第319話 エンの分身体
「あっ!? みんな、背後注意! コウモリが集まってるよ!」
「金属塊がある場所は特殊仕様か!? ベスタさん達の邪魔をさせるな!」
「見物だけって訳じゃないんだな!」
「連結PT毎に距離を取ってね! フレンドリーファイアに要注意!」
「「「おう!」」」
アーサーとフラムが奮闘を始めた頃、背後では何やらコウモリが集まってきているようだった。洞窟と言えばコウモリを連想するけど、今回はコウモリの割合が多いな。
他の敵も出てない訳じゃないけどそれほど数は多くない。闇ゴケの進化した奴とか面倒そうだから出てこなくても良いんだけどね。よし、コウモリ集団は招き猫さんを筆頭に他の先遣隊メンバーに任せておこう。
こっちはこっちでエンの分身体を倒さなければ話が先に進まない。さて、これをぶっ倒して金属塊を修復していかないとな。
「水月、焼き切れ!」
「えぇ、分かっています! 『爪刃乱舞・火』!」
「細かいのは俺が処分する! 『回鱗刃乱舞』! 行け、フラム、アーサー!」
ルアーと水月さんの2人でエンの本体の根から分身体を切り離す為の突破口を作り出していく。ルアーと水月さんの連携は無駄が少なく、あっという間に分身体の根の防御を切り裂いていった。ルストさんが纏浄で引きつけているのもあるんだろうけど、見事なものである。
「フラム兄!」
「おう! 腐食毒の『ポイズンボール』!」
「『重突撃』! あれ、今までのより丈夫っぽい!?」
「……進化したての2人では少し厳しいですか。ルアー、行きますよ! 『爪刃乱舞・火』!」
「まだ応用スキルも持ってないだろうし、威力不足じゃ仕方ねぇか。『回鱗刃乱舞』!」
どうも流石に進化したてではフラムとアーサーでは厳しかったようである。まぁついさっきまで成長体だったし、仕方ないといえば仕方ないか。
多分、俺が成長体で応用スキルを持ちすぎてただけなんだろうな。フラムも近接に拘ってたならそれほど魔法もまだ育っていないだろうけど、それはこれから育てていけば良いのだろう。とりあえずここは水月さんとルアーに任せておけば問題ないはず……。
「私達でも無理なのですか!?」
「予想以上に硬いじゃねぇか!」
代わりに水月さんとルアーが突破して本体と切り離す為に動いたようだけど、思ったようにはうまく行かなかったらしい。……この2人の攻撃でもすんなり切断できないということは、今回のエンの分身体はそう簡単にはいかないってか。
「戻ったぞ。間に合ったか?」
「間に合ったには間に合ったが、予定外の状況だ。ちっ、他の分身体よりは強いとは予想はしていたが、少し甘く見積もり過ぎたか。これはレベルが少し高い程度の違いじゃねぇぞ」
「……あまり良い状態じゃないみたいだな」
アルがクジラでログインして戻ってきたものの、状況は決して良いとは言えないね。同じ分身体とはいえ、この金属塊のある転移地点の分身体の強さは別物のようである。
<『殴打重衝撃Lv1・火』のチャージが完了しました>
あ、やばい。チャージが完了してしまった。即座に切り離せる前提で用意してたけど、これは失敗したか……?
「おい、ルアー! そっちでなんとか出来るか!?」
「あー使う予定は無かったのに、あれを使うしかねぇか! 即座に切り離すから、ベスタ達もミスするなよ!」
「手段はあるんだな? よし、アルマース、準備に入れ!」
「おう。『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』」
そしてアルのクジラに風が纏っていく。アルもいつの間にか風の操作も取得してたんだな。まぁ取得したスキルを毎回全て聞いている訳でもないし、こういう事もあるか。っていうか、ホントにやるのかー。朦朧とか大丈夫かな? ま、やるしかないか。
「まずはケイから行くぞ」
「ほいよっと。攻撃はルアーの合図待ちで良いのか?」
「そうなるな」
まぁ本体から切り離さなければ灰の群集ではダメージが通らないんだから、そうなるよな。ルアーには何かとっておきがあるみたいだし、それに賭けるしかない。
「まだまだ出し惜しむつもりだったんだがな。『大型化』『魔力集中』『斬化ヒレ』!」
「うお!? そんなのあり!?」
ルアーの元々鋭利になっていたヒレが更に鋭く斬撃に特化した形になっていく。そして大型化もした事により1メートルくらいの魚に変わって、ヒレが刃渡り50センチくらいの刃物のようになっていく。うっわー、現実離れした魚になっていくな。
「行くぜ。『連閃』!」
「ルアーさん、すげー!」
「へぇ、そんなの持ってたのか」
「皆さん、切断が終わりましたよ!」
ルアーがエンの分身体の周囲を舞うように泳ぎながら放ったヒレによる連続斬撃によって、本体の根と分身体は切り離されていく。
ふむふむ、応用スキルなら纏浄がなくても切り離す為に必要な威力はある訳か。逆に言えばスキル1発でどうにかしたければ応用スキルが必要なんだな。時間をかければ通常スキルでも切り離せないわけじゃないだろうけど今回は先走り過ぎたのは失敗だね。
反省点はあるにしてもチャージの待機時間もやばいし、即座に攻撃に移ろう。発動待機時間を過ぎたら応用スキルの無駄使いになってしまう。
「ほら、あなたの相手は私達ですよ! 『根の操作』!」
「おらよっと。『並列制御』『毒の操作』『ポイズンボム』!」
「ケイ、覚悟は良いか!」
「おうよ!」
「吹っ飛んで行け! 『旋回』!」
「うわっと!?」
「いっけー!」
ルストさんとライさんが多くの根を引きつけて防御が薄くなった所を、アルが風属性を帯びた旋回を発動して尾ビレで俺をなぎ払うように分身体に向けて吹き飛ばしていく。アルは自己強化に風属性を付与したので、旋回速度が上がり猛烈な勢いがついていた。っていうか、速!?
