第330話 共闘相手として再会
ルストさんが手に入れたばっかりの情報のお礼として教える情報は何がいいかな。サファリ系プレイヤーが喜びそうな、俺が自分で見つけた情報か。うーん、これなんてどうだろう?
「教えて貰いっぱなしってのもあれだから、お返しにって事で。ルストさん、空中でのジャンプは出来る?」
「そのような事は気にする必要もありませんけれども、空中でのジャンプですか……? 流石にそれはやってみた事はありませんが、何か手段があるのですか? もしそれが可能なのであれば、思いもよらぬ視点からのスクショが取れるかもしれませんね!?」
「お、興味ある?」
「えぇ、是非とも! 地上から少しジャンプするくらいなら可能ではあるんですが、それ以上は考えた事がありませんでした! 空中浮遊を取ろうかと検討していたところでしたしね!」
よし、思いっきり食いついた。さっきの根の操作での推進力と、ルストさんのプレイヤースキルがあればおそらく可能だろう。俺の風魔法と体当たりでの飛び跳ねコンボがね!
それにしてもルストさんは空中浮遊を取る事を検討していたのか。木でも取れるっぽいけど、アルを見てると大きいと実用可能になるまで時間がかかるみたいだしね。それにこの手段なら瞬間的な移動も可能だし、近接のルストさんには戦闘にも使えるだろう。……既に一気に距離を詰めるのは速いけども。
「うまく行くかは自分で試して貰う必要はあるんだけど、それでもいい?」
「えぇ、もちろんですとも!」
「よし、それじゃまずは必要なスキルからだな。風魔法と風の操作をーー」
そうしてルストさんに俺の飛び跳ねコンボの手段を伝えていく。この情報は完全に自力で得たものなので、俺の判断で教えても良い範囲だろう。流石にみんなが検証してくれた情報は無理だけど。
「なるほど、基本は私の移動方法に近いですがそれに風の操作を加えた発展系ということですか。ですが並列制御の……いえ、風の生成を同時にする必要もありませんか。……それなら根脚強化をかけて根の操作と風の操作の並列制御で……これ以上は実際にやってみて微調整を行ってみるしかありませんね。ただのジャンプというよりは推進力の生成法ですので、応用範囲も広そうです。それにしても魔法での生成はあまり気にしてはいませんでしたが、こういう使い道もありますか。……ふむ、少しガストさん辺りに魔法の事を詳しく聞いてみてもいいかもしれませんね。次に集まった時にガストさんを捕まえておかなければなりませんね。あぁ、そういえばフラムさんの件もありますし、私も魔法を使ってみるのも良いですね」
説明をし終わったと思ったら何やら考え込み出したルストさんが早口で情報整理してるー!? でも一応は有益な情報として判断したっぽい。……何かガストさんを捕まえるとか聞こえた気もするけど、そこは聞かなかった事にしよう。
「試してみる必要はありそうですが、非常に有用そうなので今度地上に戻った時に試させていただきます。先に風の操作を取得しなければなりませんけれど」
「おう、ルストさん頑張ってな!」
「えぇ、ケイさん、ありがとうございます!」
そしてルストさんは上機嫌になっていた。よし、これで情報の貰いっぱなしって事にはならないね。
「ケイ、良かったのかな?」
「ケイの見つけた情報の範囲だし良いんじゃねぇの? 貰いっぱなしってのもあれだしな」
「それもそうだよねー! 甘え過ぎも良くないのさー!」
「ハーレがそれを言う?」
「甘える相手は選んでますのでー!」
「もう、仕方ないなぁ……」
「ヨッシも結構ハーレに甘いよね」
「まぁハーレとは付き合いも長いからね」
「そうなのさー!」
ヨッシさんとハーレさんも仲良さそうで何よりだね。それにしてもハーレさんはハーレさんで、人見知りはしないけど誰でも構わず甘えに行くわけでもないんだな。まぁ、当たり前といえば当たり前か。
そんな風にワイワイと騒ぎながら進んでいれば、いつの間にか次の転移地点に辿り着いていた。ここまで来る途中ではエンの根とヨシミの根の合流地点があって、そこではハーレさんとルストさんがはしゃいでスクショを撮りまくっていたね。まぁ海藻と木の根が絡み合って繋がっている様子は不思議な感じではあった。イベント限定の演出だろうけど、禍々しい色合いにはなってたけどね。
さて、シアンさんの姿も発見した。クジラだと大きいからどこにいるかは分かりやすくていいね。そのまま即座に海流の操作で送り出して貰う必要もないだろうし、少しこの辺の状況でも聞いておこうかな。
「よう、シアンさん久しぶり!」
「シアンさん、お疲れさん!」
「やっほー、シアンさん!」
「みんな、久しぶり! アルマースさん、空飛ぶクジラ計画は結構進んでるって聞いてるよ! 水の昇華がコツなんだってね?」
「まぁな。ケイの力を借りなきゃまだ川の上とか草原の上で少し飛ぶのが精々だ。シアンさんの方はどうだ?」
