第317話 調査をしながら


 とりあえず2体目のエンの分身体を倒したし、サクサクと奥に進んでいこうか。今いる転移地点からは東への道と、南への道へ分かれている。東に行けば以前に通った海へ繋がるルートだけど、今回の目的地はここから南のルートの先である。

 調査用に設置された、今回のイベントまでは意味が分からなかった金属塊のある転移地点にもエンの分身体は居るだろう。多分だけど、さっき倒した奴よりは強そうな気がする。まぁ、この感じであれば倒し方そのものは極端には変わらないとは思うけど。


 さて一応ここまでは寄り道なしで真っ直ぐ来たけれど、それなりに確認は出来たし他の行動に移ってもいいんじゃないかと思うんだよね。まぁ何もない気もするけど、大量の分かれ道も一応は確認が必要かな。


「エンの分身体を倒す目処は立ちそうだし、ちょっと分かれ道の先も確認しとかないか?」

「おー! 一応しといた方が良いかもねー!」

「おぉ、それはよろしいですね! えぇ、是非とも隅々まで念入りに行きましょうとも!」

「……常闇の洞窟の行き止まりって未成体がいるくらいじゃねぇの?」

「そのはずだけど、何このハイテンションのルストさん?」


 そんなに珍しいような物ってあったっけ? ルアーの言うように未成体が行き止まりにいる程度のはずだけど……。うーん、全部踏破した訳じゃないから何とも言えない。


「いえいえ、ただ行ったことがない場所に行くというだけで心躍るものなのですよ! 次にいつ来れるか分からないとなれば尚更です!」

「そういうもん?」

「えぇ、そういうものです!」


 ルストさんに力強く断言されてしまった。あ、でもハーレさんも頷いてるからサファリ系プレイヤーなら分からないでもないのか。まぁ十中八九は無駄足だろうけど、それでも万が一の確認は必要だろうし問題ないか。


「招き猫、俺達は周辺の分かれ道を念の為に確認するから、先行して検証しててもらっていいか?」

「ベスタさん達の連結PTの方で分かれ道の確認だね? それでこっちのほうでエンの分身体の討伐手段を確立すればいいのかな」

「あぁ、任せたぞ。倒した後は連絡をくれ」

「了解したよ! さー、みんな行こうかー!」


 そうして招き猫さんを筆頭にして、他のみんなが先に南のルートへと進んでいく。さて、俺らは俺らで南のルートを進みつつ途中の分かれ道の確認と行きますか。って、あれ? フラムが俺の前にやってきたけどどうしたんだ?


「……なぁ、ケイ」

「ん? どうした、フラム?」

「……俺を、殺してくれ!」

「よし、それじゃ遠慮なく」

「ちょっ!? 理由すら聞かねぇの!?」

「どうせ転生進化だろ。さっさと始末してやるから、準備しろよ」

「……あっさりバレてるか」

「むしろ何でバレないと思った?」

「それもそうだな……」


 どう考えてもこのタイミングで他の群集の俺に殺してくれと頼むのは転生進化くらいしかないだろう。っていうか、フラムは進化条件自体は満たしているんだな。

 その状態で進化していなかったのは進化先が狙っていた方向性とは違っていたけど、方向性を変えると決意した今なら意味があるという事なんだろうね。つまり、フラムの選ぶ進化先は魔法型への進化か。


「フラムさん、その心意気は良いですよ! それでは私が少し手助けを致しましょう!」

「え、ルストさん? ……フレンド申請?」

「えぇ、それで私にリスポーン位置を設定が可能になりますからね」

「……良いのか?」

「良いですとも! 私は頑張る方は好きなのですよ! 思い通りに踊らされるのは嫌いですが!」

「それじゃ好意に甘えさせてもらうよ。『巣穴作り』!」


 ルストさんの幹の一部にツチノコが収まりそうな巣穴が出来たから、これがリスポーン位置になったのだろう。常闇の洞窟の内部だと……あれ? そういや転移地点ではログアウトは出来るけど、リスポーン位置設定はどうなんだ?

