第333話 目的地に到着


 さて、なんか予想もしてなかった展開にはなってきた。ただ移動しようとしただけなのに赤の群集の問題点がこうも出てくるとは予想外である。

 実際のところ、赤の群集では情報の質が上がっている事に気付いている人と気付いていない人ってどっちの割合が多いんだろう? ルアーに近い人達ばっかと触れ合ってきたからその辺がよく分からない。


 まぁ割合は分からないけど知らない層がいるのは確定だね。俺らが何とかする義理はないんだけどやれる事はあるし、頑張ってるルアーの手助けをしておこう。

 そのうち何らかの形で借りは返してもらえたらいいなー。それに何よりもゲームは楽しんでやるものだ。赤の群集の人達の現状は勿体無いからね!


「赤の群集の人! これから俺がやる事に関係する情報は前編の共闘で広めてまとめに上がってるはずだから、まとめ情報を見とけよー! 編集をしてるルアー達が可哀想だぞ!」

「え、どういう事?」

「さっきのイノシシが言ってたのと関係あんのか?」

「……どれどれ? え、まとめがやべぇ!? 思った以上に情報が多い!?」

「え、ホントに!? どうせまともな情報はないと思って見てなかった……」

「……いつの間にこんなに充実したんだ……?」

「あー! あちこちの編集者名にルアーさんの名前がある!?」

「あんだけ無茶苦茶されてたのに、ルアーってまだ頑張ってくれてたんだ……」


 おいおい、少なくともここに居た人達は全滅かよ。これは言っておいて正解だったかな? ついでにルアーが一緒にいない時で良かった。流石にこれは本人には見せられない光景だ。


「ルアーさん、少し同情しますよ……」

「ルストさんがそういうってのは、よっぽどじゃねぇか?」

「アルマースさん、私も流石にここまでとは思っていなかったのですよ。……少し見限る条件を緩める事を提案しておきます」

「そうしてやってくれ。これは正しく状況が伝わるのに少し時間かかるぞ」


 ルアーは頑張って赤のサファリ同盟と協力関係になって頑張ってまとめの編集をしてたのに、そもそもそれを認識してなかった人が多かったんだな。……流石に全く知られてないってことはないだろうし、ガストさんとの模擬戦の事も考えれば変化自体はあったんだろうけど、全体に情報を広めるのは困難だったのか。

 まぁログインのタイミングとか、メインの活動エリアによっても変わってくるからその辺も原因かもしれないしね。ルストさんも流石にこの状況は想像していなかったみたいだし……。


 一度破綻しかけた情報共有に対する信頼度が落ち過ぎていて、まとめ機能があっても自発的に見たり聞いたりする人が減り、こういう状況になったんだろうな。

 でもこの時点でそういう状況になっているということが発覚して良かったのかもしれない。ルアーが心が折れて投げ出す前ならば、まだ修復は可能なはず。反応を見た感じでは決して悪意から来ている状況ではないみたいだしね。

 ま、俺が出来るのはここまでだな。後は赤の群集の一般勢がどう動くかの問題である。


「よく見てろよ! これが昇華の力だ!」


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 51/52(上限値使用:6): 魔力値 179/182

<行動値を19消費して『水流の操作Lv4』を発動します>  行動値 32/52(上限値使用:6)


 大量の水を生成し、渦巻くように水流を作り上げていく。少し陸に降りている人もいるので、改めてクジラの誰かに乗ってもらうか、自分で水流に乗ってもらう必要があるからね。それが終わればみんなを流して出発すればいい。


