかれた方のコウモリから瘴気が溢れ出しその姿を隠していったね。これは一体何が起こっている……? ……もしかして、これは進化か?


 少しして瘴気が散っていったと思えば、そこにいたのは4枚の羽を持つコウモリであった。って、やっぱり進化したー!? よし、この光景も重要ではあるけど多分未成体になったはず。これなら倒されるチャンスありだ!

 4枚羽のコウモリも好戦的なようで、俺に向かって突撃してきていた。よし、少しHPが減ったら脱皮して防御を下げてから仕留めてもらおうか。まぁそれまでの間に識別をしておこう。


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 43/51(上限値使用:7)


『瘴闇双羽コウモリ』Lv1

 種族:黒の瘴気強化種(合成種)

 進化階位:未成体・黒の瘴気強化種

 属性:闇、瘴気

 特性:分裂、合体、合成、双羽


 あ、羽が1セット増えているのは合成進化で羽を追加したっていう扱いになるっぽい? 羽が多いのが変な感じではあるけど、歪さはないので合成進化からの最適化の変異進化を行った後って感じだな。

 そんな風に分析しながらでもコウモリが着々と体当たりとか羽で突撃してきて、確実にHPが減ってきている。よし、そろそろ脱皮して弱体化させるかな。


<行動値を1消費して『脱皮Lv1』を発動します>  行動値 50/51(上限値使用:7)

<HPを50%回復します> HP 5350/5350

<防御が80%低下します>


 よし、これで後はひたすらダメージを受けて死ねばいいだけだ。これは勝ったな!


「やったー! 『凝縮破壊Ⅰ』ゲットー!」

「……はい?」

「勝者、ハーレかな」

「……え?」

「残念ながら、ケイの負けだな」

「ケイさん、残念だったね」

「そんなまさか!?」

「ケイさん、明日のお昼のおかずは貰ったよー!」


 あと少しだったというのに、負けた……? うっわ、変なミスばっかしたせいだ!? ……仕方ない、勝負は勝負だから諦めよう。これについては同意して勝負を受けたんだから、潔く受け入れるとしようじゃないか。




 そうして勝敗は決まって、俺に負けが決定した。その後、少ししてコウモリに一方的にやられ続けて再び死亡して、アルに設定したリスポーン位置へと復活して戻ってきた。とりあえず日付けが変わる前には戻ってこれたね。

 周囲を見回してみれば、赤の群集の人や青の群集の人がそれぞれ好きな様に行動している。色んな人が灯りを用意しているのと、この場所の瘴気が薄れているのと、纏浄ありの灯りもあるようで夜目も何もなくても見渡せるね。


「お疲れさん」

「ケイ、残念だったね」

「まぁそういう勝負だったから仕方ないって」

「む!? ケイさんが妙に潔い気がするよ!?」

「ハーレさん、勝負は勝負だ。明日の昼のおかずは渡そうじゃないか」

「それもそだね! やったー!」

「ケイさん、何か企んでない?」

「ヨッシさん、そんな事はないって」


 別に昼のおかずを賭ける事を反故にする気はない。まぁ、考えている事がないわけじゃないけどもね。

 そんな事を考えているとルストさんと弥生さんが再びログインしてきたようである。何度もログインしたり、ログアウトしたり忙しそうだね。まぁゲーム内では言えない事もあるんだろうけど。


「やぁ、ケイさん。うちのルストと、赤の群集の人達が迷惑をかけたみたいでごめんね」

「あー、まぁ解決したならそれでいいけど……」


 そういや戻ってきて大丈夫とは聞いたけど、人は減った様子もない割に随分と落ち着いたもんだね。質問攻めをしようとしていた赤の群集の人達はどうやらまとめ情報を見ながら、特訓をしてるっぽい? それにフレンドコールをしてるっぽい人も多い感じだ。

 なんだか別の集団のところに来たような気分である。ちょっとの間に一体何があったんだろうか。……というよりは、一体弥生さんは何をした?


「ねぇ、弥生さん。少し聞いてもいい?」

「ん? 何かな?」

「一体、これは何をどうしたの……?」

「それは簡単だよ。口で言って聞かないなら、手段はそれなりに限られてくるよね?」

「あ、そうですか……」


 うん、大体それで想像がついた。要するにベスタが以前風雷コンビにやったのと同じような事をしたのだろう。……あれ、もしかして弥生さんってベスタに近い何かを持っているんじゃ……? 今までその対象が赤のサファリ同盟をまとめる為だけだったのに、ここに来て赤の群集の暴走の抑えに動いたって事になるのか……?


 よし、ルストさんはルストさんで相当ヤバイけど、弥生さんはそれ以上のベスタと同格くらいの要注意人物だと思っておこう。そういう想定で対応しないとこの人は危険な気がする。……赤のサファリ同盟がもし対人戦に出てくるような事になれば、相当な脅威になりそうだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る