第314話 初めの転移地点
凄い速度で駆け抜けながら、道中の敵を始末して先へ先へと進んでいく。さて、ここを抜ければ最初の転移地点だな。入り口に近付いていくと、戦闘音や発光か火魔法の灯りらしきものも見えてくる。よし、何とか増援には間に合ったか?
「もう少しだ。一気に畳み掛けろ!」
「『強爪撃・浄』!」
「これで止め! 『重脚撃・浄』!」
「おっしゃ、何とか仕留めたぞ!」
そして辿り着いた時には、禍々しい雰囲気へと変貌していたエンの分身体の木がポリゴンとなって砕け散っていく様子であった。あー、間に合ったかと思ったら微妙に間に合わなかったか。増援なしで充分倒しきれたようである。
「お、ベスタさんと『ビックリ情報箱』のPTのみんなと、連結してる赤の群集の人達だねー! 丁度片付いたよ! ごめん、全然増援は必要無かった」
「招き猫、お疲れさん。増援に関してはそのようだな。とりあえずここでの戦闘の状況を教えてもらえるか?」
お、先に行っていたネコの人だな。えーと、招き猫さんか。名前は何度か見たことあるし、チャットでも見かけた事はあるけど直接こうやって対面するのは初めてだね。
そしてどうやら戦っていたのは精々2PTくらいという感じである。思ったほどの脅威ではなかったようである。
「うん、まずは敵の情報ね。エンの分身体の木だけど、これは完全に意識なしで半覚醒にはならないよ。ただし、エンの根と繋がってる間は灰の群集のダメージはほぼ通りません! ボス戦の参加回数にも加算されません!」
「……ちっ、そうきたか。それでどう対処した?」
「えっとね、灰の群集の方で纏浄を使って攻撃を引きつけて、赤の群集の方で纏瘴で被弾を下げながらエンの本体の根から分断だね。そうすればただの瘴気強化種になるから、纏瘴中の人が妨害や回復支援に動いて、纏浄中の人が削り切ればいいよ」
「なるほど、そういう攻略方法か」
「うん。これ、纏瘴や纏浄を使って群集でのダメージの違いにさえ気を付ければ1PTでも普通に倒せると思う」
「……そうきたか」
群集で役割を分けて、纏浄と纏瘴を使い分けて行けばいい訳か。回数制限があるとはいえ、人数は多いから無駄に使いまくらなければ大丈夫そうか? 分身体はエンの根から切り離してしまえば普通の瘴気強化種になるって事だし、大人数が同時に使う必要もないだろうしね。
「あ、注意点があるよ! 纏浄での攻撃はHPと魔力値が減って行くから時々回復は必須なんだけど、間違えても纏瘴の人には回復しないようにね!」
「確か、自己回復以外ではダメージがあるのでしたね」
「……そういやそうか。枝の操作の使用には気をつけないとな」
「えぇ、気をつけましょう」
そっか、アルは根が昇華して枝の操作で回復が出来るって言ってたな。ルストさんも回復は持っていると言ってたし、その辺は注意すべき内容だね。
それにしても、単純に回復させてくれないという仕様は曲者である。纏瘴と纏浄の2つの新たな纏属進化は今までのものとは別物として考えた方が良さそうだ。今までのはここまではっきりとしたデメリットは無かったしね。
「それで、倒したらどう変わった?」
「うーん、特には何も? ただのちょっと強いだけの敵っぽいよ」
「……そうか。転移が復活する訳ではないんだな」
「それはちょっと期待したけど、ないみたいだね」
「まぁそれは仕方ないか。それで、ここでの他の敵はどうなっている?」
「あ、どうなんだろ? 他には何もいなかったけど、今倒したばっかだしどうなるかはわかんない」
「それもそうか。なら、少し様子見といくか」
「そだね。それが良いと思うよ」
ここも瘴気の濃度は濃いとはいえ、もし平常時の転移地点の仕様通りならログアウト場所や休憩場所、そして多分リスポーン場所にも設定出来るだろうから、その辺の敵の出現情報は重要である。
参戦する前に終わってしまってたけども、それは俺らがヒノノコと戦って出遅れたのが理由だから仕方ないしね。俺らのヒノノコとの交戦情報も、先に行ってた招き猫さん達の得た情報も重要なのは間違いない。
とりあえず、纏瘴と纏浄の用途も少しずつではあるけど見えてきたのは大きいだろう。まだまだ共闘イベントの期間は4日以上あるもんな。序盤の内に用途を洗い出して、無駄使いの可能性を減らしておかないとね。……日付が変わるまでにもし使用回数が残ってたらヒノノコ相手にも試してみるか。
とりあえずエンの分身体が復活してこないか転移地点の様子見かな。そろそろミズキの森林でもPT編成も纏まってきてるだろうし、先遣隊として情報を集めていかないとね。
しばらく転移地点で敵の出現に関して経過観察をしてみたけれど、少なくともすぐにエンの分身体が復活してくる事もなさそうである。まぁ数時間単位で復活してくる可能性は無いとは言えないけど、流石に今はそこまでの確認に時間は割けないね。
「ベスタ、そろそろ良いんじゃないか?」
「……それもそうだな。いや、待て。何か来るぞ、全員警戒しろ!」
「……何が来る?」
ベスタの警告と共に何かが近付いてくる音が聞こえてきた。軽い足音みたいだけど、一体何が近付いて来ている? さっき敵を転移地点へと誘導してみても入ってくる事は無かったけど、それは単なる個体差だったのか?