「俺も似たようなもんだよ。まだそれほど高度は出せないねー。良くて2メートルくらい?」
「俺は1メートルが良いとこだな。シアンさん、空中浮遊はレベルいくつだ?」
「今は空中浮遊はLv5だね。1メートルくらいって事はアルマースさんはLv4?」
「あぁ、そうなる。Lv6になれば結構自由度が出てきそうだな」
「多分そうだろうね!」
挨拶をしたのはとりあえずアルと俺とハーレさんである。まぁヨッシさんとサヤは今は樹洞の中なので仕方ない。2人とも出てきて挨拶をしようとはしていたけど、その前にアルとシアンさんが空飛ぶクジラ計画で話し込んでしまった。サヤとヨッシさんはタイミングを逃してしまった感が凄いある。
「あはは、出そびれたかな?」
「そうなるね。サヤ、どうする?」
「一応すぐに出れるように海水に適応させとこうかな」
「あ、そっか。そういやその必要があるんだったね」
「うん、そうなるかな。『特性の種:海水適応』!」
「それじゃ話に区切りがついたら出ていこう」
「それが良さそうだよね」
出そびれたサヤとヨッシさんはとりあえずいつでも出てこれる状態で待機しておく事にしたようだ。まぁアルとシアンさんは同じ計画を実行中のクジラ同士ではあるから、なんとなく気持ちは分からないでもないしね。別に今日はこの後に急ぐ事もないし、少しくらい雑談していても問題はないだろう。
「ケイさん!? ここって分身体もコンブなのかな!?」
「あー、群集拠点種が巨大なコンブだし、そうなんだろうな」
ハーレさんにそう聞かれて改めてこの転移地点を見回してみれば、エンのものとはまた違った様子であった。今までの場所と決定的に違うところは海水の中であるという事だろう。すぐ近くに陸地になっている部分に上がる場所もあるけれど、ここは基本的に海エリアに優先されている場所のようである。
でもここから北に進んだ場所はエンの転移地点になるので、ややこしいといえばややこしい。北に向けてエンの根も伸びているんだよな。ヨシミの根もここら辺まで伸びているけども。
海の群集拠点種のヨシミは巨大なコンブなので、ここにいる分身体もコンブなのだろう。まぁ今は出現していないっぽいけど。
「おい、シアンさん。海流の操作を頼む」
「あ、そういえばそうだった。ごめん、アルマースさん、また後で!」
「おうよ」
そしてシアンさんは呼びに来た……っていうか、思いっきり見覚えのある人が出てきた。あー、そっか。青の群集で海エリアならいても不思議じゃないよな。
「ったく、灰の群集は強いのにのんびりしてるもんだな。で、誰と……あっ」
「あー!? 海での競争クエストでのシャコの人だー!?」
「え? あ、ホントだ」
「あ、確かにそんな名前だったかな!」
そのハーレさんの声を聞いてか、サヤとヨッシさんが樹洞から出てきていた。さっき適応させていたのでサヤのクマも竜も普通に海水の中に出てこれている。うん、特に海中での活動には問題はなさそうだね。
それにしてもここでシャコの人と会うとは思ってなかったな。まぁ普通に競争クエストに参加してた人だったし、共闘イベントに参加してても不思議ではないか。
「……そりゃまた会うこともあるよな」
そう言いながらなんだかばつが悪そうにそっぽを向いているシャコの人だった。あー、そういやヨッシさんの事を雑魚と言って、翡翠さんとイッシーさんに倒されたんだよな、このシャコの人。
「あー、そのなんだ。……悪かったな、競争クエストの時は雑魚だのなんだの言って……」
「あ、もしかしてシャコの人、あの時の事を気にしてるのか?」
「そりゃ気にするわ! 俺自身は灰の群集を舐めてかかって負けて、その後も総力戦の時に盛大に負けたとか後から聞いてりゃな……。ついでに共闘イベントでも色々聞いてるし、あの時の自分を殴ってやりたいくらいだ! 何が雑魚だ、アホじゃねぇの、あの時の俺!」
「私は別に気にしてないよ?」
「……俺が気にしてるんだよ」
「うーん、困ったね」
シャコの人は相当あの時の事を気にしているようである。あの時の俺らはみんな2ndだったり共生進化で成長体だったし、未成体だったら油断していても仕方ない側面はあるとは思う。まぁ対戦型のクエストだったんだし、それほど気にしなくても良いんだろうけどこれは本人がどう思うかの問題かな。
「はい、そこまで! シャコの人、共闘するんだからそういうのはなしだよー!」
「……だが、俺はあの時は無意味に余計な事を……」
「だがじゃないよー! 勝敗があるクエストだし、悪いと思っててそれを伝えたならそれ以上気にし過ぎるのは無しさー!」
「ハーレの言う通りだね。今回は共闘イベントなんだし、一緒に頑張ろうよ」
「えぇ、そうですよ。変なところに固執しすぎればおかしな事になるのは赤の群集を見ていれば分かるでしょう?」
「あんた、赤の群集か。……確かにそれもそうだな」
