第318話 纏浄と纏瘴の役割
色々と情報も揃ってきた事もあり、まずは先行している招き猫さん達と合流を目指していく。まぁ分かれ道の確認をしながらではあったけど、それほど距離が離れているという訳でもないのですぐに合流出来るだろう。
「フラム兄! 未成体だと移動が早いね!」
「だな。心なしか動かしやすくなってる気もするな!」
「だよね、だよね!」
「はいはい、2人とも集団行動中ですので程々にしてくださいね」
未成体に進化して、はしゃぎまくっているアーサーとフラムであった。そうか、あんまり意識はしてなかったけど、進化すると少なからず操作性が向上するみたいだね。よく考えてみれば移動速度は明確に上がっているので、不思議でも何でもない変化ではある。
ま、進化して良い変化になったみたいだし、フラムもアーサーも良かったな。
そんな風にはしゃぎながらアルのクジラを担いだサヤと水月さん、そして単独でも移動が早いルストさんに分乗して移動している。とりあえず現時点では分かれ道では異常なし。
流石に全部を回るには時間がかかり過ぎるし、この辺はざっくりで良いだろう。もし本格的に異常があれば後続組も来たから報告も上がってくるはず。
そうして急ぎ気味で移動していけば、他の先遣隊の人達の待っている次の転移地点へと辿り着いた。そこには休憩をしている人や、スキルの熟練度稼ぎをしている人や、話し込んでいる人などそれぞれが自由に過ごしていた。……ちょっと待たせ過ぎたかな?
「お、みんな来たね! 分かれ道は空振りだったのは残念だったね」
「ある程度は予想していた範疇だし、問題ねぇよ。そっちはどうだ?」
「うん、ばっちり推測通り。何もなしなら堅牢な防御態勢で、纏瘴なら防衛の対象から外れやすくなって、纏浄なら苛烈な攻撃の標的だね。PT構成にもよるけど、無理に大人数が使う必要はないかな。それとそれなりに強ければ無しでも問題なさそうだね」
「そうか、検証ご苦労だったな」
「いえいえ、その為に先遣隊に立候補したんだしね!」
代表して喋っているのはベスタと招き猫さんだけど、その会話に他の人たちも頷いている。主に頷いているのは灰の群集で、赤の群集はさっき話し込んでた人達だね。何か気になる事でもあったのかな?
「おーい、お前ら。何か問題でもあったのか?」
「あ、ルアー。いや、問題って訳じゃないけど灰の群集の検証のスムーズさにビックリしてただけっていうかな?」
「そうそう。全体的に行動と判断が早いんだよ」
「動きに迷いがないんだよな」
「あー、そういう事か。その辺は俺らも見習わないとな」
「うん、それは思った」
「そうやって話してたとこなんだよ」
どうやら赤の群集は自分達の動きと灰の群集のみんなの動きの違いについての反省会をしていたらしい。まぁ、灰の群集はちょっと前まで荒れきってた赤の群集よりは間違いなくまとまりはあるからね。
地力ではまだまだ赤の群集には負けませんぜ。とは言っても、今後の赤の群集がどうなってくるかはまだまだ未知数だけどね。
エンの分身体を倒したしこれ以上ここに長居しても仕方ないので、次の転移地点を目指して出発だ。次はここから東へと進み、突き当りまで行けばあの金属塊のある場所に辿り着く事になっている。経路的にはそれで良いはず。
先遣隊にはアルとルストさん以外にも何人か移動種の木がいるけど、みんながみんな早く移動できる訳ではないので少しゆっくり気味の移動になっていた。そうして先遣隊が勢揃いして奥へ奥へと進んでいく。……あれ、そういや辿り着いたら具体的に何するんだ?
「なぁ、アル。金属塊の修復ってどうやるんだ?」
「あれじゃね? 自己修復とか言ってたから、エンの分身体を倒して周囲の瘴気を減らせばいいんじゃないか」
「いや、それは分かるんだけどさ。どうやって瘴気を減らすんだ?」
「……そういえばそうだな。ベスタ、何か知らないか?」
「……まだ見てねぇから何とも言えねぇな。おい、誰か情報を持ってないか? 推測でも構わん」
現地に行ってみればもしかしたら説明があるのかもしれないけど、この辺は重要な話だよな。俺らに修復する力はないから、やるとすれば瘴気を取り除くしかない。でもどうやってやれば良い?
