第313話 移動の準備


 増援に向けて出発する事にはなったけども、改めて常闇の洞窟を見てみればただ暗かった以前よりも禍々しい陰鬱な雰囲気が溢れかえっている。ここが真っ暗闇であるというのは変わらないはずなのに、それでも雰囲気はまるで別物だ。


「アルマース、ルスト、樹洞展開にみんなを入れて、一気に駆け抜けるのは可能か?」

「私は問題ありませんよ」

「俺の方も問題はねぇが、この状態じゃ牽引するクジラの速度が出ないぞ?」

「あぁ、そうか。自己強化の発動枠が足りないのか」

「クジラでログインしても、今度は樹洞展開と根脚移動の同時発動出来る枠も、根の操作と水の操作の並列制御も無理だしな」

「……制約に引っかるのでは仕方ないな」


 ベスタの指揮の元、出発準備が進められていく。そういやアルは小型化と空中浮遊を上限発動指示で呼び出しているから、自己強化まで発動するのは無理だね。かといってクジラでログインしても今度は別の理由で無理のようである。

 洞窟内ではそのままのクジラとその背にある木では流石に大き過ぎたから、クジラを小型化して共生式浮遊滑水移動へと切り替えるのは必須そうだしね。俺の水のカーペットは必要ないので解除済み。なんだかんだでおまけ程度に思ってたクジラでの牽引も役立ってるよね。


「……そうなると、これでいくか。サヤ、水月、2人で、アルマースを背負いつつ走れるか?」

「え? 多分大丈夫だとは思うけど、水月さんはいけるかな?」

「……そうですね。おそらく大丈夫だとは思いますが、やってみない事にはなんとも……」

「あー、俺のクジラじゃ速度が出ないからクジラごと引っ張ろうって事か」

「ほう!? それは是非とも見てみたい光景ですね!」

「私も見てみたいー!」


 ベスタも結構無茶な事を考えるもんだね。とはいえ、手段としてはありか。大きさとしては同じくらいのクマのサヤと水月さんがアルのクジラを背負い、木を引っ張っていくのは不可能ではないだろう。それで移動が困難になるほど常闇の洞窟は狭くはない。

 まぁ、クジラの背に木は流石に厳しいけども……。こっちは大きいのに更に大きいのを上に乗せているから仕方ないか。


 そしてサファリ系の2人はこれから始まりそうな珍光景にワクワクしているようである。……そうか、ルストさんはこういう珍光景が俺らのPTで見れるという予測から興味を持って来たんだな。でもこれくらいなら自分達でも出来そうな気はする。


「まぁ、その辺は自由にしろ。ルストは俺が引っ張るが構わないか?」

「いえ、牽引はなくても私は速いですよ?」

「ほう? それなら単独で任せても問題ないか?」

「えぇ、構いませんとも」


 どうやらルストさんは移動速度には自信のある様子である。根脚移動ってそんなに移動速度は速くなかったと思うけど、育て上げればそうでもない……? まぁその辺はお手並み拝見といこうかな。物理型近接の木を見る良い機会だね。


 種族固有のスキルまでは流石に使えないけど、ざっとまとめを見た感じではどんな種族でも物理も魔法もいけるっぽいしね。例外としては不動種くらいだったけど、あれはあれで特殊過ぎるみたいである。


「それでは『樹洞展開』!」

「俺もだな。『樹洞展開』!」


 アルとルストさんがそれぞれに樹洞の中へ入れるようにしていく。まぁ移動種が2人いるならまとめて移動して、長い道中はすっ飛ばして行くのが早いもんな。全員が未成体ならまだしもフラムとアーサーはまだ成長体だしね。


「それで樹洞の中には誰が入りますか?」

「アルマースの方にケイ、ハーレ、ヨッシ。ルストの方にラインハルト、ルアー、フラム、アーサーで良いか?」

「了解っと。それで俺とライさんで光源だな」

「私もありますよ、発光」

「ルストもあるのか。なら3人で光源を頼む」

「ベスタはどうすんの?」

「ルストを引っ張るつもりだったが予定変更だな。闇纏いで気配を消して、奇襲に備えるつもりだ」

「あ、なるほどね」


 へぇ、ベスタって闇纏いが使えるのか。闇纏いの詳細はそんなに知らないけど、暗闇で真価を発揮するみたいな感じだったような気がする。そして地味にルストさんも発光持ちか。蜜柑の木だと蜜柑が光るんだっけ?

 うーん、ベスタに闇属性について聞いてみたい気もするけど、これは赤の群集の人が居ない時にしようかな。……もしかしたら既にまとめに載ってるかもしれないから、聞く前に時間がある時に確認しとこっと。


「並び順はどうする? 流石に木が横に並んでって訳にはいかないだろう?」

「あ、それもそうだな。ベスタ、どうする?」

「先頭はアルマースの方だな。その後ろにルスト、最後尾には俺が行く。光源を自由に動かせられるケイと、近接戦力のサヤと水月が先頭が良いだろう」

「光源を複数作って、前方を照らせばいいんだな。任せとけ」

「あぁ、ケイ任せるぞ」


 俺なら小石にコケを増殖させて光源を増やせられるもんな。……そういやあれってベスタに見せた事ってあったっけ……? まぁ桜花さんやアルのライトアップに使った事もあるから、その辺から知られてても不思議ではないか。


「それとハーレ、ヨッシ、ラインハルト、ルアーの4人には遠距離攻撃を任せるぞ。基本的に停止はなしだ」

「了解です!」

「ま、そうなるよね」

「おっしゃ、任せとけ」

「あぁ、その役目くらいは任せてもらおう」


 基本的には投擲と魔法で対処してノンストップで先に進む訳だね。まぁ先行している人達は既にこの辺では戦ってるだろうし、無理に情報を集める必要もないか。警戒すべきものがあれば自然と目に入るだろうしね。


