第315話 見ている人はいる
初めの転移地点から出発して、もうすぐ次の転移地点へ辿り着く直前までやってきている。敵に関しては至るところにある分かれ道から無作為に襲いかかってきていた。どうやら1つの連結PTに敵が偏り過ぎない様に行動パターンが組まれているような感じである。
「……はぁ、やっぱりこのメンバーじゃ俺って役立たずだな」
「まぁフラムだしな」
「ケイ、ひでぇ!?」
そう言われても実際のところ移動中の戦闘では、体当たりをしにいけば外して洞窟の壁面に当たって勝手に朦朧の状態異常になったり、サヤや水月さんの連携の中に紛れ込んでぶっ飛ばされたり、無駄に跳ねてハーレさんの投擲の邪魔をしてたしな……。
うん、言っちゃ悪いけど正直あれは邪魔だった。時々魔法を使ったら、そっちは結構良かったのにね。やっぱりフラムには近接が徹底的に向いていないだろう。
赤の群集の平原に行った時はそれほど気にならなかったのは敵が多かったからかな? それか俺が半覚醒に集中してて、フラムの近接のポンコツっぷりを見てなかっただけかもしれない。
「……そういえばフラムさんの1stは不動種という事でしたよね?」
「ん? そうだけど、それがどうかしたか?」
「いえ、私達の赤のサファリ同盟には不動種が1人しか居なくてですね。どうです、赤のサファリ同盟に来て中継役をするというのは? もちろん中継以外でもあちこち一緒に行っても問題ありませんし、歓迎しますよ」
「え……?」
「いえね、先日の中継を見ていたり、灰のサファリ同盟を見ていて少しは思ったのですよ。そういう関わり方もありなのではないかとね」
「……ルスト、そんな事を考えてたのか。ただのマイペース集団なのかと……」
「ルアーさん、地味に失礼ですね。まぁ私は大半はどうでもいいんですが、私達のリーダーがそういう事も考えていたようですので……。それに思っていた以上にプレイヤーの動きを撮るというのも面白いという事も分かりましたしね」
そんなルストさんの発言にルアーが驚いていた。そして勧誘されたフラム自身も声を失っている。あのルストさんがリーダーの人が言っていたからといってこういう発言をするのは驚きだね。
プレイヤーの動きってところで俺の方を見ていたような気もするけど、木だから視線が分かりにくいな。まぁ思いっきり俺が観察対象とか言ってたし、気のせいじゃないんだろうね。
あ、固まっていたフラムが動き出した。少し状況を理解するのに時間がかかっていたようである。まぁいきなりだったし、ちょっと凹んでいる様子の時に最近まで表に出ていなかった強者集団に勧誘されたら、そりゃ思考も固まるか。
「え……? 俺なんかで良いのか?」
「誰でも良いとは思ってはいませんが、フラムさんの不動種としての評価は聞いていますからね。戦闘だけでなく、自然の風景とかも色々と中継しているそうではありませんか」
「あれは、俺も色んな景色を見てみたかったからってのはあったし、荒れてた状態で他のプレイヤー達の気晴らしになればと思ってやってたんだよ……。そんな大したことじゃ……」
「いえいえ、その色んな景色を見たいという気持ちがあれば問題ありませんよ」
へぇ、フラムってそんな事もしてたんだ。近接はさっぱりみたいだけど不動種としての評価は高くて、冒険もしたいとなればそれほど悪い話でもなさそうだ。それに地味に鍛えられそうでもある。不動種だからといって毎回待機していなければならない訳でもないだろうしね。
「水月さんとアーサーさんもどうですか? 色んな場所の開拓は楽しいですよ」
「私達もですか? 私としてはその辺りには興味が出てきていたところなので、ありがたい話ではありますが……」
「俺は、色んなとこに行ってみたい! それで色んなものを見て、色んな事を知ってもっと強くなるんだ!」
「誰もまだ行っていない所に行きますからね。嫌でも強くなりますよ」
フラムは困惑しているけども、どうやらアーサーと水月さんは割と乗り気のようである。っていうか、水月さんってサファリ系に興味を持ってたのか。まぁ水月さんは初心者とは思えない強さだけど、一応初心者だし興味を持つプレイスタイルがサファリ系だったという事でも不思議はない。
「……ちょっと考えさせてもらっても良いか?」
「えぇ、構いませんよ。あ、ルアーさん、別に勧誘は問題ないですよね?」
「ま、その辺は個人の自由だからな。勧誘に関しちゃ問題ねぇよ」
「あれ、これってサファリ系に興味ありゃ、参加しても良いのか? それなら俺もー!」
「本当に興味があるのであれば、問題はありませんよ。ただし、興味もないのに情報目的だけで来ても相手にしませんからね? 大して興味もないのにそういうのが増えた場合には、私達は所属替え検討しますので。例えば今のようにね?」
