第335話 ソロで探検


 妙に盛り上がった赤の群集の人達から逃げる為にランダムリスポーンをしたけども、死ねば解除される共生進化と違って、支配進化の状態のままリスポーンできた。これはまだ実際に試してみた事がなかったから良い機会だったかもしれないね。

 でも発動中だったスキルは全て切れている。まぁこれは当たり前の仕様なんだろうけど。とりあえず真っ暗過ぎるからどうにかしないとね。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 51/58 → 51/57(上限値使用:1)

<行動値上限を3使用して『暗視』を発動します>  行動値 51/57 → 51/54(上限値使用:4)


 今は俺1人だけだし、こっちの組み合わせでいいや。これでも瘴気のせいで若干薄暗い感じではあるけど、問題ない範囲ではある。さてとまずは現在地と周囲の確認だな。それと近くに誰かいるかな?


「……周囲には誰もいないか」


 軽く見回してみても誰もいなさそうなので、マップを開いて現在地を確認してみる。どうやら割と結構な距離を飛ばされたらしい。草原エリア近くの外れの分かれ道の行き止まりのようである。

 まぁこの場所なら草原エリアには近いからそっちから出てボスに仕留められて、アルのリスポーン位置で復活すればいいか。未成体の雑魚でも良いけど、それは状況次第かな。


「だから、俺はその場にいなかったから知らないっての! ケイはあの件で悪目立ちすんの嫌がってるからやめてくれって」

「そうなのさー! あれは運営からも注意受けてるんだから掘り返すのは無しだよー!」


 アル達に状況を確認しようかと思ったけれど、なにやらPT会話でそんな声が聞こえてきた。どうやらアルとハーレさんがメインで対応してくれているらしい。……しばらくは任せて、後でお礼を言っておこう。



 変な状況から1人になったけれど改めて周囲を見てみれば、こちらの方も変わらず瘴気に満ちている。草原エリアから入った常闇の洞窟では近くに金属塊の転移地点はないんだよな。それに現在地は主要経路から外れた分かれ道の行き止まり。まぁ人がいなくて当然の場所である。


「……さてすぐに戻ったんじゃ死んできた意味がないけど、こうも人気がない場所だとはね」


 思わず独り言になってしまう。まぁみんなにはPT会話で聞こえているだろうけどさ。ふむ、実際問題これからどうしたもんかな。サクッと草原エリアまで移動して、雷オンの進化版と戦ってくるか?

 あ、その前にルアーに一報入れておくか。フレンドリストからルアーに連絡……あれ? ログイン中じゃないのか。何か用事でもあって今はいないのかもしれないし、近くにいそうなフラムにでも伝言を頼むか。とりあえずフラムにフレンドコールっと。


「ん? ケイ、どうしたよ?」

「フラムには何の用もないけど、ルアーに伝言を頼む。今、ルアーってログインしてないよな」

「一言目でそれって酷くねぇ!? ……ルアーのログアウトは少しの間だけだから伝言はいいけど、何をどう伝えればいい?」

「赤の群集の現状についてだな。あと注意喚起を頼みたいんだけど」

「……ケイ、どういう事だ?」

「ちょっと色々あってな。さっきまで一緒にいた赤の群集の人達なんだけどさ」


 簡単に要約しつつ、さっきまでの一連の騒動をフラムに伝えていく。まぁこいつならあの事情は知っているだろうしね。伝えるのが直接ルアーにでなくて良かったのかもしれない。


「……そうか。ルストさんが諍いを起こして、弥生さんがルストさんをね……。それにしても赤の群集ってチャットを一切信頼しなくなって見てない層がいたのか……。通りで人数が少ない訳だ……」

