第328話 人によってやる事は様々
海へと続くルートへの分岐点となる転移地点に到着した。常闇の洞窟には除去した場所以外は瘴気はあるけども少し薄くなっている気もする。修復完了した場所が増えれば、ちょっとずつ全体の瘴気が薄くなっていくのかもしれないね。
とりあえず周囲を見回してみれば、今はエンの分身体はいないようでチラホラと人が集まってきている。そして意外と賑やかでもあった。その様子を見に樹洞の中にいたみんなも出てきている。
「森林深部からの金属塊の転移地点は少なめだから、ちょっと距離あるけど森林の方のエリアが人手欲しいらしい! こっから南に突っ切っていけばいいぞー!」
「PTメンバー減ったから人員募集! 赤の群集の人、誰かいないか?」
「俺、PT良いっすか?」
「おう、良いぜ」
「ありがとっす!」
「進化ポイント稼ぎのPT募集! 虫エリアに突っ込むから、苦手でない人限定だ!」
「お、そのPT入れてくれ!」
「……おう。いるとは聞いていたが、実物のプレイヤーは初めて見た……」
「……デカい動く黒い饅頭がいる……。あー、例の人……」
「あー、例の色々と覚悟のある人か。あの人、赤の群集だったんだ」
「平気なやつばっかだから問題なし! メンバー揃ったし行くぜ!」
「「「「おう!」」」」
「よろしくなー!」
さっきまでの通路ですれ違う人が多かった理由が判明した。マップを見てみれば、俺らの森林深部から近い金属塊の場所は3ヶ所。それに比べると森林エリアからの方が金属塊のある転移地点は多い。
転移が使えない状態だけど人手が欲しい場所もあるようで、他のエリアに近い転移地点まで移動しようという人達もいるんだな。まぁ赤の群集や青の群集の常闇の洞窟に行ってる人もいるから、この辺は微調整も必要なのだろう。
苦手生物フィルタでは黒い饅頭に見えるらしい、ハーレさんの苦手なあれのプレイヤーもどうやらここにいたみたいだね。そして虫エリアで乱獲しての進化ポイント稼ぎか。今ポイント稼ぎをやってるって事は前編ではあまり参加出来なかった人達かな?
そして、もっと猛烈に目を引くのがこれである。ログアウト中の木の人の枝に止まっている小鳥のプレイヤーだ。
「出張取引所『桜花』営業中だ! 海エリアへの進出に必要な海の小結晶を中心に、光の小結晶、火の小結晶も取り揃え済み! さぁ、今はまだ人の少ない海エリアがお得だー!」
「……確かに人が少ない方面に行くのはありだな。海の小結晶をとりあえず3個、樹の小結晶と交換いいか?」
「樹の小結晶なら1個ですぜ!」
「そりゃいいや。んじゃそれで頼むよ」
「おう、毎度あり!」
「あー、そんなのでもいいんだ?」
「ねぇ、逆に海の小結晶を他のと交換もありかな?」
「おうとも! それも受け付けてるぜ!」
「それじゃ投擲の弾と交換お願い」
「おう、毎度あり! あ、そうそう。灰のサファリ同盟からの毒の弾の新作が出てるけどどうだい? まだ量が大量にはないからちょっと個数は減るけどよ」
「あ、それは気になるかも。それじゃ泥団子と小石とそれをお願いしようかな」
「はいよ、毎度あり!」
そこでは桜花さんが2ndの小鳥で出張取引をやっていた。しかもどうやら結構繁盛しているようである。そっか、こういう為の小鳥なんだな。見た目は変わってないから進化はまだっぽいね。
「およ? ケイさん達を発見!」
「おー、ケイさん達か!」
「あ、レナさんもいたのか。で、桜花さんは出張中なんだ」
「わたしは桜花さんのここへの突入の護衛! 後でヒノノコからの奇襲の防衛に戻るけどねー!」
「おう、そういうこった! 俺だけじゃ突破は無理!」
「なるほどね。ところで俺らはこれから海の方へ行くんだけど、そっち方面はどう?」
「さっき来て始めたばっかだが、ちょいちょい海の方へ行く為に海の小結晶を交換して行くやつはいるぜ」
ほうほう。さっき見た感じでも交換している人はいたっぽいもんな。纏海がすぐに使える状態なのであれば行く人も少しは増えるだろう。
「あー、なるほど。桜花さん、グッジョブ!」
「ん? なんで褒められた?」
「海の方は人気がないって話だったのさー!」
「直前で交換が出来るなら行く人も増えるのかな?」
「これはちょっとは楽にはなるな」
