第320話 瘴気の除去


 さて、誰が纏瘴を使うかが問題である。ここより前のエンの分身体との戦いで纏瘴を使った人は少し前に時間切れとなったから無理だし、ここは誰が使うのが良いんだろうか。


「あ、私やるよー! 今日はこの後、友達と飲みに行くから無駄にならないしねー!」

「そうか、なら招き猫に任せるか」

「任せておいてー!」


 思っていたよりも遥かにあっさりと招き猫さんに決まってしまった。まぁリアルの都合で今日はもう少しで終わりにするなら問題もないのかもね。むしろ回数を無駄にしない為にも積極的に使う方が良いのかもしれない。


「それじゃいくよ。『纏属進化・纏瘴』!」


 瘴気の凝瘴か溢れ出した禍々しい瘴気が小柄なネコの表面を纏っていく。普通の纏属進化とはまた違った演出だね。そして招き猫さんは瘴気強化種に似たような雰囲気に進化した。禍々しい雰囲気のネコである。


「うーん、見た目はあんまり好きじゃないなー。でも仕方ないね」

「では私も準備をしましょうか」


<ルスト様がPTを脱退しました>


 そう言ってルストさんがPTから抜けていった。俺達のPTは招き猫さんのPTとは連結していないからそのままでも問題ないとは思うけど、まぁ確実性を取るならこっちの方がいいか。


「それじゃ始めるよー! 『瘴気集束』!」


 そして周囲の瘴気の排除を開始していく。招き猫さんが発動した瘴気集束により、霧のように周囲全体に満ちている瘴気が凝縮されていき、禍々しさを煮詰めたような球体が形作られていく。これって迂闊に触れただけでも酷い事になりそうな気がする。

 流石に今すぐ試す気は起きないけど、デスペナがリセットされる日付が変わる前にこれに触れるとどうなるか一度試しておくべきか……? うーん、積極的にやりたい事ではないね。まぁ夜になったら試してみるか考えよう。


 改めて周囲を見回してみれば周囲の瘴気を集めているからか、どうやら瘴気の濃度も薄れているようだ。どす黒く変色していた金属塊からも瘴気が抜けているようで、元の光沢のある金属塊に近付いていっている。

 そうなって気付いたけども、この金属塊には真ん中で亀裂が入っているようである。となれば、この亀裂の修復が終われば問題ないんだな。


「ほほう、そのようになるのですね。それでは瘴気は消滅させましょうか。『浄化の光』!」

「おー!? これって、競争イベントで勝った後の演出に近いね!?」

「……そうなのですか? それは惜しい事をしたような気がしますね?」

「ルストさん、気にしなくていいからそのまま続けてくれ」

「……そうですね。今はこちらに集中しましょうか」


 ふー、危ない危ない。今のハーレさんの一言で、特殊演出を見る為だけに今後再開催されるかもしれない競争イベントの参加を決意されるとちょっと厳しいものがある。別に戦うのが嫌ってわけでもないけど、赤の群集の戦力大増強のキッカケを俺らが作らなくても良いだろう。


 しばらく時間はかかったものの、招き猫さんが集めた瘴気はルストさんの浄化の光によって消え去っていった。よし、これでここの瘴気の除去は完了だな。あとは流出元の修復をしてもらわないとね。


[……よもやこのような事が起こるとは。……これならば!]