ここは最大限に警戒していこう。何が出てくるかわからないし、みんなも一気に警戒態勢へと移っていく。転移も使えず移動距離も結構あるから安全圏はあると思っていたけど、そう甘くはないのかもしれない。
そしてみんなが警戒する中に現れたのは草花のプレイヤーだった。っていうか、このタイミングでプレイヤーかい!? 警戒していたみんなもズッコケているしさ……。そりゃ思いっきり警戒しまくってたらそうなるよね!
改めてカーソルは灰色だしそもそも思いっきり見覚えがあるトリカブトの人だけど、何やってるんだろうか……。いや、敵じゃなくて良かったけど。
「ようやく安全エリアに辿り着いた! って、え? これ何事?」
「……なにをやっている、ザック?」
「何って常闇の洞窟で秘密特訓してたら、一気に瘴気が溢れて……って、ベスタさんとケイさん達じゃねぇか! それに赤の群集の人や、他のみんなも!? え、なんでここに? あ、もしかして今回のイベントエリアってここ?」
「……あぁ、そうだ」
「あー、だから敵が一気に増えて強くなったのか。いやー、1人で戦いながら逃げてたからクエストの確認が無理だったんだよな」
タケさん達の姿が見えないし1人と言ってるので、どうやらここにいるのはザックさんだけのようである。っていうか、イベント開始時に常闇の洞窟の中に居て瘴気に巻き込まれたのか。そして本来は安全圏である、この転移地点へと逃げ込んできたと。
「これ、転移地点が使えなくなってるっぽいけど共闘イベントの後半って今どうなってんの?」
「……仕方ねぇか。今の状況はーー」
周囲の様子をキョロキョロと確認しているザックさんであった。そして面倒そうな雰囲気を出しつつも、なんだかんだでザックさんにベスタが説明していく。やっぱりベスタは面倒見の良い灰の群集のリーダーだね。それにしてもタケさん達はいないのだろうか?
少し待てば簡単にだけど、ザックさんへの説明が終わった。まぁ状況が状況だから説明なしってわけにもいかないだろうし、ザックさんも何か情報持ってる可能性もあるしね。
「ふむふむ、群集拠点種が瘴気に呑まれたから帰還の実が使えないんだな! どうも戻ってアイテムを交換してきたほうが良さそうだし、入り口まで走るか。あー、長いけどしゃーないな」
「それなら倒してやろうか? リスポーン位置の設定次第だが、戻れはするぞ?」
「お、ルアーさんだっけ? その案、いいね!」
そっか、赤の群集の人がいるんだからその手があるか。っていうか、それで良いなら適当にそこら辺の敵に倒されれば良いだけ……いや、それ以前にこのエリアの特性的にログアウト可能エリア以外でただログアウトすれば良いだけなんじゃ……?
