第316話 フラムとアーサーの成長


 融合進化でイノシシとコケの融合したアーサーと、拘っていた苦手な近接ではなく魔法攻撃へと方向性を定めたフラムがエンの分身体へと立ち向かっていく。アーサーは今ので未成体へと進化したけど、フラムはまだ成長体か。

 ま、転生進化が必要なのだとしたら即座に進化できるとも限らないからな。多分フラムのツチノコには既に魔法の適性はありそうだし、そこから強化するとなれば転生進化なのだろう。


「ベスタ、ちょっとだけ手助けしてやってもいい?」

「……何となくは想像がつく。まぁ進化の際に通知は行っているだろうし、その程度は良いだろう」


 何をとは言ってないけど、ベスタには俺が何をしようとしているのかが大体伝わっていたようである。それにしても融合進化した時に通知があるんだね。それは初めて知ったよ。

 まとめで融合進化の際に統合・改変されるスキルがあるという情報はあった。その一例でコケの『群体化』が周囲のコケと一体化する『群体同化』に改変され、『群体内移動』と『群体化解除』を統合・改変したものが『コケ渡り』という事も分かっている。

 つまり、コケと融合進化したアーサーにはこれが使えるようになっているはず。まぁベスタが使っているのは見た事あるしね。


「ハーレさん、アーサーに小石を!」

「ケイさん、あれだね! アーサー君、これに増殖を使って!」

「え? これに増殖……? コケのアニキ、なんで増殖?」

「良いからやってみろ。それで分かるはずだ」

「『増殖』! そっか、これがベスタさんのあれなんだ!」


 ハーレさんがアーサーの目の前に軽く投げた小石に、言われるがままにコケを増殖させていく。そしてアーサー自身も何が出来るのかに気付いたようである。まぁ増殖させなきゃ、周囲には決してコケが多いとは言えない場所だしな。



 さてと、エンの分身体の方は俺とアルのルートレストレイントで根の大半は封じてはいるけど、ダメージにはなってないからな。2人が本格的に方向性を定めたし、本格的な攻略といこうじゃないか。


「もう2人の覚悟はよろしいようですね。では全力で参りましょう。『硬化根』『根槍乱れ突き』!」

「ちっ、ルストはあの2人の覚悟が決まるのを待ってた訳か! どういう観察眼をしてるんだか……。『回鱗刃乱舞』!」


 ルストさんはフラムとアーサーを待つ為に手を抜いていたと……。ルアーも言ってるけど、その辺の観察眼が凄まじいな。

 そして本格的に攻勢に移ったルストさんとルアーのスキルは初めて見るスキルである。ルストさんは硬質化した根を槍のように尖らせて、ルアーは複数の高速回転して切断力のある鱗を数枚飛ばしていき、俺らが捕縛し損ねた分身体の根を切り飛ばしてしていく。

 2人とも狙いは正確で少しも外す様子はない。よし、俺とアルで抑えている根以外は排除出来て突破口が出来た!


「サヤ、水月さん、突っ込め!」

「分かったかな!」

「そうですね。行きましょう!」


 そして突破口を駆け抜け、サヤと水月さんがエンの本体の根との接続部分に辿り着いたようである。まぁちょっと正確に見えないので、多分だけど。分身体の背後側みたいだから、直接見えないんだよな。


「これはどうかな!『爪刃乱舞・風』!」

「やはり効いていませんか」

「やっぱり灰の群集じゃ無理かな!?」

「そのようですね。では私が『爪刃乱舞・風』!」

「水月さん、ナイス! みんな、切断は出来たよ!」


 予め予想はしていたけどもサヤの攻撃は通じず、水月さんの攻撃により根の分断に成功したようである。サヤは灰の群集のダメージが通らないという特徴から効果がなかったけど、これは仕方ないだろう。


「この状態なら! 『爪連撃・風』『双爪撃・風』『爪刃乱舞・風』!

「私はチャージに入ります! 『重爪斬・風』!」


 そしてダメージが通らなかった事による鬱憤を晴らすかのように、サヤの巨大な爪とそこからの風の追撃の刃が次々とエンの分身体を切り刻んでいく。招き猫さん達が確認したように本体から切り離してしまえばダメージを与えるのは問題ないようだ。


 おっと、そうしている内にルートレストレイントの効果時間切れか。さて、ここからは俺達も攻勢に回れるな。やっぱり木だからHPは多いようで、まだ2割ちょっと削っただけか。

 そして、俺とアルで拘束していた根も活発に動き出していた。うーん、この根は地味に厄介だ。攻撃よりも主に防御と妨害に使ってくるのか。エンの分身体は思ったほど攻撃的ではないようである。


「わっ!? また根かな!?」

「邪魔はさせないぜ。『ポイズンプリズン』!」

「……意気込みはいいけど、成長体だと厳しそうだね。ここは任せて。『並列制御』『氷の操作』『アイスプリズン』!」

「……すげぇ。魔法と操作でこんな事が出来るのか」


 ヨッシさんが氷の操作によって、檻の中に閉じ込めた根を挟み込むように檻の隙間を狭めていく。へぇ、そんな使い方も出来るんだな。フラムも感心しているようだし、ヨッシさんナイス!