 そして金属塊の表面に白い光が縦横無尽に走りながら、亀裂が徐々に修復されていく。おー瘴気さえ除去すれば、勝手に自分で直せるようだ。


<ワールドクエスト《この地で共に》の金属塊を修復しました> 灰の群集 1/13


 それと同時にアナウンスも表示された。よしよし、この感じでどんどん他の地点も修復していけばいいんだな。多分、同時進行で他のエリアからも修復に向かっているだろうし、手順さえ分かればそれほど難しくもないか。


[そなたらには感謝しかない。まだ大量に封じている瘴気は存在するが、この地点から流出している瘴気の封印は元に戻す事が出来た]

「……それは良いが、それに関して少し質問がある」

[……我が答えられる事ならば、答えよう]

「さっき俺らが倒した群集拠点種のエンの分身体だが、再びここに出現する可能性はあるか?」


 ベスタが何を聞くのかと思ったら、確かにそれは重要な情報だね。他のエンの分身体も再出現しているという事だし、ここでも再復活の可能性は考えられる。その際にどうなるか、それは重要だろう。


[……分からないというのが正直なところだ。あの者たちはそれぞれに繋がり、破損した我と複数ヶ所で繋がっている。この地点より即座にという事はないだろうが、他の地点を経由しての可能性は考えられる]

「……そうか。それだけ分かれば充分だ」


 それだけ聞くとベスタは質問を終えた。まぁ細かい過去の経緯とかはイベントが進行すれば出てくるだろうし、聞くべき事は分身体の再出現の可能性だろうね。そして再出現の可能性は有りと考えて良さそうな返答だね。


「……よし、今後の方針を検討する。一旦、全員集まれ」


 金属塊から少し離れた所に移動したベスタのその号令により、みんなが移動していく。一段落ついたとこだし、今後の方針についての話し合いは重要だろう。

 みんながそれぞれに落ち着いた頃を見計らって、ベスタが再び口を開いていく。


「まず初めに先遣隊の役目はご苦労だった。おそらく、現時点で必要な情報の大半は集まっただろう」

「はい! ひとまず先遣隊はこれで終了ですか!?」

「あぁ、とりあえずはな。先程の質問でここにエンの分身体が再出現する可能性は示唆されたから、その時間の経過観察は必要だがな」


 ここに来るまでにいたエンの分身体の再出現は約1時間ってとこらしいけど、ここのは強さが違ったし時間が違う可能性は充分あるだろう。とはいえ、このメンバー全員で監視し続ける必要もないか。もし再出現した際のエンの分身体の強さとその行動については、実際に出現してみるまでは分からないしね。


 それにもう少しで6時だし、時間的にもこの辺がちょうどいい頃合いだろう。招き猫さんも用事があるとか言ってたしね。


「ベスタ、食事休憩とかリアル事情を含めての先遣隊の出番終了か?」

「あぁ、そのつもりだ。この時点をもって、この先遣隊は解散とする。このままここで経過観察を行ってもらっても構わないし、各自の自由に動いてくれ」

「それはありがたいかな」

「そだね。そろそろ一旦ログアウトしないとだし」


 サヤとヨッシさんはそろそろ晩飯でログアウトの時間だし、他の人も同じような人は何人かいるようである。招き猫さんもこの後は無理とか言ってたしね。


「俺も少し休憩を取った後に、まとめ機能に調査報告を上げておく。他のルートの連中にも伝えておく必要もあるからな」

「それは分かりました。それでその後はどうする予定ですか?」

「それは各自の自由にしてくれ。一応方向性の提示としては、俺はここの分身体の再出現と行動パターンを確認しておく予定だ。その内容次第で改めて情報を上げるから、その時に必要であればメンバーを募ろうかと思っている」

「そういう事ですか。では、私も少しそれに付き合いましょう」

「私も晩御飯まではいるよー! ね、ケイさん!」

「ま、迂闊に戻ってまたヒノノコを突破するのも面倒そうだしな」


 晩飯までの間はここで経過観察をしながら、休憩を挟みつつ居るのも良いだろう。ベスタ1人に任せっきりっていうのもあれだしね。




 そういう事になって用事がある人はログアウトしたり、そうでない人で他のルートへ向かう人もいたり、俺らのようにこの場に残っている人達もいた。それとは逆にここへとやってきている人もいるけれど、一応この地点は終わっているので引き返す人やそのまま経過観察に付き合う人がいたりと様々である。