 さてと役割分担決まった事だし、サクサクと準備を進めていこう。俺の担当は灯りの準備。灯りだけなら生成しなくてもただの小石で良いね。俺は小石は持ち歩いてないけど、こういう時用に何個か持っておこうかな……? とりあえず今回はハーレさんから貰おうっと。


「ハーレさん、小石3個くれ」

「ほいさー!」


 迷う事なく、即座にハーレさんは小石を3個出してくれた。さて、土の操作はLv5になった事で同時操作数が3個に増えたから、活用していかないとね。


<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します>  行動値 52/55(上限値使用:1)

<行動値上限を3使用して『発光Lv3』を発動します>  行動値 52/55 → 52/52(上限値使用:4)

<行動値を4消費して『土の操作Lv5』を発動します>  行動値 48/52(上限値使用:4)


 よし、コケ付き小石を3個の用意が出来た。ロブスターの背中のコケも発光しているから、眩しくならない程度にLv3で控えておく。……うーん、視界が良いとはとても言えないけど見えなくはないか。発光Lv4を使って光の操作で照らす方向性を絞るという手もあるけど、一応今の範囲でも見えるし大丈夫だろう。


 『瘴気の凝晶』か『浄化の輝晶』を使えば、照らすのにも変化があるかもしれないけど使用制限があるから流石に移動の実験の為だけにはまだ使えないんだよね。この辺もどうにか検証したいとこではあるけど、時期尚早な気もする。


「それでは道案内は灰の群集の方々に任せて参りましょうか。『根脚強化』!」

「あー道案内はそりゃこっちの役目だな。ところでルストさん、そのスキルって何?」

「おや、アルマースさんはお持ちではないのですか? これは『根脚移動』での移動速度を上げるスキルですよ。『根脚移動』がLv6になれば手に入ります」

「へぇ、そんなのあるのか。俺はクジラと共生進化にしてからそっちは地味に上がってねぇんだよな」

「クジラとの共生進化も面白いものではありますがね。後ほど、その形態の切り替えをスクショの連写させて頂いても宜しいですか?」

「あー、情報教えてもらったし、それくらいなら別にいいぜ」

「おぉ! ありがとうございます!」


 近接の木という事でルストさんはアルとはかなり違う方向性であるようだ。うん、実に興味深い話だね。アルはどちらかというと木は魔法寄りだもんな。



 そうして着々と出発準備が進んでいく。とりあえずアルのクジラを支えるようにサヤと水月さんも位置について自己強化も発動したし、根の操作での固定も済んだ。他のみんなも樹洞に入ったり、巣にいたりして準備は完了である。

 俺はアルのクジラの背中の上に乗って前方へ光源小石を3個飛ばして、灯りを確保している。さぁ、増援に向かおうじゃないか。


「準備はいいな? 行くぞ!」

「「「「「おー!」」」」」

「いやはや、楽しみですね!」

「フラム兄、俺頑張るよ!」

「おう、ガンバレ……」

「しゃきっとしなさい、フラム」

「あー、微妙に不安を感じるのは気のせいか……?」

「ルアー、それは俺も同感」

「ライもか……」


 なんだか俺らと赤の群集のメンバーでは雰囲気が違うね。まぁフラム達は寄せ集めみたいなとこはあるし、ある意味では仕方ないのかもしれないね。……それに正直ルストさんの行動が読めなさ過ぎるというのはある。まぁ、それでもなるようにしかならないだろうから、やれるだけの事をやるまでだ。



 そしてしばらく猛スピードで常闇の洞窟を進んでいく。以前の海エリアまでの踏破の時とは速度が違い過ぎであった。ルストさんの移動速度もサヤと水月さんの2人での自己強化ありの牽引に匹敵している。

 すげぇな、近接の木って。きちんと育てれば木でもこれだけ速く動けるのか。……まぁ細かく機敏に動きまくる多数の根は不思議な感じではあったけどさ。


「はっ!? そこだー! 『散弾投擲』!」

「これはコウモリだね。『アイスプリズン』!」

「よし、それなら狙いやすい。『並列制御』『回刃鱗』『回刃鱗』!」


 何度目か分からないけれど襲いかかってきたコウモリをハーレさんが見つけ、ヨッシさんが逃さないように拘束し、ルアーが鱗を飛ばして切り刻んで処理していく。分裂する隙すら与えない早業である。

 そうしてあっさりと仕留められたコウモリはポリゴンとなって砕け散っていく。経験値は貰えてはいるけども、少ないね。もうちょいでLv上がりそうなんだけど、中々微妙に届かないようである。


<ケイが成長体・瘴気強化種を討伐しました>

<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<ケイ2ndが成長体・瘴気強化種を討伐しました>

<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


 それにしても普通に瘴気強化種だとまだまだポイントは貰えるようだ。ボス戦の参戦回数カウントも続いていたし、まだ用途はあると見て間違いはないだろう。まぁ用途までは推測は出来ても確定は出来ないけどさ。


「ところで目的地はまだ掛かりますでしょうか?」

「思った以上に移動速度が速かったからな。もうすぐだ」

「そうですか。では先を急ぎましょう」


 暗闇に隠れ、声のみしか聞こえてこないベスタがそう告げる。一応、俺はアルに乗ってるだけで何もしていないのでマップの確認はしているけども、ベスタの指示のほうが早いので今のところ出番はない。

 戦闘も成長体なら瞬殺だし、未成体もちょいちょい現れるけどもこれも大体ベスタやルアーやルストさんに瞬殺されている。まぁ灯りの小石の操作中だから、戦おうと思ってもロブスターでの通常攻撃以外は解除しないと無理なんだけどね!

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