 うーん、わざわざ試すほどでもないし別に良いか。アルさえ死ななきゃどうにかなるし、もし死んでも今の移動速度ならどうとでもなるだろう。


「準備は出来た。ケイ、殺ってくれ」

「ほいよ」


 さーて、相手はフラムだし、まだ成長体のツチノコだ。どういう風に仕留めようかな。よし、本人に決めて貰おうか。


「フラム、水で溺死と、滝に押し潰されるのと、ハサミで殴り殺されるのと、ハサミで切り殺されるのと、焼け死ぬのと、レーザーで溶かされるのと、岩で殴り殺しのどれが良い?」

「選択肢多いな!? どれでもいいわ!」


 他にもスキルを組み合わせていけば色々思いつくんだけどな。それにしてもどれでも良いか……。それがある意味一番困る返答なんだけど、何がいいかな。……周囲を見てみれば、地下湖も岩もある。

 よし、これで……あ、駄目だ。水流の操作と岩の操作の並列制御には行動値が微妙か。夜目とか発光を切ればぎりぎり可能ってとこだけどそれは面倒くさいし、もうお手軽にウォーターフォールでいいや。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 52/53(上限値使用:4): 魔力値 177/180

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 50/53(上限値使用:4): 魔力値 177/180

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<『昇華魔法:ウォーターフォール』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/180


「とりあえず、さっさと死んでこい」

「おう!」


 そして生成された滝によってフラムは叩き潰され、どんどんとHPが削られていく。うーん、初めてダイクさんと一緒に発動した時の威力に近くなってない? 使用する魔力値が相当増えてるからかな。


「おぉ!? 真っ暗闇の中、コケの灯りに照らされる大瀑布! これはスクショのチャンスですね!」

「だねー! スクショ撮るぞー!」

「あぁ、なるほど。昇華魔法があれば、こういったシチュエーションに通常ではあり得ない光景を作り出すことも出来るんですね。これは興味深いです」

「おぉ! 水月さんも分かってきましたか!」

「えぇ、これは興味深いものですね」

「コケのアニキ、すげぇー! この光景もすげー!」


 死にゆくフラムには誰も気にせず、現実ではあり得ない光景に魅入っている。確かに地下洞窟でコケの放つ光に照らされる大規模な滝なんて見れるもんじゃないもんな。

 水月さんやアーサーも結構気に入っているようだ。フラムも景色の中継をしてたって話だし、この2人も興味を示している。うん、ルストさんの観察眼は侮れないのは良く分かった。


 そうしてフラムのHPは全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。とはいっても、すぐにルストさんに作ったリスポーン位置から進化して出てきたけども。

 おー、大きさはあんま変わってないな。進化前より色が少し薄くなって、薄めの黄色の体表を電気が走っている。あー大きく変わった特徴的なのは稲妻模様が胴体にあるくらいかな。まぁヒノノコの進化に比べると極端な変化は無い進化のようである。


「フラム兄、どうなった?」

「完全に魔法型になったな。『ライノコ』から『魔ライノコ』に進化したぜ」

「へぇ? ま、進化したならさっさと進むぞー!」

「反応軽くね!?」


 いやだって、大体想像出来てたしさ。思ったより見た目の変化が少なかったから、インパクトもそれほどない。名前が『魔ライノコ』って分かったのが成果くらいか。流石にそれ以上の詳細は聞いても駄目だろうしね。

 進化したフラムはルアーのPTに再加入して、進化に関わる一連の作業は終了だ。さてとこれから調査もあるからのんびりもしていられないね。何かを話すとしても移動中で良いだろう。


「ルスト、少し樹洞を借りるぞ。今のうちにここまでのまとめ作業と報告をしておく」

「えぇ、どうぞ」

「あー、俺もやっとくか。分かれ道の調査は任せた!」

「それでしたら樹洞投影で私の視界を表示しておきましょうか?」

「あぁ、それがあったな。なら、それを頼む」

「了解しました。『樹洞投影』!」


 そうしてベスタとルアーは今までの調査経過の報告やまとめ作業を行う為にルストさんの樹洞へと入っていった。まぁ分かれ道の調査とかなら俺達だけでも充分だよな。

 なんとなくの予想だけど、多分異変はない気もするしね。精々、ここまで見てきたように残滓が瘴気強化種に変わっているくらいなもんだろ。とはいえ、油断し過ぎて足を掬われても堪らないので、警戒はしておこう。


「それじゃ確認しつつ進んでいくぞー!」

「「「「おー!」」」」



 そして南へのルートへ進み、分かれ道がある度に外れの方へと行っていく。行き止まりには予想通りの瘴気強化種になっている未成体がいるくらいで、特別変わった事はない。違う点といえば、こちらから攻撃しなくても攻撃してくるようになっている事と、少しだけ耐久性が上がっているくらいだろうか。

 あとは基本的に洞窟内の敵は分裂するコウモリはコウモリのまま、外に出た翼竜とは別系統の進化をしていた。


 時々あった虫エリアはフラムとハーレさんが盛大に拒否したのでスルーである。その点は少しだけルストさんが残念そうにしていた。まぁその辺に理解はあるようで無理に主張はしてこなかったから、問答無用で好き勝手している訳ではないようだね。


