第334話 久々の……


 赤のサファリ同盟のリーダーの弥生さんが現れて、ルストさんと共にログアウトしていくという事態があった。まぁ事態も収まったみたいだしそれはいいとして、とりあえずやっておくべき事を確認しよう。


「とりあえず、瘴気と金属塊の修復はどうする?」

「あ、そういやそうだな。さっきのですっかりそれを忘れてたぞ」

「アルさんは仕方ないなー!」

「ハーレもじゃないかな?」

「サヤもだよね?」

「いや、この場合全員じゃね?」

「まぁそうだよな……」


 うん、ダイクさんの言う通りここは全員が忘れていたってとこだね。まさかの赤のサファリ同盟のリーダーの来襲だったから仕方ないと思いたい。この忘れていたという事実はどこかに棚上げしておこうかな。


「手順自体は分かってるからサクッと終わらせるぞ!」

「はいはい、斬雨。分かっていますので落ち着いてくださいね。青の群集で『浄化の光』を使用しますので、灰の群集か赤の群集の方で纏瘴で『瘴気収束』をどなたかお願いできますか?」


「え、何それ?」

「纏瘴の『瘴気収束』って使い道あったの?」

「あ!? まとめにその情報が載ってるぞ!」

「……ふむふむ。クリアに必要な手順なんだ?」

「しっかり確認しろよ! あれだけ散々な目に遭ってたルアー達がやってくれてるんだ。気付いた以上は無駄にすんな!」


 あー、情報があるという事は分かってもその内容まではまだ具体的に把握しきれてはないんだ。まぁそれほど時間も経ってないから仕方ないか。それにしてもトラブルになったイノシシの人が無駄にするなと力説しているのは妙な感じだね。心境の変化でもあったのかな?


 そしてその赤の群集の人達の様子を見て、青の群集の人達が不思議そうな雰囲気になっていた。他の群集から見たら赤の群集の内部事情はわからないし、不思議に思うよな。俺達だってちょっと前までこういう状況の人がそれなりにいるって事を知らなかったしね。


「……どういう事ですか、これは……?」

「あー、赤の群集の一部は情報共有の機能不全に陥っているみたいでな。それで途中にちょっとトラブルがあって、まぁ簡単に言えば初期の青の群集の状況に近いっぽいぜ」

「……なるほど、そういう事ですか。それでその対応はどうなっています?」

「赤の群集の人が海流の操作に巻き込まれてキレたのに対して、ルストさんがブチ切れてトラブルになってな。止めようとしたけど俺じゃ無理だった。さっきの弥生さんはその件で来たんだろう」

「それでこの状況という事ですか。……まぁ荒れていたとは聞いていますし、しばらくは仕方ありませんね」


 三日月さんがここまで来る時のトラブルについて簡単に説明すれば、ジェイさんは納得したように頷いていた。ま、その辺は俺も同意である。


「赤の群集がそういう状況でしたら、灰の群集の方でお願いしましょうか」

「あー、俺らのPTはもう纏浄を使ってて、今日は使えないぞ」

「いや、待ってくれ。俺にやらせて欲しい」

「おや、あなたは先程の謝り合戦のイノシシの方ですね。それは構いませんが、すぐに実行可能ですか?」

「あぁ、ここに来るまでの間にイベント絡みのとこだけでも頭に叩き込んだ。もう無様は晒す気はねぇ!」

「そうですか。それではお願いしますね」

「おうよ! 『纏属進化・纏瘴』!」


 そこからはここでも惑星浄化機構が話しかけてきて、斬雨さんとイノシシの人によって瘴気の除去を行っていった。瘴気の除去が終われば、金属塊の修復も始まっていった。


<ワールドクエスト《この地で共に》の金属塊を修復しました> 灰の群集 6/13


 よし、ここの地点も修復完了っと。まぁどうせ明日になってから一斉に処理する予定なので、現時点で無理に修復する必要もないんだけどね。もう日付が変わる時間も近くなってきたし、真夜中は人も減るだろうから放置でも良かったけど、今の赤の群集の人達には実物見せる機会は多いほうが良いだろう。


