第322話 修復に関する経過観察


 色々とやる事は片付いたのでゲームを再開していこう。いったんからのお知らせは特に無かったけれど、ルストさんの大量のスクショの承諾が送られてきていた。まぁこれは予想通りではあったので、全部許可で問題なし。貰うもの選別は後回しって事で。


 常闇の洞窟でログアウトしたから、ログインすれば真っ暗闇の中である。色々あったからいつもより少し遅くなったけど、状況はどうなったかな? とりあえず真っ暗で何も見えないし、夜目をーー


「ケイ、避けるか防御しろ!」

「え、何事!?」


<行動値3と魔力値9消費して『土魔法Lv3:アースプリズン』を発動します> 行動値 54/57 : 魔力値 171/180


 アルのその一言で咄嗟に自分の周囲に土の拘束魔法を発動する。本来は拘束用だけど、ウィルさんが防御に使ってたからやってみたけど、これはどうだろうか? っていうか、ログイン早々なにが起きた!?


「ぐふっ!?」

「あ、誰か吹っ飛んできたのか。咄嗟に魔法使ったけど、大丈夫?」

「ケイ……俺だ……」

「なんだ、フラムか。ならいいや」

「おいこら!?」


 他の人ならともかく、フラムなら別にいいや。で、いきなり吹っ飛んできたっていうのはどういう状態……? とりあえず周囲が見えないから夜目だけでも発動しとこう。それにしても土の拘束魔法の防御転用は意外と使えそうだね。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 54/57 → 54/56(上限値使用:1)


「コケのアニキ、ごめんなさい!」

「ん? なんでアーサーが謝るんだ?」


 フラムが飛んできたからって、別にアーサーが謝る必要もないだろうにどうしたんだろうか。っていうか、なんでフラムが飛んできたんだ?

 まぁPTは連結した状態のままだからフラムのHPは減ってないし、問題ないけどさ。それにしても今日は朝の岩といい、ログイン直後に何かが飛んでくる日なのか……。


「えっと、俺がフラム兄をふっ飛ばしちゃって……」

「ん? どういう事?」

「実はアーサーさんとフラムさんで模擬戦をしていましてね。それで勢い余って、そちらの方に吹っ飛んでしまいまして」

「あー、なるほど。それでそのタイミングで俺がログインしたって事か」


 多分だけどアーサーの攻撃を避けきれなかったフラムがそのまま吹き飛ばされただけか。


「アーサー、気をつけろよー! フラムはちゃんと避けるなり、防御するなりしろよ」

「コケのアニキ、これからは気をつけます!」

「……俺、近接は苦手って言ったよな、ケイ!?」

「んなもん、知るか」


 近接が苦手なのは散々見たから知ってるけど、それを言い訳にするのは無しだな。っていうか、ぶつかってきたのはフラムの方なんだから謝罪の1つでも先にしろ。連結PTを組んでいる俺らだからダメージ無しで済んだけど、他の人なら普通にダメージはあったはずだぞ。


「随分とケイさんはフラムさんには辛辣ですね?」

「まー、フラムとは色々とあるもんで」

「ふむ、色々ですか……? 推測は出来ますが、あまり突っ込んで聞く事でも無いようですね。それはそうとフラムさんもここは謝罪が必要なのでは?」

「……あー、そういや悪いのは俺になるのか。すまん、ケイ」

「まぁ被害はないし、別に良いけどな」


 とりあえずルストさんは細かいとこまでは聞いてくる気はないらしい。まぁリアルで同級生って情報くらいは教えたところで特に問題もないけど、あえて言いふらすような事でもないもんな。っていうか、フラムは言われる前にそれは気付け。


 そしてアーサーとフラムの2人で特訓中だったという訳か。そういう事をしているって事は、エンの分身体はまだ再出現して……って、出現してるじゃん!? 今出現した感じではないけど、なんで放ったらかし!?


「アル、現状説明よろしく!」

「まぁそうなるよな」

「まぁな。サヤもヨッシさんもハーレさんもベスタも見当たらないしさ?」

「それも含めて説明がいるか。あ、でもハーレさんは単純にまだログインしてないぞ」

「ハーレさんはスクショの整理中ってとこか。で、真面目にどういう状況?」


 ハーレさんについては承諾したスクショで貰うやつを厳選中てとこな気がする。まぁハーレさんについては良いとして、水月さんやライさんも見当たらないし今の状況がよく分からない。

 一体ログアウトしている間に何があった? このエンの分身体を放置している理由は……あ、そういえば前のやつより少し小さいような……?