「それじゃご飯食べて来ようかな」

「また後でね」

「サヤ、ヨッシ、また後でねー!」


 俺らのPTではとりあえずサヤとヨッシさんがログアウトである。まぁこれはいつもの事なので、特に気にする必要もない。


「アーサー、晩御飯を作りますので手伝ってください」

「分かった! コケのアニキ、フラム兄、また後でねー!」

「おうよ」

「おう! ケイはどうすんの?」

「俺は7時で晩飯だから、それまでは居るぞ。フラムは?」

「俺もそんなもんだな」


 水月さんとアーサーはこれから調理開始みたいで、フラムは俺と同じくらいの時間帯か。それじゃ暇潰しにフラムの魔法でも鍛えてやろうかね。

 そう思っていたら、そこにベスタがやってきた。どうしたんだろうか?


「ケイは7時までいるんだな。なら、少しの間任せていいか?」

「ん? 別に問題ないないけど、ベスタも休憩?」

「まぁな。昼は飯は食わずに仮眠だったから、流石に腹が減った」

「おいおい、ベスタ。飯はちゃんと食っとけよ。……まぁ俺も今のうちに片付けてくるか」


 ベスタとアルは今のうちに晩飯を済ませてくるつもりのようである。っていうか、ベスタは昼飯抜きで仮眠してたって、今日はいつからやってたんだよ! まぁ一食抜いたくらいなら大丈夫だろうけど、アルの言うようにちゃんと食べるべきだよな。


「まぁ食事時ではありますからね。では私はベスタさんとアルマースさんが戻ってきたら、食べてきましょうか」

「ルストさん! じっくりとスクショの見せ合いしよう!」

「えぇ、構いませんとも! むしろ私からお願いしたいところです!」

「……なんか不安だから、それまで俺は残るわ」

「ルアーに同感……」


 そして他に残るメンバーは俺、ハーレさん、フラム、ルストさん、ルアー、ライさんだな。他にも何人か残って、それぞれのPTで好きなように過ごしている。

 ルアーとライさんが不安なのはルストさんの行動みたいだね。まぁ予想がつかない動きを時々しているので、なんとなく気持ちは分からないでもない。かと言って、止めようと思っても止められる気もしないけど。



 そんな感じで1時間ほど経過観察も兼ねて、空き時間が出来た。ちょっとベスタに闇属性について聞いてみたかった気もするけど、居ないから仕方ないね。……ふむ、フラムを鍛えるという名目でボコボコにしようかと思ったけど、そういややっておくべき事があったんだよね。

 もう目の前で使ってしまったし、隠しても仕方ないので堂々と鍛えてしまおう。魔力集中も効果は切れてるし、もう暗視まではいらないかな。


<『暗視』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 50/50 → 50/53(上限値使用:4)


 そして位置的に地面でやれば周囲の人を巻き添えにする可能性もあるから、水のカーペットで洞窟の上部の方で特訓しよう。まだ精度の甘い光の操作を実用基準のLv3まで上げておきたい。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 50/53 → 50/51(上限値使用:6)


 とりあえず水のカーペットの上に乗って移動開始! ふふふ、天井付近なら邪魔にはならないだろう。それに発光で間接照明的になってるから、多少は役立つんじゃない? あ、どうせなら発光もLv4に切り替えようか。


<『発光Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 50/51 → 50/54(上限値使用:3)

<行動値上限を4使用して『発光Lv4』を発動します>  行動値 50/54 → 50/50(上限値使用:7)


 よし、これでかなり明るくなった。位置的にも誰かが眩しく感じるという事もないだろう。それじゃ、特訓開始だ! 目指せ、光の操作Lv3!