「うげっ、見抜かれてる!? それならやっぱり止めとく。ルアー、今の通達しといたほうが良いぞー!」
「……みたいだな」
フラムは少し悩んだ後にそんな結論を返していた。ま、即答すべき内容でもないだろうし、じっくり悩め、フラム。その話は決して悪い話ではないと思うぞ。
それにしてもライさんは情報狙いを少し企んでいたのか。そしてサファリ系に興味を示さない人には容赦はない訳だ。赤の群集としては下手な行動を取らないように注意しなければならないっぽいね。
うーん、灰のサファリ同盟とは相性が悪そうな気がするってのは訂正だな。活動の方向性は違っても仲良くなれそうな雰囲気だよ、これは。
「あー、そろそろ次の転移地点に着くから勧誘話は切り上げてもらっていいか?」
「そうですね。では、エンの分身体とやらを拝見しに行きましょうか!」
「クセが強いな、赤のサファリ同盟ってのは……」
「まぁな……。だけど、全力で楽しんでるだけなんだよな、あいつら」
ベスタもルアーも呆れた感じではあるけども、確かにルストさんの行動は全力でこのゲームを楽しんでいるだけだ。赤のサファリ同盟がこうして勧誘を行うようになったという事もあり、ウィルさんのあの行動は間違ってはいたけども決して無駄ではなかったという事なのだろう。
さてと、そんな話をしているうちに転移地点に到着だ。俺らはまだ敵になったエンの分身体とやらを見てないからな。どんな感じなのだろうか。
平常時では地下湖があって、そのすぐ側にエンの分身体の木が青白い光を放って神秘的に照らしていたこの場所も今はその光景は見る影もない。……真っ黒に染まり、禍々しい光を放つ歪な形へと変化したエンの分身体がその場を支配していた。
「うー! ここ、綺麗だったのにー!?」
「この退廃的な雰囲気もまた一興! ……ですが、その綺麗な時も見たいものですね」
「赤の群集ではどうだったのー!?」
「いえ、実は色々面倒だったので常闇の洞窟の踏破については私は後回しにしてまだ行っていないのですよ。簡単に転移で行けるようになってからは、余計に後回しになってましてね?」
「へぇ、そういう事もあるんだな? その時ってルストさんは何処に行ってたんだ?」
「陸路で他の初期エリアへですね。徹夜で目指していたというグループもいくつかいましたが、私達は道中の景色を楽しみながらのんびりと進んでいましたよ」
「へぇ、そうなのか」
陸路での移動も何グループかが同時に動いていたっぽいね。レナさんとはその途中で会ったとかそんなとこなのかもしれない。
「喋ってるのは別にいいが、油断はすんなよ!」
「えぇ、しませんとも。『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
そしてルストさんが分身体から伸びてきていた多量の根を、自身の根で縛り上げ攻撃を封じていた。さぁ、戦闘開始だ! みんなも戦闘態勢に移っているし、まずは識別だな。
<行動値を3消費して『識別Lv3』を発動します> 行動値 49/52(上限値使用:4)
『エンの分身体』Lv3
種族:暴走した群集拠点種(分身体)
進化階位:未成体・群集拠点種(分身体)
属性:樹、瘴気
特性:灰の群集の拠点、分身体、瘴気汚染
うおっと、ここに来るまでの間に戦ってた人達から詳細は聞いておいたけども、聞いてた通りに今までと全然違う情報だ!? 瘴気強化種でも黒の暴走種でもなく、暴走した群集拠点種ときたか。
流石は群集拠点種が元になっているだけあって、扱いは別物って感じだな。でも、分身体だからLvは随分と低めに設定されているね。これならそれほど強くもなさそうだ。
「識別情報は聞いてた通りだ! ベスタ、どう戦う?」
「……そうだな。招き猫達がやった手段でも構わないが……よし、纏瘴も纏浄も無しで戦ってみるか」
「了解さー!」
「確かにそれはそれで必要だよな」
多分結構な人数があの2つのアイテムを交換しているとは思うけど、確実に使える状況ばかりとは限らないからね。無しでも倒す事が可能なのかは確認しておいた方がいいだろう。
それに招き猫さん達も全員が戦っていた訳じゃなく、2PTの連結で戦っていたもんな。そもそも増援が要らなかったっていうね。
「ベスタさん、参戦はどのくらいの人数でやるのー!?」
「ここは俺らの連結PTだけでいい。招き猫達は前の戦闘の時との差異があったら教えてくれ」
「過剰戦力になりそうだし、それは了解です! 違うとこがあれば報告だね、みんな見落とさないようにね!」
「おうよ!」
「そもそもこのメンバーの戦闘を見逃すのも勿体無いしね」
「そりゃ確かに違いねぇ!」
他の先遣隊のメンバー達はワイワイと騒ぎながら見学状態に入っていく。まぁ、さっきの戦闘との差異を確認してもらうには必要だろうしね。
