第329話 常闇の洞窟を流れていって


 セリアさんのクジラによる海流の操作で、アルがどんどん常闇の洞窟の海水エリアを流されていた。俺の光源小石もその動きに合わせて調整している。

 まぁ灯りが無くても敵は流されて、いる気配もないから平気だったかもしれない。まぁ解除するのも勿体無いのでこのまま到着までやるけども。


 それにしても以前はみんなで歩いたり岩の操作で牽引したりはしたけども、洞窟の中を海流で流されるというのもまた別物の感覚があって面白いもんだね。


「おぉ、これはこれは中々良いではありませんか! 直接海水へ潜るのもありですが、樹洞投影越しというのも良いですね! 私が樹洞に入る事はありませんでしたからね」

「あー、そうか。ルストさんは俺と同じで樹洞を用意する側になるんだよな」

「えぇ、そうなりますね。ふむ、ですが樹洞投影の映像のスクリーンショットが撮れないのは惜しいですね……」

「そういや中継絡みの仕様で無理らしいな?」

「アルマースさん、そうなんですよね! 中継は仕方ないにしても、この場合では解禁してほしいものです! 要望は送っておりますが!」

「え、アル、そんな仕様あったのか?」

「まぁな。ケイは自分じゃあんまりスクショ撮らないから、その辺のヘルプとか全然見てないだろ?」

「……ご明察」


 正しくその通りでございます。ちょっと気になったからヘルプを開いてみよう。スクショ絡みの項目は……お、あった。えーと、スクショはゲーム内の場合だと自身の視界を静止画にする事が出来て、樹洞投影による他のプレイヤーの視点のものは対象外か。

 スクショの共有設定は前にハーレさんにロブスターを撮って見せてもらった時のあれと、フレンド間での同期。この辺はちょいちょい聞いたね。後はいつもの外部出力絡みと、スクショ拒否設定についてか。目新しいのは他にはなさそうだね。……まぁ目新しいのはさっき聞いたばっかりだけど。


「ヨッシ、大丈夫かな?」

「……あはは、これは私は外だと苦手なやつだね。見ないでおこうっと」

「暗い中を通るジェットコースターみたいだもんね。それがいいよ」

「見さえしなければ揺れが大きい訳じゃないし大丈夫なんだけどね」

「あー、確かに」


 この感じは確かにサヤの言うようにジェットコースターに近いかもしれない。まぁアルが上手く流れに乗っているので、特に揺れる事もなく進んでいる。まぁ酔わないようになってはいるので気分的な問題だけどね。ヨッシさん自身もそれなりに慣れてきているみたいだけど、好んで見たい状態でもないか。

 俺は樹洞の外で色々調整しているからどうしようもないけど、ヨッシさんは樹洞の中にいるから、樹洞投影の映像さえ見なければ大丈夫だろう。それより問題なのは……。


「いやっほー! いっけー!」

「ハーレさん、落ちたら困るから巣から樹洞の中に戻ってろ。というか、樹洞の中で見てるんじゃなかったのか?」

「どっちかだけという選択肢はないのさー! 落ちたら落ちたでクラゲでどうにかするから大丈夫!」

「……まぁ確かにどうにか出来そうか」

「えっへん、そうなのです!」


 ハーレさんはクラゲを使って海流に乗れば、アルから落ちてもどうにかなるか。今回は俺の水の防壁もあるし、流石にクラゲが予想外の流れを受けて落ちるという事もないはず。……もし仮に落ちたとしても今回は忠告したので、放置して先に進もう。

 自慢げに自分でどうにかすると言った以上は自力で解決してもらうという事で。ま、そうなったとしても少しだけ遅れて来るくらいのものだろうけどね。

 



 そうして海流の操作の効果が切れる頃には次の転移地点まで3分の1を過ぎたくらいまでは進んでいた。あっという間だったので、これは良い時間短縮だね。となれば……。


「おーい、アル」

「先に言っとくが、海流の操作は使わねぇぞ。この先に他の人がいる可能性もあるからな」

「ちっ、先に断られたか。大丈夫だって、多分この先にいるのってさっきので流された人だろうし」

「……おいこら、地味に巻き込むの前提かよ。灰の群集だけなら考えなくもないが、流石に赤の群集がいるんじゃ駄目だろ」

「いえいえ、アルマースさん、それは違いますよ? 赤の群集だけではありません」

「あー、そうか。青の群集もいるんだったな。おいこら、ケイ! 尚更駄目じゃねぇか!」

「……そういやそうだった」

「青の群集の事は素でど忘れしてるのかな!?」

「とりあえずケイさんの案は却下だね」

「そうなるよね!? っていうか、ケイさんは赤の群集なら巻き込む気だったんだ!?」

「まぁ色々あったしなー。ちょっとくらいなら……」


 少し前に情報共有板でマグロのソウさんが青の群集の人がいるって言ってたのに、完全にど忘れしていた。いや、正直なところ赤の群集の人だけなら色々と面倒事に巻き込まれたから、少しくらいなら巻き込んでも良いかなとか思いはしたけど、青の群集の人もいるなら完全に却下!