「おぉ!? まとめ情報にある通りに、ちゃんと修復した!?」

「あれ? 明日の昼前に一斉修復を計画中とかあるぞ?」

「あ、マジだ。うわ、ちゃんと攻略手順がまとまってる!?」

「……これ、明日までに色んな奴に直接伝えに行った方が良いんじゃね」

「よし、一旦臨時拠点に戻るぞ! チャットを見なくなってるやつ多いから、直接話すしかねぇ!」

「あの、そういう事なんで戻っても大丈夫ですか?」


 なんか戻って情報を広めてこようという話にはなっているけど、戻り方についての情報は持っているんだろうか。常闇の洞窟は広めの場所に設定されている場所以外でログアウトすれば、ここに来る前のエリアに強制送還されるけど、果たしてその情報を知っているのかどうか……。


「それは良いんだけど、ここに戻ってくる手段は知っている?」

「え、それはここにリスポーン位置設定をしてから死ねば……あ、そしたら外のリスポーン位置が上書きされるから駄目だ……」

「え、なんだよそれ! どうやって戻ってくるんだ!?」

「いや、ちょっと待て! 手段は書いてるぞ!」

「え、マジか!? どんな手段!?」

「通路とかの通常のログアウト不可の場所でログアウトすれば、1つ前のエリアに戻れるってさ。そんで広くなってる場所ならリスポーン位置設定が可能だと」

「って事は、リスポーン位置を設定してから通路でログアウトすれば行き来は出来るのか!?」

「そうみたいだ。うっわ、こんな小技情報とかもあんのか。ルアーさん、今まで気付かなくてほんとスマン!」

「灰の群集のザリガニの人は普通に知ってたんだね。そっか、灰の群集とは情報格差が凄いあったんだね」

「……っていうか、ちらっと聞いただけだけどあの元凶を倒した人の1人と特徴が一致するような……?」

「あれ、ログインしてなかったから全然見てなかったんだよな。あれやったのって、この人なの?」


 何だか雲行きが怪しくなってきたのは気のせいだろうか……? ウィルさんとの一件については確かに当事者ではあるけども、この状況でその話題が出てくるのはあまり良い予感がしないんだけど……。


「え、っていう事は赤の群集の元凶を取っ払ってくれた人が、今も手助けしてくれてるの!?」

「さっきのトラブルでも仲裁してくれたもんな」


 ヤバい、なんだかどんどんと盛り上がっていっている気がする。これは早めに手を打たないと囲まれて身動き取れなくなるやつだ!? 

 そんな風に思っているとすぐ近くまでジェイさんがやってきて小声で話しかけてくる。


「……ケイさん、一度この場を離れた方が良いのでは?」

「ジェイさんもそう思う?」

「えぇ、大雑把にですが赤の群集の例の元凶と何があったのかは推測はしています。あの件についてはあまり触れられたくはないのでしょう? ですが、ここの人達はそれを知らない可能性が極めて高い……」

「……ですよねー。よし、逃げようかな」

「ですが、どうやってですか?」

「適当にランダムリスポーンして、落ち着いた時を狙って戻ってくるよ。ってことでジェイさん達、殺して貰ってもいい?」

「……それは別に構いませんが、よろしいので?」


 確かにこの状況でアル達を残して俺だけ逃げ出すっていうのも気は引ける。……とはいえ、残っていれば非常に面倒な事になりそうなのは確定だ。でも、あの場で明確に姿が割れているのは俺とベスタのみだから、他のみんなは質問攻めになっても適当に誤魔化せるか?

 流石に昇華魔法をぶっ放して赤の群集の全員殲滅とかそういう訳にもいかないもんな……。やっぱり俺単独で逃げるのが正解か?


「ケイ、俺らの事は気にすんな」

「私達はあの件には直接の関わりは表に出てないからね」

「ここは任せて、ケイは逃げた方が良いと思うかな」

「PT会話もあるし、大丈夫さー!」


 どうやらみんなは気遣ってくれているようである。それにしても赤の群集と関わり出すと地味に面倒な事になるな。よし、みんなもこう言ってくれてるし、今は戦略的撤退を最優先しよう。後々の合流はどっかのボスに突っ込んで、死んでからアルのリスポーン位置に戻ってくればいいや。