「あ、変だとは思ってたけど、把握はしてなかったのか」

「まぁな。俺達がルアー側に近過ぎたって事なんだろうな。ケイ、その情報は助かった」

「今回の事で口コミが多少は広まるとは思うけど、例の件に対する注意喚起はしといてくれよ」

「おう、ルアーに伝えとく。それに関しては迷惑かけた」

「まったくだよ。ま、その辺はよろしくなー」

「おうよ」


 おかげで逃亡の為に死ぬ羽目になったしな。とりあえず用件は済んだのでフラムへのフレンドコールは切って終了。予想通りフラムも例の件の裏事情は知ってたみたいだね。


 さて、ここからどうしたもんかな。……ん? ログアウトして暗転していたPT一覧のルストさんの名前が元に戻ったね。っていう事は、ルストさんが戻ってきたのか。


「ケイさん、そっちはどうなったー!?」

「とりあえず草原エリアの出入り口に近いとこにランダムリスポーンだな。そっちは?」


 PT会話からハーレさんの呼びかけがきたね。そういや静かになってるから、あっちの件は片付いたのかな? それならそろそろ戻る準備をしても大丈夫なのかもしれない。まぁ詳細を聞いてからだな。


「えっとね、弥生さんが戻ってきて説教してるとこ!」

「え、マジで?」

「うん、本当かな。盛り上がるのは良いけど相手の迷惑を考えなさいって言ってるよ」

「ルストさんも一緒に怒られているのは何でだろ?」

「ルストさんもかよ!?」

「いえ、怒られている訳ではありませんよ! あ、いえ、何でもありません……」

「あ、今のは本当に怒られたかな」

「……どういう状況だよ、それ」


 弥生さんがどういう人なのかは少し話しただけなのでよく分からないが、少なくともあのルストさんやアルやハーレさん達が手を焼いていたのを収めるほどには強烈な人のようである。聞いている感じでは我の強そうな赤のサファリ同盟だけど、そこのリーダーをやってるだけはあるって事か。


「……それじゃそろそろ俺も戻っても大丈夫か?」

「あぁ。大丈夫だが、ケイ、デスペナは良いのか?」

「あー、そういやそうか」


 1回目の死亡は行動値の回復が少し遅くなるだけだけど、2回目からは経験値が減るんだっけ……。そういやどのくらい減るのか地味に知らないや。こういう時こそヘルプを見るべし!

 あ、1%減少で死ぬ回数が増える毎に1%ずつ減少量が増加なんだね。1回だけなら1%の経験値なので、どうとでもなるか。PKし過ぎてカーソルが黒く縁取られていなければLvの低下にはならないみたいだしね。


「経験値1%くらいならどうとでもなるだろ」

「あ、数値ってそんなもんなのか? まぁ伸び悩んでる時なら1%でも惜しいかもしれんが、今ならまだそうでもないから問題はないな」

「なんだ、アル? 数値知らなかったのかよ」

「……なんかケイに言われると釈然としねぇ」

「ケイ、さっき確認したんじゃないかな?」


 ギクリ……。さて、サヤは何を言っているのやら? 前々から知っていましたとも。……どうしてそうも勘が鋭いのかな。


「そういや地味に間があったな? サヤ、その数値ってどこで分かる?」

「確かヘルプに書いてあったと思うけど……あ、あったかな」

「わー!? サヤ、ストップ!?」

「はい、ケイさん!」

「……何、ハーレさん?」

「ここは素直に言っておくべきだと思います!」

「……ケイさんって時々バレバレで変な事をするよね」


 うぐっ!? ハーレさんとヨッシさんにまでちょっと呆れられてる気がするぞ。ちょっとくらい見栄を張っても良いじゃないか! ……バレてりゃ見栄を張っても虚しいだけな気がしてきた。


「どうせさっき確認しましたよー。ともかく、もう戻っても大丈夫なんだよな? それなら戻る為に移動するぞ」

「ケイ、誤魔化したな?」

「アル、話が進まないからもうその辺りで終わりね。ケイが戻ってくるのはもう大丈夫かな。ところでどうやるの?」

「今いる場所からなら草原エリアが近いから、そっちのボスに殺られてくるよ。途中に敵と遭遇したらそれでもいいし」

「あ、そういえばさっき言ってたね。それならすぐ戻って来れそうかな」

「多分な。という事で、1戦やってくるわ!」


 水のカーペットで飛んでいけばそれほど時間もかからないだろう。それに死ぬのを前提にしていれば、ボスに限らず雑魚敵相手でも倒されるのなんて簡単な話である。……まぁ成長体相手だと難しいけども。