「おーい、ケイ! 何やるんだ!?」

「ん? まだ育てたりてないスキルのLv上げ」

「そういえば面白い技を使っていましたね。閃光と光の操作の組み合わせですか」

「そう、それ。まだ光の操作がLv2だから命中精度に難があってな?」

「え、それであんなにちゃんと当ててたのか!?」

「……俺的には外したって認識なんだけど。許容範囲だったけどさ」


 あの時はちょっと狙いが下に逸れたんだよな。しっかり狙ったところに当てたいところである。まぁだからこそ、これから特訓するんだけどね。


「なぁ、ケイ。お前、応用スキルをいくつ持ってるんだ?」

「え、それは内緒」

「……そりゃそうだよな」


 ルアーが聞いてきたけど、流石にそれは教えられないって。現時点ではまだ死蔵してる炎の操作があるけど、他は普通に使うんだしさ。土が昇華になって、行動値がもっと増えたらやってみたい事もあるしね。

 光の操作は鍛えるにしても周囲への影響があるから場所が限られてくるけど、威力は凄まじいので早めに精度は上げておきたい。うーん、電気の操作の前にこっちを鍛えておくべきだったかな。


「ま、そういう事で勝手に上の方で特訓してるから気にしなくていいぞ!」

「……まぁ特訓光景を見れるだけでも良しとするか」

「ふふふ、洞窟内でレーザーのスクショが撮れそうですね。やはり来て良かったですよ!」

「ケイさんは珍光景の宝庫だからねー!」


 おいこら、そこのハーレさん。人の事を珍光景の宝庫とか言うんじゃない。あながち否定しきれない自覚はあるけども、流石に大々的にそれを認めたくはないぞ。 


「……ルストはとりあえず放っておいても大丈夫そうか。おーい、フラム。魔法型にしたんなら特訓付き合うぞ」

「え、ライさん、良いのか!?」

「あぁ、良いぜ。海の連中から聞いた良い特訓方法があってだな?」


 ほう、魔法の良い特訓方法ですと? それは俺もちょっと気になるところだね。俺らのやってる対戦型以外にも良い方法があればぜひ取り入れたいところだ。


「そんなのあるんだ? どうやるんだ、ライさん?」

「お互いに魔法を撃ち合って、先に相手に当てた方が勝ちって対戦型特訓法だな」

「へぇ、面白そうだ」


 あ、残念。とっくに知ってるやつだった。っていうか、地味にその辺の情報って赤の群集に広まってなかったのか。まぁ少し前まで悲惨な状態だったし仕方ないか。

 さて、俺は俺で自分の特訓をしていこうっと。的がないけど、威力が威力だし命中精度が駄目だからその辺は仕方ない。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を20消費して『光の操作Lv2』は並列発動の待機になります>  行動値 30/50(上限値使用:7)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を4消費して『閃光Lv2』は並列発動の待機になります>  行動値 26/50(上限値使用:7)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 よし、これで天井に向けてレーザーを発射。ふむ、少し壁が赤熱して軽く溶けてはいるけど破壊する程ではないね。これなら何も破壊する事なく特訓出来そうだ。さぁ光の操作Lv3を目指して頑張るぞ!




 そんな風に特訓したり、雑談したりであっという間に1時間が過ぎていった。そこにベスタとアルがほぼ同時に戻ってきた。7時目前だし、ナイスタイミング!


「アルマースも丁度戻ったところか。ケイ、異変はあったか?」

「特に問題なし。アルもおかえり」

「おうよ。ケイとハーレさんも飯食ってこいよ」

「はーい!」

「そんじゃ任せた!」


 とりあえず光の操作もLv3には出来たし、おまけで閃光もLv3になったから成果ありだね。次は土の昇華を目指さねば……。その後は凝縮破壊Ⅰも取りたいし、炎の操作もどこかでLv3まで上げておきたい。育てるものが多いですなー。

 ま、その辺はボチボチやっていくとして、一旦ログアウト! ここは今は使えないけど転移地点だから、ログアウトは正常に可能である。さてと、今日の晩飯なんだろな?

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