「それに関しては私としても少しは思うところはあるので、赤の群集のみなら構わないと思いますが」

「それで良いのか、ルストさん!?」

「アルマースさん、私は良いと思っていますよ。そもそも本気で色んな情報を得ようと思えば、多少の被害は確実に発生しますしね。それでまた無駄に騒ぐなら情報提供の意味もありませんし、そうなれば見限って他の群集へ行くまでです」

「……確かにそれもそうか」


 アルがルストさんに説得されているね。このルストさんの言い方だと、赤のサファリ同盟ってそれなりに荒らすモノの称号とそれを利用したスキル取得は確実にやってるな。……多分初期エリアからは遠いエリアが荒らされているんだろうね。

 そしてそれで大騒ぎするようならば、赤のサファリ同盟は赤の群集を見限るつもりでいると……。多分ルアー達にはこの事はまとめ機能やらチャットやらで伝えてはいるだろうし、赤の群集は色々と大変だね。まぁ確かに俺が言うのもなんだけど、一切の被害なしでは俺のスキルの多くが取得出来ないもんな。


「さて、その辺りは皆さんには直接関係はありませんし、ここからは泳ぎましょうか!」

「え、ルストさんって泳げるか!? 木だよな!?」

「ふふふ、ケイさん、あまり私を甘く見ないで貰いたいですね。泳ぐ魚を撮る為に会得した木の遊泳法をお見せ致しましょう!」

「おー!? 何それ、何それ!? 凄い気になるね!」

「確かに気になるかな」

「アルさん、木って泳げるの……?」

「……いや、ヨッシさん? 俺に聞かれてもな? 木で泳いだなんて話は聞いたことないぞ」

「やっぱりそうだよね」


 というか、普通に考えて木が泳ぐという発想はないと思う。いやでもこのゲームならあり得るのか? 魚も空を飛ぶし、植物は走り回るし、木が泳ぐくらいなら……。


「百聞は一見にしかずですね。それではお見せしましょう」

「おー! 珍光景のスクショのチャンスー!」


 ハーレさんのテンションも今回は分かる。俺も非常に気になる内容だしね。そして実際に泳ぐ為にルストさんがアルの樹洞から出てきて、海水によってダメージを受けていた。って、海水への適応はー!?


「ルストさん、適応を忘れてる!」

「おや、適応を忘れていましたね。『特性の種:海中適応』!」


 特性の種を使った事により、ルストさんは海水からのダメージを受ける事はなくなった。そしてルストさんは海水の中を歩いてアルの前に移動していく。

 とりあえず単独で泳ぐところを見せてくれるようである。うーん、木が泳ぐというのが一切想像出来ないんだけど、どうやるんだろう?


「それではいきますよ。『根脚強化』『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」

「え、それでいけるのか?」

「えぇ、そうですよ。この通りです!」

「うわ!?」

「わー!? イカみたい!?」


 ルストさんは根を隙間なく編み込む事で通常より幅を作り、それを6本組ほど作って周りに広げてから叩きつけるような勢いで根を移動させて水を掻いて推進力を作り出していた。……これは俺のロブスターの跳ねる移動に近いか? っていうか、イカって触手で移動だったっけ?