多くの人は南側へと行っているけど、チラホラと海へのルートを選んでいる人も出てきているようだ。それにしても桜花さんは商人系としてはかなりありがたい感じではある。
「桜花さん、ちょっと聞くんだけど出張してるのは桜花さんだけ?」
「ん? 俺みたいに本人が出向くのはそう多くはないが、強い人に委託してってのは結構いるぜ。オオカミ組だっけか? あそこに委託してる人も多いぞ」
「オオカミ組ってそんな事やってんの!?」
最近あまり会わないと思っていたら、蒼弦さん達のオオカミ組も色々やっているようである。みんなそれぞれ色んな事をしてるんだね。
「ま、俺は日付変わるくらいまではここで出張所やってるから何かあったら言ってくれや。海の小結晶が余ったら引き取るぜ!」
「あー、確かに余る可能性は高そうだからそうなったら交換しにくるよ」
「おう、よろしくな!」
サヤは特性の種で海水の適応は可能だし、ルストさんも問題ないという話だ。途中で出てくる海属性の敵からは欠片や小結晶は手に入るだろう。そしたら余ったものは後々、桜花さんに引き取って貰えばいい。
いつまでもここで止まっていても仕方ないので、他に軽く雑談してから改めて出発である。そういやザックさんがいるかと思ったけど、ここにはいなかったね。
まぁ夜にはメンバーが揃うとは言ってたからどっかに既に行ってるのかもしれない。そういやザックさんの打った手というのは桜花さんの出張取引所の事だったのかな。
「あー、先に行ってる人が増えたならアルの海流の操作に乗っての移動は無理か……」
「ケイ、そんな事を考えてたのかよ?」
「いや、移動自体は楽じゃん?」
「ほほう!? それはどのようなもので!? 海エリアでは海流を利用する事が多いとは聞きますが、地味にまだ未体験なのですよ!」
「却下だ、却下! それをシアンさん達がやって騒動があっただろうが……」
「あーそういえば……」
「……そうなのですか? それは残念です……」
その時にザックさんのPT一行と一緒になったんだよな。あの時はお互いに知らなかったから問題になったけど、上手くやれば悪い事だけではないと思うんだけどな。事前に通知さえして……ってそれが地味に難しい……。
「良いからとっとと進むぞ。何だかんだで結構移動に時間かかってるんだ。今日中には辿り着きたいからな」
「それもそうか。んじゃ再度出発だ!」
「「「「おー!」」」」
「本当に仲がよろしいですね」
そこからスキルの再発動を行ってから出発していけば、それほど時間もかからずに海水の地下湖へと辿り着いた。うーん、久々の場所だね。そしてそこには予想外の光景が広がっていた。
「はーい、適応済みの人はそのままで纏海が必要な人は使ってねー! はい、そこ順番は抜かさない!」
「1発で大体次の転移地点まで3分の1は進める。そこからはマップを見てヨシミの転移地点まで進んでくれ!」
「そっちでもここと同じようにクジラが待機してるからねー!」
「よし、準備完了したな。セリア、やれ!」
「了解! 『海流の操作』!」
どうやら思いっきり海流の操作を活用しているようである。海水へ入る準備が出来た人から次々と海流の操作で流されていっているようだった。いや、俺が少しやろうかと思った事をもっと大掛かりにしてやっているみたいだね。
そしてここで指揮を取っているのはソウさんとセリアさんか。シアンさんもいるかと思ったけど、ここには見当たらない。
「お、ケイさん達が来たな」
「おー、みんな久しぶりー! あ、少し行動値の回復が必要だから次の人は少し待ってね!」
「青の群集との競争イベント以来だな」
「あ、あの時のモールス信号は分かった?」
「……たまたま分かる人が近くにいたからね」
「おー!? まさか伝わってるとは思わなかったよ!?」
伝わるとは思ってなかったのにやったんかい! あの時はレナさんが解読してたんだよなー。まぁそれはいいや。とりあえず行動値の回復中になったみたいだから、話していても邪魔にはならなさそうだね。
ちなみにセリアさんは共生進化のようでクジラのヒレに巻き付くようにワカメがあった。そしてソウさんのマグロの頭部には何かがある。……チョウチンアンコウみたいに何かがマグロの頭から伸びて光を放っていた……。光源になってるみたいだけど、何だこれ?