「あ、それならまだ使ってないから確実とは言えないけど心当たりはあるよ。地味に使い道が分からなかったんだよね」
「招き猫には心当たりがあるんだな? どういう内容だ?」
「私というよりはさっきみんなで確認した内容かな。えっとね、纏瘴で『瘴気集束』っていう瘴気を集める付与スキルと、纏浄で『浄化の光』っていう付与スキルがあるらしくてね。多分だけどそれを使うんじゃないかなーと?」
「……なるほど、ここでも纏瘴と纏浄を使うのか。確かに可能性はありそうな話だな」
ふむふむ、結構な人数が交換しているだろうしそれはありそうだ。まだ纏瘴と纏浄を使ってないから付与スキルは知らなかったけど、その2つのスキルには意味がないということはないだろう。
でも同じPTのままじゃ相殺も出来ないから……そうか、PTを解除して灰の群集と赤の群集で分担すれば良いんだな。つくづくこの共闘イベントってのは他の群集との協力が重要な内容になってるね。
「PTの解散も必要で、瘴気の凝晶も浄化の輝晶も無駄遣いは出来ないんだな。ベスタ、早めに周知しといた方が良いんじゃねぇか?」
「アルマースの言う事も一理あるな。……実際に確認して確定させる必要もあるが、可能性としては周知しておくか」
「あ、そっか! 最低でも1個ずつは違う群集で持ってないと駄目なんだね!?」
「私達も温存しておいた方が良いのかな?」
「サヤ、多分それは大丈夫。もう次の場所だしね」
「あ、それもそうだね。そこまで行く間にこの人数が使い切る事もないよね」
まぁ流石にこの結構な人数が使い切る事はないと思いたい。っていうか、使い切る状況ってのには遭遇したくないものである。いくらなんでもその展開はないと思うけど……。
それはそうとして、既に使っている人に確認しておきたい情報もあるから確認しておくかな。
「両方の付与スキルを知ってる人、全部教えてくれー!」
「あ、そういやそれも伝えとかないとね。纏瘴は『瘴気制御』と『瘴気集束』の2つ。『瘴気制御』は瘴気専用の魔力集中と操作属性付与が合わさったスキルみたいに思ってくれたら良いよ!」
「纏浄も似たような感じだぜ。『浄化制御』と『浄化の光』の2つ。内容はほぼ一緒だ」
「そっか、情報ありがとさん!」
ネコの招き猫さんとその隣にいる桜の木の人が教えてくれた。なるほど、魔力集中と操作属性付与の瘴気版と浄化版か。付与スキル自体も2つで普通の纏属進化とは一味違ったものであるみたいだね。
それにしても魔法は無しか。少し瘴気魔法や浄化魔法とか使えないかと期待してたんだけどな。操作系も無しみたいだし、ちょっと残念。
そんな風に雑談と情報交換を行いつつ、時々出てくる敵を仕留めながら奥へと進んでいく。少し半覚醒も出てくるのでそこは赤の群集の人任せである。
そしてしばらく経った頃に、問題の転移地点へと辿り着いた。ある程度の広さがあるので、密集して邪魔にならないようにみんなは連結PT毎に距離を取って配置していく。
それにしてもここは他のとこより瘴気が酷くてかなり視界が悪くなっていた……。うーん、何かいるのは薄っすらと見えるし、多分エンの分身体なんだろうけどこれは見え辛いね。
「これは酷いかな……」
「まともに見えないよー!?」
「……どうしたもんだろ」
どうやらサヤ達を筆頭に、みんなも同じような状況のようである。流石は溢れ出している大本の場所って事か。これは暗視も併用するほうが良いかもしれない。
<行動値上限を3使用して『暗視』を発動します> 行動値 53/53 → 50/50(上限値使用:7)
よし、まだ決して良いとは言えない視界だけどさっきまでよりは随分マシになった。
「暗視を持ってる人は暗視を使った方がいい! 多少マシになる!」
「暗視は持ってないよー!?」
「私もかな!?」
「ケイ! 暗視持ちは少ないぞ!」
「そういやそうだった!?」
俺のPTでも暗視を持ってるのは俺だけだった。……ふむ、どうしたものか。手段が無いって訳じゃないだろうけど、何を使えば良い……? 纏光か纏闇で暗視を付与スキルとして使うのもありか。
「『暗視』! ちっ、持ってないやつのほうが多いのか」
「……もしかすると、これはこういう事ではありませんか? 『纏属進化・纏浄』『浄化制御』!」
「おぉ!? ルストさん、ナイス!」
ルストさんが纏浄を使えば、濃い瘴気の中でも照らし出すように木全体が暖かな光を放っていく。これは群集拠点種が誕生した時の光に似通っている。いや、力の元としては同じものなのだろう。
「そしてこうでしょう。『発光』! ふむ、自分で自分が撮れないのが惜しいですね……」
「私が撮ろうかー!?」
「えぇ、ハーレさん、是非ともお願いします」
発光を発動して蜜柑が光り始めた途端、ルストさんのHPが徐々に減り始めていた。そしてその発光の照らし出す灯りは高濃度の瘴気の中すらも照らし出していく。
それにしてもHPが徐々にとはいえ減ってるし、これから戦闘って時に呑気にスクショの相談をしてるんじゃないよ。多分敵はエンの分身体だけど、今までのとはちょっと違うとは思うから緊張感は緩めないで!?