「……なんだこれ?」

「あー!? そういや前編の時にこんなの見た! でも、川の水を使ってたよ!?」

「おい、まとめを見ろ! 水の操作の昇華って情報がある!」

「……マジだ。それだけじゃない。風や土や火の昇華……根の操作まであるのか!?」

「これ、知らないやつ結構いるだろ!? あっ、中継でやってたっていう戦犯の粛清ってこれも関係してんの!?」

「嘘だと思って信じてなかったけど、前編での効率的な倒し方って嘘じゃない……?」

「おい、知り合いに片っ端からこの事を伝えてけ! 俺ら、とんでもない馬鹿をまたやらかしてんぞ!」

「おう!」


「おーい、それはいいけど出発したいから行くやつはクジラに乗ってくれよ? あ、海水の水球とかならそのままでも流せるからなー!」


 その俺の一言を聞いた赤の群集の人達は、お互いに顔を見合わせてからセリアさんやシアンさんに乗ったり、その近くに待機していく。どうやら今は自分自身の目で確認をしたいらしい。……ま、これからどう動くかは彼らに任せよう。


「あっはっはっはっ!」

「……どしたの、三日月さん?」

「ここまで赤の群集が酷くなってるとは予想もしてなかったぜ。ま、情報に対して疑心暗鬼になるのは、青の群集ではBANクジラの件で経験済みだから分からなくはないんだけどよ。ケイさんのさっきのやつ、俺らの時に欲しかったくらいだぜ」

「あー、そういや青の群集はそうなるのか」


 BANクジラのせいで一時期は情報共有が機能不全に陥っていた青の群集だもんな。ある意味では性質は近いところでもある。違いがあるとすれば青の群集は自分たちでそれらを乗り越えたところだろう。


「それでは陸上版連結クジラ、発車しまーす!」

「またかよ、ハーレさん!」


 絶対に狙ってやってるよね、ハーレさん!? いや別にいいんだけどさ。とりあえず水流の流れを変えて、シアンさん、アル、セリアさん、それにソウさんや海水の水球の人を水流で流していく。ちょっと緩やかな上り坂にはなっているので、少し勢い強めで押し流していこう。




 しばらく水流の操作でクジラや水球を流していけば、目的地である金属塊の転移地点までやってきた。途中まで海水だった事を除けば、特に検証を行った場所とは違いはないようである。

 そしてそこではちょうど、エンの分身体と何人かが戦闘中のようであった。あ、青の群集はやっぱりこの2人か。……とりあえず思いっきり戦闘中だし、邪魔しないように入り口付近で待機してようっと。……地味にコウモリや翼竜もいるけど、他の人達が倒しに動き出してるしね。


「ジェイ! 『纏属進化・纏浄』!」

「分かっています! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「はっ、そんな根は全部ぶった斬ってやる! 『浄化制御』『大型化』『並列制御』『返しの太刀・浄』『連閃・浄』!」

「斬雨、HPの残りには気を付けてくださいよ!」

「はっ! 対人戦でなけりゃこの程度、問題にもなんねぇよ!」


 おー、ジェイさんは岩の操作で直接打撃に使うんじゃなくて、小さめに生成した岩を起点に追加生成していき、岩で包み込むようにして根を固めていってるのか。ふむふむ、そういう使い方もありなんだな。

 そしてそれでも抑えきれない根を斬雨さんがカウンターで銀光を放ちながら斬り刻んでいるようである。どうやらその状態でエンの分身体そのものに突っ込んでいき、背後に回り込んで本体から切断するつもりのようだ。あ、途中で切った根が回復しにくいように岩で固めるのがジェイさんの役割なのか。


 ものすごい正面突破な戦法だからか、斬雨さんのHPがどんどん減っている。まぁあれだけの高威力だとデメリットのHP減少も厳しいか。あ、灰の群集の方はダイクさんが来てるみたいだね。