ルストさん自身はあんまりその辺は関係なく好き勝手に動いてた側の人のはずだけど、まぁ赤の群集の人が言うのは説得力はあるだろう。裏の事情は少し違いはあるけれど、表面上は負けた事への糾弾とかその辺が赤の群集が荒れた原因だし。
ま、あの時の口が悪かったのを気にしていて、それについて謝っているのであれば気にする必要もないだろう。今でも雑魚とか言ってくるのであれば共闘なんて出来はしないけど、そうじゃないなら共闘は出来るはず。
「そう言ってもらえると助かる……。俺はシャコの三日月だ。今回の共闘はよろしく頼む」
「うん、それで良いよ。よろしくね、三日月さん」
ヨッシさんが真っ先に返事をして、それからみんなでシャコの人……三日月さんに向かって挨拶をしていく。前回会った時は敵だったけれど、今回は敵じゃないからね。一緒に頑張っていこうじゃないか。
とは言っても、今日は移動だけで終わりそうだけどね。そろそろ10時も過ぎたし、目的地のこの先の転移地点まで行けばいつも終わりにするくらいの時間になるだろう。
「お待たせー! あれ? 三日月さん、どしたの?」
「……いや、シアンさんは気にしなくても良い。それで今度はこのPTを海流の操作で送るのか?」
「あ、それなんだけど、今ちょうど連絡がきてね。海流の操作を鍛えたいって人達が集まって来てるみたいだから交代しながらやるって事になってさ」
「あー、そういや青の群集でも結構クジラの連中が動き出してたな」
「そういう事! 俺達海流の操作は結構育ってるからここは熟練度稼ぎしたい人に任せるって事になったんだよ。それでソウとセリアが今こっちに向かって出発したから、到着したら予定の転移地点まで行くよー!」
「なるほどな。了解した」
「って事なんだけど、ケイさん達はどうする? すぐに海流の操作で送る事も出来るけど?」
聞いている感じだと海流の操作も規模が規模だから熟練度稼ぎも一苦労みたいだね。まぁ大々的に使えるこの状況は良い機会なのかもしれない。
そしてどうやらちょっと前に別れたばかりのソウさんとセリアさんもすぐにここにやってくるらしい。先に行ってもいいけど、どうせなら雑談でもしながらまったりと行くのもありかな。
「みんな、どうする? 俺は少し待って、一緒に行くに1票」
「私もケイと同じかな」
「同じくー!」
「それじゃ私も同じでいいよ」
「……ほぼ意味なくね? まぁ俺もそれで良いぞ」
「私は皆さんにご一緒させてもらっている立場ですので、皆さんにお任せします。……まぁあまり意味はないようですが」
「全員一緒の意見なら確かに意味ないよなー」
反対意見は全くなしということになったので、ソウさんとセリアさんの到着を待って一緒に行く事に決定である。
「という事で、シアンさん。待ってる事になったよ」
「うん、聞いてた。それじゃ合流したら、PT連結して例の転移地点まで行くので良い?」
「おう、問題なし! あ、そういやソウさんとセリアさんも地上適応してるのか?」
「あ、うん。2人とも空中浮遊は取得してるから大丈夫だよ。セリアは小型化とセットにはなるんだけどね」
「あー、まだ空中浮遊のレベルが低いのか?」
「うん、そういう事。後、セリアは俺やアルマースさんの成果待ちなんだ。今は海水の昇華を目指してるよ」
「あ、なるほど。俺の水の昇華を参考にしてるんだな」
「うん、そうなるね。海水の昇華情報も欲しいから、セリアはそっちを優先して育ててるんだよ」
セリアさんはうまく行っている前例が出来てから、空中浮遊での本格的に空飛ぶクジラを育てる予定か。そして俺のやっている水のカーペットでのアルの持ち上げを、海水の昇華で真似出来ないかというのを検証しているんだな。
極端な違いはないけど、少し違った方向性から空飛ぶクジラ計画は同時進行しているようである。
「空飛ぶクジラですか。そういえば赤の群集にもクジラ部隊というのもいましたね。今はどうなっているのか気になりますね」
「赤の群集なのに知らないのか……?」
「えぇ、最近まで積極的に関わっていませんでしたしね」
「……もしかして、赤の群集の隠れてた強者の1人か!?」
「隠れていたつもりはありませんが、まぁそう認識されているのでしょうね」
「……マジかよ。どういうメンツだ、このPT……」
何か三日月さんが凹んでいる気もするけど、まぁ気にしない方向でいこう。ルストさんに関しては俺らでも驚きの連続だからね。それにしても今の三日月さんの強さってどんなもんなのかな? 少し気になるところだね。
あ、そうしている間にみんなの纏浄の効果が切れた。そっか、もう1時間経ったんだ。今日はもう纏浄も纏瘴も使えないって事だね。まぁ目的は移動がメインだから問題ないかな。
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