「簡単に説明するぞ。まずエンの分身体が2時間経ったら復活したんだが、初めはもっと小さくてな。変に思って経過観察をしてみるとどうも10分刻みで大きくなるみたいなんだよ」

「その際に翼竜が転移してきましてね? 翼竜については瞬殺すれば問題はないのは確認済みですが、分裂した際にどうなるのかを何人かで観察に行っておりますよ」

「それで俺らはエンの分身体の経過観察中ってとこさ!」


 ん? どこからともなくライさんの声が聞こえてきた。あ、よく見たらルストさんの枝で擬態してる何かがいた。ふむ、ちゃんと見ればどことなく違和感がある様にはなってるんだな。この違和感が見分けるコツで、違和感があれば看破を使えば良いとかそんな感じなんだろうね。

 連結PTのメンバーの位置をマップで確認してみればライさんとルストさんの位置が重なってるから、ライさんはそこにいるのは確定だね。


「ライさん、居たんだな」

「ずっと居たけど!?」

「ライさん、擬態してたらその説得力はない気がするぞ?」

「うっせーよ、フラム! スキルの熟練度稼ぎ中なんだよ! 擬態は便利だけど、この辺が悩ましいとこなんだよ!?」


 なるほど、擬態していた理由はよく分かった。それに気付かれないその感じ、ゲーム開始した頃のコケのみの時を思い出すね。うん、分かる、分かるぞ、その気持ち! でも擬態してて気付かれないのはある意味、自業自得だとも思う。


 そうしている内にハーレさんもログインしてきた。もうちょっとかかりそうな気はしたけど、意外と早かったか。


「ただいまー!」

「お、ハーレさん遅かったな?」

「えへへ、ルストさんのスクショが沢山あったからねー! 良いスクショが多かったよ、ルストさん!」

「いえいえ、お褒めいただきありがとうございます。後ほど、私もハーレさんのスクショを確認させていただきますね」

「うん! 瘴気の上空からのスクショは自信作!」

「それはそれは、楽しみにしておきましょう」


 随分と楽しそうで何よりだね。っていうか、瘴気の上空って事はヒノノコと戦ってた時のだよな? それだとルストさんって映ってないんじゃないか?


「それって、ルストさんは映ってるのか? 映らないとやり取り出来ないよな?」

「ケイさん、何言ってるの!?」

「ケイさん、あの機能をご存知ではないのですか!?」

「ルストさん、近い近い近い! てか、捕まえるな!?」

「おや、これは失礼しました」


 根でハサミを掴んで持ち上げて、急接近するのはやめてくれってば!? 全然反応が間に合わないんだけど、ルストさんの動きってどうなってんの!?

 とりあえず離してはくれたけど、この人は敵に回したら近接では勝てる気が一切しない……。赤の群集の隠れていた実力者、思っていた以上にヤバイ。ルストさんを基準に考えて良いのか分からないけど、もしかしてガストさんって赤のサファリ同盟では弱い方……? よし、今はそれを考えるのはやめておこう。


「で、あの機能ってのは?」

「ログイン場面でのフレンドへのスクショ送信機能だよー! これは外部出力可能になったものに限定されるけど、群集関係なく共有出来るんだ!」

「えぇ、その機能ですとも! ヘルプに記載はありますがこれは標準ではオフの機能ですし、いったんからの説明もありませんでしたので知らなくても仕方ないですね。先程は重ね重ね、申し訳ありませんでした」

「へぇ、そんな機能あったのか」


 そしてまたルストさんは枝を支えにして土下座をするように、枝葉を下げていく。もうなんかこの人、一周回って面白いな。でも敵には回したくないから、その辺は気を付けよう。

 多分サファリ系プレイヤーには当たり前な機能なんだろうけど、基本オフの設定だったら知らないな。そういや見ようと思ってたはずのヘルプも殆ど見てなかったっけ……。


「……何やってるのかな、ケイ?」

「……どういう状況だ、これ」

「ルストさん、何があったのですか?」

「なんだろうね、この状況」


 そんなルストさんが土下座のような何かしている珍妙な場面にサヤ達が帰ってきたようである。うん、この状況について何でこうなったのかはむしろ俺が知りたいね! ただ疑問に思った事を口にしただけで、どうしてこうなった!?



 とりあえずルストさんには土下座らしきものを止めてもらって、軽く事情を説明しておいた。サヤ達の方の状況を聞こうにも、それが出来る状態じゃなかったからね。


「まぁその辺は問題なさそうだからスルーでいいな。アルマース、ルスト、エンの分身体の様子はどうだ?」

「予定外の事でごちゃごちゃしてたが、その間に変化はなかったな」

「そろそろ時間的にはまた変化する頃か?」

「えぇ、そろそろ10分経ちますね。ベスタさん達の方はどうでした?」


 そういや思いっきり脱線していたけど、ベスタ達は転移してきた翼竜を追いかけて行ったんだったっけ。サヤとヨッシさんと水月さんとベスタなら、機動力優先のメンバーかな?