 他にもチラホラと灰の群集や赤の群集の人もいる。桜花さんが用意した海の小結晶と、シアンさん達が海流の操作で送ってた人達のようである。


「おい、切断終わったぞ!」

「どうやるかは任せるとは言ったけど、力技過ぎるだろ!?」

「対人戦に比べりゃこの程度、どうって事ねぇよ」

「あぁもう!? ジェイさん!」

「どの程度効果があるかわかりませんが、やりましょうか。『アースクリエイト』!」

「そりゃそうだ! 『アクアクリエイト』!」


 そしてダイクさんとジェイさんの2人で昇華魔法のデブリスフロウが発動していき、エンの分身体を押し潰すように土石流が発生していく。斬雨さんは即座に退避して、焼いた魚を食べてHPを回復させていた。うーん、空中で浮かびながら焼いた魚を丸呑みするタチウオというのも奇妙な光景だね。大型化しているからこそ出来る芸当か。

 土石流は周囲にも広がっているが、他の人達は慌てて退避していた。その時の動きは灰の群集が一番早く、赤の群集の人は……あ、1人呑み込まれ……あ、ぎりぎりで助けられてた。


「よし、撃破完了!」

「水分に関してはどうなるかと思いましたが、この勢いであれば回復よりもダメージの方が遥かに上回るようですね」

「思った以上に纏浄の威力増加は効果があるな。被弾率上昇と返しの太刀の相性も良いし、返しの太刀と連閃も組み合わせられる。どれも良い案だったぜ、ジェイ!」

「当たり前ですよ。ケイさんに発想で負けてばかりではいられませんからね」


 今の斬雨さんのコンボ攻撃はジェイさんの発案なのか。自動反撃のスキルと連撃系応用スキルの組み合わせに、それをより効率よく発揮させる為の纏浄か。中々侮れない組み合わせを考えてきたね。……ん? 今、何かが横を通ったような……?


「ほうほうほう! 今のは素晴らしかったですよ! どんどんと強くなっていく銀光を放つ鋭いタチウオの連撃、実に素晴らしい! タチウオの方は何人か見かけましたがそこまで扱えている方は少ないですよ!」

「うお!? なんだ、お前!?」

「あぁ、突然失礼いたしました。私は赤のサファリ同盟のルストと申します。以後お見知りおきを」

「そういう事を聞いてんじゃねぇよ!?」

「……赤のサファリ同盟? あぁ、そういえば妙に強い赤の群集の集団がいると耳に挟みましたね」


 いつの間にやらルストさんは斬雨さんのところに行っていた。……俺の横を凄い勢いで通り過ぎて行ったのはルストさんのようである。相変わらずだな、ルストさん。流石に大型化していて、鋭利な刃物のようになっている斬雨さんを持ち上げる事はないみたいだけどね。


「お、ケイさん達、到着したんだな」

「おっす、ダイクさん。戦闘中だったから声はかけずにいたけど、問題無かった?」

「あー、まぁ戦力的には強い人の人数は少なめだったけど見ての通りだな」

「纏浄頼りではあったけど、とんでもない威力だったな」

「そうでしょうとも! 私が必死で考えたコンボですからね!」

「ほうほう、ジェイさん自慢のコンボか」

「えぇ、そうですよ。ケイさん、大した威力でしょう?」

「まぁな」


 カニとの共生進化状態のジェイさんが誇らしげにしながらこっちにやってきた。あれは確かにこのイベントでは相当有効な攻撃手段だろう。気を付けるべきはデメリットによるHPの消費が激しい事だけど、そこさえ気を付ければかなり便利かもね。

 纏浄なしでは敵の攻撃がどの程度の頻度かにもよるけど、対モンスター戦では凄い有効なのは間違いない。……ヒノノコ相手にも、今のはもしかして使えるか? サヤなら今のを使いこなせるかもしれない。


「おい、ケイさん!? 一緒に来たっぽいこの蜜柑の木の人は何なんだ!?」

「その人なら赤のサファリ同盟のルストさんだ」

「それならさっき聞いた! そういう事じゃなくてだな!?」

「珍しい光景が大好きなかなり強いサファリ系プレイヤー。興奮すると暴走癖ありってとこかな」

「そういう事かよ!」

「斬雨、お疲れ様です」

「ジェイ、あっさりと見捨てて移動してんじゃねぇよ!?」

「いえ、少々危険な予感がしましたもので……」


 大きさを元に戻して斬雨さんが逃げる様に俺らの方にやってきた。ジェイさんは俺らの元に逃げてきていた側面もあったようである。まぁルストさんのあの状態を見たら気持ちは分からなくもない。