「それじゃみんなで特訓しながら待ってるねー!」

「サヤの『連鎖増強Ⅰ』か、ハーレの『凝縮破壊Ⅰ』か、ケイさんが戻ってくるのが早いか競争とかどう?」

「おー、ヨッシ! それいいね、やろうやろう!」

「たまにはそういう競争も良いかな」

「お、その案に乗った!」


 たまには方向性を変えた勝負というのも良いだろう。今この時にしか出来ない内容だし、ヨッシさんも良い提案をしてくれた。となれば、俺は大急ぎで仕留められてこないといけない訳か。よし、内容は微妙だけど、必要な事だしやっていこうじゃないか。

 とりあえず少し話し合ってサヤの特訓相手はアル、ハーレさんの特訓相手はヨッシさんと決まった。そして説教が終わったルストさんも会話に加わってきていた。


「ルストさん、開始の合図を任してもいい?」

「えぇ、構いませんよ。皆さん、準備は宜しいですね?」

「問題なしさー!」

「いつでもいいかな」

「俺も問題なし!」

「では競争スタートです!」


 さてと競争が始まった。即座に水のカーペットを生成して飛んでいけば、時間はかなり短縮出来るはず。この勝負、明確なゴール条件が分かっている俺が一番有利なはずだ! 行動値は全快してるし、デスペナも終わっているからね。


 早速水のカーペットの生成を……ん? 今、視界の隅で何かが動いたような……? このタイミングで敵の登場は好都合だし、確認しておくか。


<行動値を3消費して『獲物察知Lv3』を発動します>  行動値 51/54(上限値使用:4)


 やっぱり気のせいじゃなかったか。黒い矢印が視界の隅の方に向かって伸びて……いや、一気に距離を詰めてきた!? 普通に移動したにしては動きが速すぎる!? それこそ瞬間移動でも……って、まさか!? よく見れば地面に黒い何かがいる。


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 47/54(上限値使用:4)


『瘴コケ・クモ』Lv7

 種族:黒の瘴気強化種(融合種)

 進化階位:未成体・黒の瘴気強化種

 属性:闇、瘴気

 特性:魔法吸収、瘴気吸収、融合


 ちょっと待ったー!? 今のタイミングでこんな奴が出てくるの!? え、ちょっと待って、識別Lv4で融合種とかそういう種族も判明すんのかよ。そして融合種って地味に初遭遇なんじゃ……。

 でも、特性に融合ってあるから、正直なところ識別Lv4の情報ってそれ程重要ではない気もする。えーと、名前的には俺の進化候補に出た時の情報通りなら名前の後ろ側がメインだったはず。


 って、呑気に話してる場合じゃない!? うわっ、クモの糸が飛んできた。……いや、これはチャンスか? ここで殺られてしまえばすぐに戻れるから……でも融合種とはいえコケに負けたくないな……。よし、1体くらい仕留めてしまえ!


<行動値を3消費して『群体化Lv3』を発動します>  行動値 44/54(上限値使用:4)


 コケとの融合種となれば、ベスタとアーサーと同じである。となれば擬似的な瞬間移動であるコケ渡りには気を付けなければならない。周囲のコケの位置を把握するとともに、俺の支配下においておく。幸いな事にそれほどコケは無いし、見える限りのコケは群体化した。


<行動値上限を2使用と魔力値4消費して『魔力集中Lv2』を発動します>  行動値 44/54 → 44/52(上限値使用:6): 魔力値 178/182 :効果時間 12分

<行動値1と魔力値4消費して『火魔法Lv1:ファイアクリエイト』を発動します> 行動値 43/52(上限値使用:6): 魔力値 174/182

<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『操作属性付与Lv1』を発動します>  行動値 43/52 → 43/51(上限値使用:7): 魔力値 172/182


 よし、コケ対策は火の属性付与でとりあえず問題ないだろう。ただの打撃だとコケには通用しないだろうしね。殴打重衝撃や水流の操作は相性もあって1対1では決定打にはなりにくいだろうしね。ファイアボールとかは並列制御を使わなければ吸収されるので要注意しないといけない。