「そういうのは後にしろ! ルスト、狙われるのはお前だぞ!」
「えぇ、分かっていますよ。『治癒活性』『根脚強化』!」
そう言いながらルストさんが背後に飛び退き、それと同時に地面から太い根が襲いかかっていた。思いっきり不意打ちではあったけど、見事な回避である。
そして、治癒活性で継続のHP回復で纏浄の使用によるHPの減少を抑えていた。そうか、そういう使い方もありなんだな。
「さて、囮は引き受けますのでさっさと片付けて下さいね」
「任せるぞ、ルスト! 『識別』! よし、Lvが7になっている以外は変化なしか。ルアー、フラム、アーサー、水月! 4人で本体の根から切り離しに行け!」
「おう、任せとけ! フラム、アーサー、進化した力を見せてやれ。『ウィンドボム』!」
「うん、ルアーさん! フラム兄、行くよ! 『魔力集中』『硬化』『猪突猛進』『強頭突き』!」
「ははっ、やってやるぜ、アーサー! 腐食毒の『ポイズンボール』!」
「気合が入ってますね、2人とも。では私は2人の露払いをしましょう。『魔力集中』『ファイアクリエイト』『操作属性付与』『爪刃乱舞・火』!」
ベスタの指示を受けた赤の群集の4人が、ルストさんの纏浄で見える様になったエンの分身体に向けて突撃していく。アーサー自身とアーサーの背に飛び乗ったフラムも張り切っているし、ルアーと水月さんがフォローに回っているので心配はいらないだろう。
「え、俺は置いてけぼり!?」
「ラインハルトはルストの援護だ。お前はあいつらほど移動は早くねぇだろ?」
「あ、忘れられてた訳じゃないのな? そういう事なら了解っと。『並列制御』『ポイズンボム』『毒の操作』!」
「まぁ、私1人でも問題ないんですがね」
「うっせーよ!? 俺にも出番をくれ!」
ライさんがエンの分身体の襲い来る根を毒魔法で迎撃しているものの、ルストさんの回避能力が高いようであまり意味はないようである。うん、この攻撃の回避技術はサヤのものが連想出来るね。
ルストさんは回避のみに専念するつもりのようで、攻撃は一切していないね。これはフラムとアーサーに頑張らせるつもりかな。さて、呑気に見てないで俺らは俺らで攻撃準備をしていこう。
「ベスタ、俺らは一斉に攻撃のつもりで良いか?」
「あぁ、そのつもりだ。応用スキルを叩き込むつもりで用意しろ。アルマースは元の大きさに戻って俺らを弾き飛ばせ。ヨッシは腐食毒を用意だ。おそらく木である以上は水分吸収を使うはずだからな」
「……無茶な指示をするもんだな。だが、分かった」
「うん、了解」
「了解です! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『アースクリエイト』『爆散投擲・風』!」
「分かったかな! 『魔力集中』『アースクリエイト』『操作属性付与』『重硬爪撃・土』!」
アルに弾き飛ばさせて、俺らが突っ込んで行く訳か。まぁ、ここはそれなりに広くて高さもあるからアルが元の大きさに戻っても問題ないし、それが効果的なのは間違いないかな。まぁハーレさんは弾き飛ばす必要はないから、俺とベスタとサヤになるんだろう。
「全く、ベスタも無茶な作戦を考えるもんだな」
「ケイが言う事か……?」
「……あー問題ないんじゃない?」
「……ケイらしいといえばらしい反応だな。とりあえず俺はクジラに切り替えてくる。木からじゃ無理だ」
「急げよ、アルマース」
「あぁ、分かってる」
確かに人の事は言えない気もするね。そしてアルは作戦の為にクジラへと切り替えにいった。転移地点という事もあるから、普通にログアウトしても問題なかったみたいだね。
「俺も準備するか。『魔力集中』『ファイアクリエイト』『操作属性付与』『並列制御』『重硬爪撃・火』『重爪斬・火』!」
アルも準備に向かったし、ベスタも両足での同時チャージも開始したし、俺は俺で準備をしていこうかな。
<行動値上限を2使用と魔力値4消費して『魔力集中Lv2』を発動します> 行動値 50/50 → 48/48(上限値使用:9): 魔力値 174/180 :効果時間 12分
<行動値1と魔力値4消費して『火魔法Lv1:ファイアクリエイト』を発動します> 行動値 47/48(上限値使用:9): 魔力値 170/180
<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『操作属性付与Lv1』を発動します> 行動値 47/48 → 47/47(上限値使用:10): 魔力値 166/180
<行動値を10消費して『殴打重衝撃Lv1・火』を発動します> 行動値 37/47(上限値使用:10)
<『殴打重衝撃Lv1・火』のチャージを開始します>
木が相手なので火属性にしておいた。これでチャージ開始だ。サヤもハーレさんもベスタもそれぞれの属性に合わせた銀光を放ちつつチャージを進めていっている。
アルも本来の大きさへ戻り、ヨッシさんも待機中。さて、後はフラム達が根を切って来るのを待つだけである。ここは赤の群集に任せるのが早いからね。……多分暴発でもいけるんだろうけど、あれはあんま使いたくないからな。
とにかく、フラム、アーサー、2人とも自分に向いた進化先の未成体で頑張ってこい!
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