邪魔になりそうな根はなく、勢いに乗せて殴打重衝撃を分身体の幹に叩き込んでいく。よし、1割くらいは削れた。それとほぼ同時のタイミングでハーレさんの爆散投擲も着弾して、HPを削っていく。
「次々行くぞ! 『旋回』!」
「これは凄い勢いかな!?」
そして俺と同様にサヤもアルの旋回によって吹き飛ばされていき、少しだけど俺以上にHPを削っていた。うん、この辺は種族の体格差とかその辺りかな。
あ、なんか少しHPが回復し始めたって事は水分吸収か! 分身体の特性には瘴気吸収はないし、ベスタが識別した時もLv以外の変化はないと言っていた。となれば、ここは腐食毒の出番だな。
俺とサヤの火属性攻撃で多少燃えているし、継続ダメージも入っている。ここが攻め時だろう。
「ベスタ、水分吸収で回復し始めたぞ!」
「やはりか。ヨッシ、ラインハルト、フラム! 3人で腐食毒を叩き込め!」
「了解! 『並列制御』『毒の操作』『ポイズンボム』」
「この距離なら! 『腐食毒生成』『噛みつき』!」
「ライさん、送りましょうか。『根の操作』!」
「……え? ルスト、俺に根を巻きつかせて何すんの……?」
「こうするのですよ。アルマースさんのあれに比べればマシでしょう!」
「ぎゃー!? って言ってる場合か! 『ポイズンボール』『ポイズンボール』『ポイズンボール』!」
ヨッシさんは普通に空中から距離を取って、フラムは至近距離にいるので直接噛みついていた。そしてライさんはルストさんに投げられつつも、空中でバランスを取りながら毒弾を撃ち込んでいた。……まぁライさんの魔法が外れの方が多かったのは仕方ないかな。
ともかく、何発も撃ち込まれた腐食毒は効果を発揮して回復速度が一気に落ちていく。うーん、意外と手間取っているけど纏浄の攻撃力増加を使えばもっと効率は上がるのかな?
「ベスタ、もう時間がヤバイだろ! 急げ!」
「そうだな。アルマース、頼む」
「行くぞ。『旋回』!」
そしてベスタもアルに吹き飛ばされ、猛烈な勢いを乗せた重爪斬で鋭い爪痕を残し、重硬爪撃で分身体の幹に強烈な一撃を叩き込む。その威力によって、少しだけど幹が抉れ分身体は傾いていた。
誰よりも強烈なベスタの二連撃によって、分身体のHPは3割を切っている。凝縮破壊Ⅰの効果もあるのも理由だろうけど、ベスタの攻撃力はとんでもないな。それでも流石は分身体とはいえ不動種か。耐久力が半端ないな。
「ちっ、これでも削りきれねぇのか。しかも腐食毒を使っても僅かに回復してやがる」
「……どうする? ここまで頑丈なのは予想外なんだけど」
「……そうだな。本格的に燃やすか、海水でもぶち撒けるか……」
「あの、1つ試してみてもよろしいですか?」
「あぁ、ルストが纏浄中だったな。よし、違いが見てみたいから頼むぞ」
「えぇ、お任せ下さい。あ、ハーレさんスクショをお願い出来ますか?」
「それは任せといてー!」
そういや纏浄なしでしか攻撃してないもんな。纏浄でのダメージ量の大幅増加というのがどの程度のものかが気になるところだね。
そして相変わらずスクショには拘るんだ。流石はサファリ系プレイヤーである。
「それでは近接型の木の戦闘をお見せしましょう。『根槍乱れ突き・浄』!」
ルストさんに襲いかかっていく根をほぼ紙一重で回避しつつ距離を詰め、暖かな浄化の光を放つ多数の根で分身体に次々とダメージを与えていく。
灰の群集には物理型の木の情報は少ないので、応用スキルかどうかの判別はつかない。でも、応用スキルにしてはダメージが少ない気がするし銀光も放っていないから通常スキルか?