 さて、俺も盛大にやりますかね! 進化の方向性と覚悟を決めた2人に餞別だ。操作系スキルの本領を見せてやろう。


「アーサー、魔力集中と猪突猛進で勢いつけて攻撃準備をしてろ。ハーレさん、狙撃準備よろしく」

「了解です!」

「え、コケのアニキ? ……うん、分かった! 『魔力集中』『硬化』『猪突猛進』!」

「ヨッシさんは俺の攻撃に合わせて、解除よろしく」

「盛大なのをやるんだね、了解」


 俺の指示通りに強化して走り回っていくアーサー。自分では止まれないみたいだけど、この場合にはそれはさほど関係ない。猪突猛進は発動して効果が切れるまでの間でも他のスキルは使えるってどっかで見たしな。

 確かまとめを眺めてた時だっけな? 微妙な隙間時間や行動値の回復中とかに見てるから、その辺はちょっとあやふやなんだよな。


 まぁその辺のどこで見たかとかは別にいいや。さーて、その邪魔な根は焼き切ってやろうじゃないか!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を20消費して『光の操作Lv2』は並列発動の待機になります>  行動値 28/52(上限値使用:4)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を4消費して『閃光Lv2』は並列発動の待機になります>  行動値 24/52(上限値使用:4)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 閃光を操作できる時間は一瞬。その一瞬で威力は少し落ちるだろうけど光の収束率を甘めにして、命中する範囲を上げてやる。よし、これでいける!


「ヨッシさん、今!」

「了解!」


 即座にヨッシさんが氷の檻を解除して、俺の光の収束レーザーが根を焼き切っていく。……思ったほど範囲は広くはならなかったけど、狙い自体はそうズレてはいない。真っ直ぐ貫通の予定だったけど、少し下方向にズレてしまったか。

 まぁこの程度なら許容範囲だな。邪魔な根は貫通したり千切れかけたりして大きく隙間が出来てるし、分身体までの狙撃の射線の確保は成功だ。とはいえ、確実に当てるのはハーレさんの技術頼りになる。


「ハーレさん、分身体を狙って狙撃! アーサー、コケ渡りで突っ込め!」


 あ、そう指示したけどもエンの分身体が水分吸収をし始めて、根が再生され始めていく。これ、意外と回復が早い!? いや、根の向こうにはチャージ中の水月さんもいるし、今気付いたけどシレッとライさんがエンの分身体に引っ付いていたから大丈夫か。


「私の弟の邪魔はさせませんよ!」

「ま、ここはやらせてやるべきだよな。『腐食毒生成』『ひっかき』!」


 そして水月さんがまだチャージ中ではあるけどもエンの分身体に1撃を加え、ライさんが腐食毒で回復を阻害していく。いつの間にそこにいたのか分からないけど、ライさんグッジョブ!

 なんだかんだで俺のレーザーとかサヤの連撃とか含めて、今のでHPは半分を切っている。HPが多いとはいえ、こっちも攻撃力はあるからな。


「2人ともナイスだ! そのまま行け!」

「よーし、行くよー! 『狙撃』!」

「分かったよ、コケのアニキ! 『群体同化』『コケ渡り』『重突撃』!」


 ハーレさんが分身体に向けてアーサーの増殖させたコケ付きの小石を投げ、そこにアーサーがコケ渡りで擬似的な瞬間移動を行ってそのまま勢いに任せて突っ込んでいった。根が邪魔とはいえ、視界は阻まれるほどではないから小石さえ抜ければコケ渡りには問題なかったようだ。

 それにしても近くにあったコケを上手く群体同化に利用したな、アーサー。よしよし、まだまだ荒削りではあるけど意外と猪突猛進とコケ渡りの相性が良さそうだ。こうやって見てるとアーサーがどんどん成長していくね。