「ハーレ、イカは水を吸い込んでそれを吐き出しての移動だからこれは違うよ?」

「あれ、そうなの!? でも見た目はそんな感じだよね!?」

「……まぁそれはそうだね」

「とても木の動きとは思えないかな……?」

「サヤに同意だな」

「俺も同じく」


 ルストさんの蜜柑は光っているから木は真横になって照らしながらどんどん先へ進んでいってるし、地味に速いし、本当に器用な真似をするね。これは上手く水を掻かなければ推進力にはならないはず。

 それにしても根の操作にこんな使い道があったとは。……ふむ、地上で風の操作と連携してやれば木でもジャンプとか出来るんじゃないか? あ、でもアルに検証してもらってもクジラとの共生進化ではあんまり意味はないか。まぁ、これは思いついただけだから適当にまとめに上げといて誰かに試してみてもらおうっと。


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


 ん? なんでこのタイミングで経験値と討伐報酬が出た……? 俺達は誰も戦って……あ、もしかして……。


「あれ? なんで討伐報酬かな?」

「あぁ、すみません。どうやら推進力の根で分かれ道から出てきたアンコウを仕留めたようで、レベルも上がりましたか。……おや?」

「やっぱり敵が出たんだな。って、どうかした?」

「……いえ、これは……。……そうですね、私の我儘で同行させていただいていますし……」

「あー、ルストさん? 何か取得したとしても、俺らに無理に報告しなくてもいいぞ」

「いえ、アルマースさん。これはおそらく時間の問題なので、お教えしようかと思います。あぁ、一応移動しながらにしましょうか」

「そうか。そういう事なら遠慮なく」

「一体なんだろねー!?」


 どうやらルストさんは今の討伐で何かを取得したようである。少し悩むような素振りを見せていたけれど、意を決したように話すつもりになったらしい。時間の問題って事は、複雑な条件の何かではない?

 とりあえず足を止めずに先に進みながら話をするとして、一体どんな情報なのだろうか。凄い気になるね。


「その前に1つ確認を。皆さんは共生進化で、ケイさんは支配進化でしたよね?」

「あぁ、間違ってないぞ」

「では皆さんにはこれは発生しない可能性が高そうです」

「どういう事ー!?」

「何が取得になったのかな?」

「共生進化や支配進化には関わらないもの……?」


 どうにも内容がよく見えてこないな? 俺らとルストさんの違いといえば、単独の進化か複数枠を使っているかどうかってとこだろうけど、それで何かあるのか……?


「合成進化や融合進化の場合は分かりませんが、単独で進化させてLv16になれば『孤高強化Ⅰ』という特殊スキルが手に入るようですね」

「『孤高強化Ⅰ』……?」

「スキル効果はHPと行動値と魔力値以外のステータスの10%増加ですか。条件としては名称からして共生進化や支配進化を行わない状態で、半分以上のLvを上げる事でしょうね。ちょうどLv16で習得でしたし」

「え、そんな強化スキルがあるのか!?」

「……支配進化が飛び抜けて強い気はしてたが、単独での進化にそんなものが……」

「わー!? 共生進化って勿体無いのー!?」

「共生進化にはそれはそれで利点もあるから微妙なとこかな?」

「どちらかというと、これはそのバランス調整用スキル?」

「おそらくはそうでしょう。これでも組み合わせの良い支配進化の方が全体的なステータスは上でしょうしね」

「まぁ、確かに……」


 俺のしている支配進化はコケから見てもロブスターから見ても、弱い方のステータスの強化具合は10%増加どころではないからな。これで行動値とかまで10%増加なら羨ましいけど、そうでないならそれほどでもないか。でも高いステータスに関してはかなり良いのか。

 それにしても、単独での進化はそれはそれで利点があるんだな。合成進化や融合進化の場合はどうなるのかが気になるけど、その辺はベスタや紅焔さんが何かあれば情報を上げて来るだろう。……そういや支配進化でも支配解除の変異進化で『同調共有』とかいう不確定情報もあったっけ。もしかしたら、このルストさんの情報と同系統のもの?


「これに関してはレベルが条件のようなので、そのうち誰かが気付くかと思います。まぁ本日の色々な事へのお礼という事でお教えしました」

「……何か色々教えてもらい過ぎな気もするんだけど、良いの?」

「えぇ、問題ありませんよ。私達、赤のサファリ同盟は情報の秘匿は行っていませんし、これは後でルアーさん達にも伝えておきますので」

「そっか。それならいいけどさ」


 うーん、まぁ本人が良いって言うなら良いのかな。ルアーがまた頭を抱える事になりそうだけど、そこら辺は赤のサファリ同盟って集団の行動方針っぽいしね。貰える情報は貰っておけばいいか。とはいえ、貰いっぱなしというのもあれなので俺の個人的な発見からの情報を何か1つ教えておこう。

 さてと完全に俺自身で得た情報で、ルストさんが食いつきそうで、持っていない情報で、実用性がありそうな情報か。持っていないかどうかというのが一番難易度が高い気もするけど、どの情報が良いかな?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る