「……なぁ、ザックさん。ここって、転移地点以外でログアウトすりゃそのまま前にいたエリアに強制送還だぞ?」
「あー!? そういやそうだった!? やっべ、完全に忘れてた!?」
「やっぱり忘れてたんかい! そういやタケさん達は?」
「ん? 今日は都合が合わなくてログイン時間はバラバラだぞ。夜には合流出来るけど、それまで暇なんだよ。で、毒の昇華を狙って鍛えてたとこ。秘密特訓っぽく、常闇の洞窟でな!」
「あー、なるほどね」
「……そうなると、ザックは夜までは暇なのか?」
「ま、そうなるなー。ベスタさん、なんかすることあれば手伝おうか?」
「……そうだな。無理にとは言わんが、ここの監視を頼みたいんだが」
「ん? あー、そういやエンの分身体がどうこうって言ってたっけ。その経過観察?」
「まぁそうなるな。それと後続がこれからどんどん来るだろうから、そいつらにどのくらいの人数がどっちに行ったかを大雑把で良いから伝えてもらいたい」
この今の転移地点からは大きな正解の行き先は2つの方向に分かれている。そしてここから狙える近場の金属塊のある地点へのルートは3つある。それ以外も行けない事もないが、少し遠いだろう。
1つは北側へ行ってその次の転移地点から東へ行くルート。もう1つはこのまま東に向かい次の転移地点から南下して、その次の転移地点から東に行くルート。そして最後は俺らが踏破した海へのルートから分岐するルートだな。
それらの方向にどれだけの人数が向かったか判別して後続でやってきた人に伝える役目をベスタはザックさんに任せたいのだろう。そしてついでにエンの分身体の再出現の可能性の確認もだな。
「オーケー、夜までで良いなら特訓しながら引き受けるぜ。もし異変があったら、報告はどうすりゃいい?」
「すまないな。報告については『共闘戦略板』か『情報共有板』でいい」
「ほいよ。任された!」
とりあえずイベント演出に巻き込まれて孤立していたザックさんにもやる事が出来て良かったね。さてと、問題はここからの行動方針だな。今選べるルートはとりあえず3ルート。
PT的には今ここにいるのは合計で7PTなので、分散しても問題ないといえば問題はないけど、連結PTのみで攻略出来るかどうかはまだ未知数だ。どうするのが効率的かな?
「さて、ここからどう分かれて攻略したものか。全員で同じ場所を目指すというのもありだが、効率は悪くもなるな……」
「はい! ここまで来るの自体は未成体の今ならそう時間もかからないから、みんなで同じルートに行って攻略手順を探るのがいいと思います!」
「纏瘴や纏浄の効果も確認したいとこだし、人数は多いほうが良いんじゃないか?」
「ハーレとケイの意見には一理あるな。よし、異論がある奴はいるか?」
「あー、ちょっと良いか?」
「なんだ、ルアー?」
「基本的にはそれで異論はないんだがよ、フレンドリーファイアはどうすんだ?」
あ、そういえばそうなるね。ふむ、転移地点は広めにはなっているとはいえ、他のエリアに比べると間違いなく狭いからその心配もあるのか。この人数じゃどういう風になるかは確定しきれない。ルアーの心配はもっともだろう。
「ルアーさん、その心配は必要ないと思いますよ?」
「……どういう事だ、水月?」
「私達はそもそも先遣隊です。その目的はまだ知らない情報を得て持ち帰る事であって、初見討伐が必須条件ではありません」
「あー、そういやそうか。……それこそ、安全優先にし過ぎて注意点を見落としてたら意味もねぇんだな」
「えぇ、そういう事です。失敗もまた必要な情報の1つでしょう」
おー、水月さんの言う事は確かにその通りだ。あくまでも俺達は討伐隊ではなく、攻略の糸口を探る為の先遣隊だ。どういう行為をしてはならないか、そういう情報も少なからず必要となってくるだろう。
なにせ各群集に13ヶ所もあるんだ。同じ人が全部を攻略しに行ける訳じゃないし、攻略の為に必要な情報は多いほうがいい。
「……異論はなさそうだな。それではここにいるメンバー全員で同じ場所を目指す。移動に際しては連結PTでは距離を詰めてもいいが、そうでなければそれなりの距離を取れ。情報共有は共闘戦略板の『灰の群集:常闇の洞窟』で行う。各PTで情報確認役を決めておいてくれ」
テキパキと指示を出していくベスタ。さて、初見クリアが可能ならそれがベストではあるけど、水月さんの言う通り色んな情報は必要になるからね。この辺は実際に現地に行ってみないと分からないけど、出来るだけ情報を探っていかないといけないな。
そこからどこのルートへ行くかを決める事になっていく。しばらく話し合った後に、ここから東に行って次の転移地点で南下するルートに決定した。次の転移地点は、アルがエンの根にしがみついて移動した場所である。……あの時は無茶したもんだ。
後から来る人達には、基本的には別のルートを目指してもらうようにザックさんへ伝言と誘導も頼んでいる。まぁあくまで強制はなしの各自の自由判断というのは大前提ではあるけどね。
「それじゃ出発するが、油断はするな。どういう敵がいるかが分からないからな。ザック、任せたぞ」
「おう、任せとけ!」
そのベスタの号令によって、先遣隊は出発を開始した。順番としては俺らの連結PTを先頭に、他のPTが続いていくという形になった。さて、頑張ろう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます