第332話 少し先の話


 転移地点は広めにはなっているとはいえ、流石にクジラが3人だと狭かった。なので小型化や転移地点の広さを利用してソウさんとシアンさんを先頭に、アル、セリアさんと並んで準備が完了である。他クジラの人がこっちに向かってきているとの事なので、早めに出発した方が良さそうではあるね。


「それじゃ出発するよー! 『海流の操作』!」


 まずはセリアさんの発動した海流の操作に乗って移動を開始した。すぐに安定した海流に乗り、すこぶる快適なものである。この感じならそれほど時間もかからずに到着しそうだね。


「うわっー! これは凄いね!」

「……確かに知っている状態で万全に使えばこうなんのか。……ちっ、こりゃ怒られる訳だ」

「あはは、こりゃ海エリアの人達にそっぽ向かれる訳だ! あの人達は、これを知ってたんだね」

「赤の群集はまず意識改革からが必要なんだな。イベント終わったら、色々やってみよう」

「……俺みたいに見てないやつもいるだろうから、その辺も伝えといた方がよさそうだな」


 そしてトラブルになった赤の群集の人達は、クジラの背中で安定している移動を見て色々と思うところがあるようだ。まぁ巻き込まれたり、荒らしたりする先に情報があるとは思わないもんな。うん、俺もそれはゲームを始めたばっかの頃は全然考えてなかったよ。


「あ、ケイさん! さっきのトラブルはベスタさんとルアーさんに報告しといたよー!」

「……ハーレさん、いつの間に?」

「ケイさんが仲裁をしてる合間にだねー!」

「無事に沈静化したって事で安心してたぜ? それとガストさんも居たから一報入れといたぞ。それでガストさんからルストさんへの伝言がある」

「おや、そうなのですか? アルマースさん、それはどのような内容で?」


 静かだと思ってたらアルとハーレさんはそんな事をしてたのか。会話が聞こえていなかった事とガストさんにも伝わってる事から、共闘戦略板かその辺で報告したのかな? まぁトラブルではあったけど、ある意味では必要な事ではあったみたいだしね。


「そのまま伝えるぞ。『ルスト、吊るし上げるとか何やってんだよ!? まぁ気持ちは分からなくもないが、少しやり過ぎだ! だが、放置しなかった事だけは評価しとくからな』だそうだ」

「おや、一番の新参の割には随分と上から言ってきますね。まぁ窓口役を押し付けていますので、そこは大人しく聞き入れておきましょうか」

「……ガストさんって、一番新参なのか」

「おや、ケイさんはご存知なかったのですか? 一番新参は……あ、いえ、先程フラムさん達が一番の新入りになりますね」

「あ、フラム達って赤のサファリ同盟入りしたんだ?」

「えぇ、ケイさんがログアウトしている間にそうなりました。ギルド的な集団機能が実装され次第、正式に発足予定になっていますよ」

「あー、なるほどね」


 俺が飯食ってる間にそんな事があったのか。そういや掲示板でもギルド的なものがそのうち実装されると話題に……って、あー!?


「あ、ケイさん!? あの事忘れてたよー!?」

「……俺もだ、ハーレさん」


 ログイン直後に吹っ飛んできたフラムのせいだな、これは。フラム以外なら気にしないけど、あいつだけは特例扱いだ。……今度、特訓と称してボコボコにしてやろうかな。


「ケイ、ハーレ、何の話かな?」

「そもそもギルド的な集団機能って? そんなのお知らせにあった?」

「あー、そりゃ掲示板の方の情報だな。まだ正式な発表情報じゃないが、いったんからほんの少しだけ実装予定の開示があったんだよ」

「お、流石アル! 確認済みか」


 サヤとヨッシさんは情報元が掲示板の方だったのでまだ知らなかったようである。そしてアルは当たり前のように確認済みだったみたいだね。サヤとヨッシさんはまず間違いなくハーレさんからの誘いを断るとは思えないけども、一番断る可能性があるのはアルか。まぁないとは思うけど、勝手に決めつける訳にもいかないしね。


「ま、晩飯食いながら見てたし、たまたまな? で、それが今話題になるって事はそういう事か?」

「はい! 実装されたらいつものみんなで作りませんか!?」


 元気の良い声でハーレさんがそう尋ねていた。それはまぁ良いんだけど、リスの右手とクラゲの右側の触手を挙手するみたいに上げるのは何かを意味があるのか……? せめてそこはリスの右手だけでも良いと思うぞ。


「私は賛成かな!」

「うん、私も」

「おー! サヤとヨッシはそう言ってくれると思ったよー!」

「一緒にやりたくて始めたんだし、断る理由もないよ」

「ヨッシの言う通りかな。断る理由はどこにも無いもん」


 予想通り、サヤとヨッシさんは即答で快諾していた。まぁ3人で一緒に楽しむのが目的だったんだから、断る理由は欠片もないもんな。さて肝心なのはアルだけど、少し考え込んでいる様子である。


「ケイはどうするんだ?」

「ん? まぁ断る理由もないし、一緒に作るつもりだぞ」

「……そうか。なら、俺も断る理由もないか」

「アル、もしかして俺がいるかどうかで遠慮しようとかしてた?」

「……まぁな」


 アルはアルで状況によっては気を遣って遠慮する気でいたようだ。まぁ俺もそれは少し考えなかった事もないけれど、ハーレさん達はゲーム外で3人でやり取りはあるようだしね。ゲーム内では誘ってきているのを断る理由もないと思う。その辺はアルも同じ事を考えて、俺と同じ結論に達したらしい。


「みんな同意って事で、作成決定だー!」

「つっても、作成条件やら最低人数やら色んな仕様が分からないからな。細かいとこは正式に発表があってからにしよう」

「だな。多分名前も付けられるだろうから、それまでに各自で候補を考えとくか?」

「はい! ケイさんのその意見に賛成です!」

「良いんじゃねぇか?」

「名前を考えるんだね。どんなのがいいかな?」

「これはじっくりと考えないとね」

「んじゃそういう事で、各自考えておこうって事で!」

「「「「おー!」」」


 とりあえずこれでギルド的なやつを作る事そのものは決定である。まぁ少人数ではあるけども、別に大規模でなければいけないという決まりもない。詳細がまだ分からないから具体的な話はこれ以上は進められないけども、名前は考えておかないといけないしね。

 さて、どんな名前が良いかはじっくり考えておこうっと。


「ソウ、ギルド機能だってさ? 俺らも作る?」

「あー、それも良いかもな。とりあえず検討しとくわ」

「あれ? 意外と反応が鈍い!?」

「いや、何だかんだで一緒にPT組む事も多いけど固定PTって訳でもないからな。正式に発表になってから考えても問題ないだろ?」

「あ、そういやそうだよね。1PTで収まらなくてバラバラにって事も多かったしねー」

「なになに!? ソウとシアンでも作るの!? それなら混ぜてー! あ、誘いたい人結構いるけど、そっちもいい?」

「あーセリア、流石に気が早すぎだ。固定PTとか、既に集団化してるのでもなけりゃまだ気が早い」

「あ、それもそだね。失礼しましたー!」


 海エリアのみんなはみんなで色々あるっぽいね。まぁ確かにソウさんの言うように俺達のように固定PTだったり、灰のサファリ同盟や赤のサファリ同盟みたいに既に集団化しているのでなければ気が早い話ではあるもんな。

 でも今の会話を聞いた感じではエリアずつで作られていく事が多いのかもしれない。荒野エリアとかではシンさんを中心にした独特な集団が出来たりもしそうだよね。


「さてと、私の海流の操作は時間切れー! シアン、よろしくー!」

「ほいよー。『海流の操作』!」

「済まないな、海流に乗せてもらうだけになって。……今度海流の操作は登録しとくか」

「増援を頼んだのはこっちだから気にしなくていいよ! まぁ予定外に人数が増えちゃったっぽいけど?」

「あー、確かに」


 桜花さんが出張取引所を用意した事で海のこっちへと移動する人が少し増えたもんな。まぁ悪い事ではないというか、むしろ良い事なので気にする必要もないんだけど。


「そういや、ソウさん。この先の分身体って具体的にどんな感じなんだ? ヨシミだよな?」

「ん? いやいや、ケイさん、この先のはエンの分身体だぞ。むしろこっちが聞きたい……って言いたいとこだが既に検証情報は全部上がってるから必要もないけどな。まぁ、分かってる範囲では基本的に同じって事らしいぞ」

「あっ、そういやそうだっけ。だから陸上戦力の増援を頼まれてたんだった。……そもそもなんでこっちは人数がそんなに少ないんだ?」


 ちらっとまとめを流し見してみたら、分身体の倒し方はまとめてあるね。ベスタを筆頭に数人で情報を整理しているようである。風雷コンビの名前がどちらもあるのが意外だったけども。

 海水と陸地が両方あるから人気がないというのは分かるけど、それでも少な過ぎる気はするんだよな。何かしらの事情があるとは思うんだけどその辺はどうなんだろ。


「それに関しては、俺から説明しようか」

「お、三日月さんがしてくれるのか。やっぱり何か理由があるんだ?」

「ま、凄い単純ではあるけどな。海側からは途中から陸地って事で思いっきり人気がないだけだ」

「やっぱりそれが理由か。……それでも流石に少な過ぎない?」

「他にも理由はあるにはあるんだよ。赤の群集の常闇の洞窟にも、青の群集の常闇の洞窟にも同様の場所が1ヶ所ずつあってだな。灰の群集は戦力が揃ってるだろうからって事で、他の群集の方に行ったやつの方が多くてな……?」

「まさかの過剰戦力を心配して遠慮しての人手不足!?」

「ちなみに俺達も他の場所に行っていた!」

「いやー、まさかみんなが誰か行ってるだろうって事で誰も行ってないとは思わなかったよ!」

「自由行動の弊害だったかもな」

「おーい!? そんな事になってたの!?」


 まさかの海エリアの事情であった。……いや、うん、まぁ俺らも検証は陸地側を選んだから何とも言えないけどさ。それに手遅れになってる訳でもないし、今の時点で気付けたのなら別に良いのか。


「後はまぁ、それほど強くない奴は陸地での戦闘は避けてって感じだな」

「あ、そういう理由もあるのか」


 まぁそれほど強くない人が陸地を避けるのも、海から陸地へのルートを避けるのもどちらも理解出来るし、まぁ仕方ない内容だろう。でも、戦力足りてるだろうって推測が理由で人手不足は予想外過ぎた。陸地側からの理由も似たようなもんだろうけど。

 不人気な場所についてはそういう情報確認も必要になるんだね。次の機会があればその辺は気をつけよう。……そう考えると、桜花さんの行動ってかなり良い仕事をしてたんじゃないか!? うーむ、侮りがたし、桜花さん。


「……ま、それに気付いて、青の群集は俺と他の2人が慌てて来たって訳だ」

「あれ? 誰かは教えてくれないのか?」

「ま、それは見てのお楽しみってとこだな。赤の群集からも少し後にはなるけど、強いのが1人来るとは聞いてるぜ」

「あ、そうなんだ。それは了解」


 どうやら三日月さんは誰がいるのかは教えてくれる気はなさそうだね。この感じだと俺らの知り合いっぽい気はするけど、青の群集で海エリアに関係がある知り合いか。条件に該当する心当たりは2人ほどいるけど、もしかしたら他の人のまだ見た事のない2ndという可能性も捨てきれない。

 まぁ行けば分かるし、別に良いか。青の群集に嫌っている険悪な相手がいる訳じゃないしね。そして赤の群集からも後から追加人員ありか。3つの群集が集まる共闘は初めてかもね。あ、既に今の連結で一応3つの群集メンバーは揃ってるのか。人数バランスは悪いけどさ。



 そんな風に雑談をしつつ、シアンさんとセリアさんが交互に海流の操作を使っていく事でかなりの時間短縮で陸地へと出ていった。……この際にも巻き込まれた赤の群集の人、青の群集の人、灰の群集の人の全てがいたけども、意外な事に巻き込まれて怒っていたイノシシの人が説明を行っていた。

 ふむ、少し赤の群集の一般的な人達に変化が出て来始めたかな? この様子が広まっていけば赤の群集の立て直しや、赤のサファリ同盟への情報依存からも脱却出来るんじゃないだろうか。


 辿り着いた場所を見回してみれば、どうやら俺らが海水へと突入した海水の地下湖の場所と構造が非常によく似ている。そして地下湖からは禍々しい色合いになっているエンの根が奥へと伸びていた。目的地はこの根の先だな。


「さーて、もう少し先まで行けば目的地!」

「ここからは陸地勢、頼んだぜ」

「陸地じゃ海流の操作は使えないからねー! ここからは歩きだよー!」


 あ、そうか。まだ海水の操作の昇華には辿り着いてないって話だし、使えないのも仕方ないんだな。そうなると普通に歩いて移動かー。マップを見てみたけど、まだ目的地まではそこそこ距離がある。

 時間はもうすぐ11時か。海エリアの人達は空中浮遊や、海水の水球を作ってその中に入っている。まぁそういう移動方法にはなってくるよな。……あ、海水がないなら他のもので代用すれば良いだけじゃん。


「俺は飛んでいくよ。『空中浮遊』!」

「さーて小型化しようかなー」

「セリアさん、ちょい待った!」

「ん? ケイさん、どしたの?」

「海水はなくても、水ならあるんだよ」

「あ! そっか、そういやダイクさんだけじゃなくて、ケイさんも持ってるんだ!」

「あ、水流の操作だね! よし、そういう事なら空中浮遊だけにしとくよ。『空中浮遊』!」


 赤の群集の人は状況がよく飲み込めていないのか、頭を傾げている人も多い。ふむ、先程のトラブルの事も考えれば今のまとめの状態に気付いていない人がそれなりにいるっぽいね。赤のサファリ同盟の情報提供によって多分かなり水準は上がってるとは推測出来るけど、活用しきれてないんだな。

 ガストさんが風の昇華を持ってたし、前編のボス戦で活用しまくった水流の操作と水の昇華の情報がそこに無いとは思えない。今の情報の質自体は充分だろうけどそれまでに荒れ過ぎていた事でまともな情報があるはずがないという先入観もあって、まだ情報の広まり方は不充分という事か。


 とりあえず水流の操作で移動するのは確定としても、やっぱりルアーが不憫だよな。今の赤の群集には、まとめ機能やチャットを除いた口コミでの意識改革の方が必要みたいだね。なんで灰の群集の俺が赤の群集の立て直しの協力をしているんだろうって気分にはなってくるけども……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る