「斬雨、諦めとけ」

「……なんだ、三日月もなんかあったのか?」

「……あれは一種の化物だ。敵対はしない方がいい」

「どういうこったよ?」

「……あれには勝てる気は一切しねぇ……」

「……三日月だって弱い訳じゃねぇのに、それってマジか」

「さっきから人の事を暴走癖とか化物とか失礼ではありませんか?」


 普通にルストさんにも聞こえていたようである。いやだってねぇ? 否定要素が全然見つからないんだけど? ……っていうか、さっきからルストさんの背後にいる黒猫は誰だろう。さっきまでは居なかったよな?


「あながち否定できないところじゃない? ルスト、少しやり過ぎ」

「……なぜここにいるのですか、弥生さん?」

「それに気付いていない時点で、暴走癖と言っていいと思うよ? 少しは反省してね」

「弥生さんがそう言うのであれば肝に銘じておくとします……」


 ルストさんがびっくりするくらい大人しく従っていた。いや、暴走さえしてなければルストさんもそれほど話が通じないって訳でもないけどさ。……というか、この人は赤の群集ではあるみたいだけど何者?


「突然だったし自己紹介をするね。ルストが勝手に命名していたけど、ここでわたしが正式に名付けようかな。正式名称、赤のサファリ同盟のまとめ役をしている弥生です」

「ふむふむ、赤のサファリ同盟のリーダーの弥生さんね」

「おー! 赤のサファリ同盟のリーダー!?」

「あぁ、だからルストさんが大人しいのか」

「もしかして水月さんが言ってた手段ってこの人の事かな」

「そうかもしれないね。それにしてもどこから来たんだろう?」


 この弥生さんも強そうではあるけど、特に変な感じはしない人だね。なんとなくここに来た理由は分かる気もするけど、ヨッシさんが言うようにどこから来たんだろう……?


「えっと、ここに来た手段は割と単純だよ? ただ単にルストに設置しているリスポーン位置を使っただけだからね?」

「あ、なるほど。そりゃ確かに単純だ」

「それとルスト、ガストのリスポーン位置を解除してたよね? ガストが怒ってたよ?」

「あぁ、あれですか。いえ、あれに関しては理由がありまして……」

「それは後でじっくりと聞かせてもらうから、一度ログアウトしてて?」

「……はい、分かりました」


 そう言って、ルストさんはログアウトしていった。あれ、ログアウトして後で話を聞かせてもらうって事はルストさんと弥生さんってリアル側での知り合いか?


「皆さん、お騒がせしました。そこのルストが吊し上げたというイノシシの方には申し訳ない事をしました。ごめんなさい」

「あ、いや、あれは俺も色々と分かってなかったのも悪かったんで、別に……」

「いえ、それでもルストの行為はやり過ぎだったから……」

「いや、ホントに良いっすよ! どうも俺らが色々台無しにしかけてたみたいだしさ……」


 そんな妙な謝り合戦が続き、双方共に気にしないという事で決着になった。意外と赤のサファリ同盟のリーダーの弥生さんは常識人のようである。別に赤のサファリ同盟には変人しかいないって訳でもないんだな。


「それでは一旦失礼します」

「弥生さん、またねー!」


 そうして弥生さんもログアウトしていった。とりあえず妙な流れになったものの、一件落着って事で良いのかな?

 さてと現時刻は11時を少し過ぎた頃。エンの分身体はついさっき斬雨さん達に倒されたし、明日の同時修復の為の移動はこれで完了だね。あ、瘴気の除去とか修復が放置になってるけどどうしよう?

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