 ともかくこれでHPは3割を切った。残りはリーダーに任せようかな。このHPの減り方なら、もう準備を終えたベスタの攻撃で削り切れるだろう。


「良くやった、アーサー。これで終わりだ!」


 そしてずっと姿を消していたベスタがエンの分身体の背後に現れ、眩い赤みがかった銀光を帯びた強烈な一撃を加えていく。木の弱点となる火属性の強烈なベスタの重爪斬でエンの分身体のHPは全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。


<ケイがLv8に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<ケイ2ndがLv8に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


 よし、レベルアップだな。とりあえずちゃんと連携して、効果的な攻撃を与えれば倒せない事もなさそうだね。


「アーサー、やったな」

「うん、俺頑張ったよ!」

「……アーサーに比べて俺はまだまだか」

「フラムも頑張っただろ。進化階位の差は仕方ねぇって」


 実際問題、進化階位の差があればダメージを与えるのは絶望的である。それにフラムは近接から魔法へと方向性の変更にはかなり迷ってたみたいだしな。得手不得手があるのは仕方ないとしても、拘りを変えるのも中々覚悟が必要だっただろうしね。

 


 そうやって話しているとベスタが見学していた招き猫さん達の方へと近寄っていく。あー、差異の確認かな?


「招き猫、差異はどうだ?」

「あーうん。プレイヤースキルの水準が違い過ぎて、全然別物だね。私達じゃ、あそこまで一方的には出来ないもん」

「……確かにほぼ初見であれだけやられたらなー」

「でも攻略パターンも分かってきたし、もうちょい工夫すれば行けるんじゃないか?」

「赤の群集の人なら案外あっさりと根の切断が出来てたしねー。ベスタさん、次のやつは私達で再チャレンジしてもいい? まだ纏浄と纏瘴効果時間の人もいるから、その時間中に試しておきたいんだけど」

「あぁ、構わないぞ」


 プレイヤースキルの問題で、そのままでは攻略方法としては適応出来ないけども次で調整をするようである。まぁプレイヤースキルの高い人ばっかりだったし、その辺は仕方ないかな。

 そういう違いも考慮した上で、次のエンの分身体の相手は招き猫さん達になりそうな様子である。まぁ色々と試してみるのは重要だろう。それに纏属進化の効果時間も勿体無いもんな。


「他に気になる点はあるか?」

「そうだねー。私達の時はもっと攻撃が苛烈だったよ。あんなに防御的ではなかったね」

「いや序盤はあんなもんじゃなかったか? 攻撃が苛烈になったってのは纏浄を使った後じゃね?」

「あー、そういやそうだったな。そうか、通常の場合だと根は異常なほどに防御的だけど、纏浄で攻撃頻度が極端に増すのか」

「それなら、纏浄を使うなら防御やHPの高い種族で惹きつけるのがあり? その隙に赤の群集の人が根を切断とか」

「そうかもな。ついでに根の排除にも向いてそうだな」

「逆に纏瘴は擬態や隠密持ちで、腐食毒を打ち込むのもありっぽいよな」

「纏浄で攻撃を誘発させてその隙を付くか、纏瘴で防御をすり抜けて攻撃するか、そのまま力技で押し切るかの3つか?」

「そだね。ありとなしで比較してみたら攻略方法が見えてきた!」

「よーし、それじゃ次の地点に行くまでに役割分担決めとくよー! 次は主力級でなくても倒せるかの確認だー!」

「「「「「「おー!」」」」」


 エンの分身体は木だからHPは多いには多かったけど無茶苦茶HPが多くて削るのが大変という訳でもない。集まっているみんなが気付いた点を上げていき大体の傾向も掴めたので、これなら次で攻略法は完全に確立出来そうだ。

 まぁ再出現する事が無ければあまり意味はないけど、その辺はまだ未知数だしね。やれる事はやっておくべきだろう。




【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:支配ゴケ

 所属:灰の群集


 レベル 7 → 8

 進化階位:未成体・支配種

 属性:水、土

 特性:複合適応、支配


 群体数 150/4900 → 150/5050

 魔力値 178/178 → 178/180

 行動値 24/56 → 24/57


 攻撃 62 → 64

 防御 86 → 89

 俊敏 66 → 68

 知識 122 → 127

 器用 128 → 134

 魔力 170 → 177




 名前:ケイ2nd(ログイン不可)

 種族:傀儡ロブスター

 所属:灰の群集

 

 レベル 7 → 8

 進化階位:未成体・傀儡種

 属性:なし

 特性:打撃、堅牢、傀儡


 HP 4154/4950 → 4154/5150

 魔力値 83/83 → 83/84

 行動値 44/44 → 44/45


 攻撃 141 → 148

 防御 134 → 141

 俊敏 106 → 112

 知識 52 → 54

 器用 52 → 54

 魔力 27 → 28


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