「いやー、虫エリアは残念ではありましたが、思った以上に楽しいですね! 流石は灰の群集の『ビックリ情報箱』と呼ばれているPTなだけはありますね」

「あ、それはケイのあだ名かな」

「え、そうなのですか?」

「そうだぞ。俺らはケイ程じゃないって」

「いやいや、そこは断固として否定する! アルもサヤも色々やってるじゃん!」


 シレッと俺だけのあだ名にしようと誘導しているけども、そうはさせるか! 同じPTなんだし、一蓮托生だろう! っていうか、赤の群集にもそのあだ名は伝わってるの!?


「ふむ……? 私の見た限りですと、PTに対してのもののような気はするのですが……。ベスタさん、その辺りは実際どうなのですか?」

「あー、ケイだけじゃ確実に発見し切れない情報も混じってるから実情としてはPTのあだ名だな。だが、ケイのが飛び抜けて派手な分だけそっちに印象が寄ってる感じだ」

「なるほど、そういう事ですか」


 よし、ベスタは正しく実情を認識してくれているらしい。……まぁ俺がみんなに比べると派手なのは間違いないから仕方ない側面はあるけど、それを受け入れるかどうかは別問題だ。


「私達もビックリ情報箱だったのー!?」

「あはは、まぁそうだよね」

「ちっ、ケイだけに押し付けておきたかったんだがな」

「アル!? そんな事を狙ってたのか!? もしかしてサヤもか!?」

「……あはは、バレたかな?」

「よし、何が何でもPTのあだ名に変更させてやる!」

「……ケイ、その場合だとケイ個人に別のあだ名が付く可能性もあるが良いんだな?」

「ぐっ、その可能性もあるのか!?」


 確かにPTのあだ名に変更させたら、俺に別のあだ名が付く可能性は否定出来ない。それにしてもアルとサヤはわざと押し付けてたのかよ! まぁ、何となくそんな気はしてたけどね……。

 

「ん? ザックからフレンドコールか」

「お、何か変化があったのか?」

「確認するから少し待て。ザック、どうした? ふむ、なるほどな。今、まだ不完全ではあるが討伐方法のまとめを上げるから、それを見て対処してくれ。あぁ、そうだ。任せたぞ」


 どうやら何かあったのは間違いないようである。今のベスタの発言的にエンの分身体の時間経過での復活があったのだろうか? っていうか、まとめやら報告をしながらでもベスタは普通に会話に入ってくるんだな。


「ザックさんはなんだって?」

「報告が2つだな。後発組がヒノノコを突破しつつ、最初の転移地点に辿り着いてきた。そしてエンの分身体が再出現したそうだ」

「あー、復活するタイプなのか」

「そのようだな。……時間的に復活には1時間ってとこか」

「ん? あ、もうそんなに時間経ってたのか!?」


 言われてみて、時間を見てみればもう少しで17時というところである。ミズキの森林を出発してから2時間以上経っている事になるのか。……思った以上に後発組が時間かかってる?


「どうやらヒノノコに結構殺られたらしいな。殺られるのを前提とした、ヒノノコの足止め部隊を用意しているそうだ」

「え、そんなにやばいの?」

「そりゃ昇華魔法でしか防げない魔法を使ってきてたんだからな」

「……そういやそうだった」


 あの攻撃力は俺でもヤバイくらいだったんだから、そりゃ厳しいか。うん、ヒノノコはどう考えても瘴気を減らして弱体化させるのが大前提の難易度っぽい。現時点で一番キツイのってもしかして常闇の洞窟入りだったりするのかもしれないね。


 そうなってくるとイベント期間中は常闇の洞窟から迂闊に戻らないのが正解かな。それでみんなで手分けして、壊れた金属塊の修復を行い、瘴気の量を減らすのが重要みたいだね。分かれ道の方は予想していた通り、特に何もないので先に進むのが正解かもしれない。


「今度は招き猫からか。……討伐は終わったか? そうか、すぐに向かうから待機していてくれ」

「招き猫さんはなんて?」

「エンの分身体の討伐は完了だそうだ。詳細は後からだとよ」

「それじゃ、とりあえず合流だな」

「あぁ、そうなるな」


 俺たちの方では分かれ道では特に何もないという情報は手に入れたし、招き猫さん達も成果はあったっぽい感じだね。そして後続組もやってきたから、次の攻略へと移行だな。さぁ、頑張るぞ!

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