「話は纏まったようですね。それでは根を離してもよろしいですか?」
「もう少し抑えておいてくれ」
「えぇ、分かりました。ですが、意外と力が強いのでお早めにお願いしますよ」
「……そうか。サヤと水月は本体の根との接続を切りにいけ! ルアー、アーサー、フラム、ルスト、根を切り離すまで攻撃を叩き込め。他の連中は妨害、各自の判断で動け!」
「分かったかな、水月さん! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
「えぇ、行きましょう、サヤさん! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
「くっ、これ以上は抑えられませんね。意外と力がありますよ!」
「充分だ、ルスト。『魔力集中』『闇纏い』『ファイアクリエイト』『操作属性付与』『重爪斬・火』!」
ベスタの指示を受けて、即座にサヤと水月さんが動き出す。これは同じクマで群集による根へのダメージの違いの検証ってとこだろうね。そしてルストさんが縛って抑えていた根が自由を取り戻していった。
そしてベスタは闇の中に姿を消していく。……闇纏いを使っていると、応用スキルの銀光も隠れるのか……? いや、まだLv低いのか薄っすらと赤みを帯びた銀光は見えてはいる。
「わっ、根が邪魔かな!? 『爪刃乱舞・風』!」
「……そうですね。『爪連撃・風』!」
勢いよく飛び出して行ったサヤと水月さんだけども、即座にエンの分身体が多数の根を動かして進行方向の妨害をしてきている。流石に根の数が多いのと、サヤのダメージは通っていないので見事に足止めされていた。
現時点で灰の群集ではダメージが与えられないなら、俺達は妨害に特化した方向性でいくか。ダメージは通らなくても拘束系魔法は有効だ。でもただの根の操作では力負けするとなれば、うじゃうじゃと動いている分身体の根を複合魔法で拘束してしまおうか。ダメージが通るなら焼き払いたいとこなんだけどね。
「アル、樹木魔法Lv3!」
「おうよ! 『コイルルート』!」
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 48/52(上限値使用:4): 魔力値 175/178
<『複合魔法:ルートレストレイント』が発動しました>
よし、これで7割くらいの根を縛り上げられた。ルートアクアスフィアで閉じ込めたかったとこだけど、敵の根が繋がっているからあっさり脱出されそうなんだよな。敵の状態に合わせて、拘束魔法は種類を変えないと駄目ってことさ!
「おいおい、それってルストの拘束よりも強力じゃねぇか!?」
「そのようですが、私は拘束よりは攻撃が主体ですからね。さて、どうしましょうか」
「残りの根は俺達で片付けるしかねぇよな。『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『回刃鱗・風』!」
「まぁ、そうなりますか。では手始めに『根の操作』!」
「器用な真似はしてるけど、地味に手を抜いてないか!?」
「いえ、まだ全力を出すには少し早いかと思いまして」
「何言ってんだ、ルスト!?」
そしてルストさんがルアーの攻撃が確実に当たるように、エンの分身体の根をルアーの飛ぶ鱗に向けて弾いている。うん、器用な事をしてるのは間違いないけど、絶対ルストさんはもっと効率よく攻撃出来るよね!? 何を出し惜しむ要素があるんだ?
「フラム兄、俺達も行こう!」
「いや、突撃はアーサーだけで行ってこい」
「えー、フラム兄、なんでさ!?」
「俺も方向性を決めたんだよ。これが俺の答えだ! 『エレクトロプリズン』!」
ん!? ここに来て近接に拘ってたフラムが魔法を使っただと!? ルストさんから赤のサファリ同盟に誘われた事もあって、何か吹っ切れたのか? ……それ自体は良いんだけど、木相手に電気魔法の拘束はどうなんだ……?
「フラム兄!? そっか、無理に拘る必要ってないんだよね。コケのアニキ!」
「どうした、アーサー!?」
「俺、決めた! 融合進化にする!」
「そうか。自分で決めたならそれでいい!」
「うん! 『融合進化』!」
そしてアーサーがその場で融合進化を実行した。アーサーは白い膜に覆われていき、そしてその膜が砕け散り進化が完了した。そういや白い膜の場合って何属性だ? 属性なしかな。
まぁいいや。進化を終えたアーサーの姿は少し大きくなり、背中以外にも脚の周囲や頭部にかけてコケが融合していっていた。
フラムとアーサーがそれぞれに決意を固めたようだし、とりあえずサクッとこのエンの分身体は仕留めてしまおうか!
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