「ソウさん、頭のそれって何?」
「あぁ、これか? 草花のイチゴと共生してんだよ」
「あー、これってイチゴなのか」
光ってて分かりにくかったけど、確かによく見ればイチゴの実であった。でもなんでイチゴ……あ、なんとなく用途が分かった。ソウさんのマグロは光属性だし、光の操作についても教えたもんな。これは攻撃用の光源で、自分の視界に入りやすいようにしてるのか。
「……イチゴ。ジュルリ……」
「ハーレさん、今度イチゴも探そうな?」
「はっ、つい!? ねぇ、ソウさん! 一般生物のイチゴってどこー!?」
「進化条件とかじゃなくて聞くのはそっちかよ!? ……一応ミヤ・マサの森林で採れるぜ。他にも採れる場所はあるとは思うけどな」
「情報ありがとー! ふっふっふ、共闘イベントが終わったらやりたい事が沢山だー!」
相変わらずの食欲が勝っているね、ハーレさんは。まぁ共闘イベントが終わったら、経験値稼ぎの場所を探すのも兼ねて色んなとこに行ってみたいものだ。
灰のサファリ同盟の護衛をやりながら、あちこちブラブラするのも楽しいかもしれないね。まぁ、その辺は共闘イベントが終わってからじっくり考えようかな。
「いやはや、面白い事をやっていますね」
「ありゃ? 赤の群集の人も一緒だったんだね」
「誰か臨時でいるとは思ったけど、これは意外だな」
「いえいえ、私が無理を言って同行させていただいているだけなのですよ。あぁ、私は赤のサファリ同盟のルストと申します。以後お見知りおきを」
「あ、ご丁寧にどうも。ワカメとクジラをやってるセリアです」
「俺はマグロとイチゴのソウだ。よろしくな、ルストさん」
ルストさんが丁寧にセリアさんとソウさんに挨拶をしていた。サファリ系の話題が絡まなくて、ハイテンションにならなければ意外と対応は普通なんだよな。
「ところでソウさん、増援が欲しいって話だったけどなんでここに居るんだ?」
「あぁ、それか。いやなに、なんか海の小結晶を大量に持ち込んで交換してくれている人が来たらしくてな。そこからこっちに来る人が増えてきたから、その対応」
「ここから目的地までの間は海流の操作で初めの方は時間短縮するのさー! 流石に転移地点までは届かないし、赤の群集の人にはある程度のダメージは覚悟してもらってるけどね!」
「赤の群集はダメージ前提かい!?」
あ、でも海流の操作そのものは高威力でもないから、それほどでもないのか。効率重視で移動するならそれほど悪い話でもないのかも。
アルには却下とは言われたけど、海の人達は思いっきり活用しまくってるじゃん。予め通るのが分かってる地点で、こういう形でやればトラブルも防ぎやすいんだな。
「灰の群集に移動種で樹洞展開持ちの人がいれば赤の群集の人は樹洞の中に退避してもらったり、水魔法で防御壁を作ったりと回避手段はあるのさー」
「あーなるほどね」
「順番待ちにはなるけど、ケイさん達も流れに乗ってく?」
「……というか、それを前提にしてるから普通に進みたいと言われると地味に困る」
そりゃみんなが流される前提で行動してるならここで自力で進んでいきたいといえば、次の人を流せなくなるんだよな。
そして赤の群集の人については樹洞の中に入ってしまえば大丈夫なのか。そうなるとルストさんはアルの樹洞の中に……って入れるのか……?
「なぁ、アル。ルストさんをアルの樹洞に入れるのは可能?」
「あー、多分出来る筈だ。人数制限はあっても、大きさや重量の制限はないからな」
「別に私はそのままでも平気ですよ?」
「確かに普通に平気そうかな」
「ルストさん、折角だし樹洞投影で海流の内側から見ようよー!」
「おぉ!? ハーレさん、それは良いですね!」
「それでいいんだ……?」
とりあえず問題はないようである。いや、そうでもないのか? アルがどの体勢で流れに乗るかが問題になってくるだろう。
「アル、木はどうする? そのままじゃぶつかる可能性もあるだろ」
「あーそうだな。出来るだけ木は後方に倒して、海流に乗るか。ケイ、水の操作で調整を頼めるか」
「水の防壁で木への流れを最小限にすればいいんだな」
「おう、そういう事だ」
「あ、海流の操作で敵はほぼ流されてるから、移動操作制御が解除される事もほぼ無いからねー!」
「そりゃ良い情報をどうも」
俺の懸念材料は既にクリア済みであるようだ。それならセリアさん達の海流の操作での移動を活用させてもらおうかな。
「では私はアルマースさんの樹洞に入っておきますね」
「私も中で待機かな」
「私もそうしようっと」
「巣の位置が微妙だから私も中だねー!」
「……よし、木の位置はこんなもんか。ケイ!」
「ほいよ」
アルのクジラが元の大きさに戻ってみんなが樹洞に入った後、クジラの背中の上で後方に倒した木を移動操作制御の水で流線型に覆うように水の防壁を作っていく。すれ違う人が多くてほぼ風除けとしては無意味だったけど、ここで出番がきた。
そして俺は光源の小石をアルのクジラの前に3つ置いておくことにした。樹洞の中ではルストさんが発光で光る蜜柑にして灯りを用意してくれたからね。それにしても樹洞の中に入るとルストさんがちょうど収まるくらいに小型化されていた。流石はゲームの不思議仕様である。
俺の位置はアルの木の根本で、根をハサミで挟んで落ちないように固定だな。よし、これで出発準備は完了だ。
「次の転移地点でシアンが待機しているから、そっちにもよろしくな!」
「それじゃ行くよ! 『海流の操作』!」
順番待ちをした後にアルが海水の地下湖に入り、セリアさんの海流の操作が発動する。そして海水の洞窟の中へと海流が生み出されて、流され始めていった。
さて、海流の中の移動はこれで2回目だね。この移動はかなり速いのですぐに辿り着くだろう。まぁ海エリアの人も色々考えたものである。
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