「んじゃ、ジェイさん、斬雨さん、頼んでいい?」

「えぇ、任されましょう」

「つってもそう簡単に行くのか?」

「考えがあるから大丈夫。斬雨さん、連閃は再発動可能?」

「あぁ、問題ねぇぜ」

「それじゃジェイさんはコケに対する対応策は何かある?」

「……それを今聞きますか。一応火魔法と毒魔法はありますよ」

「よし、それじゃそれで任せた。まず斬雨さんがロブスターを斬り刻んで、ジェイさんはその後にコケをよろしく」

「支配進化のデメリットの弱体化を利用しますか。了解しました」


 そうやって逃げる算段をしている間にも赤の群集の人達は妙に盛り上がっている。今はまだ自分達の間で知ってる事やまとめの情報の確認。そしてその時を知っていた人がフレンドにいる人にフレンドコールをして当時の状況を聞いているようである。

 このままだとこっちに雪崩込んでくるのも時間の問題だろう。例のウィルさんの件をアーサーから聞いた時には天罰だとか大騒ぎになっていたと言ってたもんな。その辺の実態は直接確認してないし、したくもない。


「アル、シアンさん、セリアさん、隠してもらってもいい?」

「……仕方ないな」

「ケイさんも大変だね」

「ケイさん、頑張って!」

「頑張ってって言われてもなぁ……」


 この状況を俺にどうしろっていう話だしね。後でルアーから注意してもらえるように頼むとして、今はとりあえず捕まらないように逃げるのみ!


「斬雨さん、頼む」

「まぁやるけどよ……。正直、ケイさんをそう簡単に倒せる気もしないんだが?」

「手段は考えてるから大丈夫! あ、魔力集中は無くていいけど連撃でよろしく」

「……そうか? なら、行くぜ。『連閃』!」


 そして俺に向かって放たれたまだ弱い銀光を放つ斬撃が、俺のロブスターの頭部に目掛けて振り下ろされ軽く切り裂いていく。あまりダメージはないけど、これで条件としては充分である。


<行動値を1消費して『脱皮Lv1』を発動します>  行動値 51/52(上限値使用:6)

<HPを50%回復します> HP 5350/5350

<防御が80%低下します>


 よし、無駄な回復量だけど目的は回復じゃないからな。これで防御を一気に下げられた。そして先程斬られた傷は即座に脱皮をして修復したものの、続く連撃によって次々と斬り刻まれていく。支配進化状態で脱皮は初めて使ったけど、コケが地味に移動しながらロブスターが脱皮していくんだね。


「へぇ、そういう使い方もありなのか。面白いな」


<『傀儡ロブスター』のHPが全損しました。『支配ゴケ』が大幅に弱体化します>


 そして防御が低下しまくって無防備に斬られ続けたロブスターのHPはあっという間に無くなっていき、ポリゴンとなって砕け散っていった。コケの土台としてロブスターの背中の甲殻が少しだけ残るんだね。支配進化になってから死ぬのは試した事がなかったけどもこういう風になるのか。


「ジェイさん、頼んだ!」

「えぇ、分かりました。それではまた会いましょう。『ポイズンボム』!」

「おう、またな!」


 大幅に弱ったコケに弱点の腐食毒は効果抜群であっという間に群体数が減っていってる。この感じだとすぐに死ぬね。

 ふむふむ、支配進化で倒されやすい行動というのもあるのがよく分かった。脱皮の急激なHP回復には使えるけどこの弱体化は諸刃の剣だから、これに頼る事は無い様に気をつけよう。


<群体が全滅しました>

<リスポーンを実行しますか? リスポーン位置は一覧から選択してください>


 自ら狙ったとはいえ、久々の全滅である。とりあえず帰還の実は暗転していて選べないし、今はアルの場所を指定しても意味はない。という事で、ランダムリスポーンを選択していこう。


「要するにあの人がルアーさんを倒したっていう噂のコケの人か!」

「わー! もっと話を聞いてみたい!」

「あれ? どこに行ったの、コケの人?」

「え、あそこで死んでない!?」

「なんでそうなってるのー!?」


 おっと、ぎりぎり間に合った。うーん、ザリガニで認識してくれれば良いのに、そこまで情報が繋がってしまったのか。

 まぁ何にしても現状で質問攻めに捕まるのは嫌なので、悪いけどここは逃げさせていただく! ……あれ、よく考えたらこれってログアウトでも良かった気もする……? 今更気付いても、もう手遅れー!?

 まぁいいや。まだログアウトするにはちょっと早いし、少しだけソロ活動と行こうかな! さて、ランダムリスポーンでどの辺りに出現する事になるのやら。ま、たまにはこういう事も良いだろうって事でね!

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