「思った以上に硬いですね。では、これではどうでしょう? 『根槍連衝・浄』!」
次のルストさんの攻撃では槍状になった根が暖かな光と混ざった銀光を放ちながら、先程とは比べ物にならない速度で連続突きを繰り広げていく。そしてあっという間に銀光の輝きは増していき、もうあとほんの僅かで倒せるというところでルストさんは攻撃を中止した。
これ、本来はもっと攻撃速度は遅いんじゃないか? 相手の位置が動かないのはあるだろうけど、この連撃速度で正確に当て続けるのは難しいぞ。
「どうやら纏浄の効果は非常に大きいようですね」
「そのようだな。ルスト、倒してくれて構わないぞ?」
「そうですか。では遠慮なく」
そしてルストさんの強まった銀光を放つ攻撃によりエンの分身体のHPは全てなくなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。ふむふむ、高火力の人数を増やして力押しでも有りだけど纏浄を利用して一気に大ダメージを与えていくというのもありなんだな。
今のところ、纏浄の効果がかなり重要っぽいのは分かってきた。纏瘴の方も役目はあるだろうし、そっちも検証していくべきなんだろうね。まぁ後編初日だし、今日は検証に集中して本格攻略は明日からというのもありかもしれない。
「あ、もう終わってたー!?」
「雑魚の相手に手間取ったか……」
「このメンバー強過ぎるわ!」
「うー、見たかった……」
コウモリの相手をしていた他の先遣隊のみんなの方も片付いたようではあるけど、どうやら不満みたいだね。まぁ、状況の確認とかはしておきたかっただろうし、ちょっと予想外の硬さに焦りすぎた?
回復速度自体はヒノノコ程ではなかったし、腐食毒で妨害も出来ていたからここまで急いで倒そうとする必要はなかったのかもしれない。
とはいえ油断をし過ぎていたのは間違いないから気を付けておかないと……。金属塊のある場所の分身体は強めというより硬めになっている。これが今回の戦闘での最重要情報! さて、ここからどうすればいいんだろう?
[……本当にここまで来たのだな]
「うぉ!? あ、【惑星浄化機構】か!」
いきなりどす黒くなっていた金属塊から声が聞こえてきたからびっくりした。いやまぁ、話が進む為には会話が必要だよね。
『その地に辿り着いたか。これからすべき事を私から説明しよう』
おわっ!? いきなり目の前にグレイの姿が出てきてびっくりした。あれ、これって個別向けの記録映像か?
『手段は既に同胞達の手の中にある。瘴気と浄化を操り、消滅させると良い。その際に他の群集のものの力を借りる必要があるがな』
ほうほう、これは予測していた通り纏瘴と纏浄を違う群集で使って相殺すれば良いわけだ。それでここの瘴気の消滅が可能になるんだろう。
『あのモノへの説明は私の方で行っている。各自の健闘を祈っている』
それだけ伝えると、グレイの姿は消えていった。必要最低限の情報だけ伝えに来たって感じだね。ともかく、これで瘴気の消滅の手段は確定した。後は実行に移すのみ!
[あの者達から手段は聞いている。本当に周辺の瘴気は消せるのだな?]
「あぁ、そのはずだ。任せておけ」
[……すまぬ、我が引き起こした事でこのような事に……]
「気にするな。お前は修復に専念するといい」
[……あぁ、それが我に出来る事なのであれば全力を持って行おう]
どうやらこの演出はここにいる人には共通のようで、ベスタが代表して対応をしていた。この辺のイベント演出もそれ用の追憶の実で見れたりするんだろうか? ……それを考えるのはイベントが全部終わってからでもいいか。
「よし、瘴気の除去を始めるぞ」
「ほいよ。で、誰が何を使う?」
「纏浄はルストが効果中だからルストでいいだろう。灰の群集の方で纏瘴を誰が使うかを決めるぞ」
「……後々影響が少なそうな人が使うほうが良いだろうな」
「となると、突っ込んでいかないタイプのプレイヤーか?」
「回復の事も考えると、それも含めて自己回復系のスキルを持っている奴が望ましいか」
「……後衛で、自己回復持ち?」
さてと条件に該当しそうなのは果樹系の木の人とかかな。アルも対象に含まれているね。……そういえば俺も治癒活性とか脱皮を含めたら該当する……? うん、とりあえず誰が使うかは相談して決めようか。
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