「あれは早めに仕留めるか、それが無理なら逃げたまま放置が正解だな。下手な戦力で戦い続けると面倒なだけだ」

「ヨッシが麻痺毒を入れなかったら面倒だったかな」

「あれがなければ面倒でしたね」

「逃げたら逃げたで誰かが倒すとは思うけど、極力仕留めた方が良さそう」


 ふむふむ、さっさと仕留めてしまうか、逃げたまま放置するのが正解って事か。……っていうか、わざわざ転移してきて逃げる……?


「なぁ、ベスタ。翼竜って何しに転移してきてるんだ?」

「……そこからか。アルマース、その辺の説明はまだなのか?」

「まぁログインして早々トラブルがあってだな……」


 聞こうにもいきなりフラムが吹っ飛んで来たもんな。まぁエンの分身体の経過観察中は暇だから、進化したての未成体に慣らしていたってとこなんだろうけどさ。


「コケのアニキ、ほんとにごめんなさい!」

「まぁいきなりだったからな……。ケイ、悪かったな」

「あのくらいなら別に気にしないぞ。フラム以外は」

「俺だけ判定厳しくね!?」

「いや、それは自業自得だから。日頃の行いの結果だし」

「フラム兄、普段何してるのさ……?」

「えーと、あれか! こないだ弁当のおかずを勝手に食ったやつか! それとも傘を勝手に借りてったやつか!? それともゲームで借りっぱなしになってるやつ!?」

「……本当に何をしているのですか、フラム……」


 別にあのくらいの事なら俺もやらかしてるから、特別どうこう言うつもりはない。ただし、フラムに関してはもっと言ってやってくれ、アーサー、水月さん! 自分のことながらなんでこいつといつも一緒に弁当食ってるんだろう……。

 っていうか、ゲームに関しては普通にいい加減に返せ。今はこのゲームやってるから別に良いけど、旧式のVRでないゲームとか既に貴重品なんだからな。まぁVR機器でのリメイク版も持ってるから、困りはしないけどさ……。


「……話を戻しても良いか?」

「おう、問題ないぞ」

「フラム、後でじっくり話を聞かせてもらいますからね。ベスタさん、どうぞ」


 フラムは後で水月さんに絞られそうだな。うん、フラムは少し反省しろ。


「翼竜についてだが、転移してきた時の行動パターンはまずそこの金属塊に攻撃を始める」

「え、それってマズいんじゃ?」

「……まぁ放置し続ければ厄介そうではあるな。おそらく放置すればひたすら破壊行為を続けるはずだ。だが、一撃加えればそこで分裂して逃亡に移る」

「ふむふむ」

「夜中の人が少なくなった時点でどうなるか判別はしきれないが、何もせずに放置し過ぎると再度この金属塊が破壊される可能性はある」

「うっわ、面倒くさ!?」


 そうなると常に誰かが監視しとかないといけないのか!? いや、待てよ。そういう仕様なら仮に再び破壊されたとしても、多分再修復も可能だよな? もし出来ないとなればクエストクリア自体が不可能になる。そうなると、多少破壊されても情報を共有して全体で動きを合わせた方が効率はいい……?

 1ヶ所ずつ敵を潰していくのではなく、各転移地点に人員を配置して同時に修復すれば他の地点からの瘴気の流出によるエンの分身体の復活も無くなるんじゃないか……?


「……ベスタ、これって全箇所の同時修復が最適解か?」

「おそらくな。だから今は破壊されるのを防ぐ事より、それに至るまでのパターンの洗い出しを優先している」

「なるほどね。だから翼竜が逃げた場合の確認と、エンの分身体を放置してる訳か」


 24時間交代しながら誰かが張り付いているのでもどうにかなるだろうけど、それよりはパターンを洗い出して同時攻略の方が確実性は高いか。それに実行するタイミングも自分達で決められるから、人数を集めるのにもやりやすいだろう。


「ま、そういう事になるから基本的に方針通りの自由行動だ。ここで経過観察しながらスキルの熟練度稼ぎをしてもいいし、その辺の敵を倒して進化ポイント稼いでもいい。無論それ以外でも問題ない」

「ほいよ。で、修復はいつ頃?」

「おそらく同時修復は明日の昼前くらいになるだろうな。まぁそれはこれから調整する」

「了解っと。明日の昼前頃だな」


 時間的に今は夜の9時の少し前。今から全体で統一した行動を取るには、可能かどうかなら不可能ではないだろうけど微妙な時間ではある。これなら今日はエンの分身体や翼竜のパターンの洗い出しと、全ての金属塊の修復に向けての下準備ってところかな。ベスタもそのつもりみたいだしね。

 そして、その後にはヒノノコを始めとするボスの撃破に向けての準備か。エンがボスにカウントされていないっぽいのが地味に気になるけど、それもやっていけば分かるだろう。


 それにしても、金属塊の修復については地味な作業になりそうだね。前編は大量の敵相手の戦闘続きだったから、後編は少し控えめって感じなのかな? ま、ボスは後編の方が遥かに強いみたいだし、とにかく頑張っていきますか!


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