 おっと、火に警戒して距離を取っていたクモが今度は糸を網のようにして飛ばしてきたか。ハサミだけでは対処し切れるか怪しいな。ここは新戦法を試そうじゃないか。初めは使えないかと思っていたけど、意外と活用法はありそうなんだよね、これ。


<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 39/51(上限値使用:7)

<行動値上限を4使用して『発光Lv4』を発動します>  行動値 39/51 → 39/47(上限値使用:11)


 ロブスターの表面を超えて地面に広がったコケとさっき群体化したコケが一斉に光りだす。うおっ!?  結構な範囲のせいか、暗視も発動しているせいか予想以上に眩しい!? って、悠長なことを考えてる暇はないか。


<行動値を1消費して『鋏切断Lv1・火』を発動します>  行動値 38/47(上限値使用:11)

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『鋏切断Lv1』が『鋏切断Lv2』になりました>


 とりあえずクモの糸を、火を纏ったハサミで焼き切るように切断していく。糸は燃えていっているけども育成が追いついていないスキルだから効果はいまいちか。でもスキルLvが上がったのはありがたい。それに追撃のクモの巣が再び襲いかかってきている。えぇい、自分のスキルのせいとはいえ、眩しいわ!


<『暗視』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 38/47 → 38/50(上限値使用:8)


 よし、これでいい。暗視がなければ少し眩しい程度で済む。次だ、次!


<行動値を19消費して『光の操作Lv3』を発動します>  行動値 19/50(上限値使用:8)


 ぶっつけ本番だけど、光源としてはそれなりに充分なはず! 地面にある俺のコケが放つ光を収束させ、クモの巣をレーザーで縦横無尽に溶かし切ると同時に本体にもダメージを与えていく。おぉ、閃光や天然の太陽に比べると見劣りはするけど、クモの巣を燃やし尽くす程度の火力はあるね。でもまだ削れたのは1割程度か。

 一応これはこれでありだな。もうちょい威力が欲しいけど、その辺は仕方ないか。……そしてそこそこの火が燻っている。でもまだもうちょっと火が欲しいとこだし、行動値も足りないか。


 ん? 何やら行動パターンが変わったっぽい。あ、コケを増殖させている!? そうはいくか!


<行動値1と魔力値4消費して『風魔法Lv1:ウィンドクリエイト』を発動します> 行動値 18/50(上限値使用:8): 魔力値 168/182

<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を4消費して『風の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 14/50(上限値使用:8

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を4消費して『体当たりLv2・火』は並列発動の待機になります>  行動値 10/50(上限値使用:8)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 増殖をしているコケ・クモ相手に勢いよく体当たりでふっ飛ばして、壁面に叩きつけた。よし、これでHPを2割は削った上に朦朧が入ったな。コケは火が弱点だけど、虫もそういや火に弱かったっけ。でも、1人で戦うと行動値が微妙だな……。


<行動値1と魔力値4消費して『風魔法Lv1:ウィンドクリエイト』を発動します> 行動値 9/50(上限値使用:8): 魔力値 164/182

<行動値を4消費して『風の操作Lv3』を発動します>  行動値 5/50(上限値使用:8)


 もう一度、今度は体当たりなしで突撃していく。とはいっても直線的にではなく、放物線を描くように斜め上方に向けてである。クモはまだ朦朧中で動きは鈍いから今がチャンス!


<行動値を2消費して『鋏殴打Lv2・火』を発動します>  行動値 3/50(上限値使用:8)


 斜め上から飛び降りるようにして、勢いをつけてクモの胴体と表面のコケに火属性の打撃を叩き込む。よし、ここまでは相当優勢だ。


 さて、単独で未成体と戦うのはそう経験はないんだよな。少し俺の方がLvは高いけど、PTでの戦闘と違って倒し切るには行動値が足りないね。光の操作は閃光を使った時ほどの威力もないし、殴打重衝撃を使うにもチャージ時間を稼ぐ必要がある。

 ま、ソロだとその辺は仕方ないね。とりあえず、行動値が減ったら回避優先